K. Inoue
(更新)
英語の注目度と必要性の高まりに呼応して学習者の方々の勉強熱も高まっています。
そんな中で、いきなりTOEIC対策問題集を解いてみたり、はじめから「実践」をうたったライティングやスピーキング教材に手を出してみたりと、英語の基礎基本を置き去りにした学習をしてしまっていませんか?
中学英語は、英語学習の根幹をなす最も重要な基礎基本を教えてくれるものです。中学英語を理解することなく、より高度な英語を理解したり技能として身に付けたりすることは不可能と言ってもいいでしょう。
それだけ重要な中学英語を基礎基本から徹底解説する連載【大人のやりなおし中学英文法】。今回は「現在完了形」についてご説明します。
中学校で学習する文法のうち、最も大きなものの一つが「現在完了形」です。
「なんだかいくつか用法があったような・・・」
「結局、現在完了形って過去形と何が違うんだっけ?」
という具合になんとなくうろ覚えという人も多いのではないでしょうか。
今日はそんな「現在完了形」について改めて基本から解説していきます。
まずは現在完了形のカタチから見ておきましょう。
現在完了形は<have+過去分詞>の形で作ります。
“have” の後に、前回ご紹介した受動態でも活躍した過去分詞を付けてセットで一つの動詞のまとまりになります。
※過去分詞の作り方については前回の記事をご参照ください。
次に「現在完了形」の表すイメージについてです。
「現在」という言葉が付いているくらいですから、時制の一つであることはなんとなく想像できると思いますが、これをイメージで表すと、下の図のようになります。
現在完了形のイメージを一言で言えば「過去から現在につながっている」という感じで、まるで「過去が現在に向かって迫ってきている」ような印象です。
ちょっとまだ分かりにくいと思いますので、一つ例文を見てみましょう。
“live”「住む」という動作が「過去から現在につながっている」、というイメージになるわけですが、これはつまり「住み続けている」ということを表しています。
そして “in Tokyo”「東京に」、 “for three years”「3年間」と情報が加わっています。
全体で「私は東京に3年間住み続けています」という意味になります。
「過去から現在につながっている」というイメージがなんとなくお分かりいただけたでしょうか。
現在完了形には、大きく分けて3つの用法があります。
①継続 「~し続けている」
②経験 「~したことがある」
③完了・結果 「~し終わった、~したところだ」
それぞれ例文で確認してみましょう。
“She has played the piano since she was three years old.”
「彼女は3歳のときからずっとピアノを弾き続けています」
この用法では「ある動作や状態が過去から現在に至るまで継続している」ことを表します。
先ほどの “I have lived in Tokyo for three years.” もこの用法です。
「~の間」という期間を表す “for~” や、「~以来ずっと」を表す “since~” という単語を伴うことがよくあります。
“I have been to Italy twice.”
「私は2度イタリアへ行ったことがあります」
“Have you ever worn kimono?”
「今までに着物を着たことがありますか?」
“We have never talked about it.”
「私たちはそのことについて一度も話したことがありません」
この用法では「ある動作を経験したことがある」ことを表します。
「以前に」を表す “before” や、「2度」という意味の “twice” などのような回数を表す表現と一緒に使われることが多くあります。
ちなみに「1度」は “once”、「3度」以上は “three times”、 “four times” のように “~times” と表します。
“have been to~” は「~へ行ったことがある」という意味で、経験用法では定番のフレーズ。
また、疑問文では “Have you ever ~?”「今までに~したことがありますか?」のように「今までに」を表す “ever” を一緒に使うことが一般的です。
また否定文では、「一度も~ない」という強い否定を表す “never” がよく使われます。
“He has just gone.”
「彼はちょうど行ってしまったところです」
“Have you done it yet?”
「もうそれ終わったの?」
“I haven’t seen that movie yet.”
「私はその映画をまだ見ていません」
この用法では「ある動作が完了した」ことを表します。
「もうすでに」を表す “already” や「ちょうど」を表す “just” という単語を伴うことがよくあります。
ちなみに “have gone” は「行ってしまった、もういない」ことを表し、「行ったことがある」という経験の意味にはなりませんのでご注意ください。
また、疑問文では「もう」、否定文では「まだ」の意味で “yet” を伴うことがあります。
ただし、疑問文での “yet” には「終わっていて当然・やっておいて欲しいと思うけど、もう終わったんでしょ」という確認の響きがあり、疑問文だからといって機械的に “yet” を付ければよいというわけではないことにご注意ください。
さて、現在完了形の3用法を簡単にご紹介しましたが、結局のところ過去形と何が違うのかまだいまいちよく分からないという方も多いのではないでしょうか。
特に「~したことがある」(経験)は過去のことだし、「~し終わった・~したところだ」(完了・結果)も過去の話ではないかと。
この疑問を解決するために大切なのは、3つの用法の分類を暗記することでもなく、また日本語訳で考えることでもありません。「過去から現在につながっている」イメージをしっかりと捉え、現在完了形が伝えようとしている本当の意味をつかみ取ることです。
では現在完了形が伝えたい本当の意味とは一体何でしょうか?
ここで改めて形を確認してみましょう。
現在完了形は<have+過去分詞>ですね。
この形のポイントは、“have” が明らかに現在形であること、そして過去分詞にはもともと「完了」の意味があるということです。
このことから、現在完了形は「ある動作が『完了した状態』を『現在持っている』」という意味を表すのだということが分かります。
それが過去と現在のつながりをイメージさせているわけです。
そして現在完了形が伝えようとしている意味をつかみ取るための最大のポイントは、過去と現在のつながりのイメージから「では現在どういう状況なのか」というところまで見つめてあげることです。
少し詳しく見てみましょう。
先ほどの例文を基に、単なる日本語訳の理解で留まるのではなく、もう一歩先に踏み込んで「では現在どういう状況なのか」を想像してみてください。
②経験
“I have been to Italy twice.”
