セレン@英語キュレーター™
(更新)
プロキャディーという職業がある。時にはプレーヤーを黒子として献身的に支え、時には厳しい監督のように誰よりも近い場所からゲキを飛ばす。
キャディーという言葉から連想する一昔前のただのカバン持ちとは大きくかけ離れた存在、それが現在のプロキャディーだ。
そのプロキャディーの中でも「世界を舞台にし」、「今の時代ならではの発信力を兼ね備えた」という形容詞をつけると、それは必然的に彼のことを指す。
進藤大典、その人である。
ワールドランキング6位の若き天才プロゴルファー松山英樹の専属キャディーとして活躍する進藤さんはいかにしてその世界に入ったのか、そして世界で活躍するのに必須である英語とはどのように触れているのだろうか?
自分の英語力のせいで悔しい思いもしてきた、とは進藤さん。
今日はそのあたりを深く掘り下げていこうと思います。
ーでは、本日はどうぞよろしくお願いします。
最初にゴルフに関わるようになったきっかけを教えていただけますか?
僕は中学3年生の時に高知県の明徳義塾中学に転校したのですが、その時なにか一つ必ず部活にはいらないといけなかったんです。
特にやりたいことはなかったんですが、たまたま隣の席の生徒がゴルフ部で「お前も入れば?」って言われて…それで。
それまではゴルフには全く関心なくて。むしろおじさんのスポーツくらいに思ってましたから。
部活には中高合わせて60人くらいいて、こんなに若いみんながゴルフやってるんだ、っていう新鮮な驚きがありました。
その中で同級生や先輩で全国的に有名な選手たちを目の当たりにしながら、どんどんゴルフに打ち込む時間が増えていった感じですね。
ーその時は完全にプレーヤー志向というか、まだキャディーになる、というイメージは当然持たれてなかったのでしょうか?
大学で仙台の東北福祉大学に進学するんです。そこで同級生になる宮里優作君(沖縄出身のプロゴルファー、宮里藍の兄)に出会います。
彼は当時の時点でアジアでもトップレベルの選手で、僕らなんかと次元が違うというか、もうすでにプロの試合に出てたんですね。
当時、彼とすごく馬があって彼のバッグを担いでキャディーの経験を何度かするようになるんです。そういった中、僕が担いだ試合の戦績がよくてどんどんキャディーをする機会が増えていきました。
で、卒業する前に「来年プロでやるんだけど一緒にキャディーとしてやってくれないか?」と彼が声をかけてくれたんです。
もうその頃には彼のような選手を近くで見て「ああ、自分はプロでは無理だなあ」と自覚していたので、それをきっかけにキャディーになっていく、という経緯です。
ゴルフ自体が好きだったのでプレーヤーでなくなることに未練のようなものはなかったですね。
ープレーヤーとキャディーであることの決定的な違いとはなんでしょうか?
それは読む力、ですね。
選手が何を考え、何を求めているか、気持ちよくプレーをしてもらえるように何をすべきか。
選手ありきの黒子の立場なので、それはすごく大事です。
邪魔をせずに、かつ背中を押す、ということができるかどうか。
コースの知識も大事ですし、それ以上に状況判断やプロ特有の癖、球筋、そういうものを的確に見抜いていくスキルが必要なんです。
僕のように専属キャディーとしてついていくキャディーは、選手とともに常に一緒にいることが求められます。
朝のコースから戻ってご飯を食べながら明日はこうしよう、という話まで一緒にする感じですね。
ー進藤さんといえばやはり今は松山英樹選手の専属キャディーというイメージが強いと思うのですが、出会いはどういった感じだったのでしょうか?
もともと彼も明徳義塾から東北福祉、という経歴なんですが、彼が高校生でプロの試合に出る時に、高校の当時の監督が僕に彼を紹介してくれたんです。
そこからプライベートで仲良くなっていき、彼の方からキャディーをお願いしたい、という話をしてくれたんです。
ー年齢が一回り(進藤さんが36歳、松山選手が24歳)違う関係性はどういう感じですか?
最初は先輩と後輩、という感じだったんですよね。
それが時が経つにつれて敬語がなくなっていき、今は逆転しちゃった、みたいな(笑)
まあ、それは僕が関係性を築く上で意図したことでもありますし、英樹自身が距離感を詰めてきてくれ気を使わなくても良い関係性にまで歩み寄ってきてくれた、という部分もあると思います。
アメリカでもう3,4年一緒にいるんですが、その中でプライベートと仕事がごちゃまぜになってしまっていた時期もあるんです。オンとオフの区切りがどんどん難しくなっていったんです。
そのあたりから僕が仕事モードの時は敬語を使うようにしたりすることで空気感を締める、ここ一番の時は力強い言葉で鼓舞する、というように意識的にコントロールするようにはなっていました。
「ここは絶対決めようぜ」、とそっと言ったりするんです。
ーそういう意味では今専属キャディーをされている松山英樹選手とはもうがっつり一緒にいる感じですよね?
