K. Inoue
(更新)
いつまで経ってもリスニング力が上がらないと困っていないでしょうか。
英語のリスニングは、ただたくさん聞いていれば勝手に上達するものでは決してありません。
なかなか上達しない原因は何なのか、それを克服するためにどんな練習をすれば良いのか、改善していくにはご自身の状況に応じたやり方を取り入れる必要があります。
今回は、リスニングが上達しない原因とその解決法についてアドバイスしていきます。
より具体的で効果抜群なメソッドに繋がるリンク集もご用意していますので、それらも合わせてぜひリスニング力向上に役立てていただければ嬉しいです。
リスニングという行為が成立するためには、大きく3つのポイントが重要になります。
それは「音」「意味」「速度」の3つ。それぞれ簡単に説明します。
「音」とは発音が聞き取れるかどうか、ということです。
聴覚を使うリスニングにとって発音は耳に直接届く重要な要素であり、これが聞き取れなければリスニングは不可能です。
「意味」とは内容が理解できるかどうか、ということです。
音が聞き取れたところで、聞こえて来る内容を理解できなければ、正しくリスニングができているとは言えません。
「速度」とは聞こえて来る音と理解が同時についていけるか、ということです。
聞いた後で日本語に訳すなど、時間をかけていてはリアルタイムの会話などではまず話についていけません。
これら3つのポイントがうまく連動することで、正確なリスニングが可能となります。
どれが欠けても正しいリスニング力は身に付かないと心得て、ご自身の課題発見と解決に繋げていくことが大切です。
※ジェスチャーなどの視覚情報が合わさることによって、相手の伝えたいことが「見えて」理解できることも実際の言語活動ではありますが、これについては今回の記事では触れません。
上記のポイントを踏まえて、リスニングができない原因を探ってみましょう。
要するに、先ほどの3つのポイントのいずれか1つでも欠けていればリスニングは成立しませんから、そこを見つめてあげればいい、ということになるわけです。
ある程度勉強しているのにリスニングだけは苦手、という人のほとんどが抱えているのがこのパターンです。
おそらく日本で最も多いリスニングトラブルではないでしょうか。
日本での英語学習者の多くは、文法や読解の勉強がまずありきで、後からリスニングをやろうとしがち。
そのため、「読んだときは分かったのにいざリスニングとなると聞き取れなかった」、「聞き取れないけど、後でスクリプト(原稿)を読んだら『なんだ、そういうことだったのか』と分かる」という現象が頻発します。
これは明らかに音を無視した、いわゆる「机上の勉強」としての英語学習の弊害と言えるでしょう。
ある程度リスニングに慣れた人や、リスニング力が比較的高い人に多いのがこのパターン。
正確に発音を聞き取ることができるのに、「え、その単語何? 今のフレーズどういう意味?」と要所でリスニングが失敗するのです。
このケースでは、ピンポイントで分からない箇所を指摘でき、音もほぼ正確に聴き取れているのでかなり容易に改善することができます。
また、文脈がしっかりとつかめていれば前後関係から意味を推測することができる場合もあるので、それほど困らないことも多々あります。
ただ、理解できない単語が多すぎる場合、それが名詞なのか動詞なのかといった文法解釈上の問題に繋がり、文脈や前後関係から意味を推測することを阻害してしまうこともあるのが要注意ポイントです。
読んだら十分理解できるし、音もしっかり理解したはずなのに、いざ音声を流してみるとついていけない、というパターンです。
これも日本の学習者には多い現象ですが、その原因は日本語と英語の構造的な違いにあります。
詳しくは後述しますが、このタイプの問題を抱えている人の多くは、英語をどうしても日本語に変換して理解しようとするクセがあります。
言語的に大きく異なる構造を抱える英語と日本語を変換する場合、一度英語を聞き取ってから日本語を考えるという作業をしなければなりません。
この処理が余計なタイムロスを生んでしまい、次々に流れていく英語のスピードについていけなくなるのです。
英語が苦手、嫌いだという人に多いのがこのパターンです。
そもそも単語や表現(定型フレーズなど)を知らず、知らないから音も分かるはずがなく、聞いたところでついていけるわけがない、という「0ベース」ゆえに複合的に要因が重なってしまうのです。
