Mei
(更新)
突然ですが、みなさんは勢いで何かを始めたことはありますか?
小さなきっかけでも、あとから振り返ると、それが大きなターニングポイントであったりすることがあります。
今回お話を聞かせてくれたのは、これまでさまざまな国でデザインを学んできて、現在デザイナー、そしてクリエイティブディレクターとして多くの分野で活躍している一法師さん。
彼が、言語が違う海外に飛び出して行ったのには、どのようなきっかけがあり、どのような思いでデザインの道を歩むことを決意したのでしょうか。
▲インタビュー中の一法師さん
ー 本日はよろしくお願いいたします。これまでの経歴を含めて、簡単な自己紹介をお願いします!
一法師拓門(いっぽうし・たくと)です。兵庫県生まれのデザイナー兼クリエイティブディレクターです。高校卒業後は、ニューヨークから最初に行って、ロンドン、ミラノ、パリなど、各地を回ってモデルの活動をしていました。
日本での大学進学も検討していたのですが、思い切って自分の進みたい道に突き進む決断をしました。
ー 最初はモデル活動をされていたのですね! どういう経緯でデザイナーになろうと思ったのですか?
モデルとして活動していくなかで、いろいろな服を着るわけじゃないですか。そうすると、自分自身も「この服のデザインがもう少しこのように違えばいいのに」とか、「この服、もっとこれやったらすごく欲しかったのにな」と思うようになったんです。
それから、20歳くらいのころにファッションデザイナーを目指すようになりました。海外での積極的な活動もあり人のご縁に恵まれ、ファッションデザイナーとしてのジャーニー、そしてキャリアを少しずつスタートさせることができました。
ー どれくらいの期間海外にいたのでしょうか?
▲フランス・パリでの一法師さん
3年ほどにわたって、日本と海外を行ったり来たりする生活をしていました。ウィークリーマンションを、モデルの友達とシェアしてたりしていました。それで、外国人の友達とも仲を深めることができました。
ー いっしょに住むと仲良くなれそうですね! 海外に最初に行ったときは、もともと英語は喋れたのでしょうか?
喋れてはいなかったです。筆記試験大学受験とか、日本のセンター試験の英語とかはできたので、筆記試験は得意でした。「My name is ~」とか、そういうのは得意でしたが、あんまり実践ではタメにならない英語でした。
初の海外からニューヨークだったので、当時の英語レベルの自分にとってはとにかく刺激がすごかったので圧倒されました。ニューヨークは刺激がありすぎて(笑)。
ー ニューヨークのどういうところが刺激的で圧倒されたのでしょうか?
いい意味で海外の人たちは、すごく距離が近いです。特にアメリカの人たちはコミュニケーションをたくさんとってくれるので、外国の人が日本に住んで言語の練習をするよりも、日本人がアメリカに住んで言語の練習する方が絶対簡単だなと思います。
それこそ、ホテルのエレベーターや道で、知らない人から急に喋りかけられるんですよ。そのため、何か返答しなければと焦ったものです。
ニューヨークにいたとき、よく朝に行っていたサンドイッチ屋さんでは、まず「Good morning!」と声をかけてくれます。日本だとそういうあいさつがあまりないので、ギャップを感じましたね。
ー 日本だと「いらっしゃいませ」の一択ですもんね。
もともと英語はめっちゃ苦手というわけではないので、最初からちんぷんかんぷんではありませんでした。最初のほうは、聞いて理解はできるけど、返せないというシチュエーションが多かったです。アウトプットが大変でしたね。
ー みんな話すスピードが早いと思いますが、そういう早口で話される英語は聞き取れていたのですか?
まあまあでしたね。聞き取れなかった話でいうと、ニューヨークのタイムズスクエアという観光地には、着ぐるみを着た人たちがいるんです。そこで彼らにまんまとハメられたんです(笑)。
「一緒に写真撮ろうよ」と声をかけられて、「お、いい人たちだな」と思いましたが、撮り終わったあとに「(自分たちと写真を)撮らせてあげたんだからお金をくれよ」という感じでチップをせがまれました。最初はそんな感じでしたね。
ちなみに彼らはタイムズスクエアでは常習犯だそうです(笑)。
ー 英語があんまり喋れないと、そういうぼったくりとかもありますよね。では、英語を問題なく話すことに慣れるまで、どれくらいかかりましたか?
半年くらいかかったと思います。
毎日喋っていたので意外とすぐに慣れました。とはいえ、そんなには流暢ではないと思うのですが、ある程度自分の困らない程度まで話せるようになったのは半年経ったときくらいでした。
ー 今までいろいろな国に行かれたとのことですが、何か国語を喋れるのですか?
