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「5分遅刻でビビるって日本だけ」ミーシャ・ジャネットが語る日本とファッションのこと

「5分遅刻でビビるって日本だけ」ミーシャ・ジャネットが語る日本とファッションのこと

目次


ミーシャ・ジャネット
マルチに活躍するファッションジャーナリスト、ブロガー、クリエイター、スタイリスト。
米国ワシントン州生まれ。文化服装学院卒スタイリスト科卒業。2014年、「世界のファッション業界を動かしている500人」に川久保令などと方並べて入選。アンドロイドのCMでも現在注目されている。
▷ Blog:Tokyo Fashion Diaries

「毎日がランウェイ!」をモットーに、ご自身のブログ「Tokyo Fashion Diaries」やANAが運営する海外向けメディア「IS JAPAN COOL?」、そして「The Japan Times」での連載を持つなどファッションジャーナリストとして活動する傍ら、時にはスタイリスト、時にはデザイナーとしてマルチに活躍中のミーシャ・ジャネットさん。

「世界のファッション業界を動かしている500人」にも選ばれる彼女は、なぜ母国アメリカを離れ日本へと渡ってきたのか。また、アメリカ人だからこそ見えてくる日本の魅力とは一体どういったものなのか。

今回はミーシャ・ジャネットさんに、日本での経験、そして日本のファッション業界に求められることについてお伺いしました。

 

「アニメとかじゃなくてバトルロワイヤル大好きだった」日本は意外なことが豊富な国

ミーシャ・ジャネット

日本にきたキッカケはなんですか?

最初は日本ではなくて、フランスに行きたくて。フランス語も5年間勉強してて、パリにすごい行きたかった。そして高3の時に海外行きたい、せっかくなら留学で行きたいなと思ったんだけど、パリは留学制度がなくて、すごいお金かかる。

それで色々調べたら、当時住んでいたワシントン州スポーケンは、兵庫県にある西宮市とすごい縁が深くてSister City、姉妹都市だったんです。しかも毎年留学制度があったからラッキーと思って応募したけど、私1人しか応募してなかったんですね。
当時、2000年とか1999年とか、まだ日本ブーム、いわゆる”クールジャパン”ブームの初期だったので、まだみんな日本という国とかポップカルチャーとか分かってる人がすごい少なくて。

だけど私は日系人の先生をキッカケに、日本の女子大生のペンパル(文通フレンド)がいて。日本のかわいい文化を体験していたんです。その子の手紙のカワイイシールとか、いろいろ貼ってあって。すごいカワイイなって思った。アメリカ人の学生はあんまりそういう感覚がないから、素敵だなと思って、その時から日本のビジュアルなところとかも好きになってました。

だから日本で留学することが決まってから、ホントに近所の日系人にお願いして「週一回で教えて下さい」ってお金払って教えてもらってました。ひらがなとか「わたしはみーしゃです」みたいなのを勉強することから始まったんですよ。

たしかに女の子の手紙はシールすごい(笑) 日本語の勉強は他にはどんなことを?

ずっと独学ですね。あとマンガとドラマは私にとって不可欠な存在。ドラマも何回も何回も見てわからない言葉をメモる、ずっとノート持ってずっとメモって、終わったらあとで調べるのをやってました。

ただ自分オタクだなというか、見るにもアニメとかじゃなくて『バトルロワイヤル』大好きだった(笑) ホントにこういう感覚はアメリカで見たことない。私は日本が好きなだけじゃなくて、世界における”意外なこと”が好きで、日本ではその”意外なこと”が豊富な国なんですよね、私にとって。

だから高校のときに漢字という存在を初めて知った時は、このひとつのレターだけでひとつの言葉になってるのはあり得ないって思いました。目からウロコがポロポロポロポロポロポロって感じ。

 

「毎月車で6時間走ってセンター試験勉強して」3名の枠に合格して叶った留学

ミーシャ・ジャネット

その後、文化服装学院に入られましたが、アメリカでなく日本のファッションキャリアを選んだ理由は?

