人気ドラマ『ホームランド』で起きた珍事件 〜セットに書かれたアラビア語は秘密のメッセージ

日本でも人気の高い海外ドラマ『HOMELAND/ホームランド』。最新作となる第5シーズンが、アメリカで10月から始まりました。

2011年にアメリカで放映を開始した米国・中東の政治スリラーです。クレア・デインズが演じるCIAエージェントのキャリー・マティソンが、中東各地とアメリカを舞台に活躍します。

実際の中東情勢をベースにしていること、ヒロインであるキャリーの有能さとダークさ、そしてそれを見事に演じ切るクレア・デインズの演技力が相まって、毎回息をもつけぬ緊迫感があります。クレア・デインズがエミー賞、ゴールデングローブ賞など、いくつもの賞を受賞しているのも頷けます。

その『HOMELAND』第5シーズンの第2エピソードが10月11日にオンエアされたのですが、そこで「思わぬ事件」が起きました。

劇中、キャリーはヒズボラ(レバノンのシーア派イスラム主義の政治組織)のメンバーに連れられ、レバノン付近にあるシリア難民のキャンプを訪れます。
難民キャンプはドイツ国内に作られたセットですが、非常によくできており、とてもリアル。銃撃や爆撃により瓦礫と化しつつある建物の壁には、スプレー缶によるアラビア語のグラフィティが描かれています。それももちろんセットのうちで、臨場感を高めていました。

ところが視聴者のうち、アラビア語を解する人たちは驚きの声を上げました。グラフィティにはなんと、「HOMELANDはレイシストだ」と描かれていたのです。

《参考記事》
CNN: 'Homeland is racist': Artists hide subversive graffiti in hit TV show

 

アメリカ人には分からなかったアラビア語

なぜ、このようなことが起こったのか?
グラフィティを描いたアーティストが番組オンエア後に明らかにしました。

3人のアーティストからなる “ジ・アラビアン・ストリート・アーティスツ” のヘバ・アミンによると、彼女たちはシリア難民キャンプのセットにグラフィティを描くために雇われたとのこと。
3人は以前より『HOMELAND』にはイスラム教徒に対する偏見の描写があり、また5シーズンも続く人気番組のため、その影響を憂慮していたと語っています。

その3人がたまたま同番組のセット制作に参加することとなったため、アンチ・メッセージを広く世界に伝えるチャンスと捉え、セットにいくつものグラフィティを描いたのです。
現場の担当者はセットを忠実に作り上げることに専心していたものの、グラフィティの意味にはまったく気づかなかったそうです。おそらく、英語話者でアラビア語を解さなかったのでしょう。

『HOMELAND』は非常に質の高い作品と評価されていますが、主人公・キャリーはアメリカ人であり、番組はアメリカ側の視点で作られています。したがって、一方的にテロリストとして描かれるイスラム教徒側には、まったく異なる視点があったのです。

今回の事件は、他文化を真に理解するにはヴィジュアルをなぞるだけでなく、歴史的な背景や言葉の理解も必須であることの証明になりました。

 

地下鉄の多言語もなんだかヘン?

多民族都市ニューヨークでは、地下鉄の告知ポスターも多言語表示です。英語、スペイン語、中国語に加え、ハイチ・クレオール語、ロシア語、アラビア語も含めた6言語併記のものもあります。これらのポスターには、ときどき「言葉がおかしい」という声があがります。おそらく、ネイティヴ話者によるチェックをしていないのでしょう。

言葉とは不思議なものです。
その言葉を理解する者にとっては、『HOMELAND』のグラフィティのようにシンプルな言葉が大きなインパクトとなって伝わります。一方、単語や文法が間違った文章には、何とも言えないモヤモヤ感を抱くものです。

現在、ニューヨークの地下鉄ポスターに日本語は使われていませんが、もし

“この電車を3番線は止める。タイムムスクヘアの行かない”

などと意味も文法もめちゃくちゃな文章が書いてあったら、人によっては不快に感じるかもしれません。「翻訳者を雇え!」と言う人もいるかもしれませんね。
しかし、日本語を解さない人は気づきもしないし、そもそも知ったところで読めないので「どうでもいいや」となるのです。

 

ヘンな日本語のタトゥ、ヘンな英語のTシャツ

近年、アメリカには「ヘンな日本語」が溢れています。

たとえばタトゥ。もう何年も前から漢字がブームになっていて、筆者が実際に見たものだけでも「女好」「人赤」「火」など、なんとなく意味の分かるものもあれば、単に字面が好きで選んだと思われるものまであります。また、毛筆の書体をシブいと思うのか、仏教徒では無くてもお経を彫る人もいます。

こうしたおかしな日本語ファッションを身につける日本人はほとんどいません。言葉や文法の間違い、またはニュアンスの奇妙さが分かるだけに、着る気にはなれないのでしょう。

逆に言えば、日本で売られているTシャツやトートバッグ、またはお菓子のパッケージなどに書かれている誤った英文は、英語話者をなんとも言えない気持ちにします。

スペルや文法のミスもあれば、意味は通じるけれど「なぜ?」と思われる文章もあります。そうした「ヘンな英語」であるにも関わらずオシャレと感じて身につけていると、『HOMELAND』と同じ事態になるかもしれません。

やはり言葉は「意味」を知ってこそ、意思伝達のツールとして機能するのですね。

 

さいごに

それでは最後に、『HOMELAND』はもちろん、中東問題・過激派テロ問題を取り上げた映画や書籍、または実情を報じるニュースに頻出するキーワードをご紹介します。

中東・過激派テロ問題にまつわるボキャブラリー

  • homeland:自国、母国
  • U.S. Department of Homeland Security:アメリカ合衆国国土安全保障庁。911テロ後、テロや自然災害対策のために設立。
  • CIA:中央情報局。対外諜報活動をおこなう。“Central Intelligence Agency” の略。
  • FBI:連邦捜査局。アメリカ合衆国司法省の警察機関。“Federal Bureau of Investigation” の略。
  • Hezbollah:ヒズボラ。レバノンのシーア派イスラム主義の政治組織、武装組織。
  • Al-Qaeda:アルカイーダ。イスラム主義を標榜するスンナ派ムスリムを主体とした国際的ネットワーク。オサマ・ビン・ラディンが創始。
  • Taliban:タリバン。パキスタンとアフガニスタンで活動するイスラム主義運動。
  • ISIS/ISIL/Isiamic State:アイシス/アイシル/イスラム国。イラク~シリアで活動するイスラム過激派組織。