武重 謙
(更新)
私たちは、もう2年近く夫婦で旅をしています。旅をしていると「カップルで旅をするのって大変じゃないですか?」「一人旅の方がいいんじゃない?」などと言われることも少なくありません。
たしかに一人旅には完全な自由があります。行きたい場所、行きたくない場所、食べたいもの、食べたくないもの、何もかも自分で決められるでしょう。そんな一人旅が魅力的なのはとてもわかるのですが、二人旅にもまたとっておきの魅力があります。
今回は、ご結婚している方、または現在恋人がいるという全ての方々に、パートナーと一緒に世界へ飛び出すことの10つの魅力をお伝えしたいと思います。
1〜2年も旅をすれば、話のネタは山ほど溜まっていきます。これは旅を終えてからもずっと使える武器になることでしょう。
例えば、わたしが帰国後にやりたいことの1つに「旅で撮った写真をデジタルフォトフレームに入れて、スライドショーでランダムに流す」があります。そしてこのフォトフレームを居間に置いておくのです。
ふとしたタイミングで、何気なくフォトフレームを見れば「あ、これはイランだね。そういえば、あの時さ〜」などと話が生まれるでしょう。それを見て「じゃあ明日イラン料理でも作ってみるか」など話がドンドン生まれていく。
この “共通の話のネタ” は、私たち夫婦にとって一生の財産になるだろうと確信しています。
カップルにとって “共通の友人” は、すごく大切な存在です。二人のことを知り、考えてくれます。そんな友人がいることは、二人にとってきっとプラスになるでしょう。
海外を旅すると、この “共通の友人” が世界中にできます。自分たちはいろんな人に支えられている。それも世界中から……。また、困ったことがあれば相談できる人が世界中にいるわけです。世界中から支えられているという感覚は、思いのほか素晴らしいものなのです。
旅をする前、例えばインド料理屋に行ったとき、その楽しさは「インド料理を食べること」だけでした。同じようにフランス料理を食べる楽しさは「フランス料理を食べること」であり、イタリア料理、トルコ料理なども同じです。
でも、旅を終えてからは違います。
インド料理を食べることは、それ自体が世界旅になるのです。
「インドでチキンカレーを作ってくれた◯◯さんを覚えてる?」
「そういえば、インドではナンじゃなくてチャパティをよく食べたね」
そんな話題が湧いてきます。フランス料理を食べればフランスのことを、イタリア料理を食べればイタリアのことを思い出す。二人の毎日の食事が、そのまま世界旅になるのです。
普通のカップルや夫婦が一緒に過ごす時間は、思ったよりも短いものです。お互い仕事があったり別の用事があったりすると、同棲していても朝と夜しか会わないという人も多いでしょう。
旅をしていると違います。24時間365日、一緒に過ごすことになります。食事はもちろん、ほぼすべての行動を共にします。起きている時間だけを考えても1日16時間は一緒に過ごすことになるので、1年間も旅をすれば、それは2〜3年同棲しているのと同じくらいの経験値になるでしょう。
これを聞くと「ウゲ!」と思う人もいれません。でも考えてみてください。一生を一緒に過ごすのに、これほどお互いを知る絶好の機会はありません。
相手がどんなときに喜んだり、イライラしたり、疲れたり、笑ったりするのかを、あなたは知っていますか? それをとことん理解する絶好の機会になるのです。
「雨降って地固まる」という言葉があります。喧嘩して仲直りすると、より一段と仲良くなる、関係が強固になる、という意味です。
男女は歩くペースひとつとっても違います。食べたいものだって違うかもしれません。自分はゆっくりしたい日に、相手は観光したいかもしれない。旅をしているとそんな二人の “違いやズレ” を突きつけられます。
その度に、話し合ったり譲り合ったりしてズレを解消していくことになります。相手を思いやり、話し合って、理解し合い、それを乗り越えた思い出というのは、二人の関係を支えてくれます。
「あのときだってうまくいったんだから」
という記憶ほど、自分たちを安心させてくれるものはありません。
わたしが子どもの頃、父親が「釣りに行って大きな魚を釣った」という、ちょっとした自慢話をしてくれたとき、自分のことのように興奮したことを覚えています。
親の冒険記というのは、子どもにとって最高のエンターテインメントです。絵本やアニメもいいけれど、私は自分の話を聞かせてやりたい。
そして旅を通して知ったこと・驚いたことというのは、そのまま子どもに話してあげられる話題になるのです。
「お父さんとお母さんはね、若い頃にこんな旅をしたんだ」
ときどき子どもへこんな話をしてあげられるのって、素敵じゃありませんか?
