K. Inoue
(更新)
普段何気なく使っている英単語や表現について、「どうしてこんな単語なんだろう?」とか「この表現はどこから来ているんだろう?」と疑問に思われたことはありませんか?
語源や由来を知ることで英語が覚えやすくなる、ということがよく言われますが、そのような覚え方をすることで、単に記憶に定着しやすくなるだけでなく、愛着が沸いたり、今までとは少し違った視点でその単語と付き合うことができたりすることがあります。
ここでは、普段の会社や飲み会の席などの日常生活に関連する単語や表現をいくつか取り上げ、その成り立ちや意外な由来についてご紹介していきたいと思います。
ぜひ明日の飲み会で話題のネタにしてみてください。
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まずは、「会社」ですっかりお馴染みの “company” という単語。
この単語は “com”、“pan”、“-y” の3つのパーツで成り立っています。
“com” は「~と共に」、“pan” はラテン語で「パン」を意味する “panis” という言葉から来ていて、“-y” は「仲間」という意味です。
つまり “company” は「共にパンを食べる仲間」というのがもともとの意味で、辞書を引いてみると、確かに「仲間」という意味が載っています。
日本語の表現で言えば「同じ釜の飯を食う仲間」といったところでしょうか。
「会社」はそこから派生して生まれた意味なのですが、このことを思うと、苦楽を共に汗を流して働く仲間たちの集まり、といった協働意識のようなものを感じることができますね。
会社に対していつも以上に親密な気持ちが抱けるのではないでしょうか。
余談ですが、「飲み会」のことを日本語で「コンパ」と言うことがありますよね。
合コン、新歓コンパ、追い出しコンパなど、いろいろな飲み会を表すために活躍するこの「コンパ」は “company” を短縮した言葉だと言われています。
「仲間同士で開く飲み会」とか、「誰かと新たに仲間になるための飲み会」、そんな意味がきっと込められているのでしょう。
ただしこれについては英語では通じませんのでご注意を。
コンパを開くときに欠かせないのが「乾杯」。
英語で「乾杯」は “toast” ですが、実はこの単語は朝食でよく食べられる、こんがり焼いた「トースト」と同じ単語です。
17、18世紀のイギリスでは、トーストはお酒を飲むときに風味を加える、いわばつまみのようなものでした。実際、お酒にトーストをちぎって入れる風習が昔からありました。
トーストはお酒に欠かせなかったもの、ということから宴に欠かせない「乾杯」を “toast” と言うようになったわけです。
と、ここで話を終わらせてもいいのですが、もう少し歴史に踏み込んでみると、余談ながら大変興味深いことが分かります。
お酒に風味を加えるものとして大切だったものが、トーストの他にもう一つありました。
当時、乾杯することの目的は「男性の健康を祈願すること」だったのですが、その傍でお酒に風味を加えるもう一つの大切なものとして、美しい女性の存在がありました。
そのことから、“toast” は「乾杯」に加えて「男性のための乾杯の場を彩る美しい女性」という意味も表していたのです。
ただし、これは悪く言えば、男性のための乾杯に花を添える存在として、女性がまるでもののように扱われていたということで、とても男性優位な考え方によるものだと言えます。
近代まで男尊女卑の考えが根強く残っていたイギリスですから、現代的な男女平等の考え方からすれば決して愉快とは言えない意味を、言葉に込めることも平気で行われていたのでしょう。
言葉の背景を紐解くと、このような歴史まで垣間見ることができてとても貴重だと思います。
やがて “toast” は「誰かの健康を願ってあげる祝杯」のような意味になり、男尊女卑的な考え方が薄れていきました。
さらに今では「健康を願う」という意味もなくなり、私たちになじみ深い、いつでも気楽にいろいろなことを願ったりお祝いしたりする「乾杯」の意味になっていきました。
ちなみに、乾杯することは “make a toast” や “give a toast” と表現します。
乾杯時に使える表現はたくさんあり、以下はその例です。
Let’s raise a glass to our future!
「私たちの未来に乾杯!」
※ “raise a glass” は「グラスを持ち上げる」という意味です。
Here is to your health!
「ご健康を祈念して!」
Cheers!
「乾杯!」
Bottoms up!
「乾杯!」
※グラスの “bottom”(底)を “up”(上げる)ということで、「一気に飲み干す」という意味で使われます。一気飲みには気をつけてくださいね。
Let’s drink!
