K. Inoue
(更新)
「〇〇さんが△△って言ってたよ」
こんなセリフ、日常会話でよく登場しますよね。
このように「誰かが言っていたことを、別の誰かに伝えるやり方」のことを「話法」と呼びます。
話法は助動詞や不定詞、分詞、関係詞などの大きな文法と比べると、参考書でも最後の方でしか扱われない小さな文法ですが、実際の日常会話での使用頻度は抜群に高く、その重要度は決して無視することができません。
今回は、そんな話法について徹底解説します。
「直接話法と間接話法の書き換えが難しい」
「どうやって時制を決めたらいいのか分からない」
「そもそも直接話法って?」
「間接話法って何?」
そんな悩みや疑問を解消して、話法に悩む全ての方々の助けになれば嬉しいです。
冒頭でも述べましたが、話法とは「誰かが言ったことを、別の誰かに伝える方法」のこと。
「〇〇さんがあんなことを言っていたよ」という具合に、誰かの発言を別の人に伝えることは日常会話ではとてもよくあることですね。
こうした情報伝達の方法が、英語ではしっかりと体系化された文法として確立されていて、この文法を話法と呼びます。
そして英語には「直接話法」と「間接話法」の2種類の話法があります。
直接話法とは、誰かの発言を、そっくりそのままセリフのように相手に伝えるやり方です。
例えばジョンがあなたに向かって“ I’m happy to see you.”「僕はあなたに会えて嬉しいです」と言ったとします。
このジョンの発言内容を別の誰かに伝えるとき、
「ジョンは、『僕はあなたに会えて嬉しいです』と言いました」
という具合にジョンの発言をそのまま引用するやり方が直接話法です。
直接話法は、「書く」場合には引用符/クオーテーションマーク(“ ”)を用いて、発言が本人の言葉そのままであることを表します。
※引用符の前にはコンマ(,)を置くのが普通です。また、例文のように引用符で文が終わる場合、ピリオドは引用符の内側に置きます。
誰かの発言であることが分かりやすいため、その人の発言をそのまま伝えることが重要な新聞記事や小説のセリフなどでよく用いられます。
たとえるなら、漫画の吹き出しのようなイメージ。
一方、声に出して言う場合には、たとえば “I’m happy ~” の “I” がジョンのことなのか伝達者である話し手自身のことなのか分からなくなってしまうなど誤解が生じることがあるため、話し言葉では直接話法はあまり使われません。
ただ、その人がどのように発言したのか、モノマネのように言うなど工夫しながらうまく活用すれば、発言者本人の独特の言い回しやニュアンスなどを臨場感を持って伝えられるというメリットがあるという点は無視できないでしょう。
ちなみに、引用符を表すボディランゲージがあります。
両手の指をピースサインのような形にして顔の横あたりに掲げ、指を軽く折り曲げながら引用元の発言を言います(指で引用符(“ ”)を表現)。
これも、会話の中で直接話法を取り入れる工夫の1つです。
※ネイティブはこのボディランゲージを、強調したいことがらを表すときなどに使うことがよくあります。
間接話法とは、誰かの発言を、伝達者(話し手)の視点に立って言い直して相手に伝えるやり方です。
一般的には、直接話法よりも間接話法の方がよく使われます。
先ほどと同じく、ジョンがあなたに “I’m happy to see you.” と言ったとします。
これを伝達しようとするあなたは、今から話し手である「私」という立場になります。
直接話法では一言一句そのままジョンの言葉を引用しましたが、間接話法では伝達者である「私」の立場からジョンの発言を見直す必要があります。
まず “I” は「私」の立場から見れば「ジョン(代名詞では he となる)」のことですね。
そして “you” は「私」のことです。
このように間接話法では、人称代名詞が一体誰のことを指しているのかをまず分かるようにしなければなりません。
さらにもう一点重要なポイントがあります。
それは「時制」です。
ジョンの発言の段階では “am” と現在形ですが、これを振り返って別の誰かに伝達しようとしているのは「今」ですから、彼の発言内容はすでに「過去」のことです。
よって “am” は “was” となります。
これらを踏まえて間接話法の文を完成させると、
「ジョンは僕に会えて嬉しいと言っていた」
となります。
このように、吹き出しのイメージを取り払い、伝達者の立場から客観的に事実を捉え直して表現する伝達方法が間接話法です。
なお、接続詞「that」はしばしば省略されます。
先ほど “I” を “he” に、“you” を “I” にしたように、人称代名詞の置き換えが大切であると述べました。
