【ユニコーン企業って何?】あの英単語、IT業界で使うと意外な業界用語に早変わり
以前に私が共著した三省堂の「ICTことば辞典」では、テクノロジーやコンピュータに関する基本的な250の用語を網羅しました。
あらゆる生活用品がインターネットに繋がった「IoT(Internet of Things)」や、機械学習を意味する「Machine Learning」など、IT業界では最新技術を指す言葉が次々に登場します。
今回は、技術的な用語とはちょっと違う、IT業界特有の用語をピックアップしてみました。これらの用語には、とある"共通点"があります。それは、それらの英単語が人々が日常的に使うものであると同時に、IT業界では独特の意味を持っているということ。
それでは、ITスタートアップ界隈でよく耳にする7つの業界用語をご紹介します。
1. Sticky(スティッキー)

“Sticky(スティッキー)” は、本来であれば「ねばねば」「べとつく」といった意味の英単語です。“Sticky rice” と言えばもち米のことですし、“Sticky notes” はペタペタ貼り付けるポストイットのこと。では、 “Sticky” はIT業界ではどのように使われるのでしょうか?
“Sticky website” や ”Sticky app” といったように、ユーザが思わず何度も使いたくなったり、長く滞在したくなったりするような魅力を持つ製品やサービスを表現する際に使います。ソフトウェア開発のコストがぐんと下がった今、ある意味、サービスをつくるだけなら誰でもできてしまいます。
肝心なのは、ユーザを呼び込んだ後にどれだけ長く使い続けてもらうことができるかです。そんなすべてのスタートアップが目指すサービスを表す形容詞が “sticky” なのです。
- 使用例
- “It’s great that the number of downloads is increasing by the minute. But how do we make our app more sticky so that people stay?”
- 「ダウンロード数が毎分のように伸びているのは素晴らしいことだ。でも、どうすれば、もっとユーザーが定着するアプリにできるだろう?」
2. Pivot(ピボット)
“Pivot(ピボット)” は「枢軸、くるっと回る」という意味の英単語。バスケットボールでは、軸足を中心とした回転のことをピボットと言いますよね。
スタートアップにピボットを当てはめると、それは事業やサービス内容、ターゲットを方向転換し、軌道修正することを意味します。事業の見通しが良いなら方向転換の必要ないはずなので、ピボットせずに済むならそれに越したことはないでしょう。
ところが、昨今のサービス作りの傾向を考えると、事業のピボットは決して珍しくなくなってきています。モノが溢れ、消費者の価値観が多様化した今、消費者が本当に望むものを見抜くことは困難です。
消費者はきっとこれが欲しいはずだと思い込みで突っ走るのではなく、まずは小さなアイディアの種から始めて、消費者のフィードバックを得ながら改善を続ける手法が普及しています。そういう意味で、ピボットは挫折ではなく、立派な戦略の一つだと言えるかもしれません。
- 使用例
- “We’ve decided to pivot our target to enterprises instead of consumers.”
- 「ターゲットを、これまでの消費者から法人向けに方向転換することに決めました。」
3. Runway(ランウェイ)

