Naoya Okada
(更新)
英語の TH 発音に、苦手意識がある学習者は多いのではないでしょうか。
特に日本人にとっては日本語にない口の使い方をしますし、「サ行」との区別がとても難しいと言われています。
TH の発音精度を上げるためのキーポイントは、「舌・歯・息」の3点。
これらは、英語の「摩擦音」という考え方を理解して発音の土台作りをし、カタカナ英語を脱するのに欠かせないキーポイントです。
今回は、TH の発音方法を徹底解説していきます。
学生のときに「TH は舌先を上下の前歯で噛んで発音するよ〜」と習ったことはありませんか?
実はこの発音方法は間違い。いえ、そういった発音をするケースもあるのかもしれませんが、基本フォームは違います。
正解は「TH は舌先を上前歯に軽く触れさせて発音する」です。
結果的に舌を「挟み込む」形ができるため、「噛んで〜」という説明に発展したのではないかと考えられます。より英語っぽい発音にするためには「TH は舌先を上前歯に触れさせて発音する」のが基本だと考えると良いでしょう。
TH 発音のキーポイントを確認する前に、TH には2つの音があることを理解しておきましょう。
the や father などの単語で使われる TH の音です。カタカナだと「ダ」に近い音になります。
Thank you や think で使われる TH の音です。
これら2つの音の違いは「喉を振動させるか」どうかです。一度、喉に手を当てながら日本語で「アイウエオ」と発音してみてください。喉が振動しているはずです。
このように喉を振動させる音を有声音と言います。喉で発声をするイメージで、その結果濁った音になります。
もうひとつ、喉に手を当てながら、相手に静かにしてほしいときに言う「シィ〜」と発音してみてください。喉が振動していないですよね。
喉を振動させない音を無声音と言います。声を出すのではなく、息だけが流れるような発音になるため、音が濁りません。
英語の子音の多くには有声音と無声音のコンビ、お笑い芸人で言う「相方」が存在します。TH も例に漏れず、無声音の/θ/を有声音化して濁らせると、/ð/になるのです。
そのほかにも、/p/→/b/、/t/→/d/、/s/→/z/…のように「無声音 → 有声音」とペアになっているコンビがいくつかあるので、覚えておくと良いですよ。
それでは、TH 発音のコツとなる3要素を解説していきます。
先ほどお伝えしたように、「TH は舌先を上前歯に触れさせて発音」します。
日本語とは異なる口の構えをすることが多い英語ですが、TH については意識せず自然体で大丈夫です。リラックスしましょう。
最後のキーポイントは「息遣い」。
舌先を上前歯に軽く触れさせて発音をすると、その狭くなった通り道から息が抜けていきます。このスキマから生まれる音、それが「摩擦音」です。
一般的に習うように舌先を上前歯と下前歯で噛んでしまうと、このスキマが生まれず息の流れがせき止められて、音が出なくなってしまいます。そのため、「上前歯に舌先を軽く触れさせる」という「舌」と「歯」の関係がとっても重要なのです。
TH 以外にも摩擦音を伴う発音はいくつかあるので、ご紹介しておきます。
ここで試しに日本人が TH[/θ/]と混同してしまいがちな、「サ行」の発音をしてみましょう。「サ行」の発音方法は、実は「シ」以外は英語の/s/の基本フォームと同じです。(「シ」は後述する/ʃ/という音になり、少し舌の位置が変わります。)
【サ行の発音方法】
こうして見ると、TH[/θ/]の音とカタカナ英語の「サ行」では口の使い方が異なることがわかりますね。
"I think〜"は「アイ シンク」ではありません。歯に対する舌の動きと、スキマを作るかどうかが「サ行」と TH の決定的な違いなのです。
先ほど「サ行」には/s/と/ʃ/という音になるとお伝えしました。ではそれぞれ、どのように TH の音と異なるのでしょうか? 確認してみましょう。
/s/の音を作るときは日本語の「サ行」の口の形にし、前歯を軽く閉じます。キーポイントは、この「前歯を閉じる」こと。そして舌の位置を上の歯茎の裏の方に近づかせて、息を「スーハー」させれば完成です。
TH の発音をするときには舌先を上前歯につけてスキマを作る必要がありますから、/s/とは口の構えが異なることがわかりますね。
「座る」を意味する sit を「シット」とカタカナ読みで発音してしまうと、別の下品な言葉になってしまうので注意しましょう。
【/s/で発音する単語】