日本から戻ってきて普通にアメリカの大学に進学して、グラフィックデザインをやってたんです。だけどパソコンの前でカチャカチャやっててもちょっと慣れなかった(笑) それで、やっぱりファッションやりたいなと思って。
でもニューヨークとか行っても、ただのアメリカ人女性になっちゃうし、ファッション業界と縁もコネクションも人脈ももまったくないし、お嬢ちゃんでもないから「じゃあ何ができるの?」と。

私が普通のアメリカ人と何が違うのかと言ったら、日本での経験だなって。それで日本で勉強したいと思って調べたら、奨学金制度があることが分かったんです。その制度は3名の枠だったんですけど、応募してなんとか合格できました。

 

3名しかない枠に入ったのはすごい。その時の原動力はなんでしたか?

アメリカ人用のセンター試験と日本語で面接があったんですね。それで大使館に昔のセンター試験のコピーがあったんですけど、大使館が車で6時間の場所にあって。だけど過去問はコピーできないから、大使館でしか見ることができない。だから月1回6時間かけて大使館行って、センター試験の勉強して。

しかも数学がネックで。アメリカ人は6歳から電卓を使ってるから、授業も全部電卓。「自分の頭使った上級レベルの数学なんて絶対ムリだろ」って思ってたから、めっちゃハードル高かったー(笑)

だけど日本でファッションの勉強できたら、自分の目指すファッション業界、ファッションキャリアを築けるんじゃないかと思って。合格できなかったら私どうすればいいんだろうみたいな、将来の光がちょっとだけ見えているのがそれ(日本への留学)しかなかったから、頑張るしかなかった。
「頑張った努力だけは見せたろ」と思って、面接では兵庫にいた頃のエピソードを日本語で頑張って伝えて。多分面接で受かったんじゃないかな(笑)

 

電話の取り方とか請求書の作り方とか。苦労したなー(笑)

ミーシャ・ジャネット

文化服装学院に入った時は、どういったキャリアを目指していた?

最初はスタイリストになりたかったんです。ただ、スタイリストっていうのは人脈と経験、コミュニケーションが大事。ショールーム貸してくださいとか、企画作って送るみたいな、ただの感覚だけじゃダメで。私みたいにスタイリストになりたい日本人ってたくさんいるじゃないですか。あの人たちは日本語できるし、日本の作法わかってるし、全部できてるから。

日本では外人スタイリストは別に必要としてなかったんですよ、「別にいらなくない?」って感じ。ショックだった。だけどせっかく東京まで来たからには、ホントに全力で110%頑張らないといけないと思って。必死に人脈づくりに励んでましたね。

そしたら、すごいラッキーなことがあって。オリビアっていうハーフのアイドルの子がいたんですけど。あの子とホント偶然ばったり街で会って「好きです」みたいな伝えて。そしてライブにも行って、終わったら知り合いがいたので紹介してくださいみたいな感じで仲良くしてたんです。そしたらあの子に在学中から「スタイリングやって」ってお願いされて、ライブ衣装とか雑誌とかやることになって。

でもショールームとは無縁だったし、いろいろ分からないことだらけ。だけど無理矢理電話して「この子のスタイリングしたいから貸してください」みたいな、とりあえず頑張るみたいな(笑) 全部100%事前に分かってなくても、とりあえずやるみたいなことやってました。
だから学校を卒業する時はすでにスタイリストやってて。ただ人脈がなさすぎて、それ以外は仕事が来ないという状況でしたね。

それで、もうちょっとビジネス知識深めようと思って、外資系の会社で1年間アシスタントというか秘書をやったりしてました。メールの取り方とか電話の打ち方とか、あとは請求書の作り方とかちゃんとビジネスにおける日本語を苦労して身につけました、苦労したなー(笑)

そして、これもラッキーなことに「英語でコラムとか編集やってください」という話がきて、今のキャリアがスタートしました。

 

Japanese are crazy!! でも、Not crazy!! みたいな

ミーシャ・ジャネット_smile

実際、”きゃりーぱみゅぱみゅ”みたいな人が街中にいるわけではないように、海外に伝えられている日本と実際の日本って違う、そのギャップをどう思いますか?

