堂本 かおる
(更新)
101(ワン・オー・ワン)とはものごとの基礎、基本、または入門講座のこと。このコラムでは毎回、多彩で雑多でホットでクールでクレイジーで奥の深い魅力に溢れたニューヨークのベーシックを、英語のワンフレーズ紹介と共にお伝えしていきます。
今回はニューヨーク市内を走るタクシー、通称「イエローキャブ」について!
イエローキャブ(Yellow Cab)はニューヨーク名物のひとつ。
ニューヨークを舞台にした映画やドラマにもほぼ必ず登場しますし、実際、マンハッタンのミッドタウンなど車道全体が真っ黄色に見えるほど、とにかくたくさんの台数が走っています。
一体、何台のイエローキャブがあるのだろうとタクシー&リムジン協会の資料を見てみると、「13,437のメダリオンが発行されている」とあります。イエローキャブのボンネットをよく見ると、メダリオンと呼ばれる金属製のプレートがボルトで無造作に打ち付けられています。五角形に近い形でブルックリン橋のイラストが描かれ、ライセンス番号が刻まれています。
Photo:NYC taxicab medallion
これが正規のイエローキャブである証し。万一、ボンネットにメダリオンのないイエローキャブを見掛けたら、無許可で走っているいわゆる白タク(Gypsy cab)です。乗ってはなりません。
ニューヨークも昔は馬車がタクシーとして使われていました。やがて馬車から馬を外し、底部にモーターを取り付けただけのような外観の“エレクトロ・バット”と呼ばれる車に代わりました。
そして1907年。ハリー・N・アレンという人物がフランスから大量の車を輸入して本格的なタクシー会社を始めます。輸入された車は赤と緑に塗られていたそうですが、アレン氏はこれを「目立つ!」という理由で黄色に塗り替えてしまいました。現在に至るまでニューヨークの風物となっているイエロー・キャブの誕生です。歴史や文化ってこんなキッカケで生まれるものなのですね。
以後、イエローキャブの車種は時代と共に変化しますが、現在はハイブリッド車としてトヨタのプリウスにも人気があります。また、2018年までに全てのイエローキャブをニッサンNV200というミニバンに入れ替えることも一旦は決まったのですが、車イスが乗れないなどの理由により、このプランは難航しています。
イエローキャブの運転手は昔から移民男性の職業でした。出身国も時代と共にどんどん代わり続け、現在はバングラデシュ、パキスタン、インドの南アジア3ヶ国の出身者が全体の半数近くを占めています。他にハイチ、エジプト出身者なども多く、アメリカ人運転手の割合はなんと、わずか6%です。
ここで問題になるのが英語です。もちろん移民であってもアメリカ在住歴が長く、流暢な英語を話す人は少なからずいます。また、ニューヨークという場所柄、あらゆる国から来た人を乗せるわけですから、運転手自身が外国人であっても、他の外国語訛りの英語に慣れています。話し好きな人もいますから、お喋りしてみればニューヨークの最新情報や出身国の貴重なエピソードが聞けることもあります。
その一方、「ニューヨークには去年来たばかりなんだよね」など、英語が得意ではない人もいます。加えて乗客も英語がつたないとしたら! これはもう、ほとんどコメディのようなことになってしまいます。
英語がそれほど上手くなくてもタクシーの運転手が務まるのは、マンハッタンはほとんどのエリアが碁盤の目だからです。客はアヴェニューとストリートの番号さえ伝えれば問題ありません。
ところが、"16th Street"を"60th Street"と聞き間違われることはあり得ます。「あれ? この車、アップタウンに向ってない? ダウンタウンに行きたいのに!」と気付き、運転手に伝えると、「だって君が60thと言ったでしょ?」(本音=君の発音が悪いんだよ~)となったりします。
ちなみに「プラザ・ホテル」「リンカーン・センター」など、有名な場所であっても建物や会場の名称だけでは、ほとんどの場合「はぁ?」となります。こうした事態を防ぐには
といった形で、行き先を伝えましょう。
Photo:New York City Boro Taxi
マンハッタン以外の4区(ブルックリン、ブロンクス、クイーンズ、スタテン・アイランド)に行くとイエローではなく、アップルグリーンのタクシーが走っています。これは2年前に新たに登場した"Boro Taxi"と呼ばれるタクシーです。"Boro"とは区を意味する"Borough"のこと。
イエローキャブはマンハッタン以外の区にはなかなか行きたがりません。狭く、商業地区が密集し、人口密度も高いマンハッタンの中だけを走るほうが確実に稼げることに加え、他区の閑散とした地区や低所得地区に行くとタクシー強盗に遭うかもしれないと心配する運転手もいます。
しかし、他区の住人もタクシーは必要です。そこでイエローキャブが来ないマンハッタン以外の4区でしか乗客を拾えない"Boro Taxi"が新設されたのです。マンハッタンでありながら、やはりイエローキャブがあまり来ないハーレム、ワシントンハイツ、インウッド地区(西110丁目以北、東96丁目以北)も"Boro Taxi"のエリアとなりました。
ニューヨークはタクシーひとつ取っても、こうした複雑な社会背景があるのです。
最近はスマートフォンのアプリで呼ぶタクシー"Uber"が急激にシェアを広げているのですが、ニューヨーク伝統のイエローキャブ、ぜひサバイバルして欲しいものです。そしてイエローキャブに乗ったら、支払い時の決め台詞は
"Keep the change."(お釣りは要らない)
とクールにいきましょう!