K. Inoue
(更新)
英語力を高めるための方法は実にさまざまです。
ディクテーションもその1つ。
聞こえてくる英語音声を聞こえたままに書き取る訓練法ですが、その正しいやり方をきちんと教わったという人は少ないのではないでしょうか。
そこで今回は、ディクテーションの適切なやり方から注意点、挫折しないための工夫、おすすめの教材まで広く解説していきます。
どのような訓練も、正しく実践してこそ自分の力になります。
ディクテーションを普段の学習に効果的に取り入れて、英語力の底上げに役立ててください。
ディクテーション(dictation)とは、「書き取り」のことです。
英語学習においては、リスニング力向上のための訓練として取り入れられています。
そのやり方は、「流れてくる音声を聞いて、聞いたとおりに書き起こす」というシンプルなもの。
一言一句をそっくりそのまま書き起こす「精聴」を前提とするため、英語音声に対する集中力を高め、細かい単語も含めて正確に聞き取る力を伸ばす効果があります。
そして、自分の弱点を可視化できることもディクテーションの大きなメリットです。
音声を正しく聞き取れていれば正しく書き取ることができます。逆に、聞き取りに失敗すれば正しく書き取ることはできません。
当たり前のことですが、ディクテーションでは目に見えないはずの音声を文字化するため、「失敗箇所」が目に見えて明らかになります。したがって、弱点を視覚的にあぶり出すための手段としてもとても有効なのです。
一方、ディクテーションはシンプルで取り組みやすい反面、書き起こすのに時間がかかったり、単調な作業となってすぐに飽きてしまったりと、デメリットもあります。
集中力を持続するには体力も必要ですから、なるべく短時間で計画的に進めていく工夫が必要な訓練でもある、ということには留意しておく必要があるでしょう。
ではディクテーションのやり方をご説明していきます。
いきなり書き取りを始める前に、まずは音声全体を何度か聞いてみましょう。
だいたいの内容をつかみ、おおまかな全体像を把握しておいた方が余裕をもって取り組めます。
もちろん、ある程度自信のある方や慣れている方はいきなり取り組むチャレンジをしても構いません。
書き取りは「1文ごと」を単位として取り組んでください。
文頭からピリオドまでを流したら、そこでいったん停止してから書き取ってください。大切なことは、「停止するまではペンを動かさないこと」。
ひとまとまりの1文をしっかりと聞いてこそ、意味のあるディクテーションができます。
必ず、「聞きながら書かないこと」を徹底してください。聞きながら同時にペンを動かしていると、書くことに意識が行ってしまい、聞き逃す英語がどんどん増え、結果的に余計に時間がかかってしまうことになります。
また、意識が分散することで極端なぶつ切りのディクテーションになってしまうのもよくありません。
英語を英語として聞き、「こんな内容を伝える文だな」と理解できた上で書き取ることを目指しましょう。
1文が長すぎる場合には、コンマや接続詞などいったん意味のまとまりが区切れるところで切っても構いません。
たとえば、以下の文を見てください。
You have to trust in something ― your gut, destiny, life, karma, whatever ― because believing that the dots will connect down the road will give you the confidence to follow your heart, even when it leads you off the well-worn path, and that will make all the difference.
