K. Inoue
(更新)
リスニングの勉強をするとき、どうやって教材を選んでいますか?
「好きな映画を字幕なしで観れるようになりたいから、映画やドラマを使ってみよう」
「TOEIC800点を目指したいから、ビジネス英語教材を買いに行こう」
こんなふうに選んではいないでしょうか。
リスニング力を上げるためには、目標に沿った教材を選ぶことも大切ですが、それだけでは必ずしも成功するとは限りません。
今回は、失敗しないための正しいリスニング教材の選び方と、参考教材をご紹介します。
本当に自分に合った教材を見つけて、リスニング力爆上げの近道になることを願っています。
一口にリスニング力を上げたいと言っても、選ぶべき教材は何でも良いわけではありません。
リスニング教材を選ぶ上で大切なことは、目標とレベルです。
ご自身の今後の目標と、現在の英語レベルを照らし合わせた上で、適切な教材を選ぶ必要があります。
たとえばこのような目標があったとして、意外とやってしまいがちな失敗は、こうした目標だけしか見ない教材を選んでしまうこと。
映画やドラマを字幕なしで観たいからと言って、中学の文法もまだ学習していない人がいきなり長編映画を教材としたところで、挫折して終わるだけでしょう。
海外の大学への留学を目指している人が、高校の教科書の英文も理解できないのにTOEFLのテキストにばかり取り組んでも時間を浪費するばかりでしょう。
自分のレベルに合わない教材を選んでも、なかなか成果が上がらなかったり、無駄に時間がかかって、かえって非効率的な勉強に陥ってしまいやすくなるのです。
教材選びの際には、目標だけでなく、現状のレベルに応じたものを選ぶことが大切なのです。
この記事では学習レベルを以下のように設定します。
中級が最も学習者の多いレベルで、同じ中級でもかなり個人差があります。
基本的な英語学習が落ち着き、ある程度の理解と余裕を持って今後の成長のために取り組むことができる反面、特に苦手とするリスニングとスピーキングにはフラストレーションを感じやすいレベルです。
ではここから、レベル毎におすすめのリスニング教材をご紹介していきます。
ここでご紹介するものを参考に、「こういうタイプの教材を選べばいいのか」とご自身で探すためのヒントにしていただければと思います。
なお、リスニング教材と言いつつ、ここでご紹介するものの多くは音読練習をセットでおこなうことのできる音読教材でもあります。
音読はリスニング力強化の近道ですから、ぜひ音読と一緒に練習してください。
筆者の個人的な好みが入っていることもご容赦ください。
市販のリスニング教材として、もはや知らない人はいないと言われるほどの名著「英語耳」の最新版。
リスニングの考え方やリスニングができない原因といったレクチャーはもちろん、子音と母音レベルでの細かな発音から音声変化まで、100%確実に英語が聞こえるようになることを目指します。
そもそもリスニングとは? 自分が思っている英語と実際の英語がこんなにも違う!、という発見からリスニング上級者への一歩を踏み出してください。
■ 「【CD-ROM・音声DL付】キクタン英会話【基礎編】」
日常会話や旅行など、英語における身近な表現をフレーズで聞きながら覚えていくための教材です。
中学レベルの易しい単語を使って、短いフレーズから徐々に大きなものへと発展的に覚えていくことができます。まずは日常会話での英語に慣れるために役立ちます。
■ 「英会話・ぜったい・音読 【入門編】—英語の基礎回路を作る本」
かつて「同時通訳の神様」と呼ばれた故国弘正雄氏によるCD付き音読教材。
中学の教科書から選択した易しくとっつきやすい英文を使って、繰り返し練習することで基礎から英語思考回路を作っていきます。入門編からステップアップするための続編、標準編、挑戦編もあるので段階的に伸ばしていくことができます。
幅広い層に意外とおすすめなのが英検教材です。
こちらは単語学習用の教材ですが、中学や高校で学習する基本文法を網羅してくれるのはもちろん、日常会話から仕事、社会、医療、文化、科学などさまざまなテーマの英文を利用しているので、汎用性の高い英語学習をすることができます。
リスニングをしながら語彙力もアップできて一石二鳥ですので、英検を受ける受けないに関わらず優れた学習教材となります。もちろん、ご自身のレベルに合わせて2級、準1級のものも使ってください。
■ 「公式TOEIC Listening & Reading 問題集 8」
英検同様、受験するしないに関わらず、試験対策用の問題集が優れた英語学習教材となることが多々あります。試験用の問題は内容が非常に練られており、英語の質にバラつきがないためです。TOEICもその1つ。
特にビジネスシーンでの英語力を目指している人にとっては内容、ボリューム共に満足できるでしょう。
