今、アカデミック分野で求められる「英語で教える力」。東大発の英語学習サービス「English Academia」が目指す未来像に迫る。

「グローバル化」と切っても切り離せない「英語」。

これは何もビジネスの世界に限ったことではありません。

アカデミックな分野においても、大学の講義を英語で受けたり、海外の学会において英語でプレゼンしたりと、英語の必要性がどんどんと高まってきています。

そこで誕生したのが、東京大学発の英語学習・無料オンラインコースである「English Academia(イングリッシュ・アカデミア)」

大学の学部生や院生など、これから研究ライフを始める学生向けに開発されたアカデミックコミュニケーションのサイトなのですが、なんと学生や社会人関係なく、誰であろうと無料で利用できるうれしすぎるサービスなのです!

今回は、そんな「English Academia」の開発・運営に携わっている方たちにお話を聞いてきました。

 

アカデミック界隈でも高まる英語需要

ー 「English Academia」は、どんなきっかけで、またいつ頃から立ち上げを計画されたのですか?

中原:背景としては、先生が英語で教えなきゃいけない授業が大学で増えていっているんですよね。それに伴って、2、3年前から「英語で授業を行えること」とか「英語でプレゼンができること」っていうのが大学教員になるための条件になってきつつあるんです。

それに対して大学がいよいよ立ち上がろうということで、東京大学大学総合教育研究センターや、東大全学で議論が行われ、文部科学省から予算をいただき、立ち上げたということになります。

でもいきなり「英語で教えるための英語を学びませんか」みたいにやると、ハードルが高くて誰も来ないと思うんですよ(笑)。

なので最初のハードルは、一般的なアカデミックコミュニケーションから入ることにしました。例えば理系の学部生が3年生くらいから研究室に入った時に必要な英語から始めていっている感じです。そこから、「英語で教える」の部分まで、だんだんとレベルアップしていく構成になっています。

ー 全ての学生や学院生の方たちにも役立つ内容だなと思うんですけど、なぜ中原さんの研究室でそれをやろうと思ったんですか?

中原大学教員の養成というのが、うちの研究部門のミッションの一つなんですよね。大学教員の養成=大学院生のうちから鉄は早いうちに打て、ということなのですが、そのために英語を使う量や機会を増やしたいと思っています。

だいたいの東大生は、国際学会での英語のプレゼンみたいなのって経験するんですけど、分野によって全然違って、理系と文系の差はものすごい激しいんです。

つまり、英語を使わなきゃならない環境にどの程度置かれているかっていうと、そこは自分の所属する研究室や学部学科によって全く違って経験などにすごい偏りがあるので、そうしたギャップを埋められるよう、全学のサービスとして提供したいというのが大きいかもしれないですね。

あと、国際的な活躍を前提にしている分野があるのに対して、文系の場合は必ずしも、研究知見がグローバルに広がることを想定していないこともあるんです。学問の成り立ちから考えて、グローバルに知見が広まることよりも、学問自体のあり方を見直していくことに主眼がおかれている分野もあるんですよね。

大学には、様々な研究分野があります。究極を言うと、それぞれの研究室に根ざした英語を僕らはカバーできないけど、その基礎にあるもの、なきゃ困るものに関しては、全学でできることがあるんじゃないかなと思っていますし、その方が効率的なのではないかと思っています。

ー なるほど。私も登録して実際に使わせていただいたのですが、内容は更新されたりするのですか?

市川:現在のコースは10のモジュールで構成されています。

例えば、モジュール1は「Introducing yourself and research」となっていて、若手の研究者向けの自己紹介で使える英語表現を学べます。またモジュール2では研究の進捗報告に関するものを、3ではディスカッション、5では学会発表などで使う英語表現を扱っています。

そしてモジュール7からは「教える」ことが始まり、ディスカッションをリードしたり、就職面接のインタビュー時の「Teaching Demonstration」を練習できるような内容になっています。

中原:今後についてはまだ話し合い中ですが、来年あたりに5〜7くらいのコンテンツを足していくのと、出版の動きが出てくる可能性もありますかね。一般的な英会話ではなくて、特定された目的に応じた英語表現とか、コンテクストに基づいた英語表現が僕は大事かなと思っています。

自分がかつて留学していた時に、一般的な英会話はそこそこ出来るんだけど、例えばラボ内のランチの時にいきなり出来なくなるというか…みんなうるさいし何喋ってるか分からないから(笑)。

そうした経験から、特定のニーズに応じた英語って大事だなと考えています。

 

英語は使い続けないと栓のない風呂水のように抜けていく

ー 今おっしゃられた留学経験含め、先生自身の英語学習について聞かせてください。

中原:1年間だけ、フルブライトという研究院に行きましたけど、まあまあ地獄でした(笑)。

当時は大学の助手だったんですけど、英語がいきなり喋れなくなるというか、ラボの仲間に溶け込んだり学内で使う英語になかなか対応できなくて…英語レベルにすごい差があるので、幼稚園児レベルに扱われているように感じるわけです(笑)。

そうするとプライドずたずたみたいな(笑)。
あの時の気持ちはすごい覚えていますね。

ー 留学に行かれるまでも英語学習はされていたんですか?また、留学前後で英語力はどのように変わりましたか?