一般的に “Runway(ランウェイ)” は、飛行機の滑走路やファッションショーなどが行われる「舞台」のことを指します。その “Runway” も、生き残りをかけた熾烈な戦いが繰り広げられるスタートアップ業界では、ちょっと特別な意味を持ちます。
スタートアップにとってのランウェイとは、会社が倒産に追いやられるまでに残された時間や資金のこと。会社の収入と支出が変わらないという前提条件のもとで、どれだけの期間を走り続けることができるのか。仮に、まだ一切の売り上げがないスタートアップの毎月のコストが20万円の場合。銀行にある彼らの資金が200万円なら、彼らのランウェイは10ヶ月という計算になります。
スタートアップは、このランウェイを少しでも伸ばし、成功にたどり着くまでの時間を稼ぐために資金調達をします。ちなみに資金の回転率のことを、 “Burn rate” と言います。
- 使用例
- “In order to prolong our runway by two years, we need to raise at least three million dollars.”
- 「あと2年運営を続けるためには、少なくとも3億円を調達する必要がある。」
4. Hockey Stick(ホッケースティック)
スポーツの “Hockey Stick(ホッケースティック)” を思い浮かべてください。パックを打つ短い部分(ブレード)を左にして、右上に長いグリップ部分が伸びるように持つと、その形はチェックマークのようにも見えますよね。
この形をグラフの上に重ねてみると、始まりはなだらかで、とある時点から急激に右肩上がりで伸びていくというスタートアップの成長カーブを表します。サービスのリリース後はそこそこだった伸びが、例えば、人気ブロガーや雑誌に取り上げられるといったきっかけによって急成長する。スタートアップにとって望ましいシナリオです。
この表現は、IT業界のみならず、さまざまな事業、はたまた気候の変化といったものを表す際にも使われます。
- 使用例
- “We’re not growing fast enough. We need a hockey stick growth to win in this market.”
- 「今の成長速度では不十分だ。この市場で勝つためには、ホッケースティックのような成長カーブが必要だ。」
5. Bug(バグ)
虫を意味する英単語 “Bug" は、IT業界で働く人、その中でも特にエンジニアにとってもできれば避けて通りたいもののはず。業界では、バグはソフトウェアやハードウェアにある欠陥や不具合を表すからです。
私自身、以前に勤めていたITスタートアップでは、新機能のリリース前になると徹夜をして大量のテストを行っていました。すべてのバグを潰し、ユーザに対して不具合のないサービスを提供するためです。そんなわけで、バグをいい思い出と紐付けて考えるのは至難の技。それが蚊でも蜂でも欠陥でも、とにかくバグは苦手です…。
不具合を指すバグという表現は、ソフトウェアの時代以前から見られたようで、その由来には多説あるようで。例えば、電話回線に虫が入ることで雑音が生まれることから、電話会社が不具合をバグと呼び始めという説があります。
- 使用例
- A: “How long will it take to fix the bug we found yesterday?”
- 「昨日見つかったバグを直すのにどれだけの時間がかかりそう?」
B: “I would say a week at most. At least the bug wasn’t a showstopper.”- 「最長1週間かな。超致命的なバグじゃないだけ良かったよ。」
- ※ “Showstopper” は、「舞台を中止させてしまうほど重大な」という意味で使われる英単語です。
6. Pitch(ピッチ)
“Pitch(ピッチ)” と聞いて、皆さんがまず思い浮かべるのはきっと野球ではないでしょうか。野球ではボールを投げることを意味しますが、ビジネス用語としてのピッチは、短時間で行うプレゼンテーションのことを指します。広義には、相手に対して何らかのアイディアを簡潔に提案すること言うこともできます。
出資してもらえるように自分のサービスを投資家に対してピッチしたり、媒体で取り上げてもらえるようにメディアの記者にピッチしたり。資料作成にも時間をかけて、それを会議の場で発表するプレゼンテーションと違って、超多忙な相手にいかに短時間で興味を持ってもらうかがピッチの成否を分けます。
息抜きを求めて、週末に投資家がとあるパーティに参加したとしましょう。その時間を振り返って、彼は友人とこんな風な会話を交わすかもしれません。
- 使用例
- A: “How was this weekend’s party? Did you enjoy it?”
- 「先週末のパーティはどうだった?楽しめたかい?」
- B: “I should have remembered that this is Silicon Valley. I was listening to startups pitch every five minutes. It was some weekend.”
- 「ここがシリコンバレーだってことを忘れてたよ。5分ごとに違うスタートアップのピッチを聞かされた。とんだ週末だったよ。」
“Pitch” に関連して、“Elevator pitch” という表現があります。エレベーターに乗ってから降りるまでの短時間でピッチするという意味。聞いただけで冷や汗をかいてしまいそうな状況ですね…。その他、営業が顧客を獲得するために行うトークを “Sales pitch” などと言います。
7. Unicorn(ユニコーン)

私の場合、“Unicorn(ユニコーン)” と聞いて思い出すのは、小学生の頃に同級生の女の子たちが持っていたユニコーンが描かれた、カラフルなフォルダーなどの文具です。北米ではユニコーン=可愛いというイメージが定着していますが、そんなユニコーンもスタートアップ界隈では特殊な意味を持ちます。
ユニコーンとは、評価額が10億ドルを超えるスタートアップのこと。実在する有名なユニコーンには、ビジネスチャットツール「Slack」、自動消滅写真が人気に火をつけた「Snapchat」、ハイヤー配車アプリ「Uber」などがあります。
神話に登場するユニコーンという架空の生き物。それだけ希少であるという意味で、10億ドルの評価額を得るスタートアップを指すようになったようです。ところが、2015年頭のForbesの記事にもあるように、ここ数年のスタートアップバブルによって、今では「ユニコーンが群れをなしている」という声もあります。
- 使用例
- “Our goal is to join the unicorn club by year 2020.”
- 「僕たちのゴールは、2020年までにユニコーンの仲間入りすることです。」
まとめ
皆さんもきっとその一般的な意味を知っているであろう7つの用語。これから、IT業界でこれらの用語を耳にしたら、上記のような解釈だということを思い出してみてください。
こうした用語やフレーズを含む、ITスタートアップ業界のリアルな世界を覗いてみたい方は、HBOの「Silicon Valley(シリコンバレー)」というTVシリーズがおすすめ。友人のスタートアップ創業者は、その内容があまりにもリアル過ぎて途中から見るのをやめてしまったほどです(笑)。
