"policeman" は差別的?海外に行くなら知っておきたい "Politically Correct" な英語表現について

皆さんは、"politically correct" という表現を聞いたことはありますか?

「看護婦」、「知恵遅れ」、「年寄り」、等々。昭和時代を経験している人の耳には、さほど違和感なく聞こえるかもしれませんね。

いつの間にか、看護婦→看護師、知恵遅れ→知的障がい、年寄り→高齢者、が「正しい」表現とされ、今ではすっかり私たちのマインドに定着しています。

こういった「正しい」とされる表現は英語にも在り、政治的・社会的レベルでのコミュニケーションに深く浸透しています。

アメリカ合衆国と言う、多数の異質的要素が複雑に絡み合う環境下で生きる一人のアジア系アメリカ人女性の立場から言わせていただくと、「正しい」表現は有り難い言葉の進化でもあります。

本記事では、具体例を織り込みながら、"politically correct" な英語についてご紹介します。

“Politically Correct” とは?

"politically correct" について説明する前に、こちらの英単語・フレーズをご覧下さい。

下記ワードリストには、ある共通点があります。それは、何だと思いますか?

上記リスト①から⑦は、どれも偏見や差別的なニュアンスを含む言葉、すなわち、不快感を与えるかもしれないNG表現というところにあります。

"politically correct"(政治的に妥当な) な表現(略してPC)と言うのは、上記のような "offensive"(不快な)とも "insensitive"(無神経な)とも捉えられる偏った表現をなくし、中立的に改められた表現のことです。

相対的に見て、偏見や差別の標的になり得る、または、なり兼ねない可能性があるとされる性別・人種・民族・宗教・性的志向・障がい・年齢等に関する表現がPCの対象となっています。

ウエストヴァージニア大学のNGワード

①の "boyfriend" と②の "girlfriend" は、ウエストヴァージニア大学の方針にNGワードとして記載されている言葉です。何故これがNGなのでしょう?

"boyfriend" と "girlfriend" がタブー視される要因は、中性的なアイデンティティを持つ人達の存在にあります。"girl" でもなければ "boy" でもなく、白黒のように容易に識別できない。

アカデミック的に言えば、"boyfriend" と "girlfriend" は ”gender-specific”(一方の性に偏っている)であり、どちらか一方の性に偏っている、即ち、どちらの性にも属さない人達が除外されているからNGと言う見方です。

上記理由から、ウェストヴァージニア大学では、"boyfriend" と "girlfriend" の代わりに、"lover"(恋人)或いは "partner"(パートナー)と言った、中立的な用語をキャンパス内で使用するように促しているそうです。

その他要注意ワード

③から⑦も場合によっては「不快と解釈される可能性がある」と言われているワードです。

これらの表現が何故「不快と解釈される可能性がある」のか、順番に見てみましょう。

③"blacklist" と ④"blackmail" には、「黒人」という意味の "black" が入り、どちらの言葉もネガティブな意味を持つことから、”racist”(人種差別的)と解釈される可能性があります。

⑤"colonial" は「植民地」のことを指し、ヨーロッパからの北米大陸移住によって、先住民族の領土や命が奪われた暗黒な歴史的背景があることから、民族差別的と解釈される可能性があります。

⑥”It’s all Greek to me”には、「ギリシャ人」という意味の "Greek" という言葉が入っていて、フレーズの意味がギリシャ人を侮辱しているような差別的ニュアンスと解釈される可能性があります。

⑦“Too many chiefs, not enough Indians” は、今では望ましくないとされる "Indians"(インディアン)という言葉が入っていて、"black" や "Greek" 同様、差別的と解釈される可能性があります。

このようなNG表現は、社会問題を引き起こす可能性があることから、”politically correct” に改めるべき重要課題として取り沙汰されているのです。

PCの背景

"politically correct" な表現が浮上し始めたのは、1970年代と言われていますが、歴史上初めて "politically correct" という概念が用いられたのは、1900年代初期の第一次世界大戦まで遡ると言われています。

共産主義的イデオロギーが唯一無二の「正論」として強要されていた当時、国民の政治的スタンスが不本意ながらも「政治的に正しい」共産主義であることが余儀なくされ、"politically correct"(政治的に正しい)な発言を求められたことが、今で言う「PC表現」の誕生のルーツとされています。

