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「人と人、人と自然を繋げたい」世界中の旅人が集まるゲストハウスを運営する本間貴裕さんインタビュー

「人と人、人と自然を繋げたい」世界中の旅人が集まるゲストハウスを運営する本間貴裕さんインタビュー

「あらゆる境界線を越えて、人々が集える場所を」
そんなコンセプトを掲げるゲストハウスに連日、多くの宿泊客が集う。そのほとんどは訪日観光客だ。

台東区・蔵前の「Nui.」を始め、入谷や京都でゲストハウスを運営する株式会社 Backpackers’ Japan 代表取締役の本間貴裕さんは、現在32歳。

学生時代、「何かしなきゃ」という漠然とした焦燥と共にオーストラリア留学へと飛び出した。そしてそこでの出会いや経験が元となり、大学を卒業後にゲストハウス事業をスタートさせた。

今回、月の3分の1は海外で過ごすという本間さんと、自身も日々世界を飛び回るDMM英会話代表 上澤との対談が実現。本間さんを突き動かしたオーストラリアでの経験やゲストハウスに込められた想い、そしてコミュニケーションの場を創造する本間さんが考える言葉(英語)についてお話を伺った。

学生時代の焦燥と憧れが事業の原点

場所は Backpackers’ Japan が運営する「Nui. HOSTEL & BAR LOUNGE」にて。

ー よろしくお願いします。
まずは、これまでのご経歴や現在の事業など、簡単な自己紹介をお願いします。

1985年生まれの32歳、福島県の会津若松市で生まれ育ちました。20歳の大学生だった時に、それまでずっとやってきた部活(テニス)をやめたことがきっかけで、せっかくなら福島から出てみようと思いまして、オーストラリアに1年間ワーキングホリデーに行きました。

英語を勉強するつもりで行ったのですが、それ以上に宿泊先での色んなバックグラウンドを持った人との交流が楽しくて。そこから英語を勉強するのはやめて、バックパッカーとしてオーストラリアを1周し日本に帰ってきました。

帰国後、自分の中でオーストラリアで過ごした時間はすごく大切だったことに気づき、「何かやりたい」とずっとムズムズしながら、就職せずに自分たちで何かやろうと決心したのが23歳。そこから他の創業メンバーに声をかけて合流してもらい、資金を貯めて2010年に会社を立てました。

その年にゲストハウス「ゲストハウスtoco.」(入谷)を開業し、その後約2年おきに「Nui. HOSTEL & BAR LOUNGE」(蔵前)、「Len」(京都)をオープンしました。

 
ー オーストラリアでの経験が起業のきっかけということですが、「何かやりたい」と思うまでに具体的にどんな出来事があったのでしょうか?

ベタなんですけど、19歳の時に『竜馬がゆく』を読んですごい感動して、「日本人でこんなことをやっていた人がいるんだ。なのにオレは福島で何をやってるんだ…」みたいな衝撃があって、「何かしなきゃ」と思ったんですよね。

あと、日本に戻ってきてからやっていた学生団体での経験も大きかったです。それまでは、テニスも基本個人プレーですし、部長とかもやりたくなくて一人で自由にやりたいタイプだったのですが、学生団体をやってみたら、一人じゃできないこともみんなとやったらできるし、それがすごく面白くて。その2つが大きいですね。何かしたいと思ったのと、人とやったら面白いんだなという気づき。

 
ー なるほど。大学を卒業後、就職せずにいきなり起業することに迷いや周りの反対はありませんでしたか?

100人中99人に反対されましたよ。もともと教育学部でテニスしかしてなくて、何も分からない中でいきなり起業すると言い出したものだから、両親含めみんなから反対されました。でも一人の教授だけ、「やってみろ」って応援してくれたんです。その一言が大きかったですね。

 
ー 教育学部ご出身なんですね。

はい。もともとは起業したいみたいな気持ちは全然なくて、学校の先生になろうと思っていたので。旅話は先生になってから武勇伝的に話そうと思っていました(笑)。

あとは、一応少しだけ就職活動はしていて、入りたかった経営コンサルの会社から内定を頂いていたんですが、そこの人たちが本当に素敵な人たちばかりで。「これ、就職したら楽しくなって自分でやらなくても満足してしまうな」と思い、内定を断って起業したという流れです。

もちろん起業する怖さもありましたが、それ以上に「やりたい」という気持ちが強かったんですよね。

 
ー そうした中で、今のゲストハウス事業をやろうと思った理由は何だったのでしょうか?