ええ、もうくっつきすぎて「松山英樹の下着より一緒にいる」自負はあります(笑)
近くで見ていて彼の一番すごいところは、とにかく「集中力」「考える力」、そして「冷静さ」だと思います。
人並み外れたそういう力を持っている彼だから、こちらも近くにいてたくさん学ぶことがあるんですよね。
ーアメリカで暮らされていたり、また松山選手の専属キャディーをされることで英語との接点も多くなってきていると思うのですが、進藤さんにとってそもそも英語とはどういったものだったのでしょうか?
英語はどちらかというと好きではあったと思います。
でも、かといって勉強をするわけでもなく…。
家族が留学を経験したりして英語を使える人が身近にはたくさんいたので抵抗はなかったのですが、ただ喋れない、聞けない、というのはありましたね。
今の仕事での英語の使用頻度はやはり多く、具体的には試合中にルールのことでモメたりする時は英語で抗議をしたりする必要も出てきます。
あとは、コースは選手3名、キャディー3名で一緒に回ることが多いんですが、その時、キャディー同士で英語を話さないといけないんですよね。
"Where do you live?" とかありきたりなことから始めるんです。
一回目はそれで問題ないんですよね。でもゴルフって一日では終わらないので、じゃあ次の日どうするんだって話になるんです。
次の日は好きな食べ物を聞いたりして。それでなんとか二日間乗り切ったとして、じゃあ三日目どうするんだってことになって(笑)
もう聞くことがなくなってきて一緒に回る全員に "Where do you live?" って聞き終えちゃって、あいつスパイなんじゃないか?って疑われたりして。(笑)
やたら住んでる場所と好きな食べ物ばっか聞いてくるな、みたいな(笑)
そういう意味では英語はまだまだ発展途上という感じですね…
他のキャディーたちは英語で情報交換を当たり前のようにしてますからね。
キャリアの長い海外のキャディーさんなんかは結構親切に教えてくれたりするんですが、全然聞き取れないことなんかもあったりして…
ー英語で情報収集ができる力は、そうすると今の進藤さんには必須でもありとても重要な部分でもあるわけですね。
そうですね、英語で情報が取れるようになると仕事としてもかなり有利になってくると思っています。
アメリカの人はこちらが勇気を出して飛び込むと結構受け入れてくれたりするんですよね。ウェルカムな空気があって、こちらのブロークンな英語も聞き取ろうとしてくれたりするんです。
最近はテキストでのやりとりも増えていますね。スピードが求められるテキストのやりとりも僕なんかはまだまだ遅くて…。
ー英語学習に関していうとどんなことをされてきたのでしょうか?
キャディーとしての仕事のプライオリティーが高く、英語の勉強は思うようにできてない、というのが本音ではあります。
何をしたらいいのかがわからなくて、本を買ったりして文法とかフレーズを覚えようとするんですが、なかなかうまくいかず…
今の自分の英語力は、スターバックスで飲み物を間違えずに買えるくらいにはなったと思っています(笑)
でも航空会社での突然のフライト変更とかはまだまだ苦労することが多いです。
オンラインレッスンも1年くらいはしていて、それはかなり役立ちましたね。
やっぱり英語を使う楽しさみたいなのがあって、結構頑張ってやっていました。一旦仕事が慌ただしくなってやってなかったのですが、今また再開してやってます!
ーオンラインレッスンの良さみたいなものってどう感じていますか?
最初はそもそも知らない人と英語で話すことにすごく心配があったのですが、講師の方が本当にみな親切で。
こっちを盛り上げてくれるというか。単純に伸び伸びできてレッスンが楽しいんですよね。
今は専用の教材を使って文法や会話の練習をしています。
ゴルフで使えそうな単語とかフレーズは常にチェックするようにはしています。
次の予定を聞いたり、コースなどの状況を聞く、ということがキャディーという仕事の中で頻繁に発生するので、そのあたりの基本的な部分をまずはしっかり
身に付けたいなという思いが強いです。
また大会のルールや規定などを読んで理解していかないといけないので、そういうオフィシャルなものをレッスンの外では読む努力もしています。
自分の英語力が今は自分一人の問題ではなく選手への情報共有などにつながる大事な部分だと認識しているので、モチベーションは今すごく高いですね。
仕事では緊張感のある環境が多いのですが、それをチャンスだと思ってやっています。
ー今たどり着きたい英語のレベルとして具体的な目標はありますか?
海外の選手が日本に来た時にアテンドできるようにはなりたいですね。
「六本木行こうぜ」って。
そっちのアテンドかって感じですが(笑)
でも、そっちも交流という意味では結構大事だったりするので。そういうフランクな関係からいろんなことって生まれるんですよね。
日本の良さも知ってもらいたいですしね。
ーこれまでの経験でご自身の英語力で悔しい思いをした経験などはありますか?
