「日本ではヒットの限界が見えてきた」nanapi古川健介氏が語るメディアの未来と課題

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古川 健介
ハウツーサイト『nanapi』を運営する株式会社nanapi 代表取締役。
1981年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。在学中に中高生コミュニティ『ミルクカフェ』を立ち上げ、月間1000万PV以上までに育て上げる。現在は月間2500万UUを誇る『nanapi』を運営し、さらに海外向けメディア『IGNITION』やQ&Aアプリ『アンサー』を次々にリリースするなど、日本のメディア業界を牽引する人物。
愛称は「けんすう」。

日本ではヒットの限界が見えてきた

古川健介(けんすう)さんインタビュー_IGNITION_2

海外向けメディア『IGNITION』を始めたキッカケを教えてください。

日本と海外のユーザー数の違いであったり、広告単価の違いというのはもちろんあるのですが、nanapiなどをやってきて国内のヒットの限界が見えてきたことが1つあります。

やっぱりいい記事を作っても、日本だと「読まれるのは大体このくらいだな」というのが少し分かってきてしまったんですね。「めちゃくちゃバズりました!」といっても1万RTとか、10万PVで「ヒットしたな」感があるので、もっと世界に向けて発信し、「こんな人まで見てもらった!」というのを感じたいという気持ちがありました。

「ブラジルの人がこれを見て、こういう意見をくれた!」みたいな世界からのリアクションがあると、やっぱり新しい知見や気付きが増えると思うので、そういう「世界からのリアクション」を増やしたいです。

 

リリースして半年、現在の『IGNITION』の運営体制を教えてください。

編集担当の2人がメインでいて、あとは英語ができるアシスタント、サービス開発側のデザイナー・エンジニアがいるという体制です。

編集と言いつつ、ほぼ編集担当が企画から取材、記事執筆まで今はやっています。また1記事1ヶ月くらいかかったりするので、そんなに記事本数は増やせないんです。
1人は英語もそんなに出来ないので、1回日本語で書いてから英語に訳すということをやっています。だから大変は大変ですよ、2度手間なので。そこは課題ですね。

 

けんすうさんも『IGNITION』の運営にがっつり入られていますか?

企画は出します。「こういう人がいます」とか、「こういうのが海外でウケているらしいよ」とかは出しますね。ただ記事の内容は、いい意味で僕が読めないんですよ、英語が読めないので(笑)
だから編集担当に任せてますね。nanapiの場合だとすごい気になって「ここはこうだ」とか「この語尾はこうだ」とか言っちゃうのですが、権限委譲ができていいかなと思っています。

 

“日本だけのローカル”がなくなってきている

古川健介(けんすう)さんインタビュー_IGNITION_苦笑い

けんすうさんの英語力はどれくらいですか?

そうですね、もうゼロだと思っても差し支えないと思います(笑)
勉強しようという気持ちだけは負けていないのですが、最近はとある大きなディールがあったり…忙しいとか言い訳なんで、ダメです。時間は作るものですからね。

以前にうちのCTOと一緒に英語を勉強しようと決意し、英会話教室に通おうと思ったのですが、そこで測られた英語力は、僕が中2レベル、CTOの彼は中1レベルで。「俺らバカなんだな」とそのときに分かりましたね。

それから学習時間を計って勉強はしていました。中1レベルの英語教材で、日本語を見てすぐに英語にするみたいな、いわゆる「瞬間英作文」と呼ばれるものをずっとやっていました。4、5月くらいは月30時間くらいはやっていましたね
本当に単純な英語だけでも話せると言えば話せるじゃないですか。だけど、それすら出来ていないので、まずはそこからやろうと勉強してました。もうちょっと頑張らないとな、とは思っています。

 

英語が出来ないことで感じる課題や問題意識は何かありますか?

海外の人から声をかけられたときに、対応できなくて「もったいないな」とすごい感じていますね。

あと問題意識でいうと、インターネットで垣根がなくなっていく中、“日本だけのローカル”というのが存在しなくなっていくのかなと。
例えば極端な話、昔は地元の八百屋とか商店ってあったと思うんですけど、今はもうどこへ行っても大手スーパーや大手コンビニがありますよね。ITの世界も同じで、もう検索もSNSもメールも、あまり日本のローカル(サービス)ってないじゃないですか。Facebook、Twitterを使って、メールはGmailで、ワープロソフトはWordを使うみたいな。

そうなると恐らくメディアでも“日本だけのローカル”メディアはなくなっていくのかもしれません
実際、「クーリエ・ジャポン」だったり「WIRED」とか「GQ」みたいな海外の翻訳雑誌って、海外記事に日本独自の記事をちょっと加えたみたいな感じじゃないですか。そして、そういった雑誌を自分でも読んでいるなと。そう思うと「ヤバいな」と感じます。

 

海外の方がいろいろ進んでいると?