「信じなければなりません。勇気、運命、人生にカルマ、何でも良いのです。なぜなら点と点がいつかつながると信じることは、自分の心に従う自信をもたらしてくれるからです。たとえそのことで人並みの道から外れるようなことになってしまったとしてもです。そしてそのことが、全ての違いをもたらすのです」
出典:スティーブ・ジョブズ(スタンフォード大学卒業式のスピーチ)
全体として非常に長い文となっており、これを一気に全て聞いて書き取ることは難しいでしょう。
そこで、意味のまとまりや発話者が一呼吸間を置くタイミングなどを目安に区切り、その区切りごとにディクテーションを進めます。
初級者ほど細かく、中上級者ほど大きく区切るようにするとよいでしょう。
【初級者の場合】
*believing~road までが主語
文法構造上はもう少し細かく区切ることもできますが、話者のリズムやスピード感、呼吸にも配慮するとこれくらいの分け方が適当でしょう。
【中上級者の場合】
さらにチャレンジしたい方は、2つ目と3つ目の区切り(because~your heart)を1つにまとめ、3分割程度の長さにするととてもやり応えがあると思います。
ご自身のレベルに合わせて試しながら進めてみてください。
ディクテーションは何度も繰り返してください。1回目は聞き逃したけれど2回目以降は聞き取れた、ということもあります。
もうこれ以上聞いても分からない、もうこれ以上ペンを動かせそうにない、という状態になるまで繰り返しましょう。
スクリプト(原稿)を見て、答え合わせをしてください。
聞き取れなかった部分や、聞き取ったつもりでいても実は間違えていた箇所などを確認し、赤ペンなどで分かりやすくメモしておきましょう。
④で確認したところについて、何が問題で聞き取りに失敗したのか検証してください。
たとえば「そもそも知らない単語だった」「知っている単語なのに自分が思っていた発音と違っていた」「発音の似た別の単語と聞き間違えた」「単語同士の音の連結に気づかなかった」など、いろいろな課題が見えてくるはずです。
さらに音声の問題以外にも、自分が間違えた箇所では、単語の語法や文構造がおかしいことに気が付くなど、文法的な学びが得られることもありますので、細かくチェックすることを忘れずに!
⑤の検証結果をもとに、自分の問題点を克服する訓練をしてください。
訓練の基本は音読です。単語であれ音の連結であれ、自分で正しい発音で言えるようになれば必ず聞き取ることができるようになります。
数日から1週間程度開けてからもう一度同じ音声のディクテーションをしてください。
最初に取り組んだときには聞き取ることができなかった箇所を正確に聞き取ることができるようになっていると確認できれば、成長の証として大いに喜びましょう。
もし再度同じ失敗をするようであれば、改めて該当箇所を重点的に練習してください。
集中力と体力が要求されるディクテーションは、時間もかかり疲れのもとになりがち。
このことが原因でモチベーションが下がり、もうリスニングの訓練はしたくないというネガティブな気持ちになってしまっては本末転倒です。
そこで、少しでも負担を取り除くための工夫をご紹介します。
リスニング力向上のための訓練はディクテーションだけではありません。
自分の発音力を鍛える音読や、日ごろから好きな映画やドラマや音楽を通して英語に触れることも意味のあることです。
ディクテーションにばかりこだわらず「今日はシャドウイングを重点的にやろう」、「映画のセリフを真似してみよう」など、いろいろなアプローチで英語の音に触れるようにしてみてください。
そのように選択肢を広げることで気持ち的にゆとりができるはずです。
ディクテーションに使用する英語教材のレベルは、難しいものよりも易しめのものから始めることをおすすめします。
難しいものだと聞き取れない箇所が多すぎて一向に進まないばかりか、苦労ばかりが重なってしまうだけです。
おおむね70%くらいは聞き取れる、くらいのレベルのものの方が内容理解的にも負担が少なく、効率よく取り組むことができるでしょう。
すべての文を一言一句逃さず書き取ろうとするとかなりの時間がかかる上、ペンを持つ手も疲れてしまいます。
そこで、絶対に間違いなく正確に聞き取れていると自信を持って言える文については、あえて書かないというのも時短と体力節約のためには良い選択となるでしょう。
もう1つの時短テクニックは、紙にペンで書き込むのではなく、PCにタイプするディクテーションです。
タイピングに慣れた人ならペンで書くよりもはるかに速く進められるので、PC環境のある人にはおすすめ。
スマホでの打ち込みも速いという人はそれも良いでしょう。ディクテーション用のアプリを使うのも効果的です。
リスニング力はディクテーションさえやっていれば急激に伸びるというものではありませんし、まして一夜にして劇的に効果が表れる、というものでもありません。
トライアル&エラーを繰り返すことで徐々に伸びていくもので、それなりの時間を要することを覚悟しておく必要があります。
