モン族に伝わる民話を後世に残したい、安井清子さん


安井清子
1962年東京都生まれ。国際基督教大学卒。「ラオス山の子ども文庫基金」を設立し、ラオスにて山岳少数民族である、モン族の子どもたちのための図書館を運営。また、文字を持たないモン族の民話を書き起こし、継承する活動に従事。「モンの民話―ラオスの山からやってきた」「空の民(チャオファー)の子どもたち―難民キャンプで出会ったラオスのモン族」などラオス、モン族に関する著書多数。

    こんにちは。まっつんです。連載第二回目はラオスの首都ビエンチャンよりお送りします。モン族の民話支援や図書館支援をされている安井清子さんにお話をお聞きしてきました。

    モン族の民話を守りたい

    ラオスでの活動に関して教えてください

    主に2つの活動を行っています。

    1点目は、モン族に伝わる民話を記録して、途絶えさせないようにすることです。モン族ですが、文字を持たない民族で、代々口伝えで物事が受け継がれてきたんですね。親から子へ、子から孫へ、と言った形です。ただ、近代化の影響でモン族もテレビなどを持つようになり、その影響でおじいちゃんやおばあちゃんの話を聞く機会が減り、結果として、代々伝わってきた文化がなくなってしまう危機に陥っています。語り手として数十の民話を話せる方もいるのですが、記録されていないので、その方が亡くなってしまった時にそのままお話もなくなってしまうのではないかと思いまして、録音したり文字に起こしたりすることで、少しでも後世に残していければと思います。

    2点目は、図書館の運営支援です。現在3つの図書館の支援を行っています。昔と違い、山奥の村でも自給自足の生活ではなく、外部との交流があり、経済活動が入ってきている状況です。将来多くの子供たちは外に出て行かなくてはならないことになると思います。その際に社会に流されるのではなく、自分自身で的確な判断が出来るようになってほしい、そのために広い世界や知識に接し、基礎を築いていくことのお手伝いが少しでも出来ればと思い、図書館の運営をしています。

    安井清子さん取材

    どのようなきっかけで海外に行くことになったのですか?

    元々は子供の本に関わる仕事に就くことを希望しておりまして、少し異なるのですが、大学卒業後に、子どもたちに人形劇をしながら話をする団体に所属し、約1年間全国の幼稚園や小学校を周っていました。あとは海外にも幼い頃から読んでいた本の影響もあり、興味がありました。この時は東南アジアではなく、北欧だったのですが(笑)

    ある時、「タイの難民キャンプに人形劇をしに行く」という話がありまして、それでタイに行ったのがきっかけです。一番新入りで連れて行ってもらえない可能性もありましたので、この時にタイ語を勉強し、何とかタイに行くことが出来ました。最初に行ったのはタイのカンボジア難民キャンプだったのですが、衝撃を受けました。正直子どもたちにとってつらい状況なんですが、みんな目をきらきらさせながら人形劇を見てるんですね。この時に難民キャンプであったり、東南アジアの子供たちに興味を持ちました。その時は日本に帰国したのですが、その後別の団体でタイにあったラオス難民キャンプで子ども図書館を作るというプロジェクトがあることを聞き、そちらに参加することになりました。

    モン族との出会いは?

    この難民キャンプはタイのラオス国境付近にあったのですが、ここで初めてモン族と出会いました。子供が対象でしたし、絵を見るだけでも楽しいだろうと、絵本を200冊くらい難民キャンプに持っていきました。最初は何もない状態だったので、木陰にござを敷いて子どもたちに絵本を見せ始めました。言葉はわからなくても、絵本自体が物珍しかったんでしょう、子どもたちも寄ってきて、楽しそうに絵本に見入りました。

    最初に、モン語で「なに」という意味の「ダッチ」という言葉を覚えて、絵本の絵を指さしながら尋ね、子どもが言う言葉を覚えつつ、何とか絵本の読み聞かせをしようとしたんです。そこでは5年間活動したのですが、モン族の子供たちが、絵本からいろいろ発見したり、お話の世界を自分に取り入れて行く様子が、本当にうれしかったです。

