
K. Inoue
(更新)
突然ですが、次の英語の意味がわかるでしょうか?
It’s a piece of cake!
直訳すれば「それは一切れのケーキだ!」ですね。でも実はこの表現が伝えたいことは全然違っていて、本当は「そんなの楽勝だよ!」というニュアンスです。日本語では「朝飯前」などが近いでしょうか。
このように言語には、文字通りの意味とは違った意味を伝えるユニークな表現がたくさんあります。これを《イディオム》と言います。
英語にも知ると面白いイディオムがたくさんあります。今回は数ある中から、“a piece of cake” のように「食べ物」に関係するものを厳選してご紹介します。最後には食べ物にまつわることわざもご紹介していますので、それらを使ってぜひ会話を楽しんでください。
=「トラブルを起こす人・信用できない人」
「腐った卵」は「トラブルを起こす人・信用できない人」という意味で使われます。
なお、“a bad apple(腐ったリンゴ)” という表現もあり、こちらも「トラブルを起こす人・悪影響を及ぼす人」という意味で使われます。日本語では「腐ったミカン」という言い方をよくしますね。
B: What? I didn’t think he was a bad egg.
「何だって?あいつはそんなやつだと思ってなかったのに」
=「最重要人物・VIP」
「大きなチーズ」は「最重要人物」や「VIP」を指すイディオムです。
現在ではチーズ自体は低俗さや安っぽさ象徴するイメージで使われますが、19世紀頃にさかのぼると、逆にチーズこそ一級品であるとして重要に扱われていました。
“big cheese” にはその当時の意味合いが受け継がれていて、今でも有力者やお偉方などの重要人物を指す言葉として使われています。
ただし、“cheesy” という単語については、「低級な、安っぽい」という意味で使われるので注意が必要です。
紅茶の好みは人それぞれ違うことから、もともとは自分の好みに合うものを “〜 is my cup of tea” と言ったようです。
今では “not” を付けて、好きではないこと・物を遠回しに表現するフレーズとしてよく使われます。
《使用例》
Horror movies are not my cup of tea.
「ホラー映画って私の好みじゃないのよ」
“nuts” には「木の実」という意味もありますが、形容詞で “crazy” や “mad” という意味もあるんです。
《使用例》
Hey! Turn down the music, will you? It's driving me nuts!
「ちょっと!音楽のボリューム下げてくれない? 頭がおかしくなりそうだわ」
さらに “be nuts about” で、何か「熱中しているもの・熱を上げているもの」を表すこともできます。
《使用例》
My sister is nuts about One Direction.
「僕の姉はワン・ダイレクションに夢中になっている」
直訳すれば「ナッツの殻に」というこのイディオム。要点を簡潔に言う場合によく使われます。
小さなナッツの殻におさまるように、話の要件を短い言葉でまとめるというのが語源と言われています。
《使用例》
I got a speeding ticket, I was late for a meeting and I got fired, in a nutshell, I had a terrible day today.
「スピード違反で捕まるわ会議に遅れるわ、しかもクビになるわで、ひと言でいうと最悪な一日だったよ」
=「大根役者」
お肉の「ハム」は「(演技過剰の)大根役者」のことです。
役者が “ham fat(ハムの脂)” で化粧を落としていたことにちなんで “a hamfatter” と呼ばれていたのが省略されて単に “a ham” になったと考えられています。
“a ham actor” と言うこともあります。
=「生活費を稼ぐ」
由来が10世紀のイギリスにまでさかのぼるとされるこの古いイディオムは、「家にベーコンを持ち帰る」ことから転じて「(生活のための)お金を稼ぐ」という意味で使われるようになりました。
=「賢い人」
“cookie(クッキー)” はもともと「かわいこちゃん」のように愛着を込めた女性への呼びかけとして使われていました。それがやがて “smart” などの言葉と共に女性的な意味を超えて「賢い人」の意味で使われるようになりました。
=「だめな人(物)・欠陥品」
「レモン」は酸っぱくておいしくないことから「だめな人(物)・欠陥品」を表すようになりました。
=「飛ぶように売れる」
直訳は「ホットケーキのように売れる」で、「飛ぶように売れる」とか「(短期間で)バカ売れする」といった意味を表します。
なお、一般的には「ホットケーキ」のことは “pancake” と呼びます。
=「生計(の手段)・必須のもの」
“bread(パン)” と “butter(バター)” は食事の基本です。そのことから、「生活になくてはならないもの」と解釈され「生計(の手段)・必須のもの」という意味を表すようになりました。
=「頭を使う・論理的に考える」
日本人も大好きな “noodle(麺)” が「脳」を比喩的に表し、「麺を使う」で「頭を使う・論理的に考える」を意味するイディオムです。
“noodle” は昔は「ばか」や「まぬけ」のように侮蔑の言葉として使われていましたが、現在、このイディオムでは単に「頭・頭脳」の意味で使われています。
こぼれてしまった牛乳を嘆いてもどうにもならないことから「済んでしまったことを嘆いたり後悔してもムダだ」という意味のフレーズです。
《使用例》
It's no use crying over spilt milk. You can't change the past.
「もう起こってしまったことを嘆いてもどうにもならないよ。過去は変えられないんだから」
=「ケーキは食べたらなくなる(ことわざ)」
直訳は「ケーキを食べることと持っていることはできない」という意味のことわざです。
「一度食べてしまったケーキはなくなってしまうためにそれを持っていることができないように、何か二つのことを望んでも同時に叶えられるとは限らないのだから、どちらか一方は諦めるべきだ、二つも良いことは起こらないのだ」という教訓を伝えています。
B: I like the class, but I hate the teacher.
「クラスは良いんだけどね、先生が嫌だよ」
A: Well, you can’t eat your cake and have it too.
「まあ、何もかもうまくはいかないものよ」
=「論より証拠・物は試し(ことわざ)」
「プリンの証拠は食べることにある」が直訳のことわざですが、「プリンは食べてみなければその味(おいしさ)が証明されない」という意味で、日本語のことわざ「論より証拠」や「物は試し」に相当します。
もともとどれだけ優れた職人が素晴らしい材料を使って作っても、出来上がったプリンの味が悪ければ意味がない、といった意味でしたが、今では転じて「やってみなければどうなるか分からない」というメッセージとして使われています。
“The proof is in the pudding.” や “the proof of the pudding” のように短く言い換えられることもあります。
なお、日本語の「プリン」はプディングがなまったカタカナ言葉です。
いかがだったでしょうか。今回は食べ物を使ったイディオムやことわざをご紹介しました。
文字通りの意味を運ばないイディオムは、学習者としてはとてもやっかいに感じます。
でもネイティブの人たちは、それがイディオムであることさえ意識しないくらいに、日常的に当たり前にそれらを使いこなしているものです。それほどイディオムは会話の中で多用され、受け入れられています。
つまり文法や単語などとは別にイディオムを学ぶこともまた、会話力の向上のためには必要なことだということです。あまり重くとらえず、数々のユニークなフレーズを楽しみながら覚えていけるといいですね。