中辻 拓志
(更新)
人口400万人という小さな島国でありながら、世界のエンターテインメント界に多大な影響を与えている南半球のパラダイス、ニュージーランド。
『ロード・オブ・ザ・リング』のピーター・ジャクソン監督や、『ナルニア国物語』や『シュレック』のアンドリュー・アダムソン監督、『グラディエータ―』の俳優ラッセル・クロウなどが有名ですが、ここ数年ではニュージーランドのコメディアン達の世界進出が始まっています。
今回は、ニュージーランド初の日本人コメディアンとして活動する私 ”Hiroshi” が、ニュージーランドのお笑い事情を現地よりお届けします。
まずは私の自己紹介から。
私は2000年にアメリカの大学の演劇学科を卒業しました。その後、国際結婚の関係でニュージーランドに移住し、2003年よりこちらに永住。ハーフの息子2人を持つ子煩悩パパです。
ニュージーランドでは色々な仕事を経験しましたが、2004年からコメディーの舞台に立ち始め、2005年ニュージーランド国際コメディーフェスティバルの新人大会で全国優勝。その後、プロのスタンダップコメディアンとして舞台に立ち、役者やテレビのレポーター等の仕事も経験させていただきました。
現在もライター・翻訳者として働く傍ら、スタンダップコメディーの活動を続けており、国際コメディーフェスティバルの出演回数も去年で8回目となりました。
上の動画は古いものにはなりますが、私がテレビで紹介された時のものです。
ニュージーランドが輩出したコメディアンで世界的に一番成功したのは、ハリウッドで活躍中のコミックバンド「Flight of the Conchords」のジャマイン・クレメントとブレット・マッケンジーの二人でしょう。
最近は別々の活動が多いようですが、ジャマインは『メン・イン・ブラック3』などに出演、ブレットは『ザ・マペッツ』の音楽を監修し、2011年のアカデミー歌曲賞を受賞しています。
もう一人有名なのは、この2人が制作したシットコムに出演していたリス・ダービー。彼も、この番組がきっかけとなりアメリカのコメディー映画やテレビ番組に多く出演しています。
また『America’s Got Talent』という世界的に有名なタレント発掘番組で決勝戦まで進んだ「Tape Face」と呼ばれるサム・ウィリスも忘れられません。イギリスで成功をおさめたのちに、アメリカで大活躍しています。
https://www.youtube.com/watch?v=cyVQQu_c7Uk&list=PL2DuvvTZtSy_Ko86VjBmWMdB1K4lc5bSQ
他にも多くのキウィ・コメディアンが世界各国のコメディーフェスティバルに出演し世界中を笑わせています。
ニュージーランドのコメディー事情を掘り下げる前に、まずは英語圏全般のお笑いの基礎を学びましょう。
日本では2人組で演じられる漫才やコントなどが主流ですが、英語圏のお笑いは大きく、スタンダップコメディー(Stand-up Comedy)、インプロ(Impro)、スケッチコメディー(Sketch Comedy)の3つに分けられます。
英語圏で最も一般的なのは「スタンダップコメディー」。
アメリカで生まれた1人喋りの漫談のことで、人を笑わせるだけではなく、時として政治や人種問題等のきわどいネタをあつかい、辛口な社会風刺で世の中を切ります。エディー・マーフィやスティーヴ・マーティン、ジム・キャリーなども、もともとこの芸を極めハリウッドに進出しました。
「インプロ」は日本ではまだあまり馴染みのない言葉ですが、いわゆる即興演劇のことで、通常観客からお題をもらい、それに基づいたシーンをその場で台本なしで演じます。たいていは笑いを追求しますが、笑いを追求しない純粋な即興演劇のことを指す場合もあります。
「スケッチコメディー」は、コントのようなものですが、通常インプロを通して生まれたアイデアを書きだし、それを脚本化して舞台で演じます。ビル・マーレイなどを輩出した、シカゴのコメディー劇団「The Second City」がこのスタイルでは一番有名ですが、テレビでは『Saturday Night Live』が広く知られています。
ニュージーランドのテレビをつけてまず気づくのは、アメリカ・イギリス・オーストラリアなどから輸入された番組がとても多いことです。
ニュージーランドは英語圏なので字幕や吹き替えの必要がなく、自主製作よりもコストの低い海外番組の輸入に頼ってきました。こういってしまうと失礼なのですが、ローカル番組はイマイチ見栄えのしないものばかりで、今でも海外の番組が主流となっています。
テレビのお笑いに目を向けると、1991年にニュージーランドの喜劇王といわれたビリー・ティー・ジェームズが亡くなってからは、長い間低迷の氷河期状態にありました。
しかしここ数年では、時事問題を笑いでひも解くトークショー『7 Days』の成功や、トークとコントが中心の『Jono and Ben』、『Funny Girls』というスケッチコメディー番組の成功で活気づき始め、だんだんと質と量ともに盛り上がってきている状態です。