間接話法では、人称代名詞以外にも、指示代名詞の this、today やlast night、here など時や場所を表す副詞(句)も適切に置き換える必要があります。
「マイクは『僕はこの本が好きだ』と言った」
「マイクはその本が好きだと言った」
「リサは、『私は今日は図書館へ行くわ』と言った」
「リサはその日は図書館へ行くと言った」
「ジェニーは、『私はここにいるわ』と言った」
「ジェニーはそこにいると言った」
※これらはあくまで参考例です。機械的に置き換えるのではなく、状況に応じて適宜適切な語(句)を選ぶ必要があることに注意してください。たとえば次のようなケースです。
「昨日、彼は『明日泳ぎに行くよ』と言った」
「昨日、彼は今日泳ぎに行くと言った」
昨日の段階で「明日」と言ったということは、これを振り返っている現在からすれば彼が泳ぎに行くのは「今日」ですね。安易に tomorrow を the next day に換えればよいわけではないということなのです。
「〇〇が~と言った」の「言った」のように、誰かに発言内容を伝えるはたらきを持つ動詞のことを「伝達動詞」と呼びます。
ここまでは全てsayを用いた例を見てきましたが、間接話法への転換の際には、発言の内容によってこの伝達動詞も変える必要がある場合があります。
「ボビーは僕に、『明日は休暇を取ります』と言った」
「ボビーは僕に明日は休暇を取ると言った」
<say to+人>「人に言う」を「人に伝える」と解釈して<tell+人>の形に置き換えます。
say は単独では特に伝える相手を想定せず、単に「言葉を述べる」という意味に留まるのに対して、tell には「内容を相手に言い伝える」というニュアンスがあります。
そのため、<say to+人>のように伝える相手が明示される場合には tell を置くことが自然になるわけです。
もちろん、said to me (that)~としても間違いではありません。
「彼女は私に、『お腹減ってる?』と言った」
「彼女は私が空腹かどうか尋ねた」
疑問文の発言を間接話法に転換する場合、伝達動詞は「尋ねる」という意味の ask を使って<ask+人>の形にします。
そして、Yes/No疑問文の内容に繋ぐためのことばとして、that ではなく「~かどうか」を意味する if を用います。if 以外にも whether という単語を用いることもできますが、日常会話では if の方がよく使われます。
さらに間接話法では、伝える相手に尋ねているわけではないため、もともと疑問文だったものが肯定文の語順(S+V)になる点にも注意が必要です。
最後に、クエスチョンマーク(?)をピリオド(.)にします。
「彼は彼女に、『出身はどこ?』と言った」
「彼は彼女に出身はどこかと尋ねた」
Yes/No疑問文のときと同様、間接話法の伝達動詞は ask を使い、<ask+人>の形にします。
そして、疑問の内容については疑問詞(ここでは where)をまず置き、その先の語順をやはり肯定文の語順(S+V)にします。
最後にクエスチョンマーク(?)をピリオド(.)にします。
「母は私に『部屋を掃除しなさい』と言った」
「母は私に部屋を掃除するように言った」
直接話法における発言が「~しなさい」という意味の命令文である場合、間接話法では「人に~するように言う」という意味を表す<tell+人+to do>という形を使います。
ただし、命令文のニュアンスや内容によっては、ask「頼む・お願いする」や advise「助言する」などを用います。
いずれも<人+to do>の形を取り、<ask+人+to do>「人に~するよう頼む・お願いする」、<advice+人+to do>「人に~するよう助言する」という形にします。
また否定文では、to do の直前に not を置いて(never を使うことも)「(決して)~しないように…」とします。
「スティーブは僕に、『エアコンを切ってください』と言った」
「スティーブは僕にエアコンを切ってと頼んだ」
この例では Please により、命令よりも「お願い」のニュアンスが生まれているため間接話法で ask を用いています。
「サトウ先生は私たちに、『試合前には食べ過ぎるな』と言った」
「サトウ先生は私たちに試合前に食べ過ぎないようにと助言した」
この例では、サトウ氏が先生であるという立場から「助言」的な内容であることを伝えるため advise を用いています。
「彼女は私たちに、『外にお昼を食べに行きましょう』と言った」
「彼女は私たちに外にお昼を食べに行こうと提案した」
直接話法における発言が Let’s~.「~しよう」の文の場合、これを提案や勧誘の意味として捉え、間接話法では suggest「提案する」や propose「提案する」などを使います。