このようなことは英語嫌いの人だけでなく、初学者をはじめ単純に知識不足の人が陥ってしまう問題でもあるので、無理せずまずは単語や文法の知識を1つずつ、音と一緒に身に付けていくことに重きを置いた方が良いでしょう。
では、それぞれの原因ごとに、どのような対策や学習をおこなえば良いのかご説明していきます。
「音」を聞き取ることができない問題を解決し、英語を正しい「音」で正確に聴き取ろうとする場合、大前提として意識していただきたいことが1つあります。
それは「絶対にカタカナ発音はやめる」ということです。
カタカナ発音がリスニングにもたらす被害は甚大で、カタカナ発音は英語の音声学習にとって最大の害悪と言ってしまってもいいでしょう。
英語と日本語の音はまったく異なります。
多くの英単語はカタカナに置き換えられて表記されますが、そのカタカナ表記の音と実際の発音が一致することはまずないと思ってください。
そもそも英語と日本語では、使用している周波数の領域からして違うのです。
日本語が1500ヘルツ以下の低い周波数帯を用いているのに対して、英語は2000ヘルツ以上の高い周波数で発声されます。これはその他のヨーロッパ言語と比べても非常に高い周波数です。
人間の耳は馴染みのない周波数帯の音を聞くと「雑音」とみなしてしまうという性質があるため、日本人が英語の音に取っつきにくさを感じるのはある意味で仕方のないことでもあるのです。
ですから、日本語の周波数を用いた「日本語であるカタカナ語」で英語の音を表すことには無理があるのです。
また、母音や子音のカタカナ表記についても問題が山積みです。
5つしかない日本語の母音で英語の母音の全てをカバーすることはできません。
単独で発音される子音を、「ん」を除いて母音がいつも伴う日本語で表すことはできません。
「l」と「r」はまったく違う音なのに、カタカナではどちらも「ラ行」でしか表すことができません。
(しかもどちらもラ行の音ではないのです!)
「th」の音も、やはり誤りである「サ行」や「ザ行」でしか表すことができません。
こうした理由から、カタカナ表記というのはあくまで日本語という言語に無理やり英語を取り入れるための便宜的な措置にすぎず、実際の音とは大きく異なることをよく理解しておいてください。
ではこのような問題はどうやって解決すればよいのでしょうか。
まず周波数の問題については、「耳の慣れ」によって解決するしかありません。
暗闇に飛び込んでもしばらくすれば目が慣れてだんだん周りが見えてくるように、英語の音もたくさん触れていれば徐々に耳が慣れていきます。
リスニング力向上のための知識や技術はいろいろありますが、英語の音に触れる絶対量を増やすことがまずは必要。
母音と子音の問題については、理想的には発音記号と一緒に正しい音を学んでいくことです。
ただし発音記号を中心に勉強しようとすると手間もかかりますし、覚えることが増えてやる気も下がってしまいかねません。
誰かに教わるにしても指導者がなかなか見つからなかったり、スクールに通うにも時間もお金もかかりすぎてしまったりすることもあります。
ですから最初は、最も手軽に取り組めることとして、簡単な単語や表現をとにかくよく聞いてマネることから始めてください。
動画配信サイトなどで英語の発音の仕方(口や舌の使い方など)を説明してくれる動画もたくさんありますから、それらを利用するのも良いでしょう。
マネが苦手な人はだいたいカタカナに任せて、いつまでも日本語の五十音の音で発音しようとしてしまいます。
くどいようですが、カタカナは忘れて、音源に限りなく近い音が出せるように自分なりにチャレンジしてください。多少間違っていても、カタカナの意識を捨てられることには十分大きなメリットがあります。
余力がある人は、辞書を引く際に発音記号を確認するとか、それが電子辞書の場合は必ず音声機能を使って発音を確認するようにしてください。
ちなみに私の場合はまさにこれをずっとおこなっていて、毎回発音記号を確認しているうちに、どの記号がどの音を表すか、というのが分かるようになり、カタカナ発音と本当の発音をしっかりと区別できるようになりました。
カタカナ発音脱却のために重要なポイントの1つに「音節」があります。
音節というのは、おおむね母音を中心にまとめられた「音の区切り」のこと。
たとえば日本語の「つくえ」は「つ」「く」「え」の3つの音節で成り立っています。それぞれの音に母音が含まれているのが分かりますね。
「デスク」のようにカタカナ語にした場合も同じで、「デ」「ス」「ク」という3つの音節で成り立っていることになります。