    そんな活動を始めて2年目に、文字を持たないモン族にも代々語り継がれてきた話があることに気付きました。難民キャンプの中で暮らすお年寄りに話を聞いていたのですが、これが本当に面白いんですよね。モン族の言葉なので、もちろんわからない部分ももちろんあるんですが、意味がわからなくてもどういう場面なのか想像は出来るような素晴らしい語りでした。そこからモン族の民話に興味を持つようになり、その後ラオスでも民話を記録する活動を始めました。

    モン族

    度重なる困難、モン語習得のコツ

    図書館を作るにあたって苦労したことを教えてください

    相当大変でした。当初は数ヶ月で出来上がる予定だったのですが、材料を揃えるだけで半年以上かかりました(笑)まず材木を買おうにも店がない。それに、モン族の人々は木や石などの材料を可能な限り自分たちの力で揃えようとするんですね。森から木を伐採したり、山の岩を割りそれをトンカチで割って使える状態にしたりといったような形です。私と建設担当の方、日本人2人で村に滞在したのですが、完成まで1年以上かかりました。

    完成した後も運営でいろいろと試行錯誤をしています。ほとんど本を読む習慣もないですし、そもそも図書館ってなに、っていうところからスタートでした。なので、建設を始めた時から建設現場の隣にござを敷いて、子どもたちに本の読み聞かせをしたりして、周知をしていました。

    また、オープンした後も図書館は建てただけでは終わりではない、本を入れて終わりではないんですよね。新しい本を定期的に入れる必要もありますし、小さい子供は本が読めないので、読み聞かせをしたり、本の貸し出しをしたりするスタッフが必要だったりします。今はスタッフも育って継続していて上手く回ってきていますが、当初はこのあたりも大変でした。あとは、やはり本を読む習慣がない人が多いので、違う形で本に興味を持ってもらえるようにしたいですね。実際に録音したものを音声で聞けるようにしたり、民話を語っているシーンを録った映像を見れるように、といった視聴覚ライブラリの整備にも注力していきたいです。

    モン族読み聞かせ

    モン族の言葉はどうやって覚えたのですか?

    はじめは絵本を通じて子どもたちに教わってましたね。絵本に出てくるものを指さして、それがモン語で何というのかを習ってました。簡単な単語などはそのように勉強しました。最初はそれでよかったんですが、絵本を見せるだけでは子どもたちも飽きちゃうんですね。それで読み聞かせが出来るように、本格的にモン語を勉強し始めました。英語でモン語を学べるものがあったので、参考にしたりしましたが、実際には耳から聞いて覚えた感じです。

    勉強しないと子どもたちに読み聞かせが出来ない状況だったので、やらざるを得ない環境でしたね。前日に絵本に出てくるシーンに出てくる必要単語を考え、モン族の大人に教わって、それを覚えて、翌日子供にモン語で絵本の読み聞かせをする、というのを繰り返していました。その過程で身につけたものが大きいと思います。昼は難民キャンプで子どもたちに読み聞かせをし、夜は自分の部屋に引きこもって勉強をしていて、難民キャンプで働く他のスタッフの人たちと交流をする暇もありませんでした。一時期相当付き合いが悪かったと思います(笑)

    最後にラオスの良い点を教えてください

    急激に発展しているラオスですが、まだ自然が残っているところも多く、人々も自然とともに生きている印象が強いです。イメージ的には日本の100年前のような素朴さがつい最近まで残っていたという感じを受けます。長年暮らしていると様々な面が見えてきますが、人はおだやかで、純朴、人が生きるということの本来の姿を見るような気がします。ラオスに来られるのであれば、都市に加え、村や田舎まで足を運ばれることをおすすめします。きっとラオスの良さを十分に感じられることと思います。

    安井清子さん、松本

    松本の感想

    モン語を習得されたお話が非常に印象的でした。英語とモン語、ということで全く異なるとは思いますが、誰かに伝えるために覚える、覚えざるを得ない環境に身を置く、というのは有効な手法だと感じました。ラオスですが、観光業の方の多くはそこそこ英語が通じるので、勉強した英語を試す際にもおすすめです。

    安井さんが書き起こされた民話の一部はホームページより確認いただけますので、ぜひご覧ください。
    http://www7a.biglobe.ne.jp/~pajhnub/