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俳句を英語で楽しもう!素晴らしきHAIKUの世界へ

俳句を英語で楽しもう!素晴らしきHAIKUの世界へ

Old pond / Frogs jumped in / Sound of water.

これはかの有名な松尾芭蕉の俳句である『古池や 蛙飛び込む 水の音』の英訳です。
日本の文化である俳句は世界最短の定型詩として世界中で人気を博しています。その過程で日本の名句も翻訳されているのですが、訳者によって選び抜かれる言葉は様々で、それぞれの感性や個性が色濃く反映されています。そしてそれを知ることは日本語、日本文化を客観的に知ることにつながります。

英語という視点によって俳句を、そして日本を改めて知る旅にでましょう!

古池や 蛙飛び込む 水の音(松尾芭蕉)

Old pond / Frogs jumped in / Sound of water.

小泉八雲(Lafcadio Hearn)

The old pond, Aye! / And the sound of a frog / leaping into the water.

Basil Hall Chamberlain

The ancient pond / A frog leaps in / The sound of the water.

 Donald Keene

The old pond. / A frog jumps in / Plop!

Reginald Horace Blyth

An old silent pond... / A frog jumps into the pond, / splash! Silence again.

Harry Behn

静かによどんだ古池に、突然その静けさを破り、カエルが飛びこむ音がする。しかしそのあとはまたひっそりと静まりかえる。

ご存じ松尾芭蕉の名句。数々の英語訳が存在しており海外でも "Frog Poem" として有名です。

「古池や」ですが訳者によって "old" を使ったり "ancient" を使ったりしています。 "ancient" という言葉には「古来の、由緒ある」という歴史をより感じさせる意味が含まれます。

Chamberlainが用いた "Aye" とは驚きを表現する間投詞です。

Blythの用いた "plop" は「ドブン、ポチャン」といった水に物が落ちる音を現す言葉です。

Behnは「水の音」を "Silence again” (また静けさが戻る)と訳しています。これはカエルが飛び込む音ではなく、その後の静けさを強調したいという芭蕉の意図を汲んだ意訳となっています。

静けさや 岩に滲み入る 蝉の声(松尾芭蕉)

What stillness! / The voices of the cicadas / Penetrate the rocks.

 Reginald Horace Blyth

Ah, tranquility! / Penetrating the very rock, / a cicada's voice.

Helen Craig Mccullough

ひっそりとしたしじまの中に、突然、ジーと蝉が鳴く。その鳴き声は岩にしみ入って、あたりには再び静かさがもどる。

「静けさや」という言葉に "stillness" や "tranquility" という言葉が使われていますがどちらにも感嘆符の!がつけられています。あまりの静寂に息を飲む様が想像されます。

興味深いのは「滲み入る」という言葉 "penetrate" という言葉が使われていることです。 "penetrate" には「貫通する、突き抜ける」という意味と同時に「染み込む、浸透する」という柔らかな意味も含まれています。「貫通する」という意味しか知らなければ静かにフェードアウトする鳴き声のイメージを想像できませんが、「染み込む」という意味を知ることできちんと訳されていることがわかります。

名月を 取ってくれろと 泣く子哉(小林一茶)

"Gimme that harvest moon!" / cries the crying / child.

David G. Lanoue

秋の澄んだ夜空にくっきりと浮かんでいる十五夜の月を、子どもが「取ってくれ、取ってくれ」としきりにせがんで泣く。

「名月」に相当する言葉に "harvest moon" という言葉があります。これは秋分のころ、穀物を豊かに実らせるといわれる満月のことです。

ちなみに英語表現には "cry(ask) for the moon" や "aim at (want) the moon" という言葉があります。「ないものねだりをする」という意味で、「月を泣いて欲しがる」のは東西を問わず人間に共通した願望なのかもしれません。

春の海 ひねもすのたり のたりかな(与謝蕪村)

Spring ocean / swaying gently / all day long.

三浦ダイアン、三浦清一郎

のどかな春の海。一日中、のたりのたりと波打っているばかりだ。

「ひねもす」とは昔の言葉で「朝から晩まで続くさま」を指します。これは英語では "all day long" と訳されています。

難しいのは「のたりのたり」で、 "gently" (静かに、優しく、なだらかに)という言葉が当てられていますが、果たしてこれで「のたりのたり」が与える言葉の印象を翻訳できるかはわかりません。言葉の意味は翻訳できても語感や印象までを訳するのは不可能に近いと改めて思わせる俳句です。

月一輪 星無数空 緑なり(正岡子規)

The moon one circle; / Stars numberless; / Sky dark green.