ところが英語の「desk」の場合、1つの母音eを中心とした、たった1つの音節しかありません。「デ・ス・ク」のように3つの音が順番に発音されるのではなく、desk はたった1つのリズムで瞬時に言い終えてしまうのです。
こうした英語と日本語の音節の違いを正しく認識できないと、英語らしいリズムを身に付けることができません。
カタカナに縛られていると永遠に英語の音節は身に付かないので、これからは音節にも意識を向けるようにしてください。
単語ごとの音節は辞書を引けば分かります。
たとえば「beautiful」を調べるとbeau・ti・fulのように「・」マークで単語が分割されています。
これが音節の区切りを表していますので、ぜひ確認するようにしてみてください。
より英語の音に強くなるための更なる重要ポイントは「発音変化」です。
英語の発音は、語と語が連続するとき、いくつかのパターンで変化することがあります。
※以下の解説では、便宜的にカタカナを使用しています。
たとえば「Would you ~?」は「ウッド ユー」のように単語個々の発音がそのまま保たれるのではなく、「ウッジュー」のように別の音になって発音されます。
「an apple」は「アン アップル」ではなく「アナァポー」のように2つの単語がくっついて発音されます。
「black coffee」は「ブラック コーヒー」ではなく「ブラッカフィー」のように「black」のkの音が聞こえなくなります。
さらに1つの単語でも、アメリカ英語では「better」が「ベター」ではなく「ベラー」になるように、tがrや、ときにdのような音になることもあります。
このようにさまざまなケースに応じて発音が変化するため、こうした音の変化への対応力を磨くこともリスニングには必要です。
必ずスクリプトと照らし合わせ、どこの部分がどのように変化したのか、何度も音源を聞いて逐一確認しながら進めていきましょう。
発音変化にも関連しますが、英語には「強形」と「弱形」という区別もあります。
文字通り強く発音されることがあれば、逆に弱くしか発音されないこともある、ということです。
その区別を生み出すのが、「内容語」と「機能語」という2種類のことばです。
要するに英語では、相手に意味内容を伝えたいものは強く発音し、逆に内容的には大きな意味を持たない、文法機能的な役割のものは弱くしか発音されない、ということです。
弱形はまったく聞こえないほど弱いこともしばしばあります。
(実際に何も聞こえないために「省略」扱いされるケースもあるくらいです)
「and」が「アンド」と聞こえるはずだと思っていたのに実際には「ン」しか聞こえなかった、というようなことです。
その意味で弱形は、「聞こえないことが正解」とさえ言ってもいいくらいの代物です。
あらゆる単語がはっきりと発音されるわけではないこと、強弱によって英語はリズムを生み出しているという一面があるということも、リスニングに臨む上で重要な要素と言えるのです。
このように英語の「音」にはいろいろな角度から向き合う必要があります。
これらを踏まえて何かトレーニングをするとすれば、ディクテーションがおすすめです。
ディクテーションとは、聞き取った音声を紙に書き起こす訓練方法です。
1文(または長すぎる場合はある一定の意味のまとまり)ごとに聞き取っては書き取ることを繰り返し行います。
聞き取れるものは書き起こせる、聞き取れないものは書き起こせない、という単純な理屈ですが、これによって自分の弱点が明確になります。
なぜ自分は聞き取れなかったのか、そこではどのような音声現象が起こっていたのか、を重点的に確認することで音声変化などにどんどん慣れていくことができます。
ぜひやってみてください。
それなりに聞き取れるのに意味が理解できないことがある人の課題は、語彙力や定型表現の知識、そして文法力を強化することでかなりカバーすることができます。
たとえば、
「実は、彼女はその晩僕と一緒にいたんだ」
という文があったとして、最初の「To tell the truth」の意味が分からなければ全体のニュアンスを正しく受け取ることは難しいでしょう。
to不定詞だから「真実を言うこと」(名詞的用法)とか「真実を言うために」(副詞的用法)といった意味だと思い込んでしまったら、それこそワケが分かりません。
これはto不定詞の定型表現として、「実を言うと」の意味であるということを学習するだけで解決する問題ですから、それほど解決に手間はかからないはずです。
