さな
(更新)
最近「ワーケーション」という言葉、よく耳にするかと思います。
略さずに言うと「ワーキング・バケーション (Working Vacation)」ですが、日本語に直訳すると「働きながらの休暇」という意味になりますよね。
これ、矛盾していると思いませんか?
実は、このようにわざとワードを矛盾させ、意味を強調したり目立たせたりする語法が英語にはあるのです。日本語で言うと「撞着語法(どうちゃくごほう)」ですが、英語ではこれを oxymoron(オクシモロン)と呼びます。
oxymoron は普段の会話で聞くこともありますし、ニュースやテレビ、文学や映画・音楽でも使われることが多いです。
今回はなぜ oxymoron が使われるのか、そして聞いたことがあるかもしれない有名な oxymoron をご紹介したいと思います!
Merriam-Websterという辞典では、oxymoron はこのように説明されています:
a combination of words that have opposite or very different meanings
日本語にすると、「反対の意味または非常に異なる意味を持つ単語の組み合わせ」ですね。
では、なぜこのような手法があるのか、もう少し詳しく説明します。
oxymoron が使用される1番の理由は「印象に残る」からです。読んだ文章が明らかに矛盾していたら、「いやいや!」とツッコみたくなりますよね。
そしてもうひとつの理由は、「もっと深い意味を表す」ことが多いからです。
たとえば、日本語では「ほろ苦い」と訳される bittersweet という言葉はご存知ですか? bitter は「苦い」、sweet は「甘い」という意味なので、実はこの言葉は oxymoron なのです。
そしてこの言葉は、幸福のなかに悔しさもあるというふうに捉えることができます。このように真逆の感情が共存しているって不思議だと思いませんか?
oxymoron は、読んでいる人にものごとをもっと深く考えてもらうために、使用されることが多いのです。
では早速ですが、普段耳にすることもあるであろう oxymoron をいくつかご紹介していきたいと思います!
直訳すると「小さな群衆」です。
crowded は「混雑」という意味ですよね。これが名詞になると crowd になります。そして「人々の集まり」と表現したいときは a crowd of people と言うことができます。
とても抽象的な表現なので、a small crowd から a big crowd になるには何人の人がいないといけないのかははっきり言えませんが、ニュースでもよく使われる言葉なのでここで覚えておくと良いでしょう。
「ストリートパフォーマーを見るために複数の人が集まった」
「ニュース」は細かく訳すと「最新情報」という意味です。それが old になると「昔の」「古い」「時代遅れ」の情報というニュアンスになります。
日本語で「その話まだ聞いていなかったの?」や「え、それ知らなかったの?」というふうに驚かれたことはありませんか? 英語では、You haven’t heard? That’s old news のように表現されることが多いです。
こちらは日常会話にもよく出てくるフレーズですよ。
「ジョンとサラが婚約したのはけっこう昔の話らしい」
「ひどく良い」って意味がわからないですよね?
awful という言葉は「最悪」や「ひどい」という意味で普段使われますが、awfully のように副詞として使う場合は、「ものすごく」という強調文になることもあります。なので、awfully good は「ものすごく上手」というニュアンスになるのです。
「わあ、あなたギターがものすごく上手なのね!」
good grief という表現は、驚きや煩わしさを表すときに使います。Good God! という驚きを示すフレーズからきているそうです。
grief は「悲しみ」や「悲嘆」を表す言葉ですが、good grief は「良い悲しみ」という意味にはなりません。日本語で言うと「やれやれ」のような感じでしょうか。
「やれやれ!また間違ったことをしてしまったよ」
ちなみに、good grief! はピーナッツのチャーリー・ブラウンがよく言うセリフとして有名ですよ!
直訳すると「中・外」ですよね。これも日常会話でよく使われる oxymoron です。
inside out は日本語で言うと「裏返し」という意味になります。
「あなたのシャツ、裏返しになっているよ」
こちらは直訳すると「受動攻撃性」となります。基本的には「行動」という意味の behavior を最後につけて使用されることが多いです。
passive agressive behavior というのは、あえて後ろに引いて他者に攻撃をするという意味です。何か問題があっても相手には直接伝えず、黙ったり無視したり、迷惑がかかるほど怠ける状態を指します。
「彼女の受動的攻撃行動が気に入らなかったため、多くの人は彼女を避けました」
oxymoron が使用されるのは印象に残るからと先ほど説明しましたが、実はこれを理由に映画やドラマの題名として使用されることが多いのです!
