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世界大会優勝!日本人未開拓のボディビル界を自ら切り開いた山岸秀匡選手インタビュー

世界大会優勝!日本人未開拓のボディビル界を自ら切り開いた山岸秀匡選手インタビュー

己の肉体を限界まで鍛え上げ、その美しさを競うボディビル。

その世界において、ひときわ輝く一人の日本人がいる。

山岸 秀匡(やまぎし ひでただ)選手。

BIG HIDE の愛称で世界中で親しまれ、2016年には、アメリカにて行われるボディビルの祭典「アーノルドクラシック212クラス」で日本人として初優勝。また、ボディビル界で最も権威ある大会とされる「ミスターオリンピア」には、日本人唯一2007年より8回出場、2015年には3位入賞を果たした。

山岸選手が今日まで成し遂げてきた数々の偉業は、ひと昔前の日本人にとっては夢のようなことばかりである。いや、彼一人を除けば、夢にも見ていなかったかもしれない。

日々、ストイックに自らを追い込み続ける山岸選手。彼をそこまで突き動かすものは一体何なのか。また、どのようにしてその強い精神力を保っているのだろうか。

今回、DMM英会話代表の上澤が、山岸選手が運営するラスベガスの「Bodi Cafe」を訪れお話を伺った。

 

進化している間はボディビルを続けたい

進化している間は
ボディビルを続けたい

ー 今日はよろしくお願いします。
普段はラスベガスにいらっしゃることが多いんですか?

そうですね。以前はロサンゼルスが拠点でしたが、4年前にラスベガスで「Bodi cafe」を始めて、この一年くらいはそこにいることが多いです。

まだボディビルダーとして現役なんですけど、競技生活も終盤にさしかかってきていて、ボディビル後の人生を考えなくちゃいけないってことで、こっちの方にも今は力を入れています。

 
ー 引退後のキャリアもしっかり考えられているんですね。

今年で44歳です。16歳からトレーニングを始めて、大学卒業してからはボディビルしかやっていないので、不安というか、いつまでも選手としてお金を稼げるわけではないので。

年齢はあまり気にしていませんし長く契約しているスポンサーもいますが、プロのスポーツ選手は怪我など明日のことはわからないので、他の収入源も確保しておく必要がありますね。

 
ー 具体的には何歳くらいまでボデイビルを続けたいですか?

あと何年というのは分からないですけど、今周りを見ると、45、6歳とかでも現役バリバリでやってる人は普通にいるんですよね。

なので僕も、数字は数字として受け止めつつ、44だからって老け込むんじゃなくて、自分が進化している間はまだやり続けたいなと思っています。

 
ー 続いて、2016年のアーノルドクラシックで優勝された時の気持ちを教えてください。
 

※2016年 アーノルドクラシック212クラス 優勝時の様子。写真右はアーノルド・シュワルツネッガー。

*「アーノルドクラシック」*「ミスターオリンピア」は、ボディビルをやってる人なら誰もが憧れるタイトルです。前年の2015年はワンポイント差の2位で、「次は絶対に勝てる」と思って出場したので、勝ててホッとしたというのが正直な気持ちでした。

「絶対に勝てる」と思いつつも、やはり「負けるかもしれない」という気持ちは頭の片隅にあったので、それを克服して優勝できたので嬉しかったですね。

*「アーノルドクラシック」
アーノルド・シュワルツネッガー主催のボディビルコンテスト。格式高く、完全招待制のため、招待されるだけでも大変名誉な大会。


*「ミスターオリンピア」
プロ・ボディビル界最高峰とされる大会で、優勝者には「ミスターオリンピア」の称号が贈られる。「ミスターオリンピアに出場する日本人など現れる事はない」と言われた本大会の212クラスで、山岸選手は2015年、見事3位に輝いた。

 
ー コンテストのパフォーマンス中はどんな気分なのですか?

パフォーマンス中に観客が湧いた時は「かなりイケてる」と。お客さんの反応でその日の仕上がりが分かります。

アーノルドやオリンピアクラスの大会になるとものすごい数の観客なので、その歓声は癖になるというか励みになりますよね。一度ステージに立つと忘れられないです。

勝ち残る者の共通点

勝ち残る者の共通点
 
ー 身長と体重について教えてください。

身長は168cmで、体重は普段が230lbs(約104kg)、コンテスト時が210lbs(約95kg)です。

 
ー トレーニングだけじゃなく、「食べる」という部分も大変なのでは?

そうですね。僕にとっては、「食べる」ということも常にチャレンジです。もともとは168cm-70kgほどしかなかったですし、別に1日1食しか食べなくても満足できてしまうので。

今は100kgありますけど、コンテストの前は6食くらい、それにシェイクもプラスすると、1日10回くらい食べないといけないので大変ですね。

 
ー なるほど。トレーニングを始めたきっかけは何だったのですか?

