Mizuho
(更新)
イギリス映画やドラマシリーズを見て、「コメディなはずなのに笑えない...」と思ったことはありませんか?
アメリカや日本のユーモアは直接的なので、どこが「オチ」なのかわかりやすいですが、イギリスのお笑いは、「どこが面白いの?」と思わず頭を抱えてしまうものが多数。
長いことイギリスにいた筆者自身も、渡航してしばらくは友人たちのジョークが理解できなかったり、コメディ映画を見に行って周りが大爆笑なのに、1人「ポカーン」としていた覚えがあります。
「せっかくなら、イギリスのユーモアも楽しみたい!」そんな方に向けて、今回はイギリスのユーモアの特徴やオススメの作品をご紹介します!
日本では漫才やコントなどがあり、初めて聞く話題でも思わず笑ってしまうネタが多いかと思います。
しかしイギリスのコメディの場合、ジョークなどの言葉遊びが主。しかもストレートに表現するわけではなく暗に示すことが多いので、日本の感覚だと、よりわかりにくいのです。
イギリスのコメディでは、例えば政治家の不祥事や王室のスキャンダルなど、時事的な問題を風刺的に扱うことが非常によくあります。wit (機知に富んだとんち)をきかせながら、社会にはびこる問題を批判するのです。
筆者が日本に本帰国を決めた2016年はちょうどイギリスのEU離脱が決定した年で、コメディ番組ではこの件がひっきりなしにネタにされていた覚えがあります。
時事的な問題についてはその背景も知らないと笑いとして捉えることが難しいので、コメディを見ながらも「ニュースをちゃんと確認しなきゃ」と思ったものです。
また、イギリスのユーモアは自虐的であることも特徴です。
「そこまで言わなくても...」と思ってしまうほど、痛烈に自虐をします。
イギリスのユーモアは「皮肉や嫌味がこれでもか!」と盛り込まれているのが特徴です。大抵の場合、皮肉は自虐的に、嫌味はほかの人に対して使われます。
irony とは意図することとほぼ反対や、まったく反対のことを言う表現方法です。コミカルに、または強調して伝えるために使われます。
「皮肉な〜」と形容するときには ironic、「皮肉に〜」と説明を付け加えるときには ironically という副詞表現になるので、覚えておくといいでしょう。
日本語の場合、「皮肉」は意地悪な印象があったり、非難に捉えられることもありますよね。
実は英語の場合、 irony という言葉はネイティブの間で定義にバラつきがあります。
Henry Watson Fowelerという辞書編集者の名のついたA Dictionary of Modern English Usageの改訂第4版によると、irony の定義は大きく3つに分かれるそう。そしてまたさらに、異なるタイプの irony があるため、定義が定まらないわけです。
しかしそれでも、大義としては以下のような意味とこの辞書では述べられています。
It should be borne in mind that there are several kinds and degrees of irony. Irony is often said to be a figure in which the true sense contradicts the literal meaning. But in Swift’s subtler irony the meaning need not be opposite exactly, and can be elusive - A. Folwer, 1987.
「皮肉(irony:アイロニー)にはいくつかの種類や程度があることを心に留めて置く必要がある。アイロニーは、本音が文字通りの意味と矛盾するものと言われることが多い。しかしスイフト氏によるアイロニーの定義によると、意味は正反対である必要はなく、とらえどころのないものになることもあるようだ」
-A Dictionary of Modern English Usage (2015), Oxford University Press
このため、使われている皮肉の意味を捉えるのは、なかなか難しいこともあるのです。
英語で皮肉が使われた場合、含まれた意味にバリエーションがあることが、なんとなくわかったでしょうか?