おおむね聞き取れるが意味が分からないことがある、という問題を抱えている人は、スクリプトを熟読して文法的に理解できない箇所はないか、単語や表現として意味が分かっていない箇所はないかということを、参考書や辞書を使ってじっくり確認してください。
リスニング向上のためにいったん読解に戻る、という作業はとても有効な手段となり得るのです。
余談ですが、過去に私はあるアメリカ人に「Your shoes look comfortable.」と言われて戸惑ったことがあります。
当時「comfortable(心地よい)」という単語を知らず、「comfortable って何だ? この人は僕の靴が一体何だと言ったんだ?」と困ってしまったのです。
結局その場でうまく聞き返すことができなかった私は、後日発音からスペルを推測して辞書を引いたり、別のアメリカ人の友人に聞いたりしてどうにか comfortable の意味を確認し、「君の靴は履き心地がよさそうだね」と言われていたことを学んだのです。
それなりにリスニングはできた半面、意味が分からないためにうまくコミュニケーションが成立させられなかった体験として今でも記憶に残っています。
読んだら十分理解できるし、音もしっかり理解したはずなのに、いざ音声を流してみるとついていけない、という人は、英語を英語のまま理解する訓練を積むことをおすすめします。
なぜなら、英語を聞いて日本語に訳してようやく理解する、というプロセスをたどっている可能性が高いからです。
英語と日本語は語順があまりにも異なるため、うまく日本語訳しようとするとどうしても英文を最後まで聞く必要があります。
しかしそれをしていては、次から次へと流れる英語の波に乗ることができません。
そこで、日本語をいちいち考えずに英語のまま頭の中で処理していく技能を磨くのです。
そのためには、意味のまとまり毎に前から読み下していくスラッシュリーディングや、これを音声化するサイトトランスレーション、聞き取りと内容理解を同時進行でおこなうシャドーイングなどの音読トレーニングを重ねてください。
「音」「意味」「速度」の複数の要因が重なることでリスニングに苦しんでいる人は、おそらく一番英語に困っている人でもあると思います。
もしご自身がそうであるなら、リスニングだけに集中するのではなく、今一度、基礎基本から学ぶ姿勢で英語に向き合ってみてください。
単語の意味もよく分からないし文法もちょっと不安だが、せめてリスニングだけでもできるようになりたい、というのは通用しないものです。
語彙と文法を基本から丁寧に学び、その都度テキストの例文など簡単な文を使って1つ1つ音声を確認し、音読することで自分でも言えるようになることを目指してコツコツと継続すれば、自ずと力はついていくものです。
実は、自分の実力と見合っていない目標設定によって学習が成功しない人はたくさんいます。
など、失敗例を挙げればきりがありません。
(にもかかわらず、多くの人が事実こうした無茶な学習に手を付けてしまっているのです…)
大切なのは、今の自分のレベルを把握して、それに見合った学習から始めることです。
このことは、どなたにも共通して頭に入れておいていただければ嬉しいです。
ここまでご紹介してきた考え方や、リスニング力を向上させるためのトレーニング方法は他の記事に具体的にまとめています。
今日からできることはたくさんあります。ぜひ上記リンクを参考に、すぐに練習に取り掛かりましょう!
いかがだったでしょうか。
一口にリスニングを上達させたいと言っても、それを実現するために見るべきポイントはさまざまで、改善するための方法も個人差があるものです。
しかしどのような人にも共通するのは、「リスニング上達のためには相当の時間を要する」ということです。
この記事に辿り着いた方はきっとリスニングがもっとできるようになりたくて、そのヒントを求めてこられたのだと思います。
この記事に限らず、多くのサイトで英語の音声に関する知識や上達のコツが紹介されています。
ですが、文法知識などとは異なり、リスニングは「技能」であるがゆえに、知識やコツを知ったところですぐさまできるようになるものではありません。
もちろん、ご紹介した情報が上達速度を速めることは確信していますが、それでも今日明日で力が突然上がるものでないことは確かです。
そのことをどうか受け入れた上で、さまざまな知識や情報を駆使して、「聞き取れないものを聞き取ることができるようになるまで繰り返すこと」を続けてください。
辛抱強く続けてこそ力になります。
辛抱強さが足りないことが、リスニング力が上達しない最大の原因になってしまわないことを願っています。