「さあ飲もう!」
飲み会に関連するネタが続きますが、今度は “cocktail”(カクテル)についてです。
一説には、これは “cock”(雄鶏)と “tail”(尾)を組み合わせたアメリカ生まれの俗語だと言われています。
アメリカの競走馬の世界に、雑種の馬の尾を切るという風習がありました。
その切られた馬の尾が雄鶏の尾に似ていたため、その馬のことを “cocktail” と呼ぶようになります。
“cocktail” と呼ばれる馬たちは雑種ですから、“cocktail” は「混ぜたもの」という意味になり、それが複数の材料を混ぜて作るお酒、つまり「カクテル」へと意味が発展していったのです。
さて、次は現代人に欠かせない電子メールに関する表現についてです。
日常のコミュニケーションやビジネスの現場でも欠かせない、電子メールを利用する上でやっかいなのが、どこからともなく一方的に送られてくる「迷惑メール」。
これは「スパムメール」とか単に「スパム」としてすっかり定着していますが、この由来がとても面白いです。
実は「スパム」の語源は、あの肉の “SPAM” です。
“SPAM”(スパム)はアメリカの豚挽肉の缶詰商品として有名ですね。
さかのぼること第二次世界大戦時、安くて保存にも優れたスパムは軍への配給品として、アメリカ軍だけでなくイギリスなどの連合国軍にも配られていました。
さらにイギリスでは大量に輸入し、一般人もスパムを食べていました。スパムはとても重宝された食べ物だったわけです。
ところが、日々スパムばかり食べているのではみんな飽きてしまいます。人々はスパムにうんざりしつつありました。
そんなとき、イギリスのモンティ・パイソンというコメディグループが、レストランを舞台に「スパム」という言葉を連呼するコントを披露します。
その場にいたスパム嫌いの客の女性がとにかく迷惑がる、という内容のコントです。
彼らが「スパムはうんざりするものだ」とコントのネタにしたことで、「スパム=迷惑なもの」という認識が広まり、さらに「スパム」を連呼したことが「繰り返される嫌なこと」と関連付けられ、何度も送られてくる「迷惑メール」を「スパムメール」と呼ぶようになった、というわけです。
次は生きていく上でシビアな問題、「サラリー」についてです。
「給料」を意味する “salary” は「塩」を意味する “salt” に由来していることをご存知の方もいらっしゃるかもしれません。
これはラテン語の “salarium” という言葉からきているのですが、塩が大変貴重な時代であった古代ローマでは、兵士たちの労働の対価として「塩を買うための報酬」が支払われていました。
このことから、“salary” は労働の対価として支払われる報酬、つまり現代で言うところの「給料」の意味になりました。
大昔の風習が、いまだにこの単語の中に生きているということですね。
ちなみに、「給料が高いこと」を “high salary” と表現します。
「高い」を “high” で表すのは当たり前のように思われるかもしれませんが、これにはとても面白い理由があります。
古代ローマの人たちは、報酬を得れば得るほどたくさんの塩を買うことができました。
ここで思い描いていただきたいのですが、塩がたくさん手に入るとどうなるでしょう?
手に入れば入るほど、塩は高く積み上げられていきますね。
この高く積み上がった塩の状態を、文字通り物理的高さを表す "high" で表現します。
この考え方が "salary" にも適用されているため、「給料がたくさんあること」=「塩が高く積み上げられていること」ということで "high salary" と表す、というわけです。
逆に「給料が低いこと」=「積み上げられた塩の高さも低い」ということで "low salary" と表します。
当たり前のように思っている単語の使い方にも、こんな理由があると知ることができれば、より納得して使うことができるのではないでしょうか。
“toast” の話題の中で、これが「美女」の意味も表していたということをご紹介しましたが、最後に「美女」に関連する言葉 “glamour” についてです。
これは「グラマーな女性」などとカタカナでも馴染みがあるように、女性の性的な魅力を意味する単語です。
実はこの単語は、「文法」を意味する “grammar” ととても強い関係があることをご存知でしょうか。
英語を勉強するときに耳にする “grammar” なんて全然魅力的じゃないのに、“glamour” は見るからに惹きつけられる、そんな印象を抱かれる方もいらっしゃるかもしれません。
そんな、まるで感じ方の異なる二つの単語に関係があるなんてなんだか不思議ですよね。
「文法」の “grammar” はギリシャ語に起源を持ち、もともとは「書く技術」という意味でした。
中世ヨーロッパでは、読み書きできる人は神父や学者などのごくわずかな人たちに限られ、一般的には読み書きできないことが普通でした。
そんな時代ですから、文字を読める人や文字それ自体が神聖な存在とされ、文字を扱う技術は「神秘のなせる技」として崇められ、やがてそこから「魔法・魔術」という意味を持つようになります。
当時の人たちにとって “grammar” とは、読み書きという実際的な技術でありながら、「言語を操るための魔法の道具」としても認識されていたわけです。
このことから、“grammar” は大きく「文法」と「魔法」という二つの意味を持つようになります。
二つの意味が混同した “grammar” は、やがてスコットランドにも広がっていきますが、そのときに今度は “r” と “l” の混同が起こります。
やがて “grammar” から “glamour” が別の単語として広がっていくのですが、その背景にはスコットランドの詩人たちの存在があり、特に有名な小説家ウォルター・スコットが自分の小説で「魔法」の意味で “glamour” を用いたことで広く知られるようになりました。
さらに19世紀半ばに “glamour” は「魔法」から「魔法で彩られたような魅惑」を意味するようになり、現代でもお馴染みの「女性の性的な魅力」の意味へ発展を遂げていくことになったのです。
まるで無関係に思える二つの単語が実は根っこで繋がっている。
こうした事実を知ることもまた、言葉の面白さに気づいたり、ある意味で人間らしい不安定さを垣間見ることに繋がって面白いのではないかと思います。
“company” から始めて、日々の会社や飲み会になるべく馴染み深そうな言葉をピックアップし、その語源や由来についてご紹介してきました。
さっそく明日の「会社」の「コンパ」で「カクテル」片手に「乾杯」し、「スパム」に愚痴をこぼしながらも「給料」の語源や「文法」の面白さなどを語っていただくのも一興かもしれません。
雑学的知識として披露されてみるのも、あるいは昔のイギリスや古代ローマの人々に想いを馳せてみるのも悪くないですね。
「だから言葉は面白い」と感じていただければ幸いですし、何よりも、この記事の内容が話題のネタとなって、周囲の方々との仲間意識や英語への関心を高めていただくためのご縁となれば嬉しく思います。