高橋 敏之
(更新)
皆さん、こんにちは。
英語学習用の週刊英字新聞『The Japan Times Alpha』編集長の高橋敏之です。
私は仕事柄、日本語・英語両方のニュースを事細かにチェックしています。
そんな経験から、今回は日本語のニュースでよく耳にする時事用語を英語で何と言うのかをご紹介しましょう。
現在日本には、子供を預ける保育園が見つからずに育児休暇から復帰できない母親たちが数多くいて、社会問題となっています。
こうした子供たちは、保育園に空きができるのを「待っている」ため「待機児童」と呼ばれますね。この言葉は、英語でどのように表現したらよいでしょうか?
もちろん待機児童問題というのは、基本的に日本特有の現象なので、ぴったり当てはまる英語が存在するわけではありません。そのため、いろいろな表現が可能です。
私のお薦めは "children on nursery school waiting lists" のように、「保育園の順番待ちリスト(waiting lists)に載っている子供」と表現すること。
これは応用するのが比較的簡単な言い方で、例えば「彼らの息子は待機児童だ」なら、"Their son is on nursery school waiting lists." のように言うことができます。
「内閣改造」とは首相が憲法68条に基づいて実施する閣僚の入れ替えのこと。
これは英語で "cabinet reshuffle" と表現するのが一般的です。"cabinet" は「内閣」、 "reshuffle" は、カードなどを「(再び)シャッフルすること」という意味。まさに内閣の人事をシャッフルするように入れ替える様子を表しています。
ちなみに「内閣を改造する」なら、"reshuffle" を動詞として使って "reshuffle his/her cabinet" と表現することができます。
ご存じの通り、日本には「ふるさと納税」というシステムがあります。
これは、個人が特定の地方自治体に寄付をすると、寄付した額(2,000円の自己負担を除く)が所得税や居住地の住民税から軽減される制度です。黒毛和牛や毛ガニなど、自治体がお礼として贈る豪華な返礼品が、しばしば話題になりますね。
この「ふるさと納税」を英語にする際には、少し注意が必要です。というのも「税」という言葉が入っていますが、厳密にはこれって税金ではないですよね。
実態としてはむしろ「寄付」に近いため、 "tax"(税)より "donation"(寄付)という語を使いたいところ。一番簡単なのは "hometown donation system" でしょう。
ただし "hometown" とはいっても、寄付する自治体は自分の "hometown"(故郷)とは限らないため、名称だけ伝えても、制度の中身は英語話者には伝わらないかもしれません。
そのため、"a donation that people offer to the local government of their choice"(人々が自分の選択した地方自治体に対して行う寄付)のような説明を加えてもよいでしょう。
今年6月に、天皇陛下の退位を一代限りで認める特例法が、参院本会議で可決・成立しました。天皇が生前退位するのは、実に200年ぶりのことです。
「生前退位する」ということは、つまり天皇という地位を辞することですから、英語では "resign" や "step down" を使っても表すことができます。ただし、これらは「辞める、辞任する」という意味では一般的であるものの、陛下の退位に対して使うには言葉としてやや軽いかもしれません。
おそらく、これらよりもしっくりくるのは "abdicate" でしょう。これは「(王族が)退位する」という意味で用いる動詞なので、陛下の退位を表現するにはぴったりです。名詞形は "abdication"。これで「退位」という意味です。
ちなみに、日本語では「生前退位」と言うものの、世界的に見れば「退位=(生きている人が)王位を降りる」という前提があるため、「生前」の部分を訳出した "while he is still alive" のようなものをわざわざ付けなくてもよいでしょう。
「森友学園問題」と「加計学園問題」という大きなスキャンダルに連続して見舞われた安倍晋三首相。国会で野党の追及を受けるたびに、「印象操作」というフレーズをたびたび口にしていました。
「私も妻も関係ない。印象操作はやめていただきたい」「理事長が友人だから私が政策に影響を与えたというのは、まさに印象操作だ」などの発言を覚えていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。
この「印象操作」は、英語では "image manipulation" あたりが適当でしょう。 "manipulation" とは「操作すること」という意味の名詞で、主に不当に何かを操作する場合に使われます。つまり「image(イメージ)を操作すること」という意味ですね。
ただし、これはあくまで直訳。実際には "manipulation" の動詞形 "manipulate"(~を操る、操作する)を使って、"attempting to manipulate public opinion against me"(世論が私に反対するように操作しようとしている)のように表現する方が、「印象操作をしている」という意味を自然に表すことができます。
政治家の皆さんがよく口にする言葉に「説明責任を果たす」というものがあります。
「説明責任を果たしていただきたい」「しっかり説明責任を果たすことをお約束する」などの発言を国会中継で耳にしたことがある方もいらっしゃると思います(ただし、実際にしっかりと説明してもらった記憶があまりないのは私だけでしょうか)。
もちろん「説明責任を果たす」のは、政治家だけでなく一般の人にとっても大切なこと。これは英語では、"fulfill one’s responsibility to provide an explanation" のように表現することができます。
"fulfill" は「(責任・義務など)~を果たす」という意味の動詞で、"ful-"(fullのlが1つ落ちたもの)+"fill"(満たす)という成り立ちでできた語。つまり「何かを完全に満たす」から「義務などを果たす」という意味で使われるのです。
犯罪を計画段階で処罰する「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ改正組織犯罪処罰法が今年の6月、参院本会議で可決・成立しました。
この「共謀罪」を英語にするなら、"conspiracy charge" あたりが適当でしょう。"conspiracy" は「陰謀、共謀」という意味の名詞です。
余談ながら、この "conspiracy" は、動詞の "conspire"(共謀する)から派生した語。"con-" は「一緒に」を意味する接頭辞で、"-spire" には「息をする」という意味があります。
つまり「一緒に息をする」というのが元の意味。ここから「考えを同じくする」というイメージが生まれ、最終的に「共謀する」の意味が生じました。
他にも "-spire" が使われた語には、"inspire" や "expire" などがあります。
"inspire" は「息を入れる」から「~を奮起させる、~にひらめきを与える」。"expire" は「外に(ex-)息を吐く」つまり「息を引き取る」から「(契約が)切れる、無効になる」。
こうした語源を知ると、単語をより身近に感じられるのではないでしょうか。
いかがでしたか。
このような時事用語を英語で何と言うのか知ることができるのも、英字新聞を読む楽しみの1つだと思います。
ちなみに、私のYouTube動画チャンネル「ボキャビル・カレッジ」でも、時々こうした英語の時事用語を取り上げていますので、よろしければご覧ください。