カップルが結婚を決意してこれからの人生を考えるとき、「ゼロから考える」ことはなかなかできません。今の仕事、今の住居、今の価値観。そういった今あるものに引きずられ、その延長線でしか考えられないものです。
でも私たちは違いました。仕事を辞め、アパートを解約し、ゼロになって旅に出たのです。日本に帰って何をするか? ゼロから考えなくてはいけません。
どこに住むか? 仕事は何をするか? どんな生活をしたくて、そのためにどうすればいいか?
すべてゼロから考えることができます。というか、ゼロから考えなくてはいけません。「今までサラリーマンだから、これからもそう」と決めつける必要はないのです。また「とりあえずは今のままで」という後回しもできません。
まっさらな気持ちで、これからの人生を一緒に考える。そんな機会を、二人旅はつくってくれます。
先程「24時間365日一緒に過ごすことになる」と書きました。これは良い面を見せつけ合うのと同時に、嫌な面も見せつけ合うことになります。人間、常に良い面だけを見せ続けることはできないのです。
几帳面、大雑把、きれい好き、掃除嫌い。そういった「自分との違い」をとことん見せつけられます。それこそもう、嫌になるほど。
でも思うのです。もし知らなきゃいけない嫌なところがあるのなら、さっさと知って理解し、受け入れてしまった方が楽じゃないか、と。
私たちは2年も世界を旅して、お互いにいろんな面を見せつけ合いました。見せたくなくても見せざるを得ないのです。そして、認め合ってきました。これは日本に帰ってからも自信になる、大切な事実なのです。
人間は完璧ではなくて、時に失敗する。そんな当たり前のことを、私は旅を通して実感しました。
妻が旅先で買い物をする。聞くとぼったくられたらしい。「おいおい」と思いつつ、思い返してみると自分もぼったくられたことがある。そうすると「しょうがないね」とお互いを慰め合い、許し合えるのです。
旅を振り返ってみると “失敗の総量” は二人とも同じくらいだった気がします。だから、何かあっても「お互い様!」で片付けられる。許し合うことができるようになるのです。
日本で働いていると、どうしても今のことでいっぱいいっぱい。未来のことを気にする暇もなく、今を生きるために全力疾走している人も多いことでしょう。
それはそれで良いことだと思いますが、旅の中、まるで止まったかのような時間の中で「未来を語り合う」ことは本当に良い経験になります。
旅をしている真っ最中だからこそ、未来のことを現実的に考えすぎる必要がないところがポイントです。やりたいことだけを無責任に語ることができるのです。
「住むのは田舎がいいな」「でもちゃんと仕事はしたいし……」「でも会社でサラリーマンってのは違うかな?」「野菜くらい自分で育てたいな」「たまには洒落たバーで飲んでさ」
そんなことを臆せず語り合うことができる。
その時間を通して、少しずつやりたいことが定まっていきます。私たちは2年をかけて、やりたいことを語り合ってきました。もうすぐ旅を終える今、ようやく旅のあとにやりたいことが固まってきたように思います。
二人とも幸せに生きていける未来を、時間をかけて語り合えたことは、一緒に旅をしたおかげです。
タイを旅していたときのことです。妻が足を3針縫う怪我をしました。もちろん私は看病し、生活の世話をします。その数週間後、なんと今度は私が足を4針縫う怪我……。今度は逆に世話をしてもらう側になりました。
怪我以外にも、熱が出たり、風邪を引いたり、お腹を壊したりと、お互いが交互にトラブルを起こします。日本で相手がちょっとした風邪をひいたとしても、きっと「守り合う」というほどは使命感を感じないのではないでしょうか?
ところが海外では、ちょっとした風邪でも大変です。ポカリスエットすら買えない。
薬はあるだろうか? そもそも薬局でどうやって必要な薬を買えばいいのか? 食べ物は何がいいか? おかゆみたいに、身体にいい食べ物が見つからない……。明日の長距離バスに乗れるだろうか? 乗れないなら宿はどうするか? ビザの期限が迫っている……。病院はどこだ? 保険はおりるか? 相談できる人が、いない……。
一方的に男が女を守るとか、そんな綺麗事じゃうまくいかないのです。お互いがお互いを守り合う。世界を二人旅するとは、そういうことなのです。
いかがでしたか? 「あの人と一緒に旅をするのも、悪くないかも」と思っていただけたら幸いです。
それでは皆さん、良い旅を。