英語だけです。みんなと友達になれたのも、幸いみんなの第二言語が英語だったからです。
エストニア人のモデルの友達の母国語はロシア語なんですけど、英語で話しています。みんな母国語が別にある状態で、苦手ながらも英語を喋るから、お互いに頑張って理解しようとするんです。それで仲良くなれました。
他のみんなも同時に英語のアウトプットをしているから、必然的に英語力は上がっていきましたね。
ー 海外に住んできた経験から、「これは知っておいた方がいい」という英単語やフレーズはありますか?
フレーズというか、表現方法の違いを覚えた方がいいかと思いますね。たとえば、「あなたのお名前はなんですか?」と聞くときは、日本人の模範的な解答でいくと「What’s your name?」と英訳するかと思います。
それだと、ストレートすぎて威圧感があるので、「Can I ask your name?」と聞いた方が、同じ意味でも表現が威圧的ではなくて優しいニュアンスになるじゃないですか。そういうニュアンスの違いを知っておいた方がいいかなと思います。
自分自身も海外に行った当初は「What’s your name?」と聞いていましたが、嫌な顔をされた経験があります(笑)。
飲食店とか他の店に行くと、「Can I have ~~?」と聞くじゃないですか。現地で過ごしていくうちに、「What is ~~」というよりかは、「Can I ~」とか「Could I ~~」、「Would you ~~」の方が印象がよくなるんだなと感じましたね。
海外に渡るにあたって、ニュアンスの違いを知っているだけでもだいぶ違うかなと思います。
ー 現在、ご自身のデザイン事務所を運営なさっているのですよね?
ConcePione(コンセピオン)という名のデザイン事務所です。これは自分で作った造語ですが、「新しいコンセプト(Concept)のパイオニア(Pioneer=開拓者)になる」という意味で、ConcePioneです。この二つの単語をくっつけると、読み方は「コンセパイオン」になるかと思うのですが、実際にConcePioneと書くと「ピオン」と呼んじゃうよなと思い、読み方も「コンセピオン」にしました。
この名前には、チーム内で大事にしている「We give more than we take」という英語フレーズの意味も込めてあります。デザイナーって、「期待値を超えたものを提供すること」が大事なんだろうなって思うんです。
デザインが社会に対して概念をもたらすものとなるように、「中身のあるデザイン」ができるように心がけています。
ー ConcePioneに込められた意味もかっこいいですし、こういったアイデアにたどり着いたこと、素晴らしいと思います! これも実際、英語を理解できているうえで造り上げた言葉ですもんね。
そうですね。ゆくゆくは世界進出もしたいので、今は、自分のチームも基本的に英語を話せる人を中心に構成しています。グローバルなチームにしたいと思って、今後もメンバー集めをしていきたいと考えています。
それに、ConcePioneの公式サイト内も基本的にすべて英語です。「目指すは海外だ!」という目標があります。
サイトのデザイン自体も海外を意識したデザインにしています。また、自社のトップページにあるグラデーションも自分で作成したものです。
ConcePione公式ウェブサイトのトップページ ConcePione 公式ウェブサイト
ー ちなみにですが、この公式サイトのトップに書かれている英語は、どのような意味でしょうか?
Pioneering concepts through design and create a colorful society. We create impressive designs that help brands to reach both minds and hearts of people.
「デザインでコンセプトを開拓し、彩り豊かな社会を創造します。私たちは、ブランドが人々の心に届くような、印象的なデザインを創ります」
ConcePioneが掲げているのは「相手の色を引き出すデザイン」なんです。
自分のなかで大事にしているポイントは、相手の表現したいものを、いかに相手の「色」を引き出した状態でデザインをすることができるかです。
僕自身が個人的にいいと思うものを納品するのは、正直簡単なことなんですよ。そういうデザインは、あんまり意味のないものだと思っています。
例えば、デザインの相談をしてくださった方がオレンジ色だとして、「でも僕は青のほうがいいと思う」と主張して相手がそのまま受け入れてしまうと、本人がオレンジなのに、青色のデザインを使うことになるじゃないですか。
そういうのは嫌なので、相手の色を活かしたデザインを提供したいです。
ー この言葉たちの裏には、そういったデザインへの情熱が隠されているのですね!
そうですね。この「Colorful Society」って、つまりその人たちの色を引き出しつつ、いろいろなデザインを提供するという意味からきています。
自分色だけを提供したら、自分一色の世界ができますよね。そうではなく十人十色、相手の色を引き出しながらデザインを進めることで彩のあるカラフルな社会を創出することができると考えています。
ー 仕事において幸せを感じる瞬間はどういったときですか?