1980年代に突入し、PC表現は、社会全体に浸透して行きました。1986年には、ニューヨークタイムズが初めて "politically correct" という文字を印刷したという記録が残っています。

ところが、PC意識がエスカレートするに連れ、「言葉遣いに慎重になるあまりに、不自然で表面的な人間関係を作り、人と人の距離を縮めるどころか、逆に溝を深めているのでは?」と懸念されるようになったのです。

90年代に入ると、PCが「正論」としてメインストリーム化されることにより、アメリカならではの「言論の自由」が奪われている、と更なる批判を浴びるようになりました。

賛否両論ある中、PCは多種多様なアメリカ社会の変動をダイレクトに反映し、移り行くニーズと共に進化を遂げる、流動的な「正論」として、今も日常的に用いられています。

PC的英語表現:職業編

では実際に、PC英語表現の具体例を見てみましょう。まずは職業に関する表現です。

PC前PC後和訳
policemanpolice officer警察官
firemanfire fighter消防士
mailmanmail carrier郵便配達人
businessmanbusiness personビジネス
パーソン
secretaryadministrative professional秘書
single mothersingle parentシングル
ペアレント
class motherclass parentクラス係/クラスペアレント
housewifehomemaker専業主婦・主夫

冒頭で触れた日本語版PC表現と同じように、時代の流れと共に、”gender-specific”(一方の性に偏っている)な言葉が取り除かれ、中立的な表現に変化しています。

一昔前は、女性は家に入り家庭を守り、男性は社会に出て働く、と言うステレオタイプ的な男女の役割分担が暗黙の了解でしたが、今では、男女平等は先進国に於ける労働基準の必須条件なので、表現の変化は、時代の背景やニーズを反映しているとも言えるでしょう。

"business person"(ビジネスパーソン)は、大概、性別不明なときに使用しますが、予め情報があれば、男性は "businessman"、女性は "businesswoman" と言うこともあります。文章を書くときは、"He/She"、"His/Her" 両方を入れるのがPC的な書き方です。

【使用例】
The new HR manager said he/she will be giving his/her first presentation at the next management meeting.
「新任の人事マネージャーが、次の経営会議で初のプレゼンをすると言っていた」
*"she/he" は "s/he" でもOK。"his/her" は "her/his" もOK。

会社の重役をサポートする「秘書」という肩書きは、日本ではポジティブなイメージがありますが、アメリカでは逆のイメージがあります。"secretary" と呼ばれることに抵抗を感じる女性が急増したことで、 "secretary" → "administrative assistant" → "administrative professional" に変わりました。

毎年4月に、"administrative professional" を祝う日があり、この日は上司が自分をサポートしてくれる秘書にプレゼントを贈ったり、食事に招待して日頃の感謝の意を表します。

余談ですが、"Secretary" という言葉は、アメリカ政府の役職として今も使用されています。例えば、国務長官は "Secretary of State"、国防長官は "Secretary of Defense" など、"Secretary" の肩書きが付きます。

PC的英語表現:人種・民族編

PC前PC後和訳
BlackAfrican Americanアフリカ系
アメリカ人
HispanicLatino/Latinaラテン系
男子・女子
IndianNative American北米先住民
OrientalAsian Americanアジア系
アメリカ人

"Black" は、肌の色が濃い人種、いわゆる黒人系のことです。肌の色で「差別化」するのは人種差別的、なおかつ、先祖のルーツがアフリカにあることから、"African American" と改められるようになりました。

"Hispanic" は、スペイン語を話すラテン系の国々の人達のことを指し、ポルトガル語を話すポルトガルとブラジルが除外されているため、ラテン系全体を含む "Latino/Latina" がPC用語となりました。

民族的差別用語の "Indian" は、もともと勘違いから生まれた言葉です。歴史上、北米大陸の発見者として有名になったコロンバスが北米大陸をインドだと思い込んでしまったことから、先住民族をインディアンと呼んでいました。故に、ヨーロッパからの移民が押し寄せてくる以前に、既に北米大陸に先住していた民族への敬意を表して、"Native American" とPC化されました。