繰り返しになりますが、オーストラリアから帰ってきてずっと「なんかやりたい!なんかやりたい!」と考えていて、でもそうは言っても、社会人としての経験はゼロですし、自分が立ち還られるものはテニスか英語か旅しかなくて。その中でも「旅」がかなり自分の中で大きかったので、何か旅に関する仕事をしようと思ったんです。

 
ー それだけオーストラリアでの旅が忘れられないものだったんですね。
オーストラリア生活で辛かったことはありましたか?

ずっと辛かったですよ(笑)。
今思うと恥ずかしい話ですが、自由に憧れて20歳の若者がバックパック一つ背負って意気揚々と旅に出たわけですけど、ぶっちゃけ寂しさしかないんですよ。何も知らないし誰も頼れない。いざ「全部自由だよ」って言われると自由の扱いに困ってしまって、1年間ずっと帰りたかったです(笑)。

でも周りの反対を押し切って「英語を頑張る」って言って出てきているので、何もしないで帰るのはさすがに…と思い、応援してくれていた教授に「どのくらい英語できるようになったら帰っていいですか?」と聞いたら、「TOEIC850くらいとったら帰ってきても文句言われないんじゃないの?」って言われたんです。

それで勉強してそのスコアをクリアし「これで帰れる」と思って安心したんですが、いつでも帰れるなら逆に「もうだめだ」ってなるまでいようと思って(笑)。その頃から旅をし始めました。

 
ー 旅する中で印象的だった出会いはありますか?

色んな国の色んな人と出会いましたけど、当時印象的だったのは日本人の大人の方たちでした。

日本って、「大学を卒業して社会に出たら遊べないから学生のうちに遊んでおけ」みたいな風潮があると思うんですけど、現地で出会った日本の人たちは本当に楽しそうに自由に生きてて、話しているうちに「そんなことないんだな。もっと楽しく働いてもいいんだな」って思わせてくれたんです。

「コンセプトを追っています」ゲストハウスに込めた想い

ー 「toco.」(入谷)ができた当時、旅行者の中でも話題になっていたかと思うのですが、いきなりあの雰囲気、世界観が作れたのはどうしてだったのでしょうか?

大工さんたちのおかげですね。築90年の古民家なので、見つけた当時は穴だらけで雨漏りもしていました。人も住んでいなくて、色んな業者さんに見てもらったら「建て替えた方が安いですよ」とか言われたりもしたんですけど、「そうじゃないんだよなあ」と思って。

そんな中、ある大工さんに見てもらったら、「これめちゃくちゃかっこよくできるけど、その分お金がかかるから、ひとまずお前はできるだけお金を集めてこい」と言われました。そこまではっきり言ってくれる人はいなかったので、逆に信用できましたね。

それから、たい焼き屋で貯めた資金をベースに借り入れをしました。内装を考えることも工事をすることも私たちは初めてだったので、大工さん達の力が大きかったですね。

 
ー なるほど。なぜこんなにオシャレなのでしょうか?

オシャレかどうかということに関して、実は僕たちはオシャレにしようとは思っていなくて。自分たちはデザインを勉強したこともないので、代わりに「ストーリー」を大事にしているんです。

ストーリーからどうするのかを考えて、「toco.」の場合は「90年の古民家の歴史の延長」というコンセプトを決めたんです。なるべく元の美しさを損なわずに作ろうと進めたんですが、結果的にオシャレと言われているだけなんですよね。

今でもオシャレかどうか、カッコイイかどうかっていうのはあまり大事じゃなくて。それよりも、人が話しやすいとか、温かくて安心する、みたいな機能面のデザインを大事にしています。

 
ー 日本人はアメリカとかと違って、ディテールにこだわるのは得意なんだけど、コンセプトを作るのが苦手だったりしますよね。

そうかもしれませんね。その当時も、例えば全く関係性のないデザイナーさんにお願いしていたら、オシャレにこだわりすぎてまた違うものになっていたかもしれないですね。

 
ー 「toco.」(入谷)は90年の歴史がコンセプトというお話でしたが、「Nui.」(蔵前)はどうだったのでしょうか?

