濱名 栄作
(更新)
全世界に19億人以上のユーザーを抱え、世界最大のSNSとなった『Facebook』。
今でこそ日本国内にも深く根付いた Facebook だが、日本に上陸した当初は、mixi 等の匿名制の SNS が主流だったこともあり、原則実名登録の Facebook のユーザー数は伸び悩んでいた。
そんな中、日本における Facebook のグロースハックを託されたうちの一人が、元 Facebook Japan 副代表の森岡康一氏。その他にも、インテリジェンスや Yahoo! JAPAN などの名だたる企業でキャリアを積み、現在は KDDIのグループ会社である Supership株式会社の代表取締役社長を務める。
今回、日系企業と外資系企業の両方を渡り歩いてきた森岡氏に、自身も日々世界を飛び回ってビジネスを展開するDMM英会話代表の上澤がインタビューを行った。その前編である本記事では、Facebook 時代のドラマチックなエピソードや、仕事をする上での心構え、経営哲学などについて紹介する。
ー はじめまして。DMM英会話代表の上澤です。本日はよろしくお願いします。
まずは森岡さんの現在のお仕事や、これまでのご経験についてお伺いできればと思います。
よろしくお願いします。
新卒でインテリジェンスに入り、その後 Yahoo! JAPAN、Facebook ときて、現在は Supership という会社の代表取締役社長をしています。
Supership では「すべてが相互につながる『よりよい』世界を実現する」というビジョンのもと、メインの広告事業でしっかりと収益を上げつつ、その利益を IoT や VR などの新しいサービスに投資しながら面白いものを作っていく取り組みをしています。
ー 人材系のインテリジェンスから Yahoo! JAPAN というのはどういった経緯だったんですか?
もともとはイメージを形にする仕事がしたくて、就職活動ではテレビ局ばかり受けてたんですね。でもことごとく落ちて。
そんな時に「インテリジェンスっていう、なんでもやらしてくれる会社があるぞ」と聞いて、当時は人材とか全く興味なかったんですけど、セミナーに行ってみたんです。
そしたらセミナーでなんか納得できないことを言ってる訳ですよ(笑)。で、手を挙げて思ったことを正直に話したら、「面接は突破です」って言われて。
ずっとそんな感じでギクシャクしたまま最終選考をパスしたんですけど、「こんなに食ってかかってるのに、内定くれる会社は面白いんじゃないか」と変な男気スイッチが入っちゃって入社を決めたんです(笑)。
ー そうなんですね(笑)。
インテリジェンスでは何をされていたんですか?
営業と転職コンサルを2年くらいやってましたね。でもやっぱりコンテンツ作りに携わりたかったんですよ。
それが諦めきれなくて求人情報を見てたら、たまたま「プロデューサー」って言葉が目に飛び込んできて。どんな仕事かよく分からなかったんですけど、プロデューサーってかっこいいなあと思って、応募したのが Yahoo! JAPAN だったという。
当時、「Yahoo!求人」というサービスが立ち上がったのですが、社内に求人業界出身の人がいなかったみたいなんです。それで、たまたま僕がインテリジェンス出身だったんで、「若くてなんか変なやつがいるぞ」ということで、チャレンジ採用で取ってもらえました。インターネットのことはよく分かってなかったんですけどね(笑)。
Yahoo! JAPAN にはトータルで8年半くらいいて、求人サービスのプロデュースの他に、リクルートと組んで新規事業の立ち上げをしたりしました。
ー なるほど。その後、Facebook にジョインされたのはどのようなきっかけで?
「なんか興味ない?話聞かない?」みたいな感じで声をかけてもらったんです。
当時、Facebook って日本に進出した外資系企業をめちゃくちゃ研究してたみたいで、「日本でビジネスするんだったら、日本のことを熟知してるやつを採用しないと上手くいかない」っていう方針を立てたみたいなんですね。
それで、日本でネットワークを持っていて、インターネットが分かってて、営業ができて、ビジネスを作れる日本人を探していたようで、その諸々のスペックに僕がハマったらしく、声がかかったんです。
ー 入社は即決されたんですか?
僕は基本的にすぐに決めるタイプなので、なんの曇りもなく「行きます!」と。
当時は mixi 全盛の時代だったし、日本では実名制の Facebook は無理だって言われてて、 Yahoo! JAPAN の人でも Facebook のスゴさが分かる人はほとんどいなかったんです。
でも僕は、世界でのFacebook の加速を見ていてスゴさは感じていたので、何かあるんだろうなって。とにかく知的好奇心がすごかったんですよ。なので「行く!」って即決しました(笑)。
ー Facebook では具体的にどのようなことをされていたんですか?
