多岐川恵理
(更新)
やり方さえ正しければ早々に効果が出るけれど、時に停滞期が表れ、苦しくなる。
誰かが成功したと聞けば、何をしたのか気になる。
それが、ダイエットと英語学習(特にTOEIC対策)というものです。
私は日々さまざまな企業で、新入社員から管理職まで、多くの皆さんに英語学習法やTOEIC研修を行っていますが、レベルや年齢に関係なく、根がまじめな人ほど早めに壁に当たるのを目にします。
勉強しているのに、スコアに表れなくなった。
それでも続けていくなんて、苦しい。
正攻法の勉強を続ければ、必ず英語力もスコアも上がりますが、その気力が消えそう。そんなとき、ちょっと変わったことをして停滞期を一気に脱した実例をご紹介します。
まずは、本番が迫っている人向けの荒業から。
会社にスコアを提出する手前、勉強しなきゃいけない。
でもしたくない、困った。
そんな彼が取った方法が、試験前日に公式問題集の音声を9時間聞くことでした。
「耳を育てるには、あれこれ聞き散らかすのではなく、同じ素材を繰り返し丁寧に聞くこと」
私が口を酸っぱくして聞き方を指導するため、彼は英文を指と目で追いながら、ひたすら聞き続けました。
集中が切れたり、食事中のBGMになったりもしつつ、同じ模試の音声をずっと聞いていたそうです。これは、500点未満の彼にはきつかったと思います。
しかし次第に速さに慣れ、音を細部までとらえられるようになり、内容がありありとイメージできるようになれば成功。1.2~1.5倍速でも聞ければ理想的です。
「とにかく頑張ってみましたが…」
本人に成長した実感はなかったのに、翌日のTOEICテストではリスニングで自己最高得点を大きく上回り、リーディングにも好影響が出ました。諦めず、直前に根性を見せた例です。
次も、リスニング。耳は慣れるのが早いのです。
勉強と思わずに続けられる方法を知りたいと望む500点台の彼は、「現実に疲れちゃって」と言いました。
ディズニー映画は英語もきれいで速すぎないし、子供向けだから難解な語彙も構文もなくておすすめです。男子ウケはよくないかと思いきや、その彼は『TOY STORY』が好きと判明。
毎日10分でも、日本語字幕つきで英語を聞く、字幕なし、英語字幕あり等、切り替えて見るよう伝えたところ、気に入って30分くらいは見ていたようです。
ちなみにDVDの英語字幕は、セリフを書き起こしたものと、要約のものがあるので、学習者は注意が必要です。アメリカ版YAHOOで「映画の原題 script」と検索すると、ヒット映画の多くは無料で台本が手に入ります。
一部をプリントアウトして渡すと、彼は喜んでシャドーイングするようになりました。やがて全部プリントして読み込み、シャドーイングし、とうとうシリーズを制覇。
英語への心理的な障壁が崩れた彼は、やがて仲間を募って「TOEICドラマ部」を発足し、Part 3の会話を感情を込めて暗唱することで、ますます英語に親しんでいきました。
それに伴い、スコアもスルスルと上昇。高得点者になるにはディズニー映画に無い語彙や構文の習得が必要ですが、英語に慣れたため、以前のように苦痛ではなくなっているとのことでした。
続いてご紹介するのは、リスニング対策がリーディングにも功を奏した例です。
「Part 2が苦手なんです。あらすじが無いじゃないですか」
700点あたりで足踏みしていた彼女。ワンフレーズに対する返答を選ぶPart 2は、25人のネイティブが次々に脈略のない話題で話しかけてくるという特殊な状況に対応する力が求められます。
「私には英語の反射神経がない」
そう自己分析する彼女が取り組んだのが、「瞬間英作文」でした。英会話トレーニングとして人気の同名書籍がありますが、彼女は公式問題集のPart 2を利用。
会話力も上げたいと、和訳を読んで即座に自己流の英語で声に出した後、テキストの英文を音読し、覚えていきました。
「日本語から英語へのステップはTOEICに必要なさそうに見えても、成果は大きい」と彼女は言います。
Part 2の世界観に慣れ、よく出るシチュエーション、表現、構文が自分のものになり、欲しかった反射神経もついてきたようです。
「これって先読みにも効きますよね」
効果を確信した彼女は、Part 3、4の設問の瞬間英作文に取り組み、やがて本文にも手を広げ、悩んでいた頃がウソみたいに800点を超えていきました。
そして、仕事のメール作成も早くなったとか。「次はPart 7で瞬間英作文してみたい」とのことです。