訳者不明

Around the lone moon / countless stars / the sky now green.

夏石番矢、エリック・セランド

満月に近いのだろう、月の光が星を遠ざけ、空の真ん中にまさに一輪輝いている。さらにその月を囲むように星がまたたく。濃い藍色の空に星々の光が微妙な色合いを与えていたとしても、月夜の空、そうか、緑か。

「緑なり」という部分の解釈が難しい句です。そもそも空は緑色になることはありえません。真っ暗になる前の瞬間の空を子規が緑色と表現したということがわかるのみで、その真意はわかりません。しかし上の句の訳者はこの色を "dark green" と訳しており、ただの緑ではなく、もう少しで真っ暗になりそうな緑色を表現しています。俳句が喚起する情景をイメージしてこその訳表現と言えます。

英語で俳句を詠んでみよう!

様々な名句の翻訳を読んでみたところで次は「英語で俳句を作りたい!」という方のために基本的なルールをご紹介します。

そもそも俳句には主に二つのルールがあります。

  • 五七五であること
  • 季語を入れること

まず五七五ですが、英語俳句の場合では基本的に音節で数えます。音節とはつまり母音の数です。たとえば、 "simple" ならば母音は i e ですので2と数えます。しかし、日本の俳句でも字余りや定型を無視した俳句があるように、英語俳句もそこまでこれにこだわりません。3文で真ん中が長ければ何となくよしとされています。

季語についてですが、当然ながら国によって季節は異なり季節を感じさせるものも違ってきます。ですから季語の挿入は必ずしもルールには含まれておらず、季節感がなんとなく出ていればいいといった感じです。

このように英語俳句のルールは非常に大らかで自由です。

拙作ですが例として作成した英語俳句をご紹介します。

The first sunrise
The new day, The new morning
of my new life.

初日の出と季語を入れ、音節も五七五ときっちりルールに従ってみました。

声に出してみるとわかるのですが音節をきっちり五七五にすると、少し冗長な感じがします。ちょっと短くした方がより俳句っぽいリズムが出るかなと思いました。普段英作文で気にするような文法にとらわれなくていい自由な感じが面白いです。

『ルー語っぽいおもしろ俳句』
名句の一部だけを英語にするという前衛的な俳句を集めてみました。ちょっとルー語(ルー大柴氏のオリジナリティあふれるボキャブラリー)っぽくておもしろいです。

  • 夏草や ソルジャーどもが 夢の跡 (夏草や兵どもが夢の跡)
  • 秋深き 隣は何を プレイング (秋深き隣は何をする人ぞ)
  • 柿イート 鐘がディンドン 法隆寺 (柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺)
  • 古池や フロッグダイブ・ スプラッシュ (古池や蛙飛び込む水の音)
  • 五月雨を 集めてはやし ベスト リバー (五月雨をあつめて早し最上川)
  • 雀の子 ゲラウェイゲラウェイ お馬が通る (雀の子そこのけそこのけお馬が通る)
  • Oh!松島 OhYeah!!松島 Oh!松島 (松島や ああ松島や 松島や)
  • 朝顔に つるべとられて ギミーワラー (朝顔につるべ取られてもらい水)
  • 静けさや ロックにアディクト 蝉の声 (静けさや岩にしみ入る蝉の声)
  • 名月を とってくれろと ベイベクライ (名月をとってくれろと泣く子かな)

 最後に

俳句は季語を通して自然と親しむことができる文化であり、特に子供たちに自然の大切さを教えるのに適しています。それもあってアメリカの多くの小学校では俳句が教えられています。また俳句の国際大会なども頻繁に開催されており、私たちの想像以上に俳句は世界中で愛されています。

外国の人と話す機会が多くなるほどに、日本の文化について伝える機会も増えてきます。その時になって自国の文化に対する理解の無さを痛感することが少なくありません。俳句という言葉の芸術もまた、私たち日本人と世界をつなぐ素晴らしいツールなのです。