私もいつも海外から来る人に聞かれるんですよ。「なぜ、Japanese are crazy!! でも、Not crazy!!」 って(笑)そのギャップがすごい。海外の私からすると逆に極端な2つがあるなって。一般人も極端のひとつ。
ルールに沿ってすべて決まっていて、侘び寂びというか日本のデザインってすごいシンプルで、キレイ。でもうひとつは、極端なクレイジーさ、オタクな一面があって。アキバ系、原宿系とかね。その2つの側面があって、その2つどちらも「日本」。

でも、それは海外から見るとすごい。海外はどっちかと言うと神様を気にして毎日行動する。だから周りの人からどう思われてもどうでもいいや。罪を犯したら、神様と私の間での問題。いくら目障りな存在になってもあんたとは関係ないわ、という感覚。

だけど日本は逆。神様じゃなくてもっと周りの人を気にして平和を保つというか、平和をキープするみたいな文化がある。だから日本人は毎日キレイにするよね。ヒール履いたり、割りと良いブランド着たりして。靴下までちゃんと綺麗な靴下した履いてたり。海外ってみんな穴が空いた靴下の人ばっかり(笑) 汚い靴下とか、左右違うとか。そこが面白いですね。

 

日本のファッション業界はマーケティングがちょっと足りない

ミーシャ・ジャネット

そういった文化の違いは日本のファッション業界にとって良いこと?

今ちょっと日本のファッション業界で悩ましいと思うのは、海外でなかなかうまく行っていないこと。韓国ファッションみたいに全体的に注目される感じではなく、日本のブランドが海外でショーをやってもちょっと「ん?」とかTokyo Fashion Weekも「あれ?」って感じで、すべてじゃないけど、まだレベルが低い。
それは海外の人が日本のファッションを見てくれてないとかじゃなくて、日本のスタイリスト、エディターとかは海外と肩並べられるクオリティーを持っているんだけど、国内向けのものをやってるんですよね。マーケティングがちょっと足りない。プレゼンテーションとか展開の仕方が。

日本だと3人くらいが「いいね、いいね、いいね!」って言えば4人目からもまた「いいね!」って言ってついてくるみたいな。みんなが「いいね!」って言ってるから、なんとなく私も「いいね!」みたいになるけど、外国人は1人が「いいね!」って言っても、他の人は「いや私は…」って思っちゃう。日本で人気があるからって海外で人気が出るわけじゃないのは、そういうこと。

だから、「日本で人気の〜」ってそのまま持っていっても、外国人はマインドが違うから「私はそうは思わないよ」ってなる。だから、カッコいいとかカワイイとかって教えるんじゃなくて、言わないで思わせる。言わずにカッコ良く魅せて、「ほー、カッコいいね」みたいな。
(日本のブランドも)良いものはすごいイイ。だけど日本のファッションデザイナーは海外の感覚を身につけないと海外で活躍できないよって思う。逆に海外で成功してる人は、日本人のいいところをキープしながら、ちゃんとスイッチの切り替えができてるんですよね。

 

5分遅刻でビビるって、日本でしか感じない(笑)

ミーシャ・ジャネット

日本人のいいところってどんなところでしょう?

例えば、私はもう平仮名も漢字もめちゃくちゃ汚い。書き順も分かってない、でも書ける。だけど日本人は細かいとこ気にしすぎで、前もすごい面倒くさい上司がいて(笑) 細かいところをすごい叱られて、封筒の書き方だったり、漢字の書き順とか。「もう嫌! 書けてるからいいじゃん」みたいな。

あと、私はルーズなところがあって、5分遅れが癖なんですね。私にとっては割りとオンタイムなんですけど、いつも「5分遅れました、すいません」みたいな(笑)
5分遅刻でビビるって、日本でしか感じない。海外なら5分、10分でも言えば、別に雰囲気を壊すこともないし、問題ない。だから遅刻でビビることはない。「すいません」って言えば「おいーす」みたいな。

でも日本だと「この日までに情報送ってください」とか「締め切りはいつです」って言ったら、みんな守ってくれるんですよね。 衣装も「あと2日でできますか?」って言ったら「できます」って言って、ちゃんと二日以内に仕上げてくれる。海外は無理ですね、あり得ない。日本人のそういった細かいところ、丁寧なところはいいところだと思うんです。

 

「違和感を感じさせたい」アメリカ人は皮肉っぽい感じが好き

ミーシャ・ジャネット

Web上には雑誌レベルのファッションメディアが少ないと感じているんですが、ミーシャさんはどう思いますか?