ニュージーランドの笑いはイギリスのユーモアの影響を受けているので、一般的にドライで皮肉に満ちたネタが多いのが特徴です。
軽い気持ちで笑えるものから、日本では敬遠されがちな政治や宗教をあつかったもの、社会の偽善に対する風刺の笑いまで色々とあります。「ピン芸」のスタンダップコメディーが主流なので、コメディアン一人ひとりの個性が色濃く反映されるのです。
ニュージーランドの先住民であるマオリ人はユーモアを大切にする人々で、多くの有名なコメディアンを輩出しています。
また、ニュージーランドのポリネシア諸国から来た移民の数は、ポリネシアにいるポリネシア人の人口よりも多いと言われています。ちなみに、私の住むオークランドは「Polynesian Capital of the World」(ポリネシアの世界の首都)と呼ばれるほどポリネシアの影響を受けているんですよ。
ニュージーランドの最大都市オークランドに来ると、日本人も含めアジア人の多さに驚かされます。1990年代に香港がイギリスから中国に返還される直前、多くの香港人が同じ英国連邦のニュージーランドに移住したことがきっかけでした。
それを反映して、アジア人のコメディアンも登場。テレビや新聞のコラムなどで活躍するウェリントン出身の中国系コメディアン、レイボン・カンもこの国を代表するコメディアンの1人です。
また、2016年の国際コメディーフェスティバルでは、フィリピン系ニュージーランド人のデイビッド・コレオスが国内のコメディアンの最高栄誉である「ビリー・ティー賞」を受賞。受賞前にマイリ―・サイラスのミュージックビデオのパロディーで世界的に話題になった怪演技の芸人さんです。
ニュージーランドではお笑い番組の数が非常に少ないので、大部分の芸人さんは舞台を中心に活動しています。
ライブの世界で有名な芸人さんの筆頭は、やはりブレンダン・ラブグローブでしょう。毒舌すぎてかテレビにはあまり出ない芸人さんですが、ニュージーランド一のスタンダップコメディーの世界で一番才能があると噂される実力派で、過去に一番面白いベテランのコメディアンに与えられる「フレッド賞」を受賞しています。
テレビの世界と同様、英語圏であるニュージーランドでは英語が通じるので、アメリカやイギリスの大御所もニュージーランドに足を運びます。
これまでにイギリスを代表する数々のコメディアンたちがこの地を訪れ、今後はアメリカの伝説的コメディアン、ジェリー・サインフェルドもオークランドでライブをする予定です。
ニュージーランドでライブのコメディーを見るなら、やはり「ニュージーランドのお笑いのゴッドファーザー」と呼ばれるスコット・ブランクス率いる「The Classic Comedy& Bar」です。今年で設立20周年を迎えますが、ニュージーランド全国で一年中営業しているコメディークラブは、2017年1月時点でここしかないのでコメディーファンなら絶対に訪れたいクラブです。
また、お笑いを本格的に楽しみたいならば、「ニュージーランド国際コメディーフェスティバル」が一番のお勧め。オークランドと首都ウェリントンで開催されますが、オークランドの方が規模が大きく、約1か月に渡り市内各所でショーが行われます。
世界各地からコメディアンが集まるので、ニュージーランドの笑いだけではなく、世界中の笑いを楽しむことができますよ。日本人お笑いタレントであるぜんじろうさんや、電撃ネットワーク、が~まるちょばのお二人もこの舞台に立って活躍されました。
さらに、クライストチャーチで夏に開催される、「世界大道芸フェスティバル(World Buskers Festival)」でもコメディアンが活躍します。参加者の大部分が大道芸人ですが、笑いにあふれた芸を披露してくれますよ。
この分野で世界的に有名なグループは、シカゴで行われたインプロの世界大会で優勝した「The Improv Bandits」でしょう。
このグループの創始者で日本語が流暢な、ウェイド・ジャクソンは 「Covert Theatre」 という即興劇団も運営し、毎年国際コメディーフェスティバルで観客を楽しませています。脚本なしの即興で、シェークスピア調の舞台を演じたり、ミュージカルを演じたりと、とても面白い劇団です。
他にもオークランドを拠点とする「ConArtists」と、ウェリントンの「The Wellington Improvisation Troup」が有名です。
スケッチコメディーのショーはあまりニュージーランドではお目にかからないのですが、インプロのグループが時として脚本化した寸劇を披露することがありますよ。
いかがでしたか?
国によってお笑いのスタイルが違ったり、国民性によって笑いのツボが違ったり、同じお笑いでもその性質は千差万別。
お笑いをきっかけに英語や海外に興味を持っていただけたら嬉しいです!