日本では、アジアと言えば東南アジアや南アジアを思い浮かべる人が多いかと思われますが、アメリカでは、日本人・韓国人・中国人、いわゆる東洋人も含みます。同じアジア系でも、東洋人だけが "Oriental"(オリエンタル)として「分離」されていたことから、東洋人という言葉を撤廃し、他のアジア系と同じく "Asian American" と呼ばれるようになりました。

実は、"American"(アメリカ人)という言葉自体がPC化されています。アメリカが「移民の国」であることや「中南米」の名前に起因します。

同じアメリカ人でも、アメリカ生まれのナチュラルアメリカンと他国生まれの帰化したアメリカ市民権保持者、アメリカに永住しているグリーンカード(永住権)保持者が大勢いること(法的には、永住権保持者は他国籍のままなのでアメリカ人ではありません)、ラテン系グループに属する「中南米」は北米のAmericanとは異なること――これらの理由から、北米アメリカ人を "American" ではなく、"US Citizen"(合衆国市民)"Resident of the US" または "US Resident"(合衆国住民)と改めることがPC的だと言われています。

PC的英語表現:
性的志向・障がい・年齢編

PC前PC後和訳
homosexual/
lesbian
gay同性愛者
old/elderlysenior citizenシニア世代
handicappeddisabled障がい者
retardedlearning disability知的障がい者
crazymentally disturbedメンタルヘルス問題を抱える人
deafhearing impaired聴覚障がい者
blindvisually impaired視覚障がい者

"LGBT"(Lesbian Gay Bisexual Transgender/Transsexual)は組織名として存続していますが、個人レベルでは、"homosexual" 及び "lesbian" に関しては性別に関係なく、両方とも "gay" と言います。同性愛カップルは "gay couple" または "same-sex partners" と更にPC的な言い方もあります。

PC的英語表現:宗教編

日本ではクリスマスシーズンになると、誰もが「メリークリスマス」と挨拶する習慣がありますよね。クリスマスは、キリスト教の祭日として認識されているアメリカでは、他宗教または無宗教の人は、「メリークリスマス」と挨拶することは滅多にありません。

アメリカでは、11月の感謝祭から新年を迎えるまでの間に、多宗教の祭日がいくつか重なることから、まとめて "Holiday Season"(ホリデーシーズン)と称します。クリスマスを含むホリデーシーズン中は、誰に言っても当たり障りがないように、"Happy Holidays" と挨拶を交わす習慣が根付いています。

おわりに

初のアフリカ系アメリカ人として、8年間大統領を務めたオバマさんは、PCの象徴的存在とも言われています。

独立宣言の一節、”All men are created equal”(人は皆平等に創られている)は有名ですが、オバマさんは任期最後のスピーチで、”We are all created equal”(我々は皆平等に創られている)と、"gender-specific" な ”men” を省いています。

それとは対照的に、現大統領のトランプ氏は、単刀直入なコミュニケーションスタイルを好み、PC的表現を敢えて避けることで有名です。

統計的に、民主党はPC賛成派、共和党はPC反対派が大多数と言われていて、PC反対派が過半数を占めるトランプ政権になった今、すでにPCカルチャーの崩壊が始まったとの政治的分析もあるようです。

確かに、PCを意識すればするほど過敏になり、過剰反応してしまう傾向はないとは言い切れません。そのため、人と人の間にPC的な「言葉の壁」が立ちはだかり、隔たりが出来てしまうことも現実に起こり得るでしょう。

現に、自分とは「異なる人」と話すのが怖いという人もいます。不本意に傷付けてしまう恐れがあり、どう接すれば良いのかわからないのです。

訴訟天国のアメリカ合衆国では、何事も法的手段にエスカレートするリスクがあるため、下手に動いて相手の反感を買うようなことは極力避けたい、という人も少なくありません。そうこう悩んでいる間に、チャンスを逃してしまい、距離が遠ざかってしまう。

そうは言っても、アメリカ合衆国で育ったアジア系アメリカ人女性の立場からすれば、やはり、ある程度のPC意識は必要だと切に感じます。言葉は力にもなれば、武器にもなる強力なツール。

発する言葉は、現実になるとも言われます。”mutual respect”(相互尊重)という意味で、取り扱いには十分気を付けたいですね。