「Nui.」は「どういうところで乾杯したら一番仲良くなるのか」というのを最初に皆で話し合った時に、それって「キャンプ場じゃないか」ってなったんですよね。湖畔の気持ちいいキャンプ場で出会ったら、ひとまず手に持ってるビールで乾杯しようとなって、そこから会話が始まるじゃないですか。自然の中だと、上下関係などがないフラットなコミュニケーションが生まれます。

なので都会の中に自然を持ち込みたいと思って、「北の自然」というテーマを決めました。何で「北」かと言うと、大工さんたちが北海道から来ていたり、木材も北海道のものを使っていたりするので。北海道の自然をイメージしながら作ったら、大自然の中でみんなで飲んでる感じになるんじゃないかと。

「北の大地」をイメージした「Nui. HOSTEL & BAR LOUNGE」。

ー 「Len」(京都)はどうでしょう?

「Nui.」の次の出店場所を探していたんですが、その頃からインバウンドの流れが大きくなり始めていて、なかなか東京で新しい物件が見つからなかったんです。

そんな時、京都のデザイン会社さんから「是非『Nui.』のような宿を京都にも作って欲しい」とお誘い頂いて物件も紹介してもらったんです。遅かれ早かれ、東京ではない場所で展開もしたかったので京都への出店を決めました。

 
ー これまでどういったプロモーションをされてきましたか?

僕らは今まであまりプロモーションを打っていなくて。今でこそこうして取材を受けたりもしていますが、以前は積極的にメディアに出ることはなかったんです。なので基本的には、 Instagram や Facebook などの SNS や口コミで広がっています。

 
ー 他の色んなゲストハウスを見ていても、「国際的な交流」など、どれもコンセプトは近しいと思っているのですが、それをどう具体的に実現し、またどう他と差別化しているのでしょうか?

コンセプトを立てるのは簡単じゃないですか。でもコンセプトを「立てる」のと、コンセプトを「追う」のは全然違うと思うんですよね。その点に関して、僕たちはかなり真面目にコンセプトを追っていると思います。椅子の配置からレイアウト、どんな音楽をかけるとか、そういうのも含めて全部で追ってます。

あと、一番大きいのがスタッフ。みんな距離を詰めるのがすごい上手いですね。時々「詰めすぎだろ」と思うこともあるくらい(笑)。でもスタッフは、そういう声かけでゲストが日本で過ごす旅の時間が、より楽しいものになると信じてやっています。

 
ー 日々、旅行者の方と接する中で、日本全体の観光業やホテルなどにおける問題点を感じることはありますか?

そんなにないですね。むしろすごく良いと思ってます。他の国に行ってから日本に戻ってくると、安いし綺麗だしどこに行っても接客も素晴らしいし、悪いところなんてないじゃないですか。

でも強いて言えば、エンターテイメント性は弱いと思います。安心感・安全・統一感・清潔感のような部分は強いですが、そこに「面白い」とか「エロい」とか「やばい」とか、そういう日本人が不得意な要素が加わればもっと良くなると思っています。

あと、サービス業に関しては、日本は過剰競争しすぎだと思います。ご飯は安くて美味しいものがありすぎるし、ホテルも安くて良いところがありすぎる。業界側から言うと、かなりストレスフルになっているんじゃないですかね。そこを底上げしていかないとスタッフの待遇も良くならないし、業界全体がどんどん萎んでいってしまうので、そうした部分は僕らの課題でもありますね。

「英語を話せる」よりも大事なこと

異国感漂う「Nui.」のバーカウンター。

ー これまで色んな国籍の人たちが集まる場に身を置き、交流されてきたかと思うのですが、英語についてはどのようにお考えですか?

英語は喋れた方が良いんじゃないですかね。世界に出てみると、特に日本人の話せなさが目立ちます。Google 翻訳のようなものも出ていますけど、やっぱりそれにはまだ限界があると思っていて、例えば、英語圏の人たちと恋をするのはきっと難しいし、機械の音を通して自分のことを熱く語っても面白くないじゃないですか。10年後はどうなってるか分からないですけど、生のコミュニケーションには生の面白さがあると思います。

例えば本を読むにしても、日本語で書かれた本しか読めなければ、世界60億人のうちの1億人に向けた情報しかキャッチできない。でも英語だったら30億、40億に向けた情報があるわけじゃないですか。恋愛においても、日本語だけだと5000万人くらいしかターゲットがいないですけど、英語ができると20億人ぐらいに増えますよね(笑)。

他にも、日本で起業できなかったらアジアでできるし、日本の市場が厳しくなればヨーロッパに行けばいいし、言語があれば何でもできるので便利だと思いますよ。

 
ー 今後は海外展開も考えられていますか?

