新井 リオ
(更新)
Q&ABCは、『英語日記BOY』著者の新井リオが、「英語・海外生活」にまつわるみなさんからの質問に答えていく連載です。
(質問はこちらからできます。)
第26回のテーマは「英語と同時に複数のことをマスターすること」についてです。
複数のことをマスターしているように見える人のなかで、本当に「自分は複数のことをマスターレベルで習得しているんだ」と自信を持って言える人って、意外と少ないんじゃないかと思うことがあります。
少なくとも僕自身は、一つの分野の圧倒的な専門家になれなかったことを少なからず恥じている部分があって、すべてが中途半端になっているのではないかという焦りを常に抱えるなかで、それでも食らいつくようにやっているというのが現状だったりします。
例えば自分はイラスト、英語、音楽をやっていますが、イラストを依頼してくれるクライアントさんは、僕が英語を話せようが、音楽ができようが、そんなことはあまり関係なくて、ただ、プロのイラストレーターとして素晴らしいイラストを描いて欲しくて依頼をくれると思うんです。
なので、専業でイラストを追求している人と同クオリティのものを、他の何かを抱えながら提供するという、身を削るような作業になってきます。正直かなり必死です。
カレー専門店 vs お蕎麦屋さんのカレーみたいな感じですかね。「お、こっちはこっちで、専門店に負けないくらいめちゃくちゃ美味しいじゃん」と思わせなきゃいけない。
そういう意味で、複数のことを同時にやるということは、何か一つを突き詰められなかった人の代替案ではなく、一つでも大変な「何かのプロフェッショナルになる」という状態を複数同時に維持し続ける、なかなかハードな生き方なのかなと思ったりします。
では、そんな生活をなぜわざわざ選ぶのかというと、そのハードさを理解してもなお、「この生き方をしている方が、自分自身が楽しいから」の一言に尽きます。
複数のことを仕事にする生き方をパラレルキャリアと言ったりするようですが、これはもはやキャリアのためではないんです。むしろ、キャリアやその道における成功のことだけを考えるなら、一つだけを突き詰めた方が近道だと思います。
でも、人間は飽きっぽかったり、長く生きていると色んなことに興味を持つようになるのは自然なことなので、そういった「あれもこれもやってみたい」という心から生まれた純粋な欲望を無視せず、あくまで自分自身のために叶えてあげるのがこの生き方だと思っています。
複数のことを同時にやるのは、キャリアのためではなく自分の欲求に素直になるためなんだ。
この考え方を忘れないようにしています。
多分、キャリアや実用性のためだけに複数の対象に手を出すのってハードすぎると思うんです。やることが増えるだけなので。それが、好きなことだから、やってみたいことだから、頑張れる。
これは、ずっと興味のあった複数の世界に、自分も入り込めるんだという幸福をリアルタイムで感じられる生き方のことなんだと思います。
上記の前提を踏まえたうえで、以下、具体的なことを話していきます。
何かを習得する一連の流れについて考えるとき、僕は「山のイメージ」を思い浮かべます。
例えば20歳で英語の勉強を始め、5年間本気で向き合いかなりの実力がついた後、完全に勉強をやめてしまい5年が経った人がいたとするならば、以下のような山になると思います。
何かを本気で突き詰めてトップレベルまで高めても、それ以降勉強することをやめてしまえば、程度の差はあれその能力は必ず落ちてしまいます。
実際、留学から帰ってきて日本で英語を全く使わなくなった結果、ほとんど話せなくなってしまったという人を何人も見てきました。
そこで、「メンテナンス勉強」を取り入れます。メンテナンス勉強とは、一度集中的な努力で実力を上げた後におこなう、「そのレベルを維持するための勉強」のことです。
英語におけるメンテナンス勉強には、
などがあります。
勉強を始めた当初におこなった文法知識の叩き込みや、口から自然と英語が出てくるようになるまでの血の滲むような努力と比べると、負荷としてはかなり軽くて、継続しやすいかと思います。
内容としてはそこまで大変ではないにも関わらず、これをするだけで、感覚が衰えていくカーブを、かなり緩やかなものに抑えることができます。
複数のことに取り組む際は、この「山のイメージ」を応用するんです。
さまざまな肩書きがある人を見たとき、この人は複数のことを同時に努力して身につけてきた、器用で効率の良い人なんだなあと感嘆することがあります。
でも実は同時に身につけたわけではなく、一つの対象を高レベルに持っていき、ピーク線を越えてメンテナンス勉強が始まり負荷が軽くなってきたタイミングで次の対象に移るという手順で習得していった可能性が高いと思っています。
自分自身、当時はこれを理解していたわけではないですが、まさにこの間隔で三種類の対象を勉強してきました。以下、僕の山です。
実際にグラフ化してみるとまさにこの通りだなあと思います。
「現在」の線を見てみると、一番努力していることは絵であるにも関わらず、積み上げてきた歴が浅いため、今はメンテナンス勉強しかしていない音楽と英語の方が、レベルで言うと高い状態になっています。
特に僕がバンドを本気でやり始めたのなんてもう10年前で、イラストレーターの活動に比べれば今はほとんどやっていないようなものですが、それでもいまだに「音楽の人」としてみてもらえるときがあるのは、過去に積み上げた山がいまだに残っているからだと思います。
つまり、一度積み上げた山の頂上(ピーク地点)が高ければ高いほど、その後がラクになっていくんですね。
この3つをすべて同時に始めていたら、一度に抱えるものの多さに一杯一杯になってしまい、どれもパッとしなかった(またはどれも上達の速度が遅くなり、芽が出るまでにかなりの時間がかかってしまっていた)のではないかと思います。
以上が、複数のことを同時にマスターしているように見える人の実態だと思います。
大道芸のお皿回しってあるじゃないですか。
3つくらいのお皿を回すパフォーマーの方がいますが、あれってすべて同時に回し始めるわけではなくて、1枚1枚順番にお皿を回して、回転が遅くなってきたお皿をもう一度回して…と繰り返すことで、状態をキープしますよね。
仕組みはほとんどあれと同じなのではないかと思います。
まずは一つに集中。軌道に乗ってきたら次。
僕も「複数の山をまわしている」ような感覚が常にあります。せっかく回り始めたものが崩れてしまわないようにメンテナンスしつつも、これだと狙いを定めた一つに意識を集中させるんです。
仕組みはわかったけど、大人になってから新しく始める勉強に、年齢的な遅さや不安を感じてしまうという方も少なくないと思います。
これに関して、本当に偉そうなことは言えないというか、自分も不安のなかもがいているところなのでみなさんを勇気づけられるような言葉を出すのが難しいのですが、
そんななかでもなんとか頑張れているのは、大好きな村上春樹さんが初めて本を出したのが30歳という事実があるからかなあと思っています。あとは、昨年のM-1グランプリで優勝した錦鯉の長谷川さんが50歳で賞を獲ったことにも勇気をもらいました。
つい早くから才能が開花する人に目がいってしまいますが、長年の経験を積んで初めて評価されるということが確実にあるんです。(むしろこちらの方が多いと思ってます。)
遅く始めてしまったことを嘆くよりは、遅咲きのロマンを目指したいと今は思います。
質問も引き続きお待ちしています!
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