西東 たまき
(更新)
皆さんはきっと「ベジタリアン」という言葉を聞いたことがあるでしょう。「菜食主義者」という日本語がすぐに浮かぶ人も多いと思います。
近頃ではそれに加え、「ヴィーガン」という言葉もよく聞かれます。もしかしたら、「ハラル」という言葉にも聞き覚えがあるかもしれませんね。
これらはすべて食に関する言葉であり、各自の選択として尊重されなければならない事柄でもあります。
当記事では、知ってるようで曖昧なベジタリアン・ヴィーガン・ハラル等々について分かりやすくご紹介していきます!
動物性食品を避ける食生活を “vegetarianism(菜食主義)”、そしてそれを実践する人を “vegetarian(ベジタリアン=菜食主義者)” と呼びます。海外で聞くことが多いですが、日本にも仏教の戒律に基づいて調理された菜食・精進料理の伝統がありますね。
また、提唱したのは日本人でありながら、日本より海外で先に広まった “macrobiotics / macrobiotic diet(マクロビオティック)” というのも耳にしたことありませんか?独特の理念のもと、陰と陽のバランスを考慮し、玄米などの精白しない穀物(whole grains)を中心とした菜食主義です。
健康を理由にベジタリアンになる人もいれば、動物愛護の観点から肉食をしない人もいます。宗教的な理由による場合もあり、動物食を禁じる仏教やジャイナ教があるインドでは人口の30%前後がベジタリアンといわれ、その数は世界で最も多い国となっています。
加えて、最近では「環境保護」のためにベジタリアンになることを選ぶ人が増えています。ベジタリアンと環境保護にどんな関係があると思いますか?
家畜を育てる土地、そしてその飼料を生産する土地を確保するために、森林が大規模に破壊されています。人口増加と共に人間が食べる食料・水不足が心配される中、家畜は大量の穀物と水を消費します。さらに、糞尿や反芻(はんすう)動物特有のゲップが大量の温室効果ガス(メタンガス)の排出源になっています。
(参照:気候変動対策に肉の消費減が不可欠、「欧米で9割減」提言 研究)
「環境への負荷を軽減するために肉の消費を減らそう」という呼び掛けには、こういった根拠があるのです。2019年9月、NYでの国連気候行動サミットに参加した小泉環境大臣が、現地でステーキ店に行ったことが批判された理由も分かりますよね。
さて、「動物性食品」といっても肉・卵・魚・乳製品などいろいろあります。それに対応して、ベジタリアンも “ovo vegetarian”、“lacto vegetarian”、“ovo-lacto vegetarian”、“pescatarian” といった様々なタイプに分かれています。
見慣れないスペルの表現で難しい印象がするかもしれませんね。これらの言葉はラテン語に由来するもので、“ovo” は「卵」、“lacto” は「乳」、“pescs” の部分は「魚」を意味しています。
例えば、英語で「卵巣」は “ovary” といいますし、「乳糖」を意味する「ラクトース(lactose)」という言葉はカタカナでも使われていますよね。“pescs” の部分は、“Pisces(うお座)” や魚介のパスタ “pescatore(ペスカトーレ)” とも通じます。
このように考えると、これらの言葉も分かりやすくなると思います。
ということで、これらがどんなタイプのベジタリアンなのか、もうお分かりですね。
ベジタリアンに対し、肉を食べる人(ベジタリアンでない人)を “non-vegetarian” と呼びます。
ベジタリアンの中でも非常に厳格なタイプが “vegan” です。
単に一連の動物性食品を摂らないだけでなく、ハチミツやゼラチンなど動物由来の食品や、レザー・ウール・シルク製品さえも避ける「完全菜食主義者」です。
精製の過程で牛の骨灰が使われているからという理由で白砂糖さえも食べません。
近年、インドネシア、マレーシアなどをはじめとするイスラム圏からの観光客が増えてきました。それに従って、「ハラル(halal)」という言葉が聞かれるようになっています。
“halal” はアラビア語で、イスラム教のルールに則っているものを指します。そのルールに則って処理された食品が “halal food” です。
イスラム教徒は豚肉を食べないということが知られていますが、豚以外の肉であればよいという訳ではありません。“halal meat” であることが必要です。単に肉の種類の問題ではなく、屠殺(とさつ)の手順も定められた通りに処理された肉でなければならないのです。
今後の需要を見越して、「ハラル認証(halal certification)」を取る日本企業も徐々に増えてきました。“halal certified” とあったら、「ハラル認証取得済」という意味になります。
そして、イスラム教のルールではなくユダヤ教のルールに沿って処理および調理された食品が “kosher” です。
食品店で「コーシャー・ソルト(kosher salt)」という粒の粗い塩を見かけたら、それはユダヤ教の戒律に沿って肉を調理するために使われる塩のこと。英語のレシピを注意深く見ていると、材料にわざわざ “kosher salt” を指定しているものも意外とあるものですよ。
さて、体や地球の健康のためとはいえ、いきなりベジタリアンになるのはハードルが高いと感じるなら、“flexitarian” というのはいかがでしょう?
「野菜を中心とした食生活(plant-based diet)」の実践です。“casual vegetarian” と呼ばれることもあります。
元・ビートルズのメンバー、ポール・マッカートニーと、娘のステラ・マッカートニーが2009年から提唱している “Meat Free Monday” というキャンペーンをご存知でしょうか?
文字通り、「月曜日は肉をやめよう」という提案です。週にたった一回とはいえ、多くの人が実践したらどれほどのインパクトがあるか。畜肉生産による環境負荷を知れば想像に難くありませんよね。
同様の呼び掛けは “Meatless Monday(肉なしで過ごす月曜日)” という名前でも知られ、世界各地に広がっています。
英語学習の生きた教材としても定評のある“TED”から、グレアム・ヒル(Graham Hill)氏によるこちらのプレゼンテーション “Why I'm a weekday vegetarian(「ウィークデイベジタリアン(週5日の菜食主義)」のすすめ)” もぜひ聞いてみてください。
英語と日本語の字幕で見られます。
かつては「健康、ダイエット」のためにベジタリアンを選ぶ人が多数でしたが、環境意識の高まりとともに「地球」のためにも、肉食について再考する人が増えています。
「肉のない食事なんて!」と思うかもしれませんが、日本の食生活で肉食が普及したのも近年になってのことですから、日本人にとっても案外身近な食事法のはずです。和食中心の食事にするだけでも肉の消費量をだいぶ抑えることができますよ。
ベジタリアンの世界観に興味を持ったなら、まずは手始めに「肉の消費量を減らす」ことを検討してみませんか。世界の人々と共に、早速次の月曜から始めてみては?