K. Inoue
(更新)
「リーディング」と聞いたとき、どのようなスキルを想像されるでしょうか?
一般的な英語学習におけるリーディングと言えば、「書かれている内容を理解し、筆者が言いたいことを読み取る力」のことを指します。
TOEICや入試などの試験対策としての読解などがまさにその典型で、多くの英語学習者の方が目指している力でもあります。
しかし、アメリカをはじめとする欧米の教育現場では、リーディングは単に内容が理解できればいい、という受動的な姿勢で捉えられているのではなく、学習者がより主体的に読む力を身に付けることを求めたリーディング教育がおこなわれています。
この主体的に読む力を養うためのリーディングが、今回ご紹介する「クリティカルリーディング」です。
クリティカルリーディングとは、直訳すると「批判的読み」です。
「批判的」と聞くとどうしても「それは違う」、「ダメだ」と否定するようなマイナスイメージを持たれるかもしれませんが、決してそうではありません。
批判的に読むというのは、書かれてある内容や筆者の主張を理解した上で、それをさまざまな視点から見つめることで、より多角的で建設的な思考を生んでいく前向きな読み方のことです。
「こんなことが書かれているけれど、本当だろうか?」、「別の角度から見てみるとまた違ったことが言えるのではないだろうか?」と、書かれてある内容を超えて思考を広げていく読み方のことなのです。
クリティカルリーディングの手順をご説明していきます。
ネットや専門書などでもいろいろなやり方が詳細に紹介されていると思いますが、ここでは初めての方向けにシンプルな手順のみご説明します。
まずは読んだものの中でどの部分を扱うか、というターゲットを決めます。
最初は易しめの論説文や新聞記事などが取り組み易いでしょう。その中から興味を持った箇所や重要だと思ったところなどを選んでみてください。
このとき、どうしてそこをピックアップしたのか、その理由も自分で考えておきましょう。
ここからすでに思考が始まるのです。
ターゲットが決まったら、その箇所について深掘りしていきます。
この過程には、単に読んで考えるだけでなく、別の情報と読み比べたり調べたりといった作業も含まれます。クリティカルリーディングにおける最も重要な部分であると言えるでしょう。
この深掘りを実行するために重要なのが「疑問の投げかけ」です。
書かれてある内容について、考えられる限り疑問を投げかけてみましょう。
たとえば、
など、いろいろな角度から疑問を投げかけてみます。
いわゆる「5W1H(Why/What/Who/When/Where/How)」も参考にすると良いでしょう。
中でも特に大切なのが「なぜ?」で、これは答えを1つに絞ることが難しく、最も論理力が要求される問いだからです。
そして最後に、「もうこれ以上疑問はないか?」と自分にも問いかけてみましょう。
筆者はこの作業を勝手に「疑問乱れ打ち」と名付けていますが、こうした疑問を持つことで、書かれていないことに対する新たな想像が生まれたり、怪しいと思ったところを自分で調べて確認したり、どんどん内容について深めていくことができるようになります。
②を通じて調べたり考えたりしたことを基に、「自分ならどう思うか」を考えてみましょう。
「文面を一読しただけでは分からなかったことが今ならわかる」、「筆者が伝えたかったこととは少し違う意見を今なら言える」という具合に、あなた独自の意見や考えを持ち、自分なりの結論を導き出すことを目指します。
つまり、読んだ記事に対する自分なりの評価をおこなうのです。
そして「筆者の主張する〇〇については□□の観点から別の見方ができる」とか「記事が指摘している〇〇という数字は□□の調査と比べると誤解が生じる恐れがある」など、あなたの結論を論理的に説明できるようになればなお良いです。
繰り返しますが、「批判的」とは、ダメだと否定したり、間違っていると攻撃したりすることではありません。
視点を変えていろいろな発想をすることで、より建設的で創造的な意見や論理を築いていくことなのです。
次に、クリティカルリーディングをおこなうことのメリットについてご説明します。
クリティカルリーディングは、すでに書かれてある文章から新たな視点や議論を発展させていくためのリーディング技術です。
この過程では、自分なりの答えに辿り着くためにいろいろな情報を読み解き、論理的に結び付けていく思考力が欠かせません。
クリティカルリーディングをおこなうことで、論理的で相手を納得させる力が身に付いていくのです。
クリティカルリーディングによって考えたことや自分なりの結論を、一度すべて書き起こしてみましょう。
思いついたものを思いついたままに書くのとは大きく異なり、論理展開に意識を集中させたライティングになることに気が付くと思います。
そして自分の書いた文章に対して、自らクリティカルリーディングをおこない、これをまた文章にしてみてください。
これがさらなる論理思考とライティング訓練になって、ご自身のライティング精度は驚くほど向上するはずです。
クリティカルリーディングは単なる論理思考訓練にとどまりません。
目の前の文章に疑問を投げかけ、調べ、考え、結論を導き出すことは、いわば「課題発見と解決力」そのものです。