ありますよ、たくさん。
やはり試合中のルーリングのことでのやりとりが多いですかね。
こっちの見解を適切に伝えたり、英語での話し合い自体がまだまだ満足いかないのでプレーにも直結しますし、悔しい思いは何度もしていますね。
ー今、ちなみに松山選手の英語力ってどんな感じでしょうか?
通常のやりとりの中でリスニングはできているかな、って感じですね。
元々が彼はおしゃべりな感じではないんですよね。
(石川)遼くんのように英語をしっかり話す選手もいますが、日本人選手は全体的に英語という面では遅れを取っているのかもしれません。
特に海外の選手やキャディーをみているとそう思いますね。
情報収集の面でも海外の人たちはアンテナの幅が広いなあと思いますね。日本の政治やスポーツのことにもしっかり関心を持ってるんですよね。
海外の情報ということでいうと、僕なんかは動画だと内容がわかりやすいのでそこから情報収集をしたりしています。
トレーニング方法なども海外の方が圧倒的に進んでいますからね。
ーそういう意味では今は英語ができる、というアドバンテージは進藤さんにとってもかなり大きなものだと思います。英語学習に対するモチベーションはかなり高まっている感じでしょうか?
自分の今の課題の一つだと思っています。
英語ができることで見える世界が変わってくる、そして単純にできることが増えるのは確かなので。
ゴルフ界への恩返しとして、できることもたくさんあると思います。日本人キャディーで今世界を舞台にしている人って数人しかいないのが現状なんです。
世界に出る、という意味では英語は必須だと思います。
ーオンラインレッスンも継続していけそうですか?
はい、継続して続けていきたいと思っています。
時間のある朝や試合が終わって帰ってきたホテルなどで寝る前、などいつでも場所も時間も選ばずにできるということころがとても助かっていますね。
いろんな場所に行くと時差の関係で夜間が受講できないと困るんですが、その点DMM英会話は24時間365日どこからでも受講できるのでとてもいいですよね。
いろんな話をしながら自分の成長をどんどん感じて、レッスンで学んだことを実際の試合で使ってみる、という実践的な英語の学び方をしていきたいですね。
あとDMM英会話でいうと、『iKnow!』 もあわせて使えるので、少しの隙間時間なんかに自分が使うであろう単語だけにフォーカスしてインプットも合わせてやっていきたいですね。
ーでは最後にこれから世界に出て挑戦してみたい、という方へメッセージをお願いします。
今の時代は、個人としてどう行動し何を考えるか、がとても大事だと思っています。
情報が手に入りやすくなっているからこそ、日本語だけの情報収集と英語ができる人の間には圧倒的な差が生まれてしまいます。
日本の外に目を向けることが当たり前、そういう時代になってきていると思っています。
専門分野に強くなり、自分のスキルを高めていく、これが大事だと思います。
またそれが年齢が若ければ若いほどいいとも思います。
世界で活躍している選手ほどそれを小さいころから実践しています。
ゴルフという世界では、日本という国だけを取ってみると試合数自体は減少しているんです。
今は海外に目を向けているプレーヤーはたくさんいますし、また賞金額も倍以上、契約金もケタが違ってきます。
海外ではスポーツというものの捉え方自体が進んでいる国が多く、ギャラリーのあり方や環境の整い方そのものが違う、という側面もあります。
誰がいつ、世界の人とコミュニケーションしないといけない状況になるか、なんてわからないんですよね。
だからこそ早いうちからの準備は大事です。
そのためにも英語というツールは確実な武器になります。
今は日本にもオンラインレッスンのようなよい環境があるので、ぜひ多くの人に英語という武器をしっかり手にして世界に羽ばたいてほしいですね。
僕自身がそれを実践することで英樹だけではなく、ゴルフ界全体に少しでも貢献できたらと思っています。
英樹は現在ワールドランキング6位(2016.12現在)なんですが、今後は少しでもランクを上げ、来年は4大大会で日本人初の優勝を目指して、一緒に頑張っていきたいと思っています。
世界を舞台にする日本人プロキャディーは数えるほどしかない。
その中でも進藤さんの存在は際立っている。
天才肌と評される松山英樹を誰よりも近くで支えるという日々の緊張感のなか、様々なメディアで発信を続け、自身の体験や考えを分け惜しみせず公開してくれる進藤さん。
今日わかったことは、彼が常にゴルフ界全体のことを考えながら行動している、ということ。
そして英語に関しても、自分のためだけではなく、選手のため、そして今後の日本のゴルフ界のためと思いながら勉強している、ということ。
その一方、会話では常に笑いを取っていきたい、という明るい側面も見せてくれた進藤さん。
緊張と弛緩、日々の荒波に揉まれながら頑強な精神で前人未到のフィールドへ立ち向かう一人のサムライを見た、そんな気がしたインタビューでした。