モカシンやカヤックも?ネイティブアメリカンの言語と英語の関係性
英語で Indian と書くと「インド人」を意味します。しかし、カタカナで「インディアン」と書くと、たいていの人はインド人ではなくアメリカの先住民のことだと思うでしょう。
英語で「アメリカの先住民」は Native American(ネイティブアメリカン)あるいは American Indian などと表現されます。現在、アメリカ合衆国には574の異なる先住民族が存在しており、実は私たちも知らずに彼らの言語の影響を受けています。
当記事では、ネイティブアメリカンにまつわるキーワードや、彼らの言葉から生まれた英単語をご紹介していきます!
ネイティブアメリカンとは?
Native とは「本来の、その国に生まれた、その土地固有の」といった意味の形容詞です。
Native American と言えば、ヨーロッパから人が移住してくる以前からアメリカに住んでいる先住民の人々を指し、American Indian(アメリカン・インディアン)と表現されることもあります。
American Indian という言葉は、1492年にアメリカ大陸に到着したクリストファー・コロンブスが、インドに到達したと勘違いしたことに由来するとされています。この誤用は時が経っても続き、アメリカ大陸の先住民を指す言葉として一般的に使われるようになったのです。
2022年時点では、アメリカ連邦政府が公式に認めているネイティブアメリカンの民族は574存在し、2021年のデータではアメリカの人口の2.9%を占めています。
ネイティブアメリカンの人口が多い上位3州は、アラスカ州(21.9%)、オクラホマ州(16.0%)、ニューメキシコ州(12.4%)です(2022年)。
なお、同じ北米でもカナダでは先住民を指して Indigenous people(インディジナス・ピープル)という表現がよく使われます。Native も indigenous も意味は同じで、他に Aboriginal(アボリジナル)という同義語もありますが、Aboriginal はオーストラリアの先住民を指すことが多いです。
ネイティブアメリカンの記述を理解するためのキーワード
ここで、ネイティブアメリカンに関する記述でよく出てくる英単語をいくつかご紹介しましょう。
reservation(保留地/居留地)
白人入植者たちは強制移住するなどしてネイティブアメリカンを特定の土地に住まわせ、そこをインディアン保留地/居留地としました。英語では Indian reservation と言います。
連邦政府が認めるネイティブアメリカンの保留地は現在324あり、もっとも大きいのはアリゾナ、ニューメキシコ、ユタ州にまたがるナバホ族の保留地です。
tribe(部族)
日本語で「部族」を指しますが、日本語の部族も英語の tribe も「未開の(primitive)」といった侮蔑的ニュアンスがあることも知っておくとよいでしょう。言い換え表現としてよく出てくるのが nation / people / community などの言葉です。
なお、ネイティブアメリカンの中でもっとも人口が多いのはナバホ族(約40万人)です。 チェロキー族(約30万人)、チョクトー族(約26万人)が続きます(2021年)。
ネイティブアメリカンの勇敢さを称え、「Apache(アパッチ族)」「Chickasaw(チカソー族)」「Chinook(チヌーク族)」などアメリカ軍のヘリコプターは彼らにちなんで名付けられる伝統があります。
nation(部族)
「国家、国民」という意味で使われることが多い nation は、文脈により tribe の同義語や先住民自治政府の意味にもなります。Navajo Nation(ナバホ族/ナバホネーション)、Cherokee Nation(チェロキー族/チェロキーネーション)のように使われます。
chief(酋長、首長)
ネイティブアメリカンのリーダーは chief(チーフ)と表現されます。日本語ではしばしば「酋長(しゅうちょう)」と訳されますが、酋長という日本語は「未開な部族の長」を指す意味合いがあることもまた知っておくとよいでしょう。訳者によっては「首長」と表現されていることがあります。
settler(入植者)
settle は「定住する」という意味の動詞です。ネイティブアメリカンに対し、ヨーロッパから移住してきた入植者は settler と呼びます。
ネイティブアメリカンの言語から生まれた英単語
実は、私たちがよく知る言葉のなかにもネイティブアメリカンの言葉が由来となっているものがたくさんあります! 英語、フランス語、スペイン語などの影響を経て今の形に至るものもあります。身近な言葉の例を挙げてみましょう。
hickory、pecan
hickory(ヒッコリー)は北米原産の大樹です。ファッションが好きならヒッコリーストライプという生地もご存じかもしれませんね。
また、アメリカのお菓子でよく使われる pecan nuts(ピカンナッツ)はヒッコリーの木の実です。どちらも、カナダ~アメリカ北西部を中心に広がるアルゴンキン系民族の言葉です。
moccasin
ポウハタン語に由来する moccasin(モカシン)とは、柔らかい革靴やスリッパの一種を意味します。
skunk、opossum
可愛らしい見た目で愛される動物 skunk(スカンク)と opossum(オポッサム)もアルゴンキンの言葉が語源です。
kayak, canoe
kayak(カヤック)はアラスカ〜カナダの民族イヌイットの言葉です。ちなみに、カヤックによく似ている canoe(カヌー)は南米・アラワク族の言葉です。
bayou
東京ディズニーリゾートに「ブルーバイユー(Blue Bayou)」という名のレストランがあることをご存じの方も多いでしょう。バイユーとはチョクトー語で入り江の意味です。
tomahawk
アメリカ軍のミサイル・トマホークもアルゴンキン系民族の言葉です。トマホークは彼らが使う斧のことです。
このようにさまざまな民族の言語由来の単語が今も広く使われているということがわかります。
アメリカの州の名前に隠された意味
Washington(ワシントン)や Madison(マディソン)など、ヨーロッパからの移住者たちは土地に偉人の名前を付けますが、ネイティブアメリカンはみんなの共有物である土地に個人名を付ける文化はありません。彼らはその土地の特徴を表す地理的な名前を付けます。
例えば、マサチューセッツ(Massachusetts)やミシガン(Michigan)はアルゴンキン族の言葉でそれぞれ「大きな丘」「大きな湖」を、ミシシッピ(Mississippi)はオジブワ族の言葉で「大きな川」を意味します。
また、オクラホマ(Oklahoma)はチョクトー族の言葉で「赤い人々」という意味があるなど、アメリカの州名にはネイティブアメリカンの言葉が由来となっているものがたくさんありますよ。
アメリカ合衆国内務省のウェブサイトに米国50州の名前の由来一覧があります。興味があったらぜひ見てみてください!
まとめ
近年、アメリカの野球やアメフトなどプロスポーツチームは、ネイティブアメリカンの名前にちなんだ名前やロゴはネイティブアメリカン文化の盗用に当たるとして変更する動きがありました。
同様に、Jeep社の車種「Cherokee(チェロキー)」の名前使用中止が求められたニュースがあったのは2021年のことです。 チェロキー族は、自分たちの民族名が商業利用されることに対して文化的な尊厳が損なわれると主張したのです。
アメリカの歴史は先住民との関わりを抜きにして語れません。ネイティブアメリカンの文化を通してアメリカを見たら、まったく違う側面が見えてきます! 言語学習の際には文化的な背景も学習してみると、新たな発見があるかもしれませんね。