suggest も propose も、<to+人>の形で相手を示すため、to を忘れないように注意してください。
伝達内容はthat節を使って表し、この節内の動詞は<原形>または<should+原形>になります。
ちなみにアメリカ英語では<原形>、イギリス英語では<should+原形>を使う傾向があります。ただ、イギリスに<原形>は浸透してきていますし、アメリカにも<should+原形>が流入しています。
そのため、どちらの国でどちらの言い方をしても特に問題はありません。また、この文法における should には特に「~すべき」という意味があるわけではありませんが、アメリカ人の中には、should を「~すべき」の意味で捉える人も多いです。
「彼女は僕に、『私はどれだけ幸運なのか信じられない!』と言った」
「彼女は僕に自分がどれほど幸運なのか信じられないと話した」
「なんて・どれほど~だろう!」という驚きや喜び、落胆などの感情を表す感嘆文は、間接話法でも感嘆文の語順のまま使います。ただし、代名詞や時制の変換には注意してください。
また、exclaim「叫ぶ」、cri out「大声で言う」、remark「意見を述べる」などの動詞を使って間接話法に転換することもできます。
「彼は、『彼女はなんて素敵な子なんだ!』と言った」
「彼は彼女がなんて素敵な子かと言った」
「彼は彼女がなんて素敵な子かと叫んだ」
「彼は『眠たいけどレポート書き終えなきゃ』と言った」
「彼は眠たいがレポートを書き終えねばと言っていた」
発言内容が、and や but などの等位接続詞が使われた文である場合、接続詞の後ろにも that を入れ<and that~>、<but that~>という形にします。
最初の that は省略しても構いませんが、接続詞の後ろの that は省略することができません。
that を明示することで、その節が伝達動詞 say が導く内容であることを明確にするためです。
もしこの that を省略してしまった場合、that 以下の内容がもともとの発言内容であったかどうかが分からなくなってしまう恐れがあるのです。
「彼女は、『ティムが戻ってきたら話してみるわ』と言った」
「彼女はティムが戻ってきたら話すと言った」
発言内容が、when や if などの従属接続詞が使われた文である場合、接続詞の後ろの動詞も適切な形にします。
従属節の中だからと言ってそのまま放置してはいけないということに注意してください。
接続詞について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
「彼は僕に、『映画に行くんだけど、君も来るかい?』と言った」
「彼は僕に、映画に行くけど来るかどうか尋ねた」
発言内容に、平叙文とYes/No疑問文など異なる種類の文が混在する場合、それぞれの文の種類と内容に応じて伝達動詞を使い分け、and や but で繋ぐことで間接話法に転換することができます。
ここまで直接話法から間接話法へのさまざまな転換パターンを見てきましたが、最も重要なポイントの1つは時制の転換です。
ここで改めて時制転換について見ておきましょう。
「マイクは『僕はこの本が好きだ』と言った」
「マイクはその本が好きだと言った」
すでにご紹介したこちらの例文。
直接話法でのマイクの「この本が好き」は、彼が発言した時点での言葉をそのまま使っているため現在形 like が使われています。
一方、間接話法ではこの発言を伝達者が現在の立場からふり返って said「~と言った」と伝えようとしているため、この said に引っ張られて(つまりマイクの発言を過去のことと捉えて)liked と過去形が使われています。
もう一例見てみましょう。
「マイクは『僕はこの本が好きだった』と言った」
「マイクはその本が好きだったと言った」
今度はマイクの発言内容の動詞が liked とはじめから過去形です。
これを間接話法に転換した場合、伝達者のいる現在から見ると、マイクが「この本が好きだった」のはこの発言よりも前のことですね。
そのため間接話法では、ある過去の時点よりもさらに前の時を表す過去完了形が使われることになります。
このように、主節の動詞(said)が基準になって従属節の動詞(liked、had liked)の形が決まることを「時制の一致」と呼びます。
この時制の一致が多くの学習者にとって難しいポイントとなっていますので注意が必要です。
適切な時制が分からず、時制の一致は難しいとよく言われるのですが、ちょっとしたコツですぐに解決することができます。