その中で、最初から1つ1つの教材を完璧に仕上げていこうとすると、それこそ無理な負担です。
「ディクテーションのやり方とポイント」でも述べたように、問題点を探して克服していくことは大切ですが、全てを100%その都度克服していくのではなく、ある程度できたら残りはまたいずれ、くらいのいい加減さはあってもいいものだと思います。
なぜならそこで残した課題は、そのうち必ず再び直面することになるから。
解決できていない問題は、わざわざ取り返しに戻らなくても、ディクテーションやその他音読など、英語訓練を続けている限り、必ず何度もぶつかり続けるものです。
全文を聞き取るのではなく、たとえば「動詞だけ」「名詞だけ」「冠詞だけ」のようにターゲットを決め、その箇所だけスクリプトを穴埋め形式にして取り組むのも1つの工夫です。
特に冠詞や前置詞などは聞き取りにくいことも多いため、特定の課題に重点的に取り組むのに適したやり方と言えるでしょう。
音読練習などを繰り返し行い、理解も発音も完璧に仕上げた上で、最終確認としてディクテーションを行うのも良いでしょう。はじめは理解も聞き取りも上手くいかなかったものが、最後にはしっかりとできるようになったことが確認できると自信にも繋がります。
このように、1つに縛られない意識の持ち方やいろいろな工夫を通して継続的に取り組んでください。
最後に、ディクテーションにおすすめの教材をご紹介します。
ディクテーションに特化したアプリです。短めの会話やTOEIC対策問題など、幅広くディクテーションをおこなうことができます。
ループ再生機能で自動的に繰り返し流したり、スピード調節ができたりするので、自分のペースに合わせて取り組むことができるでしょう。
また、スクリプトだけでなく、全文訳や単語訳、問題解説までついていて内容がとても充実しています。
英検5級から準1級程度までの幅広いレベルの英語学習を通して、自分に合ったレベルでディクテーションすることができます。
またディクテーションだけでなく、内容や単語に関するクイズに答えたり、スピーキングの練習ができたりと、楽しみながら総合的に英語力を高められるのもおすすめポイント。
アプリ自体は無料ダウンロード可能ですが、無料版ではレッスンの一部しか受講することができません。全ての機能を利用するにはプレミアムサービス(月額2,500円)に登録する必要があります。一教材としては高額に感じますが、その分頑張ろうと自分を追い込みたい方には向いていると言えるでしょう。
著名人やセレブなどによるプレゼンで有名なTEDスピーチを使ったディクテーション用アプリです。
映像を見ながら音声を打ち込んだり、選択肢から単語を選んだりしながらディクテーションを進めていきます。文が短く切られているので、少しずつ進めていくことができます。
スピードは0.4倍速から2.1倍速までかなり幅広く調節できるので、あまり自信がない人にもおすすめ。TEDの上質なプレゼンを聞いてビジネスなどについて勉強することができるという意味でも一石二鳥です。
無料で試せる「TEDICT LITE」というアプリもありますから、まずはこの無料版で試してから購入を検討するのもよいでしょう。
単語の書きとりから短文、会話、アナウンス、ニュースなど豊富な素材でディクテーションすることができます。
量的にも1日10分程度で取り組むことができるため、これから英語の学習を始める人、忙しい人や練習にメリハリを付けたい人にもおすすめです。
留守電メッセージ、オフィスやビジネス上の会話、アナウンス、宣伝告知など社会生活で使用する実用的な英語を使ってディクテーションします。
1000~2000語の語彙レベルなので初級者のTOEIC対策としても有効です。
ディクテーション専用教材ではありませんが、世界で話題のニュースを1本30秒程度で聞くリスニング教材です。
記事によってアメリカ、イギリス、オーストラリアの3種類の英語を聞くことができ、スピードもナチュラル、ゆっくり(ポーズあり・なし)の3パターンから選べます。
ディクテーションしながら時事も学ぶことができ、TOEIC形式の問題も付いているので学習素材として充実した内容となっています。
レベルとしては中上級者向けと言えるでしょう。なお、音声はCDではなくダウンロードのみとなっています。
いかがだったでしょうか。
ディクテーションはリスニング強化のトレーニング法としてすっかり市民権を得ています。
ですがより効果を高めるためには、ただ聞いて書けばよいのではなく、しっかりとやり方を理解した上で丁寧に取り組むことが大切です。
一方、ディクテーションこそが唯一無二のリスニング訓練というわけではないことも知っておく必要があります。
英語のスピードや流れに身を任せ、大量に音声に触れる中で英語とのふれあい経験を確保し、慣れを求めていく「多聴」も絶対に欠かすことのできない大切な訓練法です。
継続的な英語学習を成功させるためにも、さまざまなアプローチから取り組むことを念頭に、ディクテーションもその1つとして取り入れていただけると嬉しいです。