新井 リオ
(更新)
『Q&ABC』は、「英語日記BOY」の著者・新井リオが、「英語・海外生活」にまつわるみなさんからの質問に答えていく連載です。
(質問はこちらからできます)
第16回のテーマは、「勉強に時間がかかりすぎてしまうことにどう向き合えばいいか」についてです。
私は、オンラインレッスンを始めようとしていたタイミングでリオさんの「英語日記BOY」を知り、予約して初版を購入しました!
とっても素晴らしい内容に目から鱗が落ちて、すっかりファンになってしまいました。
私は今、「勉強に時間がかかり過ぎること」に悩んでいます。
リオさんの方法で勉強をしていますが、調べていたらあれもこれも気になって、発音練習していても1つの単語の発音が気になって繰り返しやり直して…とやっていると、時間が足りなくなるのです。
英語日記1日分(たった1つの文章)の作成に1時間以上かかり、発音練習に1時間かかり、それにオンラインレッスンの予習復習…となると、仕事しながらでは到底間に合いません。
私はいったん気になり出すと止まらない性格のため、仕事でもプライベートでも、何でも時間がかかりすぎてしまいます。
今はとても充実して楽しいですが、このペースでは息切れしそうで不安になっています。
どこかで線引きをして、英語日記作成も、発音練習も、オンラインレッスンの予習復習も、ちゃんとまんべんなくできるようにした方がよいのだろうけど難しい、というのが現状です。
何かアドバイスをいただけると、とても嬉しいです。
昔は、「海外留学すれば自然とペラペラになる」と思っていたし、たとえ日本で英語を勉強するにしても、「お金をかけて英会話教室に通えばどんどん上手くなっていくもの」だと思っていました。
ただ、違ったんですね。1ヶ月間の短期フィリピン留学をしたり、大学で用意されていたスピーキングクラスを追加で取ったりもしたのですが、もう全然、思ったように上手くならないんです。
決して上記の方法が間違っていたわけではないのですが、なんというか、今思えば、僕は英語学習を舐めていたんですね。常になにかの片手間でやっていたような気がします。
大学受験時は全てを費やして本気で勉強したし、サッカー部だったときも常に頭の中がサッカーでいっぱいだった程全力を尽くしたのに、英語に対しては、それらと同等の重要度を与えられていなかった。
それどころか、日々の忙しさで勉強ができないことを正当化していた。なのに「英語が話せるようになりたい」と夢だけは語っていた。今思うと矛盾さえ感じます。
「忙しくて勉強はできないけど東大に入りたいんです!」みたいな。
思うに、英語学習もれっきとした努力対象の1つで、プロのミュージシャンになりたい人が寝る間も惜しんでピアノを弾き続けるように、あるいはプロ野球選手を目指す人が誰よりも練習に打ち込むように、相当な時間をかけ、愛を持ってマスターしていくものなのだと、勉強開始から7年経った今、強く感じています。
プロミュージシャン、プロ野球選手の並びに、「プロ英語話者」がいると言ってもいいかもしれない。
これを読んでいるみなさん、「自分が今までで1番のめり込み、上達したこと」を頭に思い浮かべてみてください。
受験、スポーツ、資格試験、ゲーム、趣味、仕事、筋トレ、なんでもいいです。
思い浮かんだでしょうか?
すると、「ああ、なんか、めちゃくちゃのめり込んだなあ…」と、青春を振り返るような気持ちになりませんか? そして、想像するだけで、果てしない程の時間の幅を感じますよね。
基本的には、英語も、その対象と全く同じようなプロセスを今から経ていくことになるのだと思います。
英語だけ「空いた時間にちょっとやるだけでみるみる上手くなる」ということは起こり得ないんです。
…ちょっと気が重いですか。でも大丈夫です。
何かが上手くなるってそもそもそういうことなんだと思います。最初は楽しいことばかりではない。でもある程度の山場を越え、大まかに流れが掴めてくると、「あれ、ちょっと出来るようになってるぞ」と。
開放される瞬間が必ずやってきます。これは本当に心地いい瞬間ですね。空を飛んでいるかのような気分です。
いつか部活で、受験で、培ったような、こんなに素晴らしい青春的経験が、またできるんです、英語で。
質問者のNaokoさん、時間がかかりすぎることに悩んでいるということで、気持ちすごくわかるのですが、そもそも時間をかけなければ叶わないような夢の最中に僕たちはいるんですね。
だから「時間がかかりすぎる」という悩みは、「解決しなければいけない問題」というよりは、「真剣に向き合っていることの印」のようなものだと自分は受け入れるようにしました。
「どうすれば時間をかけずに上手くなるんですか?」ではなく、「時間がかかりすぎてしまうことに悩んでいるんです」と相談してくれるNaokoさんは素敵だなと思います。時間かけていきましょう。
これも自身の反省からの教訓ですが、効率の良さを目指しすぎるのは、実は効率が悪いことかもしれないと今は思うんです。
勉強を始めた当初、ボキャブラリーを増やそうと思い、「便利フレーズ集」のようなものを買ったことがありました。
これはたしかに効率がいいぞ、無駄なことをやらなくていいじゃないかと思って、一通りノートに書き写したり、何度かシャドーイング練習もしたのですが、今、もう、全く覚えてないんです。ほとんど記憶が抜けているかのように何も思い出せない。
なぜか?