Part 7は伸び続けたものの、Part 5(文法・語彙)が停滞してしまった人の例です。知識があればすぐ解ける、なければ長考は無駄なPart 5はできるだけ速く駆け抜けて、Part 7に時間を残したいところ。
こちらの生徒の当時のスコアは600点台。基礎的な文法知識もあったので、まず本番通り1問平均20秒、最長30秒で見切って解いた後、じっくり解き直すよう指導していました。
「練習問題は解けるのに、なぜスコアが出ない?」
盲点は意外なところにありました。
時間が限られた研修では、模試を除いて、一気に数問から15問程度しか解いてもらうことができません。彼女も、平日夜の限られた時間に勉強しており、5~10問解いては答え合わせのサイクルを、時間の許す限り繰り返していたのです。
しかし、それでは本番で緊張しながらも、先に進むにつれ難易度が上がる問題をバッタバッタと斬り続ける集中力が育っていませんでした。
そこで、一回の学習時にちょっと解いては答え合わせを繰り返すのをやめ、一気に数十問連続で解いて耐性をつけたことが、他パートのスコアアップにもつながりました。
「自分よりできる人に、どんな勉強をしてるか聞いて、違う部分をマネしてみました!」
効果が表れるまで、たった数週間。彼女の“open-minded”な性格が成功を呼んだといえます。その後も積極的に情報収集しながら勉強を続け、900点近くまでスコアを伸ばしました。
「主語なんて意識したことがなかった。動詞は動詞だと思ってた!」
そういう300点台の人も、ちょっと練習すれば複雑な内容を英語で表せるようになり、500点を目指す足がかりになります。文法問題でも読解でも、名詞のカタマリが瞬時に分かれば、主語、目的語などが明確になって誤読が減ります。
準動詞とは、動詞をちょっと変えて、動詞以外の役割をさせる用法。特に、不定詞(to+原形)、動名詞(ing形)、分詞(現在分詞/過去分詞)を理解し、形容詞や副詞もプラスして名詞句を作れれば、文法難民の救いになります。
「~は簡単ではない」ならば、“… isn’t easy.”。
「彼にとって」を加えるなら、文末に“for him.”をプラス。
のように、「文法ってブロックの組み立てみたい、おもしろいかも」と思える入り口が、準動詞での名詞作りなのです。
こういった基礎文法の解説は、TOEIC用テキストよりも、中学生向けの参考書が優れています。イマドキの参考書は、カラフルで親切丁寧。変にはしょって分かりやすそうに見せる大人向けテキストよりも、学生時代を思い出しながら学び直せる学習参考書をおすすめします。
TOEIC新形式では、速く正確に読む力がますます求められています。
初中級者の皆さんには是非「一気に読めた、おもしろかった」という経験をしてみてほしいです。
おすすめは『Charlie and the Chocolate Factory(チャーリーとチョコレート工場)』のような児童書。Roald Dahl(ロアルド・ダール)の本は、はずれがありません。
「英語を読む」ではなく「英語で読む」、ストーリーそのものを楽しみます。興味のある、さらっと読める分野のハウツー本もおすすめです。恋愛指南本でも!
「まさか自分に洋書が読めるとは」と驚く人は少なくないです。読解トレーニングはスラッシュリーディングが基本ですが、TOEICで煮詰まったら、ぐんぐん読み進められる素材で長時間読むことにチャレンジ。
ストーリーに入り込めたら、返り読み(行ったり来たりしながら読む)をせずに、知らない単語があっても前後から意味を推測する力も付きます。
一度「読めた!」という感覚を得ると、TOEICの長文読解に“breakthrough”が訪れます。目が英文を拒否しなくなったら、再びTOEIC問題集で、TOEICならではのトピック、語彙に慣れていきましょう。
皆さんのリーディングスコアを見ていると、Part 5,6は意外と安定しており、7の出来がスコアを大きく左右します。学習者の多くは、日ごろ英語に触れる量が全く足りていません。長文対策に弾みをつけるため、読みやすいものを長く読む練習をしてみましょう。
ダイエットと英語学習は似ていると、冒頭で述べました。
誘惑に負けて一度サボると、もうダメだと完全にやめてしまう。
自分はダメな奴だと劣等感を持つ。
ここで大切なのは、自分を責めないことです。
やめた数だけ、また戻ってきたらいい。
また始めることができたなら、それは投げ出したのではなく、単なる中休み。
スコアが停滞して、勉強から離れてしまっても、無駄な罪悪感で自分をいじめないでください。
休んだら、淡々と再開する。
これが最後にお教えする、一番単純で、大切な上達の秘訣です。