私たちは日々の生活において、仕事、家庭、人間関係などあらゆる場面で課題に直面しながら、それらを都度解決することで未来へと歩みを進めています。
「何が問題だろう?」、「どうすれば解決できるだろう?」と悩み考え、自分なりの解決策を模索、実践しながら生活を送っているものです。
そうした課題発見から解決へいたるアプローチ方法は、クリティカルリーディングと根本的には同じ。
つまり、クリティカルリーディングによる思考力の養成は、生きる上での課題解決力の向上と同じと言えるのです。
日本の教育現場では欧米ほど豊富なクリティカルリーディング教育がおこなわれていないため、特にお子様のいらっしゃるご家庭では、クリティカルリーディングを家庭教育の一環として取り入れていただきたいと思います。
なんだか難しそうと思われるかもしれませんが、少しの工夫で意外と簡単にできます。
ポイントは、「なぜ?」を中心に答えが1つに決まっていない問いかけをすることです。
たとえば絵本の読み聞かせをするとき、「浦島太郎がいじめっ子から助けたのは何?」と聞くのではなく、「浦島太郎はどうしてカメさんをいじめっ子から助けたの?」と聞いてみる。
「桃太郎は何を持って鬼退治に出かけたの?」ではなく、「鬼退治に向かう桃太郎のためにきびだんごを作ったおばあさんはどんな気持ちだったと思う? それはどうして?」と聞いてみる。
「カメ」や「きびだんご」という1つの答えが用意された問いかけではなく、子どもの自由な想像で自分だけの答えを生み出すことのできる問いを投げかけてみてください。
自分で考え、その結果こんな答えに辿り着く、という思考のプロセスを体験できるよう促すのです。
そもそも好奇心旺盛な子どもは頻繁に「どうして?」と聞いてきてはいろいろなことを知りたがるものです。これを逆に大人の方からも聞いてあげてください。
「なぜ?」以外にも、「もしもこうだったら?」という問いかけも想像力を刺激します。
「もしも浦島太郎が玉手箱を開けなかったら?」、「もしも桃太郎がサル、キジ、犬を仲間にせずに1人で鬼退治に向かっていたら?」など、無限に「もしも」の状況を考えさせてみるのも面白いでしょう。
適宜ヒントを与えることが必要なこともあると思いますが、はじめから決まった答えに安易に辿り着かせるのではなく、考えるプロセスを大切にしたやり取りを目指してください。
日本の学校教育では、テストや入試問題などを見ていても、まだまだ「〇か×か」といった問題が多いものです。
採点上仕方がない部分があることも当然理解はできます。しかし、宿題でさえ、ドリルや問題集の問題を解いて終わり、といったケースも珍しくありません。
記述式の課題であっても、感想文や読んだものから該当箇所を抜き出すとか、せいぜい要点をまとめる程度のように、クリティカルリーディングほど思考力の訓練となるものは少ないように思います。
一方アメリカの教育現場では、筆者も実際に経験しましたが、国語(つまり英語)の教科書からしてそもそも日本のものの比ではないほど分厚く、授業内外で読まなければならない文量も膨大です。
(国語に限らずどの教科のテキストも辞書のように厚く重いので持ち運びがとにかく大変でした…)
そしてただ読んで理解したら終わりではなく、読んだ内容を基にテーマを決めて、まさにクリティカルリーディングを実践してレポート(感想文ではない)を書いて提出するとか、読んだ内容から「もしも」を想像して自分で新たな物語を創作する、という教育が日常的におこなわれています。
日本ではふつう大学生になってようやくおこなうようなことを、アメリカでは子どもの頃から当たり前にやっているのです。
しかもそれは国語の授業に限ったことではありません。
たとえば、社会の授業で政治や歴史や株式について、(キリスト系学校では)聖書の授業で哲学思想について、数学の授業でさえ解法についてなど、教室内で議論や討論を行い、自分の意見や考えを論理的に主張する機会が豊富に設けられています。
「クリティカル」であることの重要性をとにかく大切にしていて、その成果か、アメリカでは生徒たちが休み時間にも政治について議論したり、主張を戦わせたりしているシーンをよく見かけたものでした。
話を戻しますが、アメリカほど「クリティカル」に重きを置いていない日本では、家庭での教育がますます重要だと私は思います。
子どもたちに、将来直面する課題を乗り越えていく力を身に付けて欲しいと願うのは大人の役割ありますね。
では、以下の記事を使ってクリティカルリーディングを練習してみましょう。
Japan's Population Falls by Almost 870,000 in 5 Years
「日本の人口 5年間でほぼ87万人減少」
出典:DMM英会話デイリーニュース
Japan's population has fallen by almost 870,000 in five years, according to data from the 2020 census. As of October 1, 2020, the country's population was just over 126 million.
