堂本 かおる
(更新)
シリア難民のニュースが世界中のメディアによって伝えられています。アメリカも来年には1万人を受け入れるようですが、それだけの人数が流入すると当然、「言葉」の問題が持ち上がります。
シリア人の多くはアラビア語を話すので、難民が暮らすことになる地区の学校ではアラビア語に対応する必要が出てくるでしょう。けれど、心配は無用です。英語との2言語教育さえ施せば、柔軟な子どもたちは驚くほど早くバイリンガルになるものです。
2010年にハイチ大地震が起きたときにも、ニューヨークにはハイチからの避難民が大量にやってきました。学校ではハイチ・クリオール語対策がとられ、子どもたちは今ではもう英語とのバイリンガルです。羨ましい限りですね。
△ 英語と中国語のデュアル・ランゲージ・プログラム。中国語を習い始めて8週間目のキンダー(幼稚園)の子どもたち
しかし、ニューヨークに暮らす日本人にとって、アメリカで生んだ子どもを日英バイリンガルに育てることはそれほど簡単ではありません。その理由は、日本人の人口の少なさ。
今回は、日英バイリンガルも含め、世界中のあらゆる言語が溢れるニューヨークのバイリンガル教育についてご紹介します。
まず、データを見てみましょう。ニューヨーク市の人口のうち、自宅で英語「しか」話さない人は半数に過ぎません。残り半数は、家庭では英語以外の言葉を使っており、その種類はなんと200言語! 人口の1/3以上が外国生まれという、移民都市ニューヨークならではの現象ですね。
たとえば、日本人同士のカップルであれば、2人ともバイリンガルであっても家庭内では日本語で話しますよね。同様にロシア人家庭ではロシア語が、ユダヤ系の家庭ではイディッシュ語やヘブライ語が、アラブ系の家庭であればアラビア語が話されているわけです。
このように、家庭で英語以外の言葉を話す人が全人口の50%を占めるニューヨーク。英語以外の2大言語は「スペイン語(25%)」と「中国語(6%)」ですが、他にも以下のように続きます。
1. スペイン語
2. 中国語
3. ロシア語
4. 南アジア諸言語*
5. フレンチ・クリオール(ハイチ)
6. イタリア語
7. イディッシュ語(ユダヤ系)
8. フランス語
9. 韓国語
10. アフリカ諸言語
11. ポーランド語
12. アラビア語
13. タガログ語(フィリピン)
14. ヨーロッパ諸言語*
15. ヘブライ語(イスラエル、ユダヤ系)
16. ギリシャ語
17. ウルドゥ語(パキスタン、インド)
18. アジア諸言語*
19. ヒンドゥ語(インド)
20. ドイツ語
21. 日本語(0.3%)
22. セルビア/クロアチア語
23. ポルトガル語
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(*)単独でリストにない言語の合計
〈参考〉United States Census Bureau
上述のように、ニューヨーカーのうち37%もの人が外国生まれです。この移民ニューヨーカーたちが子どもを生むと、家庭内の言語環境は両親の第一言語によって様々なパターンに分かれます。
A. 両親が同じ言語話者(例:日本人同士)
両親間の会話=日本語、親子間の会話=日本語
B. 両親が英語と他言語話者(例:日本人の妻とアメリカ人の夫)
両親間の会話=英語、母子=日本語、父子=英語
C. 両親がそれぞれ異なる第一言語(例:日本人の妻とイタリア人の夫)
両親間の会話=英語、母子=日本語、父子=イタリア語
これはあくまで一般的な例であり、家庭によっては異なるパターンもあり得ます。いずれにしても、子どもが日英バイリンガルに最もなりやすいのは(A)のパターンでしょう。
しかし! ここに落とし穴があるのです。
ニューヨークにおける日本語の話者数は 23,000人。ニューヨーカー全体の0.3%でしかありません。つまり、大きな日系コミュニティがないのです。
スペイン語話者であるラティーノのコミュニティやチャイナタウンはとても大きく、そこに住めば家庭内だけでなく近所の会話もすべて祖国語になるため、子どもも両親の第一言語をキープしやすいのです。
ところが、日本人の多くは英語環境に暮しています。子どもは親以外と日本語を話す機会が少ないため、地域の託児所や幼稚園に入った途端、友だちや先生からの英語のインプットが日本語のそれを上回ってしまうのです。
その状態が続けば、私たちには憧れの「英語ネイティヴ・スピーカー」にはなりますが、日本語がおぼつかなくなります。
そこで、日本人の親は「子どもとの会話は日本語のみ」という鉄則をとことん貫きます。たとえ子どもが “Mommy, I'm hungry.(お母さん、お腹空いた)” などと英語で話しかけても、「日本語で言いなさい」と返すのです。
事情を知らない人が見ると「なんて厳しい!」と思うかもしれませんが、バイリンガルに育てるためには仕方のないことなのです。
親は子どもの日本語を維持するために、アメリカではかなり割高な日本語の絵本やDVDを買い与え、日本人同士のプレイデート(子どもが一緒に遊ぶ日時と場所を親同士が決め、親同伴で遊ばせること)もセッティングします。
さらに就学年齢になると、土曜日だけの日本語補習校に通わせる家庭が少なくありません。地元の学校の授業は当然英語でおこなわれるため、日本語を学ぶ機会がないからです。
日本語補習校は、日本の学校の1週間分の授業内容を1日で教えるので、子どももとても大変です。宿題も地元校の分と合わせると、まさに泣くほどの量になってしまいます。
想像してみてください。小学生が英単語のスペルを覚えながら英語でエッセイを書き、同時に漢字を覚えて作文も書かなければならないのです。加えて、親も自宅から離れた場所にある日本語補習校まで毎週送り迎えするわけですから、それはもう大変です。
親子でこれほどの苦労を長年つづけることで、やっと流暢な日英バイリンガルに育つのです。
日本語とは違い、スペイン語など話者数の多い言語は、公立の小中高で2言語授業が行われています。2言語授業もかつては「英語ができない移民の子どもに英語を学ばせる」ことが目的で、英語が上達すると母国語の授業はなくして英語のみにする “Transitional Bilingual Education” だけでした。
しかし、実際には多くの移民が「言葉こそ文化伝承のキー」と考えており、アメリカ生まれの二世にも祖国の言葉を学ばせたいと考えます。そこで今は “Dual Language Program” と呼ばれる、卒業まで英語と第一言語の2つの言葉で授業を受け続けるプログラム(コース?)がどんどん増えています。これによって言語だけでなく、文化的にも両方を受け継いでいくようになるのです。
ニューヨークにはラティーノ人口が多いため、“Dual Laungage Program” もスペイン語が多数を占めるのですが、中国語・アラビア語・フランス語・韓国語・ロシア語・ヘブライ語もあります。
さらに2015年9月の新年度からは、なんと日本語の “Dual Laungage Program” も1校のみですが、始まりました。
これは日系の親たちが運動を起こして実現させたものです。この小学校に入学すれば、毎週土曜に親子で日本語補習校に通わず(授業料も払わず)とも、日本語が学べるようになったのです。
日本で英語を学ぶのは大変ですが、ニューヨークで日本語を学ぶのも同じです。ニューヨークの日系キッズに負けないよう、皆さんも英語の勉強をがんばってくださいね!
では最後に、学校に関連する英単語リストを付けておきますね。
※ 教育システムや呼称は行政地区によって異なることがあります