ショーン・ツジイ
(更新)
こんにちは。
プロイングリッシュスピーカー育成ディレクターの、ショーン・ツジイ(Shawn Tsujii)です。
前回のコラムでは、日本人英語特有の5つの発声タイプについて解説しましたが、今回はその続編として「英語に適した発声の練習法」を学んでいきましょう!
世の中にはいろいろな種類の発声練習がありますが、その中でも日本人英語話者のクセを矯正するときに効果的なトレーニング法をご紹介します。
「正しい喉の開け方」と「腹式呼吸による受動的発声法」、アメリカを代表するボイストレーナーが提唱した「リップロール」の3つです。
なかなか読み応えがありますが、最後まで読んでみてくださいね!
喉を開けるというと、「口を大きく開けて」と受け取る人が多いのですが、実際はあまり口は大きく開けなくてもかまいません。
口ではなく、喉を開けます。
以下のイラストの通り、大事なポイントは三つ。
1. 軟口蓋を上げる
2. 舌は両端を上げ、真ん中は下げる
3. 喉頭を軽く下げる+喉頭蓋(こうとうがい)を立てる
文字で表すと難しいですが、ヒトがあくびをするとき、この3つが自然と行われています。鏡の前であくびをして、確かめてください。
特に最初はコツをつかむ意味で重要ですので、大げさにやってもかまいません。
しかしながら、あくびで喉を開けることに執着しすぎると、むしろ喉に何かが詰まったような声になることがあるので、やりすぎには注意してくださいね。
ここであくびの例を出しているのは、普段意識していない口の中のどの筋肉が動いているのかを感じるため。
実際に発声練習をするときは、それほど大げさにはやりません。
慣れるに従い、それぞれの動きは小さくなっていきます。発声練習を行うとき、サッとこのポジションになれるようにしましょう。
ちなみに、特に標準アメリカ英語では、鼻音(/m/n/ŋ/)を発音するとき以外は1番のように軟口蓋は上がっていることが多いです。
このエクササイズのねらいは2つ。
横隔膜と腹筋群に腹から声を出すことに慣れさせること、そして喉を開いた状態に保ったまま発声する感覚をつかむことです。
やり方は実にシンプル!
図のように、息を吸って①のように膨らんだお腹を、息を吐きながら②の状態のようにへこませます。
そのときに吐き出される空気を使って声を出します。
声を出そうとして喉を力むのではなく、あくまで喉は開いた状態にしておいて、受動的に音が出てくる感覚です。
特定の母音を出すわけではなく、また、カタカナでもうまく表せないのですが、もし擬音で表すとすれば「ハー」や「フー」のような音が出てきます。
うまくいくとかなり深い音が出てくるでしょう。
これは身体を慣らす練習ですから、英語らしい音がでなくても構いません。
最初は人によっては滑稽な音を出しているように感じることもありますが、気にする必要はありません。
やっているうちに身体が慣れてきますし、そこにこのエクササイズの狙いがあるのです。
このエクササイズでは、受動的に音を出すことが重要。わざとらしく「ハッ」という音を出そうしてやってみると、能動的な音になってしまい、この練習の意味がなくなるので注意が必要です。
最初は短く「ハ、ハ、ハ」と区切ってやってみて、慣れてきたら音を伸ばしてみたり音程を変えてみてください。
毎回、お腹は意図的にへこませますが、喉から口先までのすべてを受動的に保つこと。
お腹をへこますだけで、勝手に音が出てくるような感覚がやってくるように。
これがいわゆる「腹から声を出す」という感覚です。
深い声を求めすぎるあまり、舌を巻きながらこの練習をしてしまう人がいますので、ご注意を。
「喉の開け方」で学んだように、舌は両側を上げ、真ん中はへこませた状態を保つように。
この練習では、感覚をつかむために大げさにお腹を膨らませたりへこませたりしますが、実際に皆さんが英語を話すときには、こんなにお腹を大きく動かして喋らないようにご注意ください。
会話時のお腹の動きははるかに内面的で小さいものです。
この腹部の操作が、小さな動き、かつ身体の内部でできるようになるためにも、皆さんの身体を馴染ませてください。
ここに英語発声の世界への入り口があります。
次に、並行して行うと効果てきめんな、もう一つのエクササイズ「リップロール」を紹介します。
アメリカの声楽教育の巨匠セス・リグスが提唱した練習法に「リップロール」というものがあります。
ヒトは、緊張した状態で声を出そうとするときや、歌うときに高い音を出そうとするときなど、ついつい喉を力ませてしまうものですが、それを打破するための練習法として世界中で実践されています。
あのマイケル・ジャクソンやマドンナも、リップロールを習って練習したことで有名です。
もともと声楽練習のためのリップロールを、なぜ英語発音の練習に用いるのかといいますと、それは日本人英語話者が、英語の「声帯と気流のコーディネーション」に慣れるため、そして発声に必要な筋肉群を鍛えるのに、非常に役に立つからです。
セス・リグスの指導方針である「話すように歌う」という表現を借りますと、ここでは逆の「歌うように話す」という考え方です。
リップロールのやり方は非常にシンプル。
①結んだ唇の両端から1.5cmぐらいのところを、左右の指先で押さえて、少し皮膚を引き上げる。
②声を出して、その気流で両唇をブルブルと震わせる。
【リップロールの例】
女性声によるリップロール、後半はライジングイントネーション(上がる音程)
慣れたら手を使わずにできるようになってきます。
強い息の力で、唇を猛スピードでブルブルさせる人が時々いますが、そんなことをしても息が続きませんし、強さやスピードはこの練習の目的ではありません。ゆっくりと長くブルブルできることが大切です。
うまくやるには、喉や首に力みを生じさせないこと、唇を脱力させておくことがコツです。ここでも受動的に。
「声帯と気流の調和」がこの練習の大きな目的。
低い音でも高い音でも、自由にいとも簡単にブルブルとできるように練習します。このブルブル音で、好きな曲のメロディをなぞっても良いし、英語のお手本のスピーチのリズムとイントネーションを真似ることも、大変良い練習です。
日本人が英語を話すとき、ライジングイントネーション(音程が上がるイントネーション)が苦手な人が大変多いです。
できていると自分で思っている人でも、実際はあまりうまくできていないことが多いですから、特にリップロールでライジングイントネーションがうまくスムーズにできるように練習してみてください。
また、リップロールの練習の目的はリップロールができるようになることではなく、リップロールを繰り返すことによって「良い声帯の習慣」を身体に染み付けることですから、数回リップロールができたぐらいでやめないように気をつけてくださいね。
これまで見てきた「正しい喉の開け方」と「腹式呼吸による受動的発声法」、そしてこの「リップロール」を実践すると、良い英語発声の身体にどんどん近づくことができるので、皆さんの声帯や気流の使い方がものすごく進歩します。
早い人なら即日でコツをつかむ人もいますが、何週間もやっているともっとうまくなります。
最初はうまくできなくても、全然構いません。ちゃんとやっていると、身体が発達してきてだんだん慣れますから、根気よく続けてくださいね。
この3つの練習により、皆さんの発声はどんどん英語らしくなってきます。今まで再現できなかったイントネーションも出せるようになってきますし、周りの英語をしゃべれない日本人の友達を驚かせるぐらいは容易、そしてネイティブ英語話者にも通じやすくなることでしょう。
次回、一気にネイティブ発音に近づくフォーカルポイント(音の焦点)をご紹介しますのでお楽しみに!