自分の作ったデザインで、見ている人に「アハ体験」を提供できたときですね。
見た目的におしゃれにすることって、正直素人であっても誰でもできると思うんですよ。世の中にはおしゃれなものが溢れているから、似たようなものを作れば、誰でも見た目的におしゃれなものを作れるわけです。
でも、いいデザイナーと呼ばれる人って、見た目的におしゃれなものを作りつつ、さらにその裏側にストーリーを作っている人だと考えています。僕のデザインとそのストーリーを聞いて、なるほどと思ってもらえたときは幸せだなと思いますね。
▲ConcePione チームメンバーのみなさん
ー 英語を使って「視野が広がったな」というご経験などがあれば、教えてください。
今までのキャリアのなかで、英語は必要だったし、デザイナーさんが言っていることを聞くためには、少なくとも聞く能力が必要でした。
今のクライアントは日本国内からの方が多いので、現時点では英語で話すことを求められることは少ないです。でも社内では、常に「国際思考でいたい」という考えの人たちが多いです。
例えば、自分達が日々デザインに対して思うことを社内コラムとして溜めているんです。ある程度溜まったら、サイト上でニュース機能として実装していきたいと考えています。
ー 今までで一番印象に残っているお仕事は何かあれば教えてください。
いろいろあって、比べられないのですが、そのなかでもタレントでモデルの長谷川ミラさんと一緒にお仕事したブランド「Jam apparel」が印象深いですね。
ミラさんと一緒にファッションブランドをやっているんですけど、2021年秋に渋谷スクランブルスクエアでポップアップショップを開いていました。
Jam apparelというブランドには「エシカル」といった海外思考にルーツがあります。最近ではSDGsやエシカルという言葉が広がりつつあると思うのですが、僕自身やミラさんとか、海外を見てきた人たちからしたら、日本はちょっと遅れているなと感じていました。
自分達がエシカルな要素をはらんだファッションを商品化することで、「SDGs」というものをアウトプットできたので、すごく良かったなと思います。
タレントの方とやることによって、よりたくさんの方々にリーチしてもらって、接点を持ってもらったということはすごく良かったなと思いましたね。
ー 「英語ができて良かったなぁ」と思った瞬間というのはありますか?
今の自分があるのは、英語ができたり、国際交流してきたからだと思います。自分のキャリアのなかでは、全体を通して言えることなので、細かいことは語り尽くせないですが、今ここに自分がいる理由の一つには英語があると思います。
英語が話せるおかげで、エストニア人のモデルの友達ともミラさんとも仲良くなりました。ミラさんはたまに英語でしかミーティングしないこともあるから、そういう環境に身を置けるというのはとてもありがたいですね。
ー これから英語を学ぼうとする方々や、世界へ羽ばたきたいという方々に向けてメッセージやアドバイスがあればお願いします!
とにかく、まずは行動が大事だと思いますね。「勉強が先」ではなく、「行動が先」。
日本人の気質としては「勉強しきってから海外に行こう」とか、「勉強しきってから海外の人たちと英語で話してみよう」という傾向が多いと思うんですけど、実際あんまり話せなくても、例えばワンフレーズしか話せなくても、無理くりにでも話していくほうが意外と伝わると思います。
逆の立場になって考えると、そうじゃないですか? あんまり日本語を話せない外国の方が頑張ってワンフレーズの日本語を話してくれてるのは、こっちとしては嬉しいし、むしろ聞き取ってあげようとするから、会話がうまくいくことの方が多いですよね。
ついつい試験の練習に行きがちですけど、僕はまず行動から起こすくらいのほうがいいんじゃないかなと思います。
ピカソの名言で好きなのが「I don’t seek, I find」です。日本語にすると「探し求めるのではなく、ただ見つけるのだ」という意味で、すごく深いです。
みんな気づかないだけで、意外と周りにその要素が散らばっているので、無理くり縮こまっているというよりかは、テンポを上げていろいろ動いてみたほうがいいんじゃないかなと僕は思います。
実はこの思いを大切にしてきた結果として、2022年7月に、Chaine(シェーヌ)という自分のブランドをリリースすることになったんです!
英語の Chain(チェーン)と同じで、フランス語でも「鎖」という意味です。
「連鎖的につながっていく」そういうデザインを目標にして、Chaine と名付けました。プロジェクトベースのファッションブランドを作ろうと思って、結構面白い仕掛けをいっぱい作っているという感じです。
ー なるほど、今後が楽しみですね! ありがとうございました!
「挑戦してみたい」という勢いだけで、すべてが180度違う環境に飛び出した一法師さん。
違う国に行って、環境の違いだけでなく言語の壁が立ちはだかると、誰でも怖気付いてしまうものです。それでも、「将来は世界を相手に仕事をして世の中をデザインの力で変えたい」という目標があるからこそ、この言語の壁をのりこえられのだと思います。
これから先、一法師さんが紡ぐさまざまな色とデザインで、どんな Colorful Society を作り上げて、どのように社会に影響を与えるかがとても楽しみですね!