皮肉をこめた英語表現には、例えば以下のようなものがあります。
これらの例文の場合、ユーモアを込めて no problem の no の部分や amazingly は、少し強めに言います。日本語だととても意地悪に聞こえかねませんが、イギリス英語の場合は会話に親しみやすさが加えられるため、ジョークではよく使われる手法です。
皮肉を込めた表現は実に多くの場面で見られるので、慣れていない日本人は最初は戸惑うこともあるかもしれません。
sarcasm は、irony よりも人に不快感を与えるものです。irony と比較すると、より直接的に話題として取り上げていることを、そのネタの対象に伝えたいときに使います。
Sarcasm は声のトーンによって表現されることが多いです。会話のなかでやや高めの声のトーンで、しかも褒め言葉と一緒に使われていたら、もしかするとそれは sarcasm かもしれません。
多くの場合冗談まじりな表現として使われますが、ネタにされている当人は良い気持ちがしません。嫌味の例としては、次のようなものが見られます。
このように、イギリス人ならではのユーモアには、皮肉や嫌味が見られることが多々あります。でもそれは、関係性が成り立っているからこそできること。
自分にとって「不快だ」と思うことも、実は愛情を込めて言っていることがあるのです。イギリス人が言っていることを真に受けすぎてしまうと、傷ついてしまうので、あまり気にしないようにするといいでしょう。
もちろん、ひどく傷ついた場合には、「やめてほしい」と伝えるとベターです。
日本の芸人さんも、日常で起きたことを面白おかしくネタにして笑わせてくれますが、イギリスの場合はときに悲惨な出来事までも笑いのネタにしてしまいます。
例えばイギリスのコメディ番組(シットコム:sitcom)では、登場人物の失敗がネタになったり、日常のささいなことが取り上げられて笑いに変えられるのです。
Gavin and Staceyというイギリスの sitcom での一場面を見てみましょう。
ここでは主人公Gavinの親友であるNeilが、「なんでデリバリーを何種類か頼むと、みんな分け合いっこをしたがるんだ!」と怒っています。
「自分が食べたいからオーダーしたのに、ほかの人に食べられるのは気に食わない!」というNeilの言い分に、ほかの登場人物もタジタジ! でもこういうことって、日常生活でもあることですよね。
普段は気にしないのに、言われてみるとそういえば! となるネタがよく扱われるのです。
先述のように、イギリスの笑いは「言葉」が主な手段。そのため、漫才のようにコメディアンが観客の前に立ち、マイク1つでネタを披露していくStand-up comedy(スタンド アップ コメディ)が主流です。
ここではスタンドアップコメディ界でも有名なコメディアンを数名紹介します。
Jack Whitehallはロンドン出身のコメディアン・俳優・テレビ番組のプレゼンターです。いまも階層社会が根強く残るイギリスで、いわゆる上流階級の出身。
父親のMichael氏はそのためかなりの堅物で、ジョークなど通じないような人物です。そこでJackは父親との会話がチグハグになってしまうことや、「階級」をネタに自虐や皮肉盛りだくさんのネタを披露します。
例えば、次のジョークはイギリス最大の芸術フェスティバルで、エジンバラで行われる「フリンジ・フェスティバル(Edinburgh Festival Fringe)」でJack Whitehallが披露したもの。
I’m sure wherever my dad is; he’s looking down on us. He’s not dead, just very condescending.
「父がどこにいようと、きっと僕たちのことを見下ろしていると思う。父は亡くなってないよ。ただ単にとても見下しているだけなんだ」
引用:iNews
どうでしょう? このジョークをパッと見ただけでは、何が面白いのかがわからないのではないでしょうか。先ほど説明した通り、イギリスの風土を知らないと笑えない部分があるのが、そのユーモアの特徴なのです。
こちらに載せた動画は、現在入手可能なさまざまなミルクの選択肢についてのジョーク。このように、自虐だけではなく、さまざまな切り口でネタを作っていることがわかりますね。
Jimmy Carrもロンドン出身のコメディアンで、特に人によって好き嫌いが分かれるものの、イギリスで大人気です。Deadpanと呼ばれる、無表情を使ったネタが多く、その切り口もかなり辛辣なものが多い傾向にあります。
そのため、筆者もときには「これはちょっと笑えない」と思うこともあるのですが、逆にそこがイギリス人らしさと思うこともあるので、「こんな皮肉を言うんだ!」くらいに参考にするといいかもしれません。
みなさんにご紹介できる、彼の限られたネタのなかから1つ選ぶとしたら、以下のようなものがあります。
I like to go into The Body Shop and shout out really loud, ‘I’ve already got one!'