16歳の時にラグビーをやっていて、その補強としてウエイトトレーニングを始めました。でも腕立て伏せのようなトレーニングは、10歳くらいからやっていたように思います。

他にも格闘技を長くやっていたこともあって、とにかく「体を鍛える」ということに興味があったので、その延長でトレーニングをやり始め、今は大好きなトレーニングだけをやっている、という感じです。

 
ー 本格的にボディビルを始めたのはいつ頃なのでしょうか?

20歳で大学生だった時です。競技スポーツをやりながらトレーニングを続けていく中で、「やっぱり何かを競いたい」と思うようになって。

最初はパワーリフティングもやっていたんですが、ボデイビルの方が成績がすぐに出たのでこの道を選びました。あと単純に「やっていて楽しかった」というのもありますね。

 
ー ボディビルダーとしての、山岸選手の強みは何だとお考えですか?

我慢強さですかね。

ボディビルはジャッジが選手の体を比べる競技なので、ステージに上がったら何もできなくて、上がるまでが試合みたいな感じ。コンテスト当日はジャッジ任せで、「絶対に1位になる」と思って参加しても勝てない時が多いんです。

いろんな選手を今まで見てきましたが、肉体的な素質がすごくあって優勝しそうな選手でも、コンテストで勝てずに嫌になってやめちゃう人もいるんですよね。でも自分は、結果を深刻にとらえないで、楽しんでやってこれたのが大きかったのかなと思います。

負けてやめてしまう人が多い中、その中で残ってる選手たちは、勝ち負けだけではなく、自分の中で「前回のコンテストよりも成長していれば良しとする」のように自己満足できる人なんじゃないかな。

自己満足できる人

 
ー ではライバルは、他の誰かというよりは自分自身だと?

そうですね。もちろんコンテストでトップを争う時は「こいつに勝ちたい」と思ってやることもありますけど、そこに囚われすぎちゃうと、自分の良さを出していけないので。

体型ってみんな違って、自分の理想の体型があったとしても、自分がそういう風に生まれていなければ、いくら努力してもそうはならないですからね。

 
ー 競技スポーツをやる上で、やはりアジア人は肉体的なハンデがあるのではないかと思ってしまうのですが、それについてはどうお考えですか?

「アジア人なのに頑張ってるね」と言われることはありますけど、僕はあまりそういう風に考えたことはなくて。欧米系でも小さい人はいますし、逆にアジア人でも大きい人はいます。だからそのように言われるのは、肉体的なハンデとかではなく、アジアでは単にウェイトトレーニングをしている人口の母数が少ないだけじゃないかなと思うんですよ

どういうことかと言うと、アジア全体として文化的に鍛えられた肉体が良いとはされてないじゃないですか。韓国は違うかもしれませんが、ちょっと細めの方が良いとされる傾向があるので。

一方でアメリカやヨーロッパは、強ければ強いほど、デカければデカいほど良いという国だから、鍛えてる人も多いです。ジムに行けば分かりますけど、そのままコンテストに出れそうな人が普通にその辺にいますからね(笑)。

今は日本でもボディビルではないですが、*フィジークっていう新しいスポーツの人気が出てきて、ジムに通う若い人たちも増えてきたので嬉しいですね。

*フィジーク
ボデイビルとは異なり、筋肉の大きさを競うのではなく、筋肉の形やバランス、ステージ上での立ち振舞い、肌の色艶や髪型、衣装のデザインやカラーなどを総合的に評価される競技。

 
ー 確かに最近は、一般の方でも体を鍛えている人が多くなってきましたね。
山岸選手はそうした方たちに向けて*オンラインサロンも運営されていますが、会員の方は、やはりボディメイクとかボディビルをされてる方が多いのですか?

そうですね。選手としてやってる方は半分くらいで、あとの半分は趣味というかライフスタイルとしてトレーニングをされている方たちです。

そういった方たちに、食事やトレーニング法などのアドバイスを行っています。

*山岸選手の会員制オンラインサロン「DragOn Line(ドラゴンライン)」
詳細はこちらから

 

メンタルを強く保つために

メンタルを強く保つために

ー 座右の銘はありますか?

「無限 - No limit」 です。

先ほども言ったように、アジア人であることを僕は別に気にしていません。プロになった時、自分と同世代の日本人にとって、オリンピア出場というのは現実ではなく夢で、誰もチャレンジしていなかったし、これからも誰もやらないだろうと99.9%の人が考えていたと思うんです。

でも僕は「いけるか分からないけどやってみよう」と思って、自分の可能性に賭けた。そして成功した。野球でも野茂さんがメジャーで成功してから日本人が成功するようになりましたし、ボディビルの世界でも今後は日本やアジアの選手が増えてくるんじゃないかなと思います。

 
ー トレーニングをする上では肉体だけでなく、メンタルも大事だと思います。
普段メンタルの部分で心がけていることはありますか?