③完了・結果
“I have already finished my homework.”
①は「私は2年間英語を勉強し続けています」という日本語訳になりますが、その先にはひょっとしたら「だから英語はそこそこ上達したから教えてあげるよ」という思いがあるのかもしれません。
②は「私は2度イタリアへ行ったことがあります」という訳ですが、その経験から「だから自分はイタリアを案内することくらいはできる」と言いたいのかもしれません。
③は「私はもうすでに宿題を終えました」という訳ですが、「だからもう遊びに行ってもいいでしょ」と両親に許可を求めたいのかもしれません。
これらの例文(そして多くの文法教材で与えられる例文)には、文脈が設定されていないことが多いので、状況をなかなか想像しにくい部分はあるのですが、このように現在完了形には「過去からつながってきた現在だからこそ言える今の状況や気持ち」が込められています。
それこそが、現在完了形が伝えたい意味なのです。
ときに現在完了形は、「未来へとつながる橋渡し」と言われることがあります。
「2年間勉強を続けたから現在は英語の力がある、だから<これから>教えてあげられる」のように、未来の行為につながる含みが生まれることがあるからです。
上述のような解釈で現在完了形を見つめることができれば、もう過去形との違いに惑わされることはありません。
以下の2つの文を比べてみてください。
②“I lost my wallet.”
①が現在完了形で②が過去形ですね。日本語訳はどちらも「私は財布をなくしてしまった」です。
ですが意味は大きく異なります。
①は「財布をなくした状態」を「現在持っている」ですから、「今も財布はなくしたままで手元に戻ってきていない」ことを表しています。
②は単なる過去形で、これは現在とのつながりは関係ありませんから、過去に起こった1つの事実として「財布をなくした」と述べているだけです。現在もなくしたままなのか、それともすでに見つかっているのかは問題ではありません。過去形が問題にするのは、現在とは切り離された過去の出来事や状況でしかないからです。
一方の現在完了形は「現在形」であるため、問題となるのは「現在の状況」です。過去形とは全く違った時間を見つめている、ということですね。
なお、現在完了形では単なる過去の一点を表す文言、たとえば “yesterday” 「昨日」や “5 days ago” 「5日前に」などと共に用いられることはありません。
当たり前のことですが、ネイティブの人たちはいちいち「これは〇〇用法だ」などと考えながら文法を操っているわけではありません。
文脈や口調などから、適切な意味を捉えながらコミュニケーションを取っています。
文によってはいずれかの用法に分類できない(しにくい)ことも多いものです(そもそも分類が先にあったわけではありません)。
たとえば、とても映画が詳しい人に「なぜそんなに詳しいのか」と問いかけたとします。この問いかけに対して、
“That’s because I’ve watched more than 3,000 movies.”
という答えが返ってきたとき、これは一体どの用法に当てはめればよいのでしょうか?
「だって映画を3000本以上も見続けてきたからね」(継続)
「だって映画を3000本以上も見たことがあるからね」(経験)
「だって映画を3000本以上も見たからね」(完了・結果)
どれでも当てはまりそうですよね。
繰り返しお伝えしてきたように、大切なのは「現在の状況」をつかみ取ることです。
どの意味(用法)であるかに関わらず、この人は3000本以上もの映画を見てきたことによって「現在とても映画について詳しい」という状況が成立していることに変わりはありません。
この感覚を持って現在完了形と向き合うことを忘れないでくださいね。
特にアメリカ英語の口語レベルでは、普通の過去形が現在完了形の代わりに使われることも多いので最後にご紹介しておきます。
“I never did.”
「一度もやったことなんてないよ」
“Did you finish your homework yet?”
「もう宿題は終わったの?」
“I just finished it now.”
「ちょうど今終わったところだよ」
“I already wrote my paper.”
「もうレポート書いたよ」
これらは意味的にも、また使われている単語(“ever”、 “never”、 “yet”、 “just”、 “already”)的にも、明らかに現在完了形の文です。
ところが肝心の<have+過去分詞>になっておらず、普通の過去形が使われています。日常会話レベルでは、このように現在完了形の代わりに過去形を使うことが、それほど違和感なく受け入れられています。
よほど解釈を間違えそうな場合でもない限り、形は違っても言いたいことはだいたい分かるものですし、それならよりシンプルな形の方が気楽で好まれやすいからです。
もちろん、だからと言って現在完了形と過去形の区別が大切ではないと言いたいのではありません。
現実の使用という観点から、「こんなこともあるんだ」と生きた英語に目を向け、より柔軟に受け入れながら学んでいく姿勢もまた大切にしていただければと思っています。
いかがだったでしょうか。
現在完了形は日本語には馴染みがないために、時制の学習において学習者の方々をとても悩ませてしまう文法の一つです。
理解が曖昧なままだと、高校で学習する過去完了形などなおのこと訳が分からなくなって、ますます英語嫌いが加速してしまいかねません。
今回ご紹介したような現在完了形のイメージや伝えたいことにしっかりと目を向け、表面的な日本語訳や用法にとらわれ過ぎないよう気をつけて、正しく理解し、使いこなせるようになっていただければ嬉しいです。