そうですね、最近KickStarterとかの海外製品が紹介されている『RAKUNEW』というECサイトが僕はすごい好きなんですけど。こういうのを見ると人気のアイテムが日本と全然違うんですよ。

海外だともう、歯ブラシとかもスマートフォンと連動していて、どこが磨けてないとかが分かるんです。海外では完全に未来が来ている
それなのに、日本はちょっと遅れているんじゃないかとすら思ってしまう。海外と日本の差を強く感じるんですね。その差がちょっとヤバい、どうしようかなと思ってしまう。

商品だけでなく、海外の方が情報も圧倒的に充実していて、日本語が追いついていないんですよね。海外と情報格差が生まれてしまっている。そこが、ちょっといかんともしがたいなと思います。
…話しながら今すごい危機感がでてきて、英語を勉強しようと思いました(笑)

 

英語の情報は量も質も日本と差がある

古川健介(けんすう)さんインタビュー_IGNITION_真剣

英語力がゼロでありながら、海外の情報をどうやってインプットしているのでしょうか?

なるべく英語サイトを見ようとはしています。例えば簡単なのはGoogleのデフォルト設定を英語にしておくと、検索すると英語の方がでてきてしまう。それで、頑張って読もうとはしてますね。

あと、最近よくやるのはニュースアプリのSmartNews」を英語版にしてます。あれは非常にまとまっていて読みやすいですね。
そしてiPhoneだと辞書へのアクセスが簡単なので、分からない単語はiPhoneの辞書で調べたり、とりあえず「Pocket」というアプリに保存しておいて、そこでなんとか読もうと頑張ります。
はい、頑張ろうとはしてます。してる、だけです(笑)

 

英語の方がやっぱり情報量が多いなと実感することはありますか?

よく例に出すのは楽天が無料通話アプリ『Viber』を買収したとき、英語でしかまともな情報がなかったんですよ。
なんでこの価格で買収したのか、何人ユーザーがいて、ユーザーひとり当たりいくらで換算したのかとか、そういう情報が日本に全然なくて、「まずいな」と思った記憶はあります。

英語の情報は量も質も違う。これはちょっと埋めがたい差を感じますね。当然「日本の情報の方が質高いな」というのもあるんですけど、それでもやっぱり海外のほうが量は出てますし、そういうところで差を感じてます。

 

逆に情報の数が多い海外に『IGNITION』を広めるのは大変では?

やっぱり記事を広めるところは苦労していますね。
全然足がかりがない。そして足がかりがないので、記事がウケているかどうかも分からなくて、文章が下手すぎるのか、題材がダメなのか、それとも分量がダメなのか、反応を測りづらいのが問題です。

ただ、“BrainWars”の記事とかは、海外の『Tech In Asia』というメディアが「すごくイイ、転載させてくれ」と連絡があったりしたので、もしかしたら徐々に反応が出てくるのかなぁという感じです。
まだ、ちょっと難しすぎて分かんない、というのが正直なところですね(笑)

 

記事を読んでもらうために意識していることはありますか?

“BrainWars”の記事も8000ワードくらいあるのですが、かなり長めに作っています。
特にスマホだと長くても読まれるんですよ。逆にパソコンだと読まれない。

意外かもしれませんが、長文記事はスマホでも結構な人が半分以上読んでいるんですね。
僕はパソコンって異常だと思っていて、入力ツールと一体になりまくっているデバイスじゃないですか。だからメディアはスマホにフォーカスして、パソコンは無視してもいいんじゃないかとすら思っています。

 

没頭コンテンツ、ビジュアルコンテンツを世界に広めたい

『IGNITION』以外には、どういったグローバルメディアをやりたいですか?