はい。そのためにカンボジアにマネージャーを派遣したり、バリやスリランカに視察に行っています。

海外展開をしても理念は同じで、規模の大小や個室の割合、ドミトリーの割合などは市場に合わせますけど、やることは変わらないですね。

 
ー そうなると、やっぱり共通言語は英語になりますよね。

そうですね。言語でメンタルバリアを張りたくないです。

例えば僕のケースで言えば、海外展開するとなった時に英語にまだ不安はあるんですけど、その不安があることで展開を躊躇したり、面白い人がいるのに話しかけられないのではいけないと思っています。

英語を話せるかどうかも大事だけど、「話せるって思うことでメンタルバリアがなくなる」ことの方が大事なんじゃないかな。そういう意味では、言語力の問題ではないのかもしれないですね。文化や価値観が違うところに対して、何もバリアを張らずにフラットに考えられるかどうかという話なので。

 
ー 事業を通して実現したいことなど、今後のビジョンについて教えてください。

「人と人を繋ぐ」「人と自然を繋ぐ」という部分にもっと力を入れていきたいと思っています。

「あらゆる境界線を越えて、人々が集える場所を」という理念を掲げて今まで宿を運営してきたのですが、様々な背景を持った人々がより力を抜いて話せる環境を作りだせるよう、広大な自然の中に泊まることができる場所を作りたいと思っています。自然は人をオープンに、そして優しくしてくれますからね。

同時に、そこを訪れたゲストが滞在をきっかけに、自然の美しさに改めて気づくことができるようなアクティビティもやりたいと考えています。

あと、ホステル業界ってパイがすごい小さいので、ホステル業にこだわらず現在のコンセプトのままホテルを運営し、より色んな人たちに価値観が届くようにしていきたいですね。それと最後に海外展開を合わせる。

つまりまとめると、自然をより取り入れて、宿自体の規模を大きくし、個室を増やして日本と海外に展開する、ということをやっていきたいと思っています。
 
ー では最後に、英語を学習中の方や海外に興味を持つ読書の皆さんにメッセージをお願いします。

海外に興味があるのなら、とりあえず行ってしまった方がいいと思います。

英語を話せなくても、行ってみて後悔したらいいと思うんですよ。話せないまま行って、「何で俺だけこんな話せないんだろう」という苦い体験をしておいた方がいい。

個人だけじゃなくて企業も、海外に進出するなら早ければ早いほど良いと僕は思っています。

 
ー ありがとうございました。

おわりに

「あらゆる境界線を越えて、人々が集える場所を」
- Backpackers’ Japan -

「Make the world smaller」
- DMM英会話 -

近しいビジョンを掲げる両者によって実現した対談。対談中も多くの人が本間さんに声をかけ親しげに話していたのが印象的で、ご自身がまさにビジョンを体現していた。

近年、ゲストハウスは単なる宿泊施設ではなく、観光の一部になるような、作り手の想いがこもった個性的なものに変化しつつあり、その数は日本全国で増えてきている。

対談を行った「Nui.」(蔵前)や一棟目の「toco.」(上野)は、間違いなくそんなゲストハウス文化の火付け役だ。

また、「(英語を)話せるって思うことでメンタルバリアがなくなる」という言葉は、まさに異文化コミュニケーションの核となる重要なアドバイスであろう。

日々、様々な国籍の方が集まり交流が生まれる日本のゲストハウス。

学んだ英語を実際に使ってみたい!という皆さんも、是非足を運んで、日常ではなかなか味わえない交流を楽しんでみて欲しい。

◆ Backpackers’ Japan 運営のゲストハウス

・ 「ゲストハウスtoco.」(上野)
https://backpackersjapan.co.jp/toco/

・ 「Nui. HOSTEL & BAR LOUNGE」(蔵前)
https://backpackersjapan.co.jp/nuihostel/

・ 「Len」(京都)
https://backpackersjapan.co.jp/kyotohostel/

・ 「CITAN」(東日本橋)
https://backpackersjapan.co.jp/citan/