そうですね。コンテストが近くなってくると、メンタルの強い人と弱い人に分かれます。ボディビルは自分との戦いなので。ジムで出来ていても本番で力を発揮できない人はたくさんいて、メンタルが弱いと100%の力が出せないんです。

僕が心がけているのは、ネガティブなことを口に出さないということ。そして、あまり深刻にとらえすぎないこと。日本人は何でも真面目にとらえがちで、それはそれで良いんですけど、アメリカに来て学んだことは、適当と言ったら変ですが、あまり深刻に考えない方が良い場合もあるということですね。

ボディビルだけじゃなくて、ビジネスでもプライベートでも、色んなことが起こるじゃないですか。そういう時に毎度くよくよしてると体が持たないので、適当にやる時も必要だなと学びましたね。今は少しくらい上手くいかないことがあっても、「そんな日もあるさ」って思うようにしています。

 
ー 何か一つのことを続ける、極めるというのは簡単ではないと思います。
山岸選手の考える「継続の秘訣」はありますか?

好きなものを見つけることですね。

自分はレイジーで飽きっぽいのもあって、ボディビル以外に何をやっても長続きしたことがなくて。24年間やっていて、なんでこんなにボディビルが好きなのかは未だに分からないですけど、まあとにかく好きですね。

こんなに好きで夢中になれるものを見つけられて幸運だと思っています。なのでみなさんも、好きなものを見つけてみてください。

 

英語はマネをすればいい

英語はマネをすればいい

ー 長くアメリカに住まれていますが、英語はどのように習得されたのですか?

英語はですね、恥ずかしいんですけど、10年いてもあまり上達してないんですよ(笑)。最初は全く話せなくてただ笑ってるだけだったので、その頃に比べるとだいぶ話せるようにはなりましたが。

ジムの中では同じ言葉が使われることが多いのでそこまで苦労しなかったのですが、ジム以外のところで苦労しましたね。こっちに住むようになって、電話だとか、無理矢理にでも喋らなきゃいけない場面を通して、少しずつ英語を聞いて分かるようになって、言いたいことが言えるようになっていった感じです。

あとはインタビューに英語で答えたり、スポンサーのプロモーションイベントでプロテインなどのPRをしないといけないこともあるので、そういった経験も大きかったと思います。

 
ー 普段、ジムの中ではトレーニング仲間とどのような会話をされるんですか?

トレーニングの話しかしてないですね(笑)。
食事はどうだとか、サプリメントはどうだとか、仕事もそれなので、そういうことばっかり話してます。

そのようなコミュニケーションであれば、そんなに難しい言葉を使わなくてもいいので、なんとかやれていますね。

トレーニング仲間との会話

 
ー 海外で生活されるようになってから、心境や考え方にどんな変化がありましたか?

海外って色んなことに対して、日本みたいにキチンとはしてないじゃないですか。最初は「何なんだ」と思いましたが、こっちの文化に慣れてくると、「逆にそうしたいい加減な部分の隙を突けばいいのでは」と考えるようになりました。

 
ー と言いますと?

例えばビジネスメール一つとっても、日本人ってものすごい返信速いじゃないですか。「これだ!」と思って、アメリカでそれをやってみたんですよ。

すると、ボディビルダーって基本的にレイジーなので、返信しなかったりインタビューをすっぽかす人も多いんですが、「HIDEは時間通りにくるし返信も速い」ということで、今のスポンサーとは9年間契約してもらえています。

一つの会社と長く契約してる選手は少ないので、そうした部分は日本人としてのアドバンテージなのかなって思っています。周りがのんびりしているので、その中できっちりしていると目立てるんです。

 
ー 確かに海外の文化や慣習に驚くことはありますよね。
では最後に、これから世界にチャレンジしようと思っている方にメッセージをお願いします。

最初は考えてもしょうがないので、観光でもいいのでまず行ってみたらいいと思います。自分の場合はもともと海外に興味はなくて、ボディビルを始めて、アメリカでコンテストを見てからアメリカに興味を持つようになりました。

あと、英語も完璧に話そうとしなくて大丈夫。自分が英語を話せなかった時に驚いたのは、非ネイティブで英語がペラペラな外国人でも全く書けない、という人が多いということ。その時に「この人たちは考えて話してるわけじゃなくて、マネしてるだけなんだ」って気づいたんです。

だから、私たちもネイティブのマネをすれば良いんですよ。英語が完璧になってから来ようと思ったら一生来れないんでね。10年いても完璧にならないから(笑)。

完璧にしようとするのは、日本人の良いところであって悪いところでもあると思いますが、最終的には通じればいいんです。なので、海外に興味があるならまずは行ってみてください!

 
ー 考えるよりもまず行ってみることが大事なんですね。ありがとうございました。
 

《写真》 Taku Sanada, TS PHOTO

 

おわりに

言葉の端々に宿る力強く前向きなメッセージから、みなさんも勇気をもらえたのではないでしょうか?

日本人未開拓の道をひたむきに歩み続ける山岸選手。

その強さの秘訣は、揺るぎないボディビルへの愛情と、自分の可能性にかける姿勢、海外生活とトレーニングの中で身につけたメンタル術だと感じました。

これからもDMM英会話は、山岸選手の世界への挑戦を応援し続けます!

※山岸選手運営のオンラインストア「Bodi Cafe」

※山岸選手による会員制オンラインサロン「DragOn Line」の詳細はこちらから。