こちらは中級の中でも上位者向け。キアヌ・リーヴス、デンゼル・ワシントン、シャーリーズ・セロンなど、ハリウッドを代表するスターが応じるインタビュー音源をリスニングとシャドーイング教材化したもので、ハリウッド映画好きにはたまらないと思います。
答えの用意されていないインタビューだからこそ、言いよどみや言い直しなど、リアルで生きたスピーキングを体験することができるのもこの教材の特徴です。CDには、スロースピードや、難しい箇所をナレーターが別途吹き替えたバージョンなども収録されていて、学習者への配慮がしっかりと行き届いているのもおすすめポイント。
ビジネスに関する約8分間のスピーチを用いたシャドーイング教材。意味のまとまりごとに読んで理解したり、一定の長さで切れてそのパートだけを読み上げたりするなど、いろいろなアプローチで訓練できるように工夫されていることが特徴です。
また、ナレーターは単に原稿を読んでいるのではなく、自分の言葉で語っているため、言い淀みや言い直しなどもそのまま収録されており、そのリアル感がとても面白いです。
■ 「テーマ別英単語 ACADEMIC [上級] 01 人文・社会科学編」
政治、経済、文学、思想、哲学など、アカデミックなテーマの文章を聞きながら高度な語彙力を要請していく教材です。
日常的な雑談レベルの会話の枠をはるかに超えて、高い教養と高度な英語力が試される、まさにハイグレードな英語教材。
オバマ元米大統領の就任演説スピーチがノーカットでそのまま収録されています。
リスニング教材として使いつつ、抑揚の付け方やスピードなど、聴衆を惹きつけるスピーチの手法を学ぶ手段として利用することも有益です。話し方そのものを学ぶことも上級者には求めたいところですね。
大統領はじめ世界の優れたスピーチが教材化されたものはたくさんありますから、ぜひ探してみてください。
映画やドラマといった映像を教材とするのは、基本的には中級レベル以上からと思ってください。
まだまだ音に慣れていない初級者にとっては、1本2時間もある映画の英語を聞き続けるのは苦痛ですし、1時間程度のドラマであっても、与えられる英語と情報量は膨大でとても処理しきれません。
さらに役者の口調がまちまちだったり、話し方のクセや会話特有の言い回しに振り回されたりと、対応しなければならない問題が多すぎることもおすすめできない理由。そもそも映画やドラマは、英語学習用の教材として利用されることを目的に作られているわけではないのです。
ですから、初級者の方は、ナレーターがはっきりと分かりやすい英語で収録してくれている学習用CD教材をくり返し使うのが最初はベスト。ただし、幼児向けのアニメなど、初級者でも楽しみながら視聴できるものもあります。
さて、映画やドラマを教材とすることのメリットは何でしょうか。
などが挙げられますが、個人的には、どのような作品も「日常会話の宝庫」であることが最大のメリットであると思っています。
英語学習において、「ジャンルの定めなく際限なく広がる日常会話こそが最大の難所である」と言われることがあります。
どのような作品であれ、登場人物たちが立場に関わらず自分の置かれた状況で、生活の一部として誰かと会話をしている以上、話し手のクセや訛りなども含めて、あらゆる会話は日常会話だということなのです。
中級以上のレベルに到達したところでこの「日常会話」に挑戦することで、あらゆる英語に対応できるようになることを目指せることが最大の意義であると私は思います。だからこそ映画やドラマは中級以上向けなのです。
さて、それも念頭に入れていただいた上で、いくつかおすすめの映像作品をご紹介します。
■ 「THE NEWSROOM」
ニュース番組の舞台裏を背景に、ニュース作りと人々の人間模様を描くドラマ。架空の作品でありながら、作中では実際に起こったニュースを扱うなど、とても社会性のある作品でリアルな緊張感があります。
ニュースやビジネス性の高い英語に触れられるのはもちろん、恋愛などの人間的要素も絡んでくるのでそちらも楽しむことができます。英語スピードは速めなので上級者向けです。
■ 「THE WALKING DEAD」
言わずと知れた超人気ドラマ「ウォーキング・デッド」。人間が次々とゾンビ化していく世界で、生き残るため戦い続ける人々を描くホラードラマです。
「生き残る」という根源的なテーマから、「命」や「人々との関わり」に関する話題がよく登場します。その意味で、非現実的な世界を描きながら、本質的に私たちの日常に深く関わる内容の作品でもあるのです。
登場人物たちの英語も本当に多様で、上品な英語と粗暴で下品な英語が混在したり、異なる地域出身のキャラクター同士「それどういう意味?」と自分たちの方言について聞くシーンがあるなど、英語的にもたくさんの発見があります。ただ、残酷な描写も多いので苦手な方はご注意を。
■ 「The Pursuit Of Happyness」