そもそも現在、過去、未来といった時制はどうやって決まるかと言うと、その原則はたったの1つ。
それは、「話し手のいる現在から見ていつのことか」ということです。
「言った」「尋ねた」「命令した」などの動詞は、伝達者である話し手のいる現在から見て過去のことだから said、asked、told のように過去形が使われます。
その中身である「好き」「泳ぎに行く」「空腹だ」といった行為や状態も、現在から見てそのとき「好きだった」のであり、「泳ぎに行くつもりだった」のであり、「空腹だった」ために過去形が使われているにすぎません。
「主節の動詞が過去形だから従属節の動詞も過去形にせねば」、のように考えていると、過去完了形の使いどころなどが分からなくなって混乱してしまいます。
先ほども見たように、現在から見て過去の出来事よりも前のことだから過去完了形が使われるだけなのです。
つまり「どの出来事がどの時点で起こったことなのか」、ということを時間軸に乗せてきちんとイメージすることさえできれば、時制に迷う心配は本来はないということです。
時制の一致には多くの例外が存在すると言われます。
たとえば、
「先生は私たちに地球は太陽の周りを回っていると教えてくれた」
「スコットは、自分はアメリカ人だと言っていました」
※実際には、said につられて wasと 言ってしまうことも多い。
「祖父はいつも継続は力なりと言っていた」
「私たちは昨日、第二次世界大戦が1945年に終結したことを学びました」
などです。
こうした数々の例外を突き付けられるとき、果たして時制の一致を学ぶことにどこまで意義があるのかと疑わしくさえなってしまいそうです。
しかし、「話し手のいる現在から見ていつのことか」によって時制が決まるという原則を思い出していただければ解決します。
地球が太陽の周りを回ることも、スコットがアメリカ人であることも、現在から見て「今もそうだから」現在形。
継続が力になることは、現在から見て「今も人々に当てはまることだから」現在形です。
第二次大戦が1945年に終結したのは、現在から見て「過去に終わったことだから」過去形なのです。
確かに「終結した」のは「学んだ」ことよりも前であるために過去完了形が当てはまりそうです。
しかし過去完了形は、「過去」と「さらに過去」との意味的関連性や影響力が強い場合や、前後関係を明らかにしなければ誤解が生じてしまいそうな場合に用いるという特徴があります。
「学んだ」ことと「戦争終結」という出来事の間の意味的関連性や影響は乏しく、時間的にもかけ離れているために前後関係を誤解することもありません。こうしたケースでは、過去完了形を使わず、単に過去形でシンプルに片付けてしまって問題無いのです。
もっと言えば、(少し話が逸れるかもしれませんが)、伝達動詞を現在形で使うこともできます。
「彼はいつも『俺が最高だ』と言う」
彼が「いつも言う」のは習慣的行為であり、現在から見て「今もそうだから」say を現在形で使っています。
「彼は何千もの人々がその病気で亡くなったと言います」
「部屋は空っぽでさ、彼はショックを受けて、なんで誰もいないんだって聞くわけ」
これら2つの例文では、厳密には say も ask も過去のことであり過去形を使いたいところです。
しかし実感として、病気という脅威に命を脅かされる人々の過酷な現状をつい最近聞き知ったとか、無人の状況にショックを受けて気が動転している彼の様子を誰かと共有しておもしろがるなど、発言内容の出来事や行為を眼前に感じるような状況がある場合、「話の近々さを伝えるため」や「まさに現在そこで起こっているかのような臨場感あるリアルな情景として描くため」にあえて現在形を使うことがあるのです(文中の is と gets についても同様です)。
現実の時間軸を越えて、「いかにも現在のことであるかのように捉えている」場合にも現在形が生きるわけですね。
時制の一致という文法に例外が付きまとうのは、こうした抽象的な意味での時間の認識も含めて、「話し手のいる現在から見ていつのことか」という時制決定の原則が見落とされているからに他なりません。
だからこそ、時制を転換する際には、ルール的に考えるのではなく、柔軟に現在の視点から出来事や状態を見つめることが大切なのです。
次の文を見てください。
主節の動詞が過去形 said であるのに対して、that節の動詞 likes が現在形になっています。
時制の一致に照らし合わせれば、これは文法的に誤りと言われそうな文です。
ところがこれは決して間違った文ではありません。
マイクが「言った」のは現在から見て過去のことだから過去形、そしてマイクが「その本が好き」なのは現在から見て「今でも好きだから」現在形なのです。
