堂本 かおる
(更新)
11月1日の日曜日から、アメリカは「ホリデー・ショッピング」の季節に突入しました。
全米最大の小売チェーンであるWalmart(ウォルマート)、そして大手のTarget(ターゲット)が、今年は11月1日にホリデー・セールを開始したのです。
アメリカでは「10月=ハロウィン」「11月=サンクスギヴィング」「12月=クリスマス」とビッグ・イベントが続きます。
ハロウィンはコスチュームと大量のお菓子、サンクスギヴィングは丸ごとのターキーと食材、そしてクリスマスはギフト。この3つの行事は人々をハッピーに盛り上げるだけでなく、アメリカ消費経済の基盤を支えているのです。
今、全米はすでに「年末に向けて買って、買って、買いまくれ!」のホリデー・ショッピング・シーズンとなっているのです。
クリスマスを本来の意味で祝うのはキリスト教徒だけですが、アメリカのクリスマスは “1年の終わりを飾る一大イベント”。なにより、家族・親戚の一人ひとりにプレゼントを贈らなければなりません。アメリカ人にとって、これが1年の中で最大の支出シーズンです。
となればセールを狙ってプレゼントを買い、少しでも安くしたいと思いますよね。そこで小売業界は華々しいホリデー・ショッピング・セールを展開するのです。
11月の第4木曜日はサンクスギヴィングです。昔、ヨーロッパからアメリカ大陸へやってきた入植者が厳しい冬を過ごせずに困窮していたところ、ネイティヴ・アメリカンが食料を与えて救ったことに由来する祝日ですが、今は家族が集まってターキー・ディナーをいただく日となっています。
この日、以前は小売店もほとんどが休業となっていました。普段は休日に働く店員さんたちも、この日ばかりは家族団らんでターキーを楽しみ、翌日の金曜から始まるホリデー・ショッピング繁忙期への英気を養いました。
ちなみに、サンクスギヴィングは必ず木曜日であることから、セールが始まる金曜日は「ブラック・フライデー」と呼ばれます。この日、全米でクリスマス商戦が “勃発” するのです。大袈裟ではなく、まさにショッピングの戦いの火蓋が切って落とされるのです。
このブラック・フライデー、近年は開始時刻がどんどん早まっています。本来なら金曜の朝9時か10時に開店する店舗が、早朝7時、6時、5時とどんどん開店時間を早め、ついには木曜と金曜の境目、真夜中12時となりました。
ターキーを食べ終えて店舗前に行列を作っていた買物客が、ドアが開けられると同時に店内になだれ込み、セール品を文字どおりに奪い合う光景が翌朝のニュース映像としてオンエアされるのが習わしとなりました。そして2008年、奇しくもリーマン・ショックによる不況の年ですが、なだれ込んだ買物客の下敷きとなった店員が亡くなるという事件まで起こってしまったのでした。
やがて真夜中12時の開店すら前倒しになり、サンクスギヴィング休業の伝統を破って当日の夕方に開店する店が出始め、さらには朝から開ける大手チェーン店も。こうなると、もはやブラック「サーズデー」ですね。
ニューヨークでは “世界最大のデパートメント・ストア” を名乗るMacy's(メイシーズ)が、毎年サンクスギヴィング当日にパレードを行います。テレビ、絵本、コミックなどの子どもに人気のキャラクターをかたどった大型バルーンがマンハッタンを練り歩き、セレブがゲスト出演する楽しいパレードです。
主宰のメイシーズもかつてはパレードだけをおこない、デパートは完全にクローズしていました。ところが今では夕方6時にオープンし、オールナイト営業です。
しかし、今年はブラック・フライデー戦線に異変が起こっています。
ディスカウント量販チェーンのT.J. Maxx(T.J.マックス)、Marshalls(マーシャルズ)を抱えるTJX社は、サンクスギヴィングに全店クローズすると発表しました。ただしブラック・フライデーには参戦するべく、翌日は店舗によって早朝5時、または7時にオープンさせます。
同社はサンクスギヴィング休業の理由を「我が社はアソシエイツ(associates)を大切にする企業であり、アソシエイツがサンクスギヴィングを家族や友人と楽しめるように」としています。
“associate” という言葉は、近年は小売業界が「従業員」の意味で使っています。
この業界は正社員以外のパート勤務やホリデー・シーズンのみの季節雇用者も多く、「アソシエイツ」という言葉はその全てを含みます。
一般的には “employee(被雇用者)” と呼びますが、“employer(雇用主)” との強い上下関係が現れてしまいます。そこで本来は「友人・仲間・同僚」という意味の “associate” と呼ぶことによって、フレンドリーなイメージを醸し出しているのです。
なお、今年は他にも大手チェーンがいくつかサンクスギヴィング当日の休業を発表しています。苦しかった不況をくぐり抜け、従業員も家族団らんを楽しめる「古き良きアメリカ」に少しだけ後戻りできる、そんな今年のホリデー・ショッピング・シーズンです。
それでは、今回も最後に本文中に登場したキーワードと関連ワードをご紹介しますね。