「ボディショップ(スキンケアアイテムを扱うイギリスのブランド)に行って、『もう持ってるよ!』って大声で叫ぶのが好きなんだ」
引用:iNews
Russell Howardはイギリス南東部のブリストルという街出身のコメディアンです。司会者もしており、イギリスの国営放送BBCで放送していた番組「Russell Howard’s Good News」は大人気!
イギリスのみならず世界情勢をネタにすることが多く、これもまたしっかりと社会で起きていることを知らないと笑えないと感じることがあるかもしれません。ただ、そのほかにもライトなネタがたくさんあるので、「まったくおもしろくない」ということはないでしょう。
Netflixなどでも番組があるので、見てみるといいですよ。
Jo Brandはロンドン出身のコメディアン。
もともと精神病棟の看護師として10年のキャリアがあった彼女は、コメディアンに思い切った転身をします。
日本の漫才と同じようにイギリスのコメディも早口で進むことが多いのですが、彼女はとてもゆっくり話すことが特徴です。彼女ならではのテンポが、笑いを引き立てます。英語学習者の方でも聞き取りやすいはずですよ。
イギリスのユーモアの特徴がわかったところで、英語学習者のみなさんにオススメのブリティッシュ・コメディ映画とドラマシリーズをご紹介します。
先述のように、最初こそ「どこが面白いの?」と思うものもあるかもしれませんが、見続けていると次第にクセになる面白さになるはずです!
イギリスで大人気の「シットコム」ドラマシリーズ。
ロンドンでルームシェアをしている2人の日常を「モキュメンタリー*」のような手法で描いたシリーズで、モテるために試行錯誤する主人公たちの失敗ぶりがなんともいえません。
*モキュメンタリー:フィクションをドキュメンタリーのように描写する方法。
イギリスというと、王室や紳士淑女を思い浮かべがちですが、こちらのシリーズを見るとちょっと捉え方が変わるかもしれませんよ。
「Shaun of the Dead」はホラー・コメディ映画です。最近ではハリウッド映画にも登場している、コメディアンで俳優、脚本家でもあるSimon Pegg(サイモン・ペッグ)が主役を演じています。
この作品では突如、街中にゾンビが出現しはじめます。主人公のショーンは、親友のエドとともに、ゾンビに立ち向かうことを決めて。。。
筆者はホラーが大の苦手なのですが、不思議とこちらはおもしろおかしく見ることができます。多くの人が楽しめる作品といえるでしょう。
Amazonプライムビデオで視聴可能です。
日本で「ピーターラビット」を知らない人はいないのではないでしょうか?
「ピーターラビット」シリーズはビアトリクス・ポターによる児童書で、1902年に出版されて以来、現在でも世界的な人気を誇っています。
そんな偉大なシリーズが映画化されたのが、この作品。誰もがよく知るキャラクターたちがかわいらしいことはもちろん、イギリスならではの笑いも至る所に含まれています。
子供から大人まで、楽しめる作品です。
Amazonプライムビデオから視聴できます。
「イギリスの笑いの感覚はちょっとアメリカと違うと聞いたことはあったけど」という方、これでどんな特徴があるのか、少しわかりましたか?
裏知識が必要だったり、そもそも日本人が面白いと思う感覚と異なったりと、最初はハードルが高く感じるかもしれません。
しかし、この特有の「ツボ」を理解できると、コメディにかかわらずイギリスの話題になったときに、「なるほど」と腑に落ちる機会が増えるはずです。実際筆者も、ニュースなどでイギリスのことを耳にすると「イギリスらしいな」と、お国柄がわかっているからこそ興味深く感じることがあります。
みなさんもぜひ、「ウィット(機知に富む)」なイギリスのユーモアを楽しんでみてくださいね!