ウィル・スミス主演の映画「幸せのちから」です。ホームレスに落ちぶれるも、その過酷な状況を幼い息子と共に生き抜き、やがて億万長者へと駆け上がった実在の人物、クリス・ガードナーの半生を描いた作品。
営業、インターン、研修など必死で頑張る主人公と一緒にビジネスシーンに参加するような感覚で英語に触れられます。面接で自らを売り込む様子やその場でユーモアを披露する姿、雇用の形など、日本とは異なる仕事社会の事情も垣間見れて興味深いです。その意味では社会人学習者向けですが、単純に感動作としてもおすすめ。
その他、英語学習教材としてよく紹介される「Friends(フレンズ)」や「Full House(フルハウス)」、「Sex and the City(セックス・アンド・ザ・シティ)」といったホームコメディやドラマなども楽しく学べる点では良いでしょう。
映像作品は無数にありますが、ご紹介したものに限らず、まずは面白そうと思ったものや興味のある作品を鑑賞してみて、これなら続けられそうだと思うものをご自身で探してみることも大切です。
■ 「TED」
科学からエンタメ、教育、芸術、ビジネスなど、あらゆる分野の専門家や著名人がプレゼンテーションをおこなうイベント、TEDをご存知の方も多いでしょう。
映画のような作品ではありませんが、アプリやYouTubeでいつでも視聴できるサービスとしてもよく知られています。特に専門性の高い英語に強くなるための教材として上級者におすすめ。
TEDを使った詳しい学習方法やおすすめ動画については以下の記事にまとめてありますので、ぜひご覧ください。
映像は基本的には中級レベル以上向けと述べましたが、中には初級レベルの方におすすめのものもあります。
■ 「リトル・チャロ」
NHKで放映中のアニメです。子犬のチャロが仲間たちと繰り広げる感動の物語を観るたび、つい応援したくなります。
このアニメの特徴は、全編英語で描かれていることと、10分間と短いことです(番組冒頭のあらすじは日本語ですが、本編の会話やナレーションは全て英語です)。
とても易しく基本的な英語しか出てこないので、初級者の方でも取り組みやすいでしょう。
■ 日本映画の英語版
意外とおすすめなのは、すでによく知っている邦画の英語版です。
たとえば「となりのトトロ」や「魔女の宅急便」などのジブリ映画は、子どもの頃に何度も見てストーリーもセリフもだいたい頭に入っているという人も多いのではないでしょうか。
これを逆に利用して、英語版で鑑賞してみるのも有効です。今見ているシーンはどんな場面で誰が何を言っているのか、その内容が頭に入った状態で英語を聞いてみると、「あのセリフは英語だとこうやって言うんだな」ということが分かって不思議と耳に入ってくることが少なくありません。
「アナと雪の女王」、「モンスターズ・インク」、「カーズ」などのディズニー、ピクサー映画は子ども向けだから英語教材にしやすい、と考えておられる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
確かに子ども向けで分かりやすいところもあるのですが、いざ字幕なしで挑戦してみると意外と難しいことに気がつきます。
まったく知らない言い回しや、ほとんど聞き取れない訛り、早口言葉のようなスピードのマシンガントークの数々…
こうしたアニメ映画こそ、子どもたちを楽しませるために一般的な英語の枠を超えた演出をされることが頻繁にあり、実写映画よりも英語が聞きにくいということが実は意外と多いのです。ですから、安易な気持ちで「ディズニー映画で英語を学ぼう」などとは考えない方が良いでしょう。
リスニング力をアップさせるためには練習が必要です。
間違っても、ただ聞き流すだけでリスニング力が上がることはありません。
本当に必要なことは、聞くことと声に出して言うことを合わせて訓練を重ねること。
以下の記事にリスニングのポイントから音読練習の方法まで、訓練に必要な情報をまとめてありますので、ぜひご覧の上、これからの練習に生かしてください、
いかがだったでしょうか。
リスニング力アップのため、好きな映画やドラマを使っていつでも楽しく学習できるに越したことはありません。
でも自分の英語レベルに見合わないものを使ってしまうと、逆に効率が下がったり、「全然聞き取れない」と挫折や敬遠の原因にもなってしまいかねません。
目標を持ちつつ、まずはご自身の英語レベルをよく見極めてください。
その上で、本当に必要なことは何なのかを考え、教材を選んでください。
「語彙が足りないから語彙力を補いつつ練習できるもの」
「文法が不完全だから文法にもしっかり意識を向けながら取り組めるもの」
という具合に、ゴールから逆算してみると、今必要なものが見えてくるはずです。
目標達成のためには「急がば回れ」が正解になることもあると思って、正しい教材で一歩を踏み出していただけたら嬉しいです。