ランサム はな
(更新)
こんにちは。
以前、「元英検面接官が明かす。準1級・1級の二次試験を突破するためのポイント」という記事を執筆させていただいた翻訳者のランサムはなです。
今回は、英検準1級・1級の一次試験についてお伝えさせていただきます。
英検準1級・1級の筆記試験は、二次面接とは異なり、ちょっとしたコツを伝授したぐらいでは合格に結びつきません。特に1級は、ハードルが格段に高くなります。事実、英検1級は、合格率も例年10%程度と極端に低く、日本英語検定協会の公式ページでは、準1級・1級を「リーダー(品格)の英語」と説明しています。
そして、特に受験者の多くが悩まされるのが「語彙」ではないでしょうか。英検1級では「教養ある英語」が求められ、大問1の空欄穴埋め問題をはじめ、長文にも難解な語彙がたくさん出て来ます。
本記事では、そうした難解語彙を習得、また、たとえ意味を知らなくても正確に読み解くためのコツとして、「多読」という観点からお話したいと思います。
私はアメリカに一年間の留学経験があり、留学生当時を振り返ったときに最初に思い出すのは、課題図書が異常に多かったこと。学生のキャパなどまったく無視しているとしか思えない、青ざめるほどの膨大な参考図書…。
一週間の間に、一科目につき2~3冊の課題図書が宿題として出されることもザラでした。こんなもの、いちいちのんびり辞書を引いていたら間に合いません。連日朝の2時、3時まで頑張っても、最後まで読み切れることはありませんでした。
それでもひたすら、読めるところまで読む。わかってもわからなくても、わからないまま先に進む。ちょっとでも上達しなければ容赦なくふるい落とされることがわかっていたので、当時は必死でした。頭が飽和状態になって、気がつくと図書館のカウチで寝落ちしていることもよくありました。
ところが数ヶ月そのような特訓を続けているうちに、だんだんと文章を頭の中で日本語に翻訳しなくても、英語の内容が頭に入るようになってきたのです。日本語に置き換える手間がなくなると、読解速度は急速に上がりました。
今になって振り返ると、実はこの猛特訓が脳のストレッチとなり、英語力アップにつながったのではないかと思います。過大な負荷を脳にかけたために、あたかも脳がオーバーヒートを起こし、日本語回路を迂回しなくても済むように英語回路を作ったかのように感じるのです。
アメリカの大学で学生が宿題として読ませられる本は、まさに英検1級に求められる「教養ある英語」。このような英語を読んだときに「翻訳しなくても意味がわかる」かどうかが、英検においても1つの合格の目安になるのではないかと思います。
さて、多読を始めたことで、「翻訳しなくても意味がわかる」以外に、もう1つ鍛えられたスキルがあります。それは「単語の意味がわからないときに、前後の文脈から意味を判断する」力です。
前述の通り、多読を始めたもともとの理由は「辞書を引いていたら間に合わない」からでした。つまり私は多読を始めた時点で、辞書に頼る生活をやめました。これに伴い、ボキャブラリーを暗記するというこれまでの訓練もやめてしまったのです。
しかし意図的に1つ1つ単語を覚える作業をしなくても、多読を続けることで英語力は総合的に伸びて行きました。ちょうど日本人が日本語で新聞を読んでわからない単語があったときにいちいち調べたりしないのと同様に、英語でもわからないなりに周囲の情報を組み合わせることで、全体から推測する力が付いてきたのです。
英検1級・準1級の一次試験の中に、抜けている単語を補う問題があります。ここで出題されている選択肢は難易度の高いものが多く、この意味を全部知っていなければ、合格できないのだと思い込んでいる受験者の方は非常に多いようですが、必ずしもすべての単語を知っていなければ合格できないわけではありません。
英検1級は対象となる分野が広く、時として非常に高度で専門的な単語が出題されることがあります。そのため、出題分野の専門家でないとわからない単語が混じっていることもあるのです。
そんな中で、単語の1つや2つわからなくても前後の文脈から正解を判断する力があると、非常に便利。出題される単語を全部知らなくても、消去法で正解を割り出すことができるからです。こうした応用力が身につくと、どのような分野から課題文が出題されても対応できるようになります。
私は生来怠け者なので、自分を追い込む環境に身を置かなければこのような訓練ができませんでした。でも幸いなことに、多読は日本にいながらでも特訓が可能です。ひたすら英文をたくさん読めばいいのですから。
自分のキャパを超えていると思うぐらいの負荷をかけ続けるのがコツです。全部意味がわからなくても大丈夫。読書好きな方であればそれほど大変な作業ではないかもしれません。
ありがたい点は、この「頭のストレッチ」をしている最中は辛くても、一度身についた英語力は身体が覚えているので失うことはないということ。自転車に乗るときや泳ぐときと同じように、しばらく実践しないと鈍ることはあっても、能力が完全に失われるということはありません。
今頑張っておけば、一生ものの力を身につけることができるのです。
まずは英字新聞を辞書なしで読む練習から始めてみてはいかがでしょうか。
やみくもに記事を選ぶのではなく、スポーツでも書評でも何でもいいので、自分が興味のある分野や既に内容を日本語で理解しているテーマを選ぶと読み進めやすいと思います。時事問題が苦手な方は、興味のある雑誌・洋書でも構いません。
自分が関心のあるトピックを選ぶと、予備知識があるので、「英語では同じことを説明するのにこういう言い回しを使うのか」という新鮮な発見にもなりますし、海外の視点を知ると会話のネタにもなるので一石二鳥。
少し大変なぐらいがちょうどいいので、最初は1日5記事を目安に始めてみてください。そして一回だけ目を通して終わりにするのでなく、少し時間をあけて同じ記事を2~3回読んでみてください(朝、朝刊の記事に目を通し、帰宅してから寝る前にもう一度読むなど)。
最初よりも2回目、2回目よりも3回目の方が速く読めて、理解が高まっていることが実感できると思います。これは脳が学習している証拠。
1日5記事を無理なくクリアできるようになったら、記事の数を2倍にします。洋書であれば1日に20~30ページ読めるようになれば、まずまずの速度です。通勤電車の中でも実践できるので、ぜひ試してみてください。
英検1級、準1級対策は、かなり真剣に取り組み、一定期間地道な努力を続ける覚悟がなければなかなか合格できません。難易度が高い試験なので、一回や二回で合格しなくてもあまり気を落とさず、長期的な目を持って勉強を継続していきましょう。
多読は総合的に英語力を伸ばす究極の方法です。
応用力がつくため、語彙やリスニング力の弱点も補うことができるからです。
私は翻訳業に携わっていますが、今回お勧めした多読の習慣は、現在仕事をしているときにも非常に役立っています。前後関係の文脈から状況を判断することは、ぴったりの言葉を探り当てるうえで不可欠な作業だからです。
英検が終わった後も末永く使えるスキルなので、特に英語で食べて行きたいとお考えの方は、この機会にこの力を習得されることをお勧めします。