つまり、伝達者がこの文を言っている時点でもその内容が成立する場合には、このように一見すると時制が一致していなくても問題ないということ。
間接話法の模範例として示した Mike said (that) he liked that book. という文は、時制が一致しているという点で文法的に極めて正しいと言えます。
ただしこの場合、現在もマイクがその本を好きなのか分からないとか、今ではもう好きではないといった解釈が可能となるため、意味的に若干の曖昧さが残ってしまうことには配慮が必要かもしれません。
繰り返しますが、時制は機械的に一致させるものではなく、状況によって柔軟に変えても構わないということをぜひ知っておいてください。
最後にもう2例ほど見ておきましょう。間接話法の時制に注目してください。
「ルーシーは昨日僕に、『私は看護師よ』と言った」
「ルーシーは昨日僕に自分は看護師だと教えてくれた」
ルーシーは昨日の時点で自分は看護師であると言ったということは、常識的に考えて「今日現在も看護師である」ことは容易に想像できますね。
こうしたケースでは、現在形 is を用いても問題ありません。
「アンダーソン大統領は昨日、『私はその計画を実行する』と言った」
「アンダーソン大統領は昨日、その計画を実行するつもりだと言った」
アンダーソン大統領がその計画をまだ実行していないのであれば、「計画実行は現在から見て未来のこと」であるため will を用いても問題ありません。
ちなみに英字新聞などでは、この「〇〇 said that he will ~.」のように will を用いるケースが非常に多くあります。このあたりにも注目して読んでみると面白いですよ。
ここまで見てきたようなやり方に従って話法の転換を学ぶことはとても大切なことです。
でももっと重要なのは、こうしたやり方に従わなくても間接話法的な文を作ることができる、ということを知っておくこと。
「スコットは、『僕は試合に勝てなかった』と言った」
「スコットは試合に勝てなかったと言った」
これが通常の話法転換ですが、次のように言い換えてみてはどうでしょう。
「スコットは試合に負けたと言っていたよ」
文法的な形は同じですが、hadn’t won「勝てなかった」を had lost「負けた」にしても基本的な意味(事実)は同じです。
つまり別の単語や言い方に変えたとしても、「誰かが言ったことを、別の誰かに伝える」という話法の役割においてはその最低限の役目を果たしていると言えると思います(もっとも、lost を使った方がストレートで痛烈な印象を与えてしまうことはあるでしょう)。
さらに思い切って次のように言ってみるのはどうでしょう。
「スコットは試合に負けたみたいだよ」
試合に勝てなかったことをスコット本人の口から聞いたというよりも、彼の様子からどうやら負けたようだと、やや濁して伝えることで彼の落胆ぶりを伝えたり、あなたの口から直接的な事実を言わないという配慮を示したりすることもできるかもしれません。
こうなるともはや「言葉を伝えていない」ため話法という文法としては適切とは言えなくなるでしょう。
けれど現実のコミュニケーションでは、誰かが言ったことを直接話法であれ間接話法であれ、ほぼそのままには伝えにくいこともあるはずです。
そうしたとき、話法の転換に縛られず、柔軟に言葉尻を変えるという工夫が物を言うことだってあるのではないでしょうか。
人から人へと言葉を繋ぐとき、決して事実が歪んでしまってはいけません。
このことにはしっかりと留意しつつも、ときに自分なりの心を持って別の表現方法を考え出すことも、人間同士のコミュニケーションにおける発展的話法として大切なことではないかと私は思います。
いかがだったでしょうか。
話法は伝達内容によって伝達動詞を変えたり、代名詞や副詞(句)、時制を適切に転換したりと、注意すべきことがらが多く混乱しがちな文法です。
時制の一致にいたっては、文法として破たんしているのではないかと思うほど例外が付きまとうため、これに振り回されてしまうことも学習者の方々の負担となってしまいます。
でも話法というのは、語弊を恐れずに言うと、「〇〇があんなこと言ってたよ」なんてありふれた会話を成立させるためのありふれた文法です。
だから、そんな当たり前の会話を実現するために、学習者の方々がわざわざ重い負担を強いられるのは英語を教える者としてとても心苦しいものです。
この記事では、話法を基本的な転換パターンに分け、時制決定の原則を示すことでこうした負担を少しでも軽減できるよう努めたつもりです。
パターンを知り、時制を適切に扱えるようになれば話法はそれほど苦にはなりません。
普段当たり前に喋ることを英語でも当たり前に言うことができる、その一助となれば嬉しいです。