「自分の頭で悩み抜く」という一番大事なプロセスをさぼったからなんですね。
人は思い入れのない文章を記憶できない。こう言い切ることさえできます。
それに気付いてから、僕の勉強法はこのように変わりました。
これが本にもなった「英語日記」勉強法です。
1文に対してここまでやるので、最初はNaokoさんと同じく2~3時間くらいかかりました。今でも複雑な文章を取り扱うときはこのくらいかかります。そうなると、1日で覚えられるのはどう頑張っても1文程度になってきます。
一見スローペースなので、たしかにもどかしい気持ちはあります。ただ、この1文には個人的な思い入れが詰め込まれているので、誰かに教えてもらって一瞬で手に入れてしまった英文とは比べ物にならないほど鮮明に頭に残るんです。
これがいい。
便利フレーズ集の「1ページで10例文」のような効率の良さはありませんが、数年経って当時の例文を何も覚えていないことを考えると、泥臭くやることが、実は一番効率がいいのではないか、とさえ思うんです。
プロフェッショナルって、「一般的に面倒臭いとされていることを積極的にやる勇気のある人」と言い換えることもできるのかなと。
効率の良さを目指しすぎると、本当に大事な部分(時にそれこそが深みや魅力となる)まで省いてしまう可能性があるんですね。
これに気付いて以来、英語学習に限らない全てのことにおいて、「便利」「すぐにできる」「簡単」といった選択肢を一度ちゃんと疑い、自分の頭で考え直すようになりました。
ここまで、わりと考え方の話になってしまったので、Naokoさんが送ってくれた悩みに、僕なりの具体的な対策をお伝えします。
以下、質問の抜粋。
…(略)調べていたらあれもこれも気になって、発音練習していても一つの単語の発音が気になって繰り返しやり直して…とやっていると、時間が足りなくなるのです。
英語日記1日分(たった1つの文章)の作成に1時間以上かかり、発音練習に1時間かかり、それにオンラインレッスンの予習復習…となると、仕事しながらでは到底間に合いません。
…(略)どこかで線引きをして、英語日記作成も、発音練習も、オンラインレッスンの予習復習も、ちゃんとまんべんなくできるようにした方がよいのだろうけど難しい、というのが現状です。
これ、人によると思うのですが、自分は「予定通り勉強すること」よりも、「その瞬間の疑問をしっかり晴らすこと」を優先します。なぜなら、先述したように、泥臭いプロセスを経てでも徹底的に向き合った方が、結果的に覚えられるからです。
また、これは勉強に限らずですが、大抵のことってスケジュール通りにいかないです。
なので、スケジュール通りに行かないことに一喜一憂していると、この先色んなことで必要以上に悩み続けるなと思い、あるときから予定の組み方を変えました。
ハードルの高いもの、例えば外国人の方と話した経験がほぼなく、過度に緊張してしまうような人が、その日の一番初めの勉強を「オンラインレッスン」にしてしまうと、腰が重くなって「結局何もやらない」みたいなことになりかねません。
そこで最初のタスクには、一番ハードルの低い、どれだけ疲れていてもこれならできちゃうな、程度のものを持ってきます。
自分の場合、「英語のラジオを流しながら朝の支度をする」が最初のタスクです。
iPadでラジオを流すだけなので、必ず始められるし、好きなときに終えられます。ただ流すだけなのに「タスクを完遂した」達成感は得られるので、調子が上がってその後の勉強がスムーズになります。
例えば、「英語日記」、「オンラインレッスン」、「復習」をやろうと思っていたのに「英語日記」だけで2時間使ってしまったとしても、それはそれでOKとします。他のことができなかった効率の悪さよりも、1つに対して泥臭く向き合えた事実を評価してあげるようにします。
1日単位で見ると、上手くいかなかったことに毎日落ち込みますが、単位を「1週間」に変えてあげると調整が効くので、必要以上に落ち込まず冷静になれたりします。
例えば前日、「英語日記だけ」で終わってしまったなら、今日は英語日記はナシで、「オンラインレッスン」と「復習」をしよう、みたいな。
こうやって適宜調整しながら、1週間単位で見たときのバランスの良さを重視すると、偏りなくスキルを伸ばせていけると思います。
「勉強に時間がかかってしまう」という今回の質問に答えるにあたり、最初は「勉強を早く終えるコツ」などをプレゼントできたらいいのかなと思ったのですが、考えれば考えるほど、これでは本当に大事な部分が薄まってしまうように思えてきました。
実際、僕自身が「かなり時間をかけて英語を習得した」という体感を持っており、また、時間がかかってしまったことに対して「すべてが必要な時間だったな」と今は思えているので、遠回りかもしれませんが、この事実を伝えることが、Naokoさんや読者の方のためになると思いこのような回答となりました。
もちろん、体調を崩すほどストイックになりすぎない方がいいし、休み休みでいいと思います。本当に無理はしないでください!
ただ、もう全然上手く行かないじゃないかという日々と、それを乗り越えた経験こそが、長年の勉強生活においてむしろ「彩り」となっていたことはたしかでした。
あれを経験せずに、「英語が話せるようになる」は叶えられなかったなと思っています。
質問も引き続きお待ちしています!
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