ビジネスデベロップメント、業務提携がメインですね。
ビジネスを作って提携していく、ということをやっていました。
ー 日本支社が立ち上がった時って、メンバーはどれくらいいたんですか?
日本人は初代代表の児玉と僕の2人、あとアメリカから来ていた開発担当のエンジニア3人ですね。
それにプラスして、児玉がイベントで知り合ったウォンテッドリーの*仲暁子をアシスタントとしてつけたんですよ。
*仲 暁子(なか あきこ)
ウォンテッドリー株式会社代表取締役CEO。京都大学卒業。ゴールドマン・サックス証券を退職後、Facebook Japan に初期メンバーとして参画。2010年、ウォンテッドリーを設立。
ー なるほど。Facebook は他の何かと提携するイメージがあまりなかったのですが、どういう意図があって、またどのように進められたのでしょうか?
Facebook のユーザー数って自動的には伸びないんですよ。これはどのビジネスも同じなんですけど、裏でかなり人為的に頑張って増やしていて。
当時はまだガラケーの時代だったので、そうした状況の中で色々とチャレンジしながら、KDDIなどの携帯キャリアや Yahoo! JAPAN と組んだり、電通、リクルートなどとも提携し上手く“Facebook がキテる感”を演出しながら、地道にユーザー数を増やしていったんです。
特に携帯キャリアと組んだ取り組みをしたのは僕たちが世界で初めてで、それが成功したので、今や Facebook 全体のデフォルトとなっています。
ー そうしたアイディアは、どこから出てくるんですか?
「人ってクビ(解雇)がかかると脳みそ使うんだな」っていうのは実感としてあります。
外資は本当にクビになるんですよ。クビがかかると、*英語の勉強も、ビジネスも脳みそ使ってアイディアを出しましたね。
*森岡氏は Facebook 史上初の「英語の話せない社員」として入社。森岡氏の考える英語コミュニケーションや言語学習の本質についてはこちらの記事をチェック。
ー クビになるというのは Facebook を、ですか?
そうですよ。「はい、さようなら」ってすぐ切られちゃうんです。
やっぱり、そうなった時に初めて自分で考えて自分でアクションを起こして、っていうのは大きかったですね。そうして今までたくさんのチャレンジやトライをしてきた経験が、かなり肥やしになっていると思います。
例えば、「マーク・ザッカーバーグが1週間後に日本に来るぞ」って連絡があって、「滞在中の24時間を最大限に活用しろ!」みたいなことをいきなり言われた時に、その1週間で総理大臣に会う調整をしたんですよ。それはめちゃくちゃドラマチックで面白かったですね!
ー それスゴいですね!1週間でそんなことできるんですか?(笑)
めちゃくちゃでしたよ(笑)。
要は、ザッカーバーグに日本で講演してもらったとして、Facebook っていうサービスを届けられる人数って限られてるじゃないですか。それに彼の講演会に来る人って、だいたいすでに Facebook を知っているユーザーなんですよね。なので講演はインパクトが弱いなと。
最初は天皇陛下に拝謁させて頂きたいと思い、宮内庁に電話したんですけど門前払いされて。そりゃそうですよね(笑)。じゃあ総理大臣がいいんじゃないかって発想になったわけです。日本のトップと会えば、ニュースバリューになるだろうと。
ー なるほど!どのように1週間で総理大臣との約束を取りつけたんですか?
総理大臣とのアポ取りって普通は何ヶ月もかかるらしいんですね。でも知り合い経由で官邸に連絡してもらったら、「外交ルートを使えば1週間でなんとかなるかも」って言われたんです。ん?外交ルート?って感じだったんですけど、つまり「ホワイトハウスが動けばなんとかなるよ」と。
そしたら偶然にも、Facebook の幹部の一人がホワイトハウス出身だったので、彼女ルートでワシントンにいるチームからホワイトハウスに連絡してくれるよう頼んだら、「分かった!」って言って連絡してくれたんです。
次に日本大使館から外務省に入っていく流れなんですが、事前に官邸側が外務省を通じて裏から繋げてくれていたおかげで、通常2週間かかるところを1日で通してくれたんですよ。
そこはもう、人とのコミュニケーションですよね。とにかく「会わしたら面白いから!」って押したら、官邸側も「会ったら面白いよね」みたいになって(笑)。もうみんなが持ってる力を出し切って、なんとか1週間で間に合わすことができたんです。あの時はシビれましたね。
ー かなり壮絶なエピソードですね!
Facebook での明確なゴールというか、ミッションのようなものは何だったのでしょうか?