では、どのような作品があるのか見てみましょう。なかには聞いたことのある作品もあるかと思います。
こちらはスタンリー・キューブリックの名作映画。当時夫婦だったトム・クルーズとニコール・キッドマンがともに出演した作品で、題名を直訳すると「目を見閉じて」になります。
矛盾している部分は wide shut のところですね。wide は「広い」の他に「最大限に」という意味合いもあるので、この映画のタイトルは「目を最大限に閉じている」という意味になります。不思議ですよね。
Eyes wide open(目を見開いて)という慣用句を少しひねっていることで皮肉が加わり、人々を引き寄せる題名になっています。
※ この映画はR18+指定となります。
こちらはおそらく聞いたことのある題名ではないでしょうか?
直訳すると「未来へ戻る」です。いい感じに矛盾していますね。
タイムスリップをテーマとした映画に対してもっともふさわしいタイトルだと思いませんか?
この言葉遊びによって、何十年も人々の心をつかみ続けている作品になったとも言えるでしょう。
元祖ゾンビ映画として知られるこちらの作品。当時の人はこの単語の組み合わせを見て衝撃を受けたのではないでしょうか?
The Living Dead は「生きた死者」という意味なので、まさにゾンビを表している的確なワードの組み合わせですね。
映画やドラマの他に、曲名としても oxymoron は登場することがあります。
ここで、3つ紹介したいと思います。
The Sound of Silence は日本語に言い換えると「沈黙の音」という意味になります。
こちらはアメリカを代表するフォークデュオの名曲で、さまざまなアーティストにカバーされるほど有名です。
このタイトルを見るだけで、「もっと深い意味合いが隠されているのでは?」と考えさせられる人もいるかもしれませんね。
歌詞は複雑で理解しづらいところもあるかと思いますが、興味ある方はぜひ勉強の題材にしてみてください。
こちらの題名は訳すと「ピエロの涙」になります。
ピエロは人を笑わせる職業なのに、なぜ泣いているの? と不思議に思うかもしれません。
この矛盾によって人々を引き付け、さらにもっと深く考えさせるのです。いつも他人を笑わせている人でも悲しいときだってありますよね。ピエロが仮面の裏で泣いていると思うと、なんだか切ないですね。
Smokey Robinsonはアメリカのソウルミュージックやモータウン*を代表するアーティストです。素敵な曲なので、歌詞を見ながら聴いてみると良いでしょう!
*モータウンとは、1959年に設立したアメリカ・ミシガン州デトロイト発祥のレコードレーベルです。ソウルミュージック、R&B、ポップスを中心にさまざまな人気アーティストを生み出しました。
日本語にすると「冷たい炎」という題名の曲ですが、こちらは恋愛や人間関係の大変さについて語っています。
曲の最後には Love can turn to a long, cold burn という歌詞が出てきますが、訳すと「愛は長くて冷たい火傷に変わることがあります」になります。
「冷たい火傷」というフレーズがなんだか印象に残りますよね。
この曲では愛が比喩的に表現されていて、歌詞もシンプルなので英語の勉強にも役立つかと思います。
Rush はカナダを代表する3ピースロックバンドです! 興味ある方はぜひお聴きください。
言葉遊びっておもしろいですよね。
逆の意味を持つ言葉を並べるだけでこんなにも意味合いが変わり、印象に残り、人々を引き寄せる力があるってすごいことだと思いませんか?
実際は意味が成り立っていないのに英語では定着しているフレーズや、名作映画や名曲の題名になって人々の心をつかんでいるものもなかにはありましたね。
みなさんも、意味を深く考えずに使ってしまっている oxymoron もあるのではないでしょうか?
そして、本や映画を選ぶとき、または好きなアーティストの曲を聴くときに、実は意味が矛盾している言葉やフレーズがあるかもしれません。普段の生活のなかに忍び込んでいる oxymoron を探してみるのもおもしろいかと思います。