中原:英語のレッスンを受けたりはしていましたけど、そんなにはやってなかったですね。

留学後にすごい思うことがあって、僕はそれを「バスタブ理論」と呼んでるんですけど、要は、母国語ではない人が英語を学ぶことって「栓のないバスタブ」に水を入れるようなもんなんですよ。どういうことかと言うと、英語を常に使っている状態じゃないと、すぐに水がなくなっちゃうんです。

このことは留学から帰ってきた後の方が印象的で、留学中にけっこう水溜まってたはずなんだけど、あっという間にジャーって流れちゃうんですよね(笑)。

海外経験が長くても、日本に戻ってきて普通に生活していたら、数週間でスムーズに英語が出て来なくなるんです。なので、どれだけ喋る経験とか機会を確保するかって大きいと思うんですよ。

ー 先生の研究室のみなさんは英語を話せるんですか?

中原:多分そこそこみんな出来るんだろうけど、みんなどのレベルなんだろう?(笑)。

市川:コミュニケーションを取ったり、英語で自分の研究を発表したりはできるけど、教えたりだとか授業中に英語で指示を出すとなると、ちょっとハードルが高くなってきますね。

中原:ワンウェイなら喋れるけど、やりとりができるかって言われると微妙です。突き抜けて出来る人も何人かいますが。

ー そういう現状も含めてサービスを立ち上げたんですね。現在、登録者が9568名(2017年3月時点)いらっしゃるということですが、やはり学生さんが多いですか?

木下:大学院生や若手研究者がメインターゲットなんですが、一般公開で使えるようになっているので学外の大学生や、社会人の方も多いですね。内訳は東大関係者が1200人くらいで、学外の学生が1400人、あとの7000人ほどは一般の社会人を含めた方々です。

中原:もともと文科省から資金調達をする時に、「東大のためだけになることはしません」って約束してるんですよね。

なので、登録者の中に外の人が多いというのは僕ら的には◎なんですよ。そのことで、日本全国の学生、大学院生が楽しく英語を学んでいってほしいと思います。

今後の展望、大学に何ができるのか?

ー 「English Academia」は現段階ではインプットが中心になっていますが、アウトプットにつなげるなど、次のステージを作っていく上で考えられていることはありますか?

中原:まだちゃんとは話し合っていないのですが、一つはコーチンググループワークショップみたいなのを増やしていきたい、というのがありますね。

僕の意見なんですけど、やっぱりオンラインで学んでもコーチングで学んでも、一時期のイベントになっちゃうんじゃないかなと思っていて、じゃあ「あとはDMM英会話みたいなサービスを使って個人で頑張ってください(笑)」って言うのもそれはそれで正しいんだけど、「大丈夫かなあ」と思う部分はありますね。

最近はみなさんの可処分時間も少なくなってきているので、「大学に何ができるのか」というのが僕らに課されたことなのかなって。どうですかみなさんのご意見は?(笑)

中澤:一番は留学するのが良いと思いますが、それは全員に求めることは難しいですよね。また、留学で「英語で教える」ことが身に付くのかと言われると、それも難しいと思いますので、「英語で教える」ためには、何かしらの手立てを考えなければいけないと思います。

私もこれまでいくつかの英会話サービスを試しましたが、研究者に特化した教材ってなかなか無いんですよね。「English Academia」がその役割を担えればいいかなと思います。でもそれだけで本当に十分なのかという想いもありますね。

市川実践をどんどん積む中で、困難にぶちあたったり、恥をかいたり、そこで問題を発見していくということが重要だと思います。私も学生時代に英語を勉強していましたけど、仕事で使うようになってから、改めて学習したり、身につくスキルは多くありました。

教材や英会話サービスを使って勉強する時に、「これを身に付けたい」とか「身に付ける必要がある」というゴールがはっきりしていると、効果が出やすいと思
います。

ただそのためには、自発的なモチベーションが大事だと思います。そこには個人差等があるのかな、とは思います。

ー 最後に、「English Academia」のような取り組みを通して、社会をどうしていきたいか、今後の展望を教えてください。

中原:もともとは東大のニーズを満たすために始めたプロジェクトなんだけれども、これがきっかけで日本の高等教育全体に「英語でコミュニケーションすることは面白いよね」と思う人が増えるといいと思うし、半分世直しだよね(笑)。

中澤:日本の大学の中には、すでに「英語で教える」ための教員向けプログラムを提供しているところもあります。

「English Academia」は、大学院生という初歩的なところからスタートしているため、より若年層にも使ってもらって、「英語で教える」ことがもっと広まれば良いなと思います。

木下:開発に関わってる人も大学院を卒業したばかりの若い方が多いので、キャラクターなどを使ったポップで親しみやすいデザインになっていますし、電車の中でスマホで使えたりと、ハードルがとても低いので、若い人にももっと使って欲しいですね。

市川:「English Academia」は各目標のエッセンスに絞って教材を作ってきたんですね。でも本当にベーシックなところだけなので、決してこれがゴールではないです。

学生さんや若手の研究者の方たちが、「English Academia」をきっかけとして、個人で専門的な学習を進めていかれることを願っています。

ー 本日は貴重なお時間をいただきありがとうございました。

 

おわりに

大学教育や研究者の世界においても「英語問題」が深刻になってきている、というのを今回のインタビューを通して知ることができました。

多国籍になっていくラボ、国際学会での英語を使ったプレゼンなど、研究ライフを進めていく上で、また自分たちの研究成果を世界にアピールしていく上でも、アカデミック・イングリッシュは不可欠なものとなってきています。

そしてその問題へのソリューションを提供するために生まれた「English Academia(イングリッシュ・アカデミア)」

「研究に英語が必要」という方は、ぜひ登録してみてはいかがでしょうか。