/ʃ/は日本語で静かにしてほしいときにする「シ〜」を、前歯を軽く閉じて発音します。「シュ〜」というイメージの方がより近いかもしれません。日本語よりも若干縦に口が開き、唇を少し突き出します。また、舌先は上の歯茎の裏のほうに近づきます。
こちらも前歯を閉じる必要がありますから、息の通り道となるスキマがある TH の発音方法とは異なることがわかるはずです。
【/ʃ/で発音する単語】
改めて TH の発音に必要なキーポイントについてまとめてみましょう。
ここまでご紹介した基本フォームを意識しながら、TH の発音練習をしてみましょう。
練習はいかがでしたか? 実際に声に出してみると、TH の発音がうまくいかなかったものがあるかもしれません。
発音がうまくいかなかった方は、「舌先を上前歯の裏に触れさせる TH」もあることをおさえておくと、楽に改善することができますよ。
特に TH が単語の「真ん中」におかれている weather のような場合には、基本フォームの通りにすると、とても発音しづらいはずです。このような場合、英語では「発音の省エネ」が起きます。楽に発音するために、本来のフォームを崩すのです。
日本語でも同じ現象は起こり、例えば「アボカド」の「カ」は濁音の「ボ」「ド」に挟まれると、「カ」が発音しづらくなります。そのため、「アボカド」を「アボガド」と間違って覚えている人も多いのです。
TH を省エネするときには、「舌を前歯の『裏』に軽く触れさせる」と発音しやすくなりますよ。
例:weather
センテンスのなかにある単語が TH で始まっていて、それが代名詞(特に人称代名詞)の場合は、発音のしやすさが優先されてリダクションという現象が起きます。前後の音の影響により、音が短くなったり、消えたりする現象です。
例:I really like them.
英語の歌詞や海外ドラマの字幕で、’em と表記されているのを見たことがありませんか?
実はこれは them の TH が発音するときに抜け落ちた形を、スペリングでも表すようになったもの。辞書にも them の省略形として記載されています。
ポップダンスグループDA PUMPの“DA”は実は THE です。洋楽や英語の歌詞で “Rock da house” や “In da house” を目にしたことはありませんか? 日本では前者をタイトルにした曲を、DA PUMPやEXILEがリリースしています。
日本人に限らず、非英語圏の人々にとって THE は難しい発音の1つ。でも、簡単に発音できる、類似した音で置き換えられます。そのなかの1つが the を da にする省エネなのです。
筆者の周りには、TH の発音を F で代用して発音する方もいます。これはコックニーというロンドンアクセントの1つで、「TH-Fronting」と言われる発音方法。
TH-Fronting では、/ð/が/v/, /θ/が/f/になります。さらに、先ほどの省エネ発音①が原因となって、/ð/が/d/、/θ/が/t/という発音も存在します。楽だから "I think〜” の TH を/t/で発音する方は意外と多いです。
【/ð/→/v/】
【/θ/→/f/】
【/ð/→/d/】
【/θ/→/t/】
TH が使われている単語の発音が/ð/と/θ/のどちらになるのか、悩んだことはありませんか?
例えば、worthy(価値のある)の THは/ ð /です。一方、worth の TH は/θ/で発音します。
TH の音は、単語のなかのどの位置にあるかによって、おおむね発音方法が決まります。主に2つのパターンがあることを理解しておくと良いでしょう。
実はこのルールは意外とシンプル。
例外はたくさん存在しますが、おおまかに上記のイメージで捉えておくと良いですよ。
TH のスペルと発音の関係について、詳しくはこちらを参考にしてみてください。
THの発音は「舌」「歯」「息」がキーポイント。「舌先を前歯に軽く触れ、スキマから外へ息を出す」という基本フォームをしっかりと押さえておきましょう。カタカナ英語を脱するのに、大きく役立つはずです。
しかし、基本は基本です。現実では、英語圏の人びとのみならず、非英語圏出身の人たちや英語圏への移民者たちも、基本フォームを崩した発音を生み出しています。
現代の多様性あふれる世界で、英語の発音には各地域のアクセント(訛り)があり、絶対的なものとは限りません。いろいろな違いがあって当然なのです。
ここで大事なのは、相手目線に立って「この発音で相手は自分のメッセージを受け取ってくれるか」と考えてみて、思いやりを持つこと。そして、「コミュニケーションをとろうとする姿勢」だということを肝に銘じておきたいですね。