新井 リオ
(更新)
Q&ABC は、「英語日記BOY」の著者・新井リオが、「英語・海外生活」にまつわるみなさんからの質問に答えていく連載です。
(質問はこちらからできます)
第12回のテーマは、「洋楽の歌詞聞きとりについて」です。
字幕を観ると分かりますが、どうしたら、洋楽の歌詞を理解出来るようになるのでしょうか?
特にラップとかは、さっぱりです。
これ、永遠のテーマですね。
自分も7年間くらい英語を勉強していますが、「洋楽を聴いて、一発で全ての意味がわかる」ようなことはいまだにないのが正直なところです。
むしろ、「7年やってこんなにわからないのだからもう完璧は無理だ」と開き直ってさえいます。
歌詞の聞きとりって、そもそもすごく難しいことなんです。
これは日本語の曲でも同じじゃないでしょうか?
特に速い曲調のロックミュージックの歌詞とか、一回で半分も正確に聞きとれたらすごい、みたいな曲はたくさんありますよね。
では、なぜ歌詞を聞きとることは難しいのか?
それは、そもそも歌詞自体が
「(例えば新聞記事のように)だれにでもわかりやすく読める文章」として書かれたわけではない
というのが、日常会話以上に聞き取りを難しくしている最大の理由だと考えます。
歌詞って、必ずしも、Aメロ→Bメロ→サビがひと続きで読める文章としてつながっているわけではないですよね。
フレーズがぶつ切りになっていたり、ネイティブが聴いても一発では意味がわからない表現も多かったりします。
えーなんでそんなことするの? って感じですが、それは、歌詞が音楽というアートの一部だからです。
意味を理解するのに多少の時間を要することは、「聴く側に意味を考える余白を与えている」ことと同義でもあり、これはアーティストが意図的にそうしている場合が多いです。
例えばThe Beatlesの代表曲の一つに「Blackbird」という曲があります。
初めて聴いたときは「黒い鳥の曲なんだ〜いい曲だな〜」くらいの認識でしたが、実は Blackbird とは「黒人女性」の隠喩で、これはアメリカの公民権運動に触発されて作ったモノなのだ、と後にポールマッカートニー自身が説明しています。
それを理解した上で聴くと、冒頭の
Blackbird singing in the dead of night
Take these broken wings and learn to fly〈意訳〉
「ブラックバードが真夜中に歌っている
その傷ついた羽で飛び方を学ぶんだ」
という歌詞が、単なる小鳥の描写ではなく、社会へ訴えかけるメッセージに聞こえてきませんか?
「黒人女性の活躍を応援しています」とただ口で言われるよりも、アートという媒体を通して届けた方が「ハッとする」といいますか、人の心に伝わりやすい場合があるんです。
この幾重にも重なったレイヤーをくぐり抜けた先に待っている感動を楽しめるのが「歌詞=アート」の面白さであり、「新聞記事=情報」との違いです。
なので「歌詞が一発で理解できない」というのは、「ピカソの絵が何を指しているのかわからない」と言っているのに近いかもしれません。
「いや、それを自分で理解しようと努めてみるのもアートの醍醐味じゃない?」ということです。
話を戻しますね。
以上の話を踏まえた上でまず言えるのは、「歌詞を英語のメイン教材として勉強に使うのはかなりレベルが高い」ということです。
よく「洋楽が好きなら英詞で勉強しよう」と言いますが、前述したように、歌詞にはさまざまな要素が詰め込まれすぎているので、“教科書”にはならないな、というのが僕の見解です。
ではどうするかというと、英語の歌詞は「勉強におけるお楽しみコース」として使うんです。
歌詞は英語の教科書には成り得ないものの、
と、マンネリしがちな英語学習における「最高のスパイス」のような役目を果たしてくれます。
なので自分は、オンラインレッスン・英語日記というベースとなる勉強を続けつつ、英詞の解読は勉強における「お楽しみコース」のように楽しんでいます。
