西東 たまき
(更新)
海外旅行先で書類に記入したり、英語でメールを書くときの署名など、アルファベットで名前を書く機会は意外とあるものです。
もしかしたら、皆さんの名刺の名前は日本語とアルファベットの両方で印刷されているかもしれませんね。
名前を英語表記にするといっても、小学校で習ったローマ字で書くだけなので難しいことはないはずですが、例えば「大原(おおはら)」は “Oohara”、 “Ohhara” など、どう書くべきか悩んでしまいそうです。“Ohara” と書けば「小原(おはら)」さんとの区別がつかなくなってしまいますね。
知っているようで迷いどころもありそうな「アルファベットで名前を書くときの基本」をおさらいしてみましょう。
英文の書類では、記名欄に “First Name”、 “Last Name”、 “Surname” などいくつもの “Name” が書かれているので混乱しがちです。まずは、これらの意味を確認しておきましょう。
“First name” または “Given name” は、「名前」のことです。
「(英語式で書くときに)最初に来る名前(First name)」、「(個人に)与えられた名前(Given name)」と考えれば分かりやすいですね。
“Last name”、 “Family name”、 “Surname” は、「名字」です。
「(英語式で書くときに)最後に来る名前(Last name)」、「家族の名前(Family name)」などは覚えやすいですね。
“Middle Name” は、名前と名字の間に挟まれている名前です。
推理小説『シャーロック・ホームズ』の作者「アーサー・コナン・ドイル(Arthur Conan Doyle)」なら、「コナン」がミドルネームになります。
基本的に、日本人名にミドルネームは存在しないので、書類に記載欄があっても空欄になります。
日本人の名前は「姓・名」の順ですが、欧米では順序が逆で「名・姓」になることはよく知られていますね。
そのため、日本人の名前もアルファベットで書くときだけは「欧米式」に合わせて逆にするのが一般的です。パスポートやクレジットカードも、その順番で書かれていますね。
しかし、本来の順番を変えて書くことに違和感を持つ人もいることでしょう。
中国や韓国では日本と同じ「姓・名」の順で名前を書きますが、アルファベットで書くからといって順序を変えてはいません。
中国のリーダー・習近平(しゅう きんぺい/シー・チンピン)氏のアルファベット表記はそのままの順で “Xi Jinping” ですし、韓国出身の前国連事務総長・潘基文(パン・ギムン)氏もそのまま “Ban Ki-moon” です。韓国のアイドルたちも、またしかり。
一方、日本では明治時代から「欧米式」順序が使われてきましたが、2019年5月、今後は本来の「姓・名」という順に改めるよう、報道機関などへ政府から呼び掛けがあったのを覚えている方もいるのではないでしょうか。
また、文化庁のホームページには『人類の持つ言語や文化の多様性を人類全体が意識し,生かしていくべきであるという立場から(中略)日本人の姓名については、ローマ字表記においても「姓-名」の順(例えばYamada Haruo)とすることが望ましい』(*1)との記述もあります。
この呼び掛けがどこまで広まるのか、今までと逆になることで混乱は起きないかなど気になりますし、私たち自身もどうしたいか考える必要がありそうです。
書き方に工夫することで、どちらが名前でどちらが名字なのかを伝える方法があります。
よく使われる方法ですが、この意図が通じない場合もあります。
言葉が前後逆になっている印としてコンマが使われます。英語の本の最後にある文献の欄では、人名は次のように書かれています。
スペルはローマ字のルールに従います。
しかし、ローマ字には「ヘボン式」や「訓令式」などいくつかの種類がありましたね。日常生活で広まっているのは「ヘボン式」です。
小学校で習う「訓令式」では、“Furukawa(ふるかわ)” は “Hurukawa” に、「ちえこ」は “Chieko” ではなく “Tieko” になるなど、イニシャルも変わってきます。
海外でも評価が高い映画監督「是枝裕和(これえだ・ひろかず)」氏は、“Hirokazu Koreeda” の他に、“Hirokazu Kore-eda” と書かれることもあります。“e” が重なっているところをハイフンで区切ることによって、「コリーダ」と読まれるのを防いでいるのです。
「本間(ほんま)」は “Honma” もあれば、“Homma” とも書かれます。「大沢(おおさわ)」のように伸ばす音は、“Oosawa” や “Ohsawa”、 “Osawa” もあれば “Ōsawa” もあるなど、ひとえにローマ字表記といってもスペルにはバリエーションがあります。
このように様々な書き方が混在しているため、どうスペルすべきか迷うかもしれませんね。しかし、パスポートに記載する名前は「ヘボン式ローマ字表記」と決まっているので、迷うときはヘボン式にしておけば無難です。
例えば、「佐藤(さとう)」という名字は “Satou” や “Satoh” ではなく、“Sato” になります。「ゆうか」は “Yuuka” ではなく “Yuka” です。 “Satou” や “Satoh”、 “Yuuka” を希望する場合は、別途申請する必要があります。
アルファベット表記では、名前の代わりにイニシャル(スペルの先頭のアルファベット)を使うこともできます。
イニシャルは大文字を使い、言葉が省略されていることを示すため、後ろにピリオド(.)を付けます。
“H. N.” のように名前と名字の両方をイニシャル化することもあれば、“H. Nakata” のように名前だけ、あるいはミドルネームだけをイニシャルにするケースもあります。
『ハリーポッター(Harry Potter)』シリーズで知られる小説家 “J.K. Rowling” は、名前もミドルネームもイニシャルですね。女性作家だからという偏見を持たれないよう、どちらもイニシャルにして性別不詳にしたものです。
このような理由でイニシャルが使われるケースもあります。
さて、アルファベットで名前を書くことなどできて当たり前のようでいて、突き詰めてみるとちょっと迷ってしまう点もありませんでしたか?
パスポートのスペルは一度決めたら原則変更できないし、同一人物だと分かってもらうためにも、後日スペルを変えなくて済むようしっかり考えることが大事です。
これからは、頂いた名刺の社名・人名、移動の際は各地の地名・駅名がどんなスペルで書かれているか注意してみるとよいでしょう。時に面白い発見があると思いますよ!