いやー、悩むところですよね。ホントは私がやりたいですよ。日本のファション情報を知りたかったから、東京ファッションダイアリーみたいな。更新頻度ももっとアップしたいんですよ。
だから手伝ってくれるバイリンガルな子を募集したいんです。ファッションに興味のあるコと一緒に展示会とかショーを回ったりできるコを募集して。そして、もっとファションを研究して、いいデザイナーを応援して、海外に持って行くというか、知ってもらいたいですね。

そして日本でファッションを語る人、語れる人といえば「ミーシャ・ジャネット」という存在になりたい。日本のファッションもそうだし、海外各国のコレクションも厳選して、これ面白いよねって発信して。
日本のファッションブランドにもっと成功してほしいから、ブログを見てくれる日本人デザイナーにも「あ、私はこういうレベルまで行かないと世界と肩を並べられない」みたいなのを感じてほしいなって。

 

ブログで意識していること、気をつけていることはどんなところ?

実は日本語と英語で内容を若干変えてて、直訳していないんです。日本人はストレートでピュアな情報が好き、アメリカ人は皮肉っぽい感じが好きで、ストレートすぎると、いやらしく感じるんです。
「これいいね! これ素敵だね! カワイイね! こういうのすごいでしょ?」とかって、外国人にはウケない。半分冗談交じりにダメ出ししたり、アメリカンジョークを入れたりして最後に「良かったでしょ」という感じ。たまにTwitterでジョークを言っても日本人は「?」ってなっちゃうけど。日本人向けのオチはまだ勉強中です(笑)

あとは「うわー!」って相手を驚かせたいというか、違和感を感じさせたい。打ち合わせとかでもフォーマルな日本語を話せるけど、わざと英語で凄いインフォーマルなインターネットで流行ってる言葉とか使ったり。それは打ち合わせってアイディアを生むためのMTGだと思うから、わざと違和感出すんです。言葉ってやっぱそういう雰囲気とかを生んでくれると思うから、違和感を感じさせたいですね。

 

何々系ってたくさんあるけど、私は何においても「当てはまらない系」でいたい

ミーシャ・ジャネット

最後に読者にメッセージをお願いします。

やっぱり私ができるなら皆さんもできるよ、って伝えたい。悲しいのは、日本人は「私にはできない」って簡単に思っちゃう。自信がないとか、100%分かってないとその時点で諦めるみたいなところが、すごくウイルスみたいに蔓延してる。

外国人の私が頑張ってできるなら、みんなもできるよって。でも「ミーシャと私は違うし」って思っちゃうんですよね。その時点でだめ。もう私なんてスポーケンってとこに生まれて、東京のファション業界で上手くやっていけるなんてミラクルですよ。でもそれは努力したから。
がんばりましたよ、ホントに色々。アンテナ張って情報探したり。みんなが勘違いしてるのは「すぐにできる」「すぐに成功する」ということ。私もいまにいたるまでに時間がかかった。

最近、Twitterとかインスタのファロワーさんに「スタイルブック出してほしい」って言ってもらえるんですけど、私は「当てはまらない系」として自分のスタイルをアップしてて。何々系とかいっぱいあるじゃないですか。
英会話もそうですけど、みんな「私にはできない」とか、「何々に当てはまらない」とか言っちゃう。だけど私は何においても自分を「当てはまらない系」として、自分のスタイルを楽しんでいる。だからみんなもすぐに決めつけるんじゃなくて、日々自分の人生をワクワクしながら過ごしてほしいですね。