僕が Facebook にジョインした当初でまだユーザーが国内で100万人もいなかった頃、児玉と「俺たちの成功ってどういうシーンだっけ」っていうのをすごい語り合ったんです。
その時に、「俺たちのゴールは、地方にある幹線道路沿い、それも山の中のコンビニで、深夜に若者たちがたむろしながら Facebook を触った時だ」って決めたんですよ(笑)。
ー めちゃくちゃディテール細かいですね!
はい。ディテールに神は宿るので。
ネットに疎い人たちが Facebook を見ながら喋っている。この光景を作るにはどうしたらいいかっていうのをひたすら考えました。
例えば「Facebook を紹介する」って言ってセミナーを開いたとして、それを聞きに来るのは意識高い系のめっちゃインターネットを知ってる人たちで、すでにアカウントを持ってるんですよ。そういう人たちに対してアピールをしてもユーザー数は増えないんです。
そういった間違ったアプローチの仕方をしていると、アメリカにいるボスから、「お前らそれで何人増えたんだ、何時間使ったんだ、いくら金使ったんだ」って全部聞かれるんですよ。「意味があるのか?意味があるなら論理的に説明しろ。俺はだいたい想像できるけど、1人も増えてない」と。
それに対して「メディアに出ている」と言うと、「メディアに出る?それに反応する人たちは絶対アカウント持ってるよ。アプローチしないといけないのは、全く知らない人たちだ。その人たちに Facebook というものを触れさせて、その良さを伝えて登録させるのが、君たちのミッションだ!」って言われるんですよね。
その通りだなあと。僕らはグロースがメインで、巷で言われているような「10%、20%向上しました」みたいなグロースではなく、「2000%成長しました」みたいな世界をどう達成していくかなので。
ー 日系と外資系企業を経験されてきて、どういったことを感じましたか?
Facebook に入社して幸せだったなと思うのは、グローバル企業を経験できたことなんですよね。"グローバル"ってすごく難しくて、国籍や人種、常識が違う人たちが一つの場所に集まって、何かを成し遂げようと動くわけじゃないですか。
やたらビジョンやミッションを謳ったり、評価システムとかもかなり合理的にできてるんですけど、これって結局は背景がみんな違うからなんですよね。
日本の企業って基本的に日本人がほとんどなので、制度がしっかりしていないというか、人の力で成り立ってる部分ってあるじゃないですか。でもグローバル企業は真逆で。
Supership は合併を繰り返してきて、小さな小さなグローバル企業みたいなもんなんです。みんな出自が違うし、価値観や考え方も違う人たちが集まっていて、これを統一するにはどうしたらいいかって考えると、グローバル企業のやり方がフィットするんじゃないかなと思っています。
ー 確かにバックグラウンドやカルチャーの違いは大きいですよね。
仕事に対する考え方が違いますからね(笑)。
日本人が真面目すぎるのかもしれませんが、約束の時間とか平気で破りますし、全然悪いとも思ってない。怒ったら「俺のカレンダーには入ってなかった」って(笑)。
ー 言いそう(笑)。でもそういうのも含めてグローバルなんですよね。
これまでのグローバルな経験を踏まえて、どういった組織作りをしていきたいですか?
あまりグローバルと日本って対極にあるとは思っていなくて、働いて給料をもらうっていう単純な仕組みの中なので、雇う側と雇われる側の認識のズレがないようにしていきたいですね。
双方の望みや期待をお互いがちゃんと理解して、満たしていけるような仕組みにしたいなと思ってます。それさえちゃんとできていれば、問題ないんじゃないかな。
日本のシステムはけっこう曖昧なんですよ。上司によって変わったりするので。一方で、グローバル企業は合理的にできてるので、そういう部分は採用していきたいなと思っています。
ー それでは、会社としての今後のビジョンや目標を教えてください。
色んな方面で会社としてのバリューを発揮していきながら、歴史に残るような、未来を先導していけるような何かを作れるよう、チャレンジし続けたいなと思っています。
特に、今は働き方改革のような休むのを良しとする風潮がありますけど、その中でも生産性を高めて、働いてる人がワクワクする会社を作れるよう、企業文化や働きやすい環境を作り上げていきたいですね。
ー ありがとうございます。
では続いて、世界初の「英語の話せない社員」として Facebook に入社された森岡さんの、英語への取り組みや経験談などを聞かせていただければと思います。
インタビューの後編では、Facebook 史上初の「英語の話せない社員」として入社した森岡氏の、英語への取り組みやその先で見えたものについてお話を伺った。
森岡氏が考える英語コミュニケーション、そして言語学習の本質とは?
英語に悩む全ての日本人必見!
「嘘でもいいから話せ」Facebook 史上初の英語を話せない社員が辿り着いた英語学習法とマインドセットーー元 Facebook Japan 副代表 森岡康一氏【後編】