堂本 かおる
(更新)
アメリカはあらゆる人種と民族の集合体であり、同時に女性の社会貢献、同性婚を含むLGBT問題など、それぞれ日本とは異なる社会事情があります。
私たち日本人にとって、アメリカの社会と言葉の微妙なニュアンスを理解することは難しく、時にはうっかり差別的な英語表現を口にしてしまうこともあります。
そこで今回はシチュエーション別に差別表現、または使い方によっては差別的になり得る英語表現をまとめてみました。
人種や民族を侮蔑する言葉の中で、もっとも知られているのは黒人を意味する「Nワード」でしょう。Nワードとは "N" で始まる "nigger" または "nigga" のことですが、アメリカでは放送で使うことも、紙媒体に印刷することも不可なため「Nワード」と言います。
近年、若い黒人男性がお互いをこの言葉で呼び合うことがヒップホップ・カルチャーとして広まりましたが、原則、他人種は使ってはならない言葉です。他人種がこの言葉を使うと、公職者であれば辞職となるケースすらあります。
本来は複数人に呼びかける際の「皆さん」といった意味ですが、歴史的な経緯により "African-American" への侮蔑語となっています。
人種に関係なく、大人数の前で演説する時なら "Folks!" (皆さん)が使えます。大統領も使っていますね。カジュアルな場であれば "Hi everyone!" (ハイ、みんな!)が適しています。
初めて黒人の友だちができた時、思わず口にしてしまいがちなのがこのセリフ。
実は「最も煩わしい」と思われる "お願いごと" なのです。たとえ「ステキなヘアスタイルね!」と褒めても、やはり嫌がられます。
全ての黒人がダンスや歌が得意なわけではなく、中には苦手な人もいれば、アカデミックやビジネスで成功する人もいます。
したがって黒人に限らず、「この人種はこれが得意」とする発言は、憧れや尊敬から出たものであってもステレオタイプ化による差別と捉えられます。
美白に憧れる日本の女性は、白人女性の色の白さを褒めたくなるかもしれません。しかし "You are very white." と言うと肌の色ではなく、「白人っぽいですね」と白人性を指してしまいます。白い肌は "pale" または "fair skin" と言います。
また、さまざまな肌の色の人が集まっている場で、白人の色の白さだけをことさらに褒めることはあまり感心しません。それぞれの色にそれぞれの美しさがあるからです。色に関係なく、肌質の美しさを褒めるときは "Your skin is beautiful/gorgeous." と言います。
アメリカ全土では少数派ですが、ニューヨークやLAには多いユダヤ系。ユダヤの民族や宗教を "Jew" と言いますが、人を指す場合に使うと軽蔑的なニュアンスとなります。 "Jewish people" と言うのが妥当です。
アドルフ・ヒットラーはユダヤ迫害の象徴であり、単に「顔が似ている」、または性格が「独裁者みたい」という理由で "You look/sound like Hitler!" (ヒットラーみたい!)の類いのジョークを飛ばすことは控えましょう。特に相手がユダヤ系であれば深く傷つけ、非常に深刻なトラブルとなります。
また、ハーケンクロイツは英語では "Swastika" (スワスティカ)と言いますが、ナチスのシンボルであり、ユダヤ系への憎悪の表明とされます。今もユダヤ系地区の家屋にスプレー缶でスワスティカを描く嫌がらせの行為があり、犯人は憎悪罪 (Hate crime)で逮捕されます。日本では規制もなく販売されているハーケンクロイツが描かれたTシャツやアクセサリーはアメリカでは厳禁です。
アメリカには人種ミックスの人もたくさんいます。一見しただけでは人種が分からず、親しくもない相手にいきなり "What are you?" (あなたは何?)と聞く人が少なからずいます。
しかし、当人たちは「私はモノじゃないし」と不快に感じます。ただし、仲良くなった相手には使える質問です。出自にプライドを持つ相手は快く説明してくれるでしょう。なお、和製英語の「ハーフ」は通じません。
子どもがミックスというだけの理由で「かわいい」と決めつけるステレオタイプなコメントです。親にとってはミックスであることは関係なく、かわいい我が子なのです。
アメリカは2016年の大統領選がすでに始まっていますが、ヒラリー・クリントンを含め女性の候補者が2名出ています。こうした社会で「男/女だから」「男/女のくせに」といった発言をすると大抵の場合、快く受け入れられません。
ステレオタイプな「性」に関する表現は避けましょう。
Ms. Carter is a CEO of ABC company, even though she's a woman.
(ミズ・カーターは女性であるにもかかわらずABC社のCEOです)
"even though she's a woman." はもちろん不要です。 "She is the first female CEO." (女性初のCEOです。)など事実を述べるのは問題ありません。
幼い子どものしつけに男女差はありません。
男はマッチョであるべきというステレオタイプであると同時に、裏を返せば同じことをしても女性なら許されるという、女性への差別にもなっています。
英語は性別の人称 "he/she" を多用します。そのため文脈から先入観で性別を判断すると誤った人称を使うことになり、性差別となることもあります。当該人物の性別が分からない時には"he or she"を使います。
A: This company has its own lawyer.
B: Is he or she a real estate attorney?
A:この会社は専属の弁護士を抱えています。
B:彼または彼女は不動産専門の弁護士ですか?
本来 "retarded" は「知能の遅れた」という意味ですが、カジュアルな会話で「バカ」「マヌケ」の意で頻繁に使われるようになりました。しかし知的障害者への侮蔑であるとして、使用の自粛が求められています。
日本人の蔑称は "Jap" ですが、古い言葉で最近はあまり使われなくなりました。アメリカではアジア系を "Oriental" と呼ぶと「私は絨毯じゃない!」という反応が返ってきますが、イギリスでは問題なく使われているようです。所変われば、ですね。
差別語、差別表現を投げ付けられた場合は感情的にならず、冷静に対処することが肝心です。同時に自分も相手をステレオタイプ化した言動を取らないよう気を付ける必要があります。もし差別表現をうっかり使ってしまったら、その時は言い訳せず、率直に謝るのが最適の対処法です。
いずれにせよ差別的な表現は社会背景と強く繋がっています。普段からニュースを読むなどして他国の事情を学んでおけば、差別表現をうっかり使ってしまうことも減りますよ。
差別表現を恐れることはありませんが、be sensitive!(慎重に!)