The previous census, which was done in 2015, showed that Japan's population had fallen for the first time since the census began in 1920. However, the rate of decline this time is smaller.
From 2015 to 2020, the population fell by 0.7%, compared to 0.8% from 2010 to 2015. It's thought that this was because of more foreigners moving to Japan as well as many Japanese people returning to the country during the COVID-19 pandemic.
Although the population decreased in 38 prefectures, it actually increased in nine of them. The highest rate of population increase was in Tokyo, at 4.1%. This was followed by Okinawa, Kanagawa, Saitama, Chiba, Aichi, Fukuoka, Shiga and Osaka.
The census also showed that Tokyo had the largest population out of all the prefectures, while Tottori had the smallest.
Despite the population declining, the number of households increased by 4.2% because more people are living alone. Japan now has an average of 2.27 people in each household — a record low.
According to the United Nations, Japan now has the 11th largest population of any country around the world. It was in 10th place last year, and was once in fifth place. This is the first time the country hasn't been in the top 10 since data could first be compared in 1950.
China has the largest population of any country, followed by India and then the US.
2020年国勢調査によると、日本の人口は5年間でほぼ87万人減少している。2020年10月1日時点で、人口はちょうど1億2千6百万人を超えたところであった。
2015年に行われた前回の国勢調査で、日本の人口は1920年に行われた最初の調査以来初の減少を示していた。しかし、今回の減少率は小さいものであった。
2010年から2015年の間の減少率0.8%と比較すると、2015年から2020年の間は0.7%の減少であった。これは日本に移住する外国人の増加と、新型コロナのパンデミックによる日本人帰国者が大勢いたことが理由であると考えられる。
38都道府県で人口が減少しているものの、9都府県では増加していた。最も高い増加率を示したのは東京で4.1%。次いで沖縄、神奈川、埼玉、千葉、愛知、福岡、滋賀、大坂である。
国勢調査は全都道府県のうち東京が最大の人口を抱えていることを示した。一方最も人口の少ない県は鳥取であった。
人口減少にもかかわらず、世帯数は4.2%増加した。これは一人暮らしの人が増えているからである。現在の日本の各世帯人数の平均は2.27人で、過去最低である。
国連によると、日本は現在世界で11番目に多くの人口を抱えた国である。昨年は10番目で、過去には5番目だったこともあった。10番以内に入らなかったのは1950年の最初のデータ以来初めてのことである。
人口世界一は中国で、インドとアメリカがそれに続いている。
日本の人口減少をテーマにした記事ですが、この記事に対していろいろな疑問をぶつけてみましょう。
たとえば、
という具合です。
この記事では客観的に国勢調査等の結果が示されているだけで、あまり主張らしい主張は見受けられません。
しかし「最も少ない」とか「過去最低」という文言、あるいはタイトルにそもそも「減少」という言葉が入っていることから、「人口減少はなんだか悪いこと」という印象を受けるのではないでしょうか。
おそらくはそれが筆者のスタンスであるとまずは理解した上で、上記のような疑問を投げかけ多くの視点や情報を手に入れることで、あなた自身が人口減少についてどのように思うのか、というあなたの意見、考え、主張を論理的に作り上げてください。
ひょっとすると、人口が増加することの問題点を見つけて、自分なら「最も少ない」や「過去最低」という言葉を使わない、という主張さえ出てくるかもしれません。
それもクリティカルリーディングによって生まれる大切な答えとなります。
単に「日本は人口が減っているらしい」と書かれている事実のみを受け取るのではなく、それをきっかけに「現状を深掘りし、じゃあ自分はどう思うか。どうにかして解決すべきか。それとも別の見方はできないか」と主体的に考え、論理的で発展的な議論に結びつけるのがクリティカルリーディングだということを体験していただけていれば嬉しいです。
いかがだったでしょうか。
情報が氾濫し、SNSによってあらゆる人々の知識、意見や考えに容易に触れられる現代だからこそ、誤った知識や他人の意見にのまれることなく生きていく力はますます必要となっています。
クリティカルリーディングを今すぐ始め、思考力強化の訓練をしてその力を高めていただければと思っています。
それこそ、まさに今読んでいるこの記事そのものもクリティカルに読んでいただきたいのです。
そうすることで、もっとよく調べてみよう、そして自分なりの答えを見つけてみようと思えるはず。この動機付けから始められることにこそ、クリティカルリーディングを知る最大のメリットがあるのです。
そして与えられたものを全て鵜呑みにするのではなく、自分で納得して受け止め、自分の新たな意見や主張として発信できる力を獲得していく。
あらゆる課題を解決する力、つまりは生きる力の養成として、クリティカルリーディングを生かしていただければ嬉しいです。