最近はやっぱり「そこにしかない情報」というのをやりたいです
例えば日本にしかないもの。「日本でこういう美術イベントがあって、こうだった」みたいな情報がグローバルメディアにはあまりないので、そういうのはやりたいですね。

あとは単純にイラストと言うか、ビジュアルで表現するというのはやりたくて。日本はそこすごい強くてですね。絵が描ける人が異常に多いんです。

例えばこの前、弊社のデザイナーがGitHubのイベントにでてプレゼンをしたのですが、「GitHubは郵便に例えると分かりやすい」というのをイラストにして表現したんです。

古川健介(けんすう)さんインタビュー_IGNITION_郵便局
参考:[イラストでわかるハウツー] 超簡単にGitが理解できる「郵便局メソッド」を考えてみた!

このプレゼンをしたら、本国の人も「これはすごいわかりやすい」と
これはいいなと思ってですね、nanapiのTwitterでも1枚絵にまとめてツイートしてみたんです。そしたら結構反応がいい。

これの何がスゴいかと言うと、すべて社内の「絵が描ける」レベルの人が描いているんですよ。それって実は結構スゴいことだなと思うんです。
マンガだったり、日本にはイラスト文化が蓄積しているのかもしれません。海外ではあまりないのかどうか分からないんですが、素人が描いて、こういうのが出来上がってくるというのは、結構スゴいことだと感じています。

こういうものを海外に持っていきたいですね。なので、スマホだけどすごい長文で没頭させるか、1枚の絵でも一瞬でわかるかのどっちかだと思っているので、そういったことをやっていきたいです。

 

メディア成功のポイントは、アドテクの進化と広告主の数

古川健介(けんすう)さんインタビュー_IGNITION_成功ポイント

日本と海外では、WEBメディアのマネタイズにも違いはありますか。

僕は結構シンプルに考えていて、アドテクが進化して、かつクライアントが多ければWEBメディアは成り立つと思っています。特に足りないのはナショナルクライアントの、ブランド広告などです。

テレビって単純にクライアントが多くて、単価が高いだけで回っている。メディアのマネタイズって実はそれかなぁと。

やっぱり『BuzzFeed』とか見ていても、広告がついて稼いでるので、コンテンツが良くなるんです。その結果、例えば「おいしいサンドウィッチの作り方」なら、動画もあれば、写真もあれば、イラストもあるという感じで、いろいろ出来るんですよね。

つまり全部あると、本とかテレビよりもWEBメディアはリッチになるんです。そうなれば、メディアってWEBメディアが一番見るに値するなと思うので、これからが面白いなぁと思います。
そして、ようやくアドテクとかの進化によって、それができるようになってきたのが今だと思ってますね。なので恐らくアメリカだと最初に投資が入って、2年ぐらいかけて黒字になるようなメディアがガンガン増えてくるかなとは思ってます。

一方、日本はもう少し時間がかかる可能性があります。その理由はクライアント数。まだクライアント側があまりスマホに流れていないので、それが流れてきたら変わるかなと。
たとえば広告主が今の4倍になったら、nanapiだけでも変な話年商10億とか稼げるようになるので、だいぶ変わってきますよね。
なので今は、時代待ちです。努力じゃないと。

 

おわりに:今後のけんすうさんの英語学習の進め方とは?

古川健介(けんすう)さんインタビュー_IGNITION_大笑い

最後に、今後どうやって英語を勉強していく予定か教えてください。

普段の生活では、なかなか英語って使わないんですよね。なので、なるべく会話をする機会を増やそうとは思っています。

だけど英会話レッスンをしても、今週何やったかみたいな質問って、日本語でも「いや、ちょっと何したっけな」となるし、「食べ物はなにが好きですか」と言われてもあまりない、「趣味は?」と聞かれても「いや、ないですね」としか言えないので、ツラいんですよね(笑)

一番ストレスがないのは、IT業界で働いている英語圏の人に「ティーンエイジャーはどういうアプリが好きなんですか?」とか、実際にスマホを見せて「こういうアプリどう思います?」とか、『IGNITION』を見せてどう思うか、みたいな話であれば、コミュニケーションしたいので意外と話せるんですよ。

Twitter創業者のBiz Stoneという方が僕は結構好きなんですが、彼の本の解説を日本語で書いたんですね。それをキッカケに、例えば「あなたの本の解説を書きましたよ」とTwitterでBiz Stoneに話しかけてみたら、もしかしたらやりとりが生まれるかもしれないじゃないですか。
Twitterの創業者と話せるなら、俺はめちゃくちゃ頑張るじゃないですか。そういう目標を持って、コミュニケーションをとる機会を増やしていきたいですね。

— 貴重なお話、誠にありがとうございました!