これがあるから英語がもっと好きになり、結果的に長期的な学習が成り立っています。
そういう意味で、既に好きな外国人アーティストがいる人は強いなあと思います。このアドバンテージは積極的に使ってください。
ここまで、「歌詞を一発で全て理解するのはそもそも難しい」という話をしてきましたが、順当にリスニング力を伸ばすことで、ある程度その精度を高めていくことはできると思います。
現に自分は、(完璧にはほど遠いものの)英語学習を始めた7年前よりも確実に英詞が耳に入ってくるようになりました。
歌詞を聞き取る際に必要な要素は2つあると考えます。
まず、ボキャブラリーを広げる努力は必須です。
特に歌詞となると「詩的=普段の会話では使わないような表現」も頻繁に出てくるので、最低限の日常会話レベル以上の語彙を習得している必要があります。
ただ、単語を知っているだけではまだ足りません。英語には「リンキング」というものがあり、単語と単語がつながったときに発音が変わったりします。
〈例〉
not at all → つながると「ノラロー」のような発音になる
これを知らないと、「表現は知っているのに聞きとれない」ということが頻繁に起こります。
…で、上記2つの要素はどうしたら伸びるのかというと、
「歌詞の意味を調べながら、実際に歌ってみる」のが一番の近道だと考えます。
すると、
「あの聞きとれなかった部分は、この単語とこの単語がつながっていたんだ!」
「聞きとれてはいたけど意味がわからなかった表現は、調べてみるとこんな意味だったんだ!」
と、ゾクゾクするような発見が数多くあると思います。
「口に出して歌ってみる」のが本当に重要ポイントで、これをやると自分が色んな意味でその曲の当事者になれるといいますか、解像度がグンと増します。
一度これをやった上でもう一回その曲を聴いてみると…歌詞がめちゃくちゃ頭に入ってくることに気づくはずです。
これを色んな曲で何度も繰り返すんです。
そうすれば歌詞のリスニング力は確実に伸びていきます。
もちろん「初めて聴いただけで全部聞きとれちゃう」のが理想かもしれませんが、歌詞に使われる独特な英語表現まで事前にすべて網羅するのは現実的に不可能だと思っています。
だからこそ、まずは既に好きな曲の「単語・熟語の意味」「発音」を丁寧に調べる。で、歌ってみます。
歌が苦手な人もいると思いますが、これはだれかに聴かせるものではないですから、うまく歌う必要はありません。声を出すだけでも楽しいですよ。
今まで机上で完結していた二面的な勉強が、一気に立体化するんです。
ぜひ、気楽な気持ちでやってみてください。
もし、質問者のSEIJIさんや読者の方が、「〇〇をやると一発で歌詞が聞こえてくる!」という魔法のような方法を求めていたとしたら、なんだか抽象的な話が多いアンサーになっていたかもしれません、すみません。
でも、(これは何においてもですが)「コレ1つやれば一瞬で解決」は起こり得ないのがスキル習得です。
突き詰めれば突き詰めるほど「基礎の積み上げ」「地道な練習」しかないじゃん、と思うのです。
ただ、今回の歌詞聞き取りというテーマにおいて救いなのが、「好きな曲を題材にできる楽しさ」だと思います。
僕は「Blackbird」の歌詞に丁寧に向き合ってみた結果、この曲が本当に大好きになってしまい、弾き語りでカバーをするまでになりました。
もうね、これが楽しいんです。
「英語が話せるようになったら人生は楽しいんだろうなあ」と思って始めた英語学習でしたが、そもそも「これを達成したら英語が話せる人です」というラインなんてないんです。
だからこそ、今日、好きな洋楽を英語で歌うことを楽しんでしまえば、ある意味でもう目標は達成していると思うんですね。
勉強はどこまでも続く長距離走なので、走るプロセスそのものを楽しめる人になりたいなあと思います。
質問も引き続きお待ちしています!
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