Michiru
(更新)
インターネットを通して世界を身近に感じることが出来る世の中ですが、現実的には、肌で感じなければ分からない未知の世界。
誰がどこから何を見るかによって、常識の定義は異なります。日本では当たり前の慣習が、海外では不可思議なことだったり、その逆もあります。
日本の雇用慣行である「就活」は、その一つです。
海外から見た日本の「就活」は、どのように映って見えるのでしょう? 角度を変えて見ることで、見慣れたはずの光景が違って見えることもあるかもしれません。
本記事では、外から見た日本の就活、雇用制度の日米比較、そして、海外就職の一例としてアメリカでの就職事情についてご紹介いたします。
日本の就活事情について欧米人に説明したら、どんな反応をするでしょうか?
実際に、アメリカ人に説明してみたところ、こんなリアクションが返って来ました。
"What?! That would drive me nuts!"
「何それ?!私だったら気が狂うわ!」
何故、彼女は驚いたのでしょうか?
まずは日本の就活の特徴を見ていきましょう。
日本の「就活」は、日本独特な雇用慣行です。カルチャーの観点から見ると、集団主義の特徴が凝縮されているようにも見えます。
「出る杭は打たれる」と言うように、目立つことはNG、「常識」から外れるとアウト、常に協調性が求められます。
先ず、決められた就活日程スケジュールに従い、就活時期が全員同じであることがユニークな特徴として挙げられます。これはまるで、全員横並びに「よーい、ドン!」の掛け声で全力疾走し始める徒競走のよう。
例えば、個人主義のアメリカでは、全員同時に就活する決まり事はなく、就活のタイミングは、個人の自由、個人の都合次第です。
次に、「リクルートスーツ」と言う和製英語の名前が付いたスーツは、日本ならではの就活スタイル。同様に、日本の就活用ヘアスタイルやメイクも似たり寄ったりで、遠見からは皆同じように見えてしまいます。アメリカにも、就活に適切な「ビジネススーツ」はありますが、色や形にバラエティーがあります。
単一民族国家の日本は、もともと髪の毛や肌の色が似ているので、同じような髪形やメイクは、更に周囲と同一化させ、個性を薄めてしまいます。逆に、多民族国家のアメリカには、髪の毛や肌の色が違う人種が混在するので、多様性を受け入れ易い環境が整っています。
意図的に、同じように見える就活生の中から個性を見つけ出す戦略との説もあるようですが、外から見ると異様な光景に映って見えるかもしれません。
最大の特徴は「新卒一括採用」という日本の雇用システム。上下関係を敬う縦社会が、今なお日本の雇用慣行に深く浸透しています。
新卒一括採用は、縦社会の象徴ともいえる「年功序列制度」に直結し、かつては採用時にオフレコで約束されていた「終身雇用制度」にもリンクしています。「年功序列制度」から由来する「先輩」「同期」「後輩」という言葉も日本独特のコンセプトです。
能力を重視しない年功序列制度は、終身雇用を見込んだ長期的人材育成計画を導入し、組織に対する忠誠心を養うために理にかなったシステム。アメリカのように成果主義を主流とする組織では、能力は然ることながら、個人の目標設定に基づいた達成度や貢献度も重視されるので、年齢は全く無意味な要素です。
個人差はあるにせよ、20代は自己アイデンティティを模索する多感な年代です。入社するまでの1年間、価値観が変わることも想定出来ます。
「お見合い」に例えるなら、お互いに求める条件がマッチすれば、お見合い成立の確率は高くなり、その後の関係も長続きすることが期待できますが、一方的であれば成立しても良好な関係が築けるとは思えません。日本の新卒採用の離職率が高い理由の一つには、両者の関係がマッチしていないから、という見方もあります。
ここまで海外からは不可思議に映る点ばかり取り上げてきましたが、日本の雇用制度にもメリットはあります。
実力主義なアメリカでは、新卒でも採用時に即戦力を求められますが、日本の雇用制度には新卒枠が設けられている為、スキルや実務経験を問われることなく、全ての人に「希望する企業に入れるチャンス」が与えられます。
日本では、長い時間を掛けて新入社員を育成する土台があるので、大学の専攻や成績、社会経験の有無はあまり関係なく、将来性を認めてもらえれば、誰にでも成功する可能性はあるということです。
また、近年の日本では、年々深刻化する少子化に伴い、「就活生優位」の売り手市場と言われています。それに加え、雇用形態が多様化し、当たり前だった年功序列制度や終身雇用制度が崩壊しつつあります。
近い将来、年齢に関係なく、個人の能力やポテンシャルに見合った雇用制度が導入される可能性も無きにしも非ず、かもしれませんね。
すでに触れている部分もありますが、次にアメリカの就活の主な特徴について見ていきましょう。
アメリカでは大学で専攻した分野を直接活かせる仕事を探すのが一般的です。採用時にすぐに即戦力となる人材が求められている為、お互いの条件がマッチすれば、「お見合い成立」です。
先に説明したように、全員同時に就活する決まり事はなく、就活のタイミングは個人の自由で各人の都合次第です。
ポジション別に通年採用するシステムで、経歴が浅い新卒生はエントリーレベル(初心者)のポジションから始めることが多いです。
また、OJTなどの人材育成方法もあるにはありますが、日本の終身雇用のようなコンセプトはなく、社内転職(社内でポジションが空けば志願できる)をしたり、他の企業に転職しながらキャリアを磨いて行くのが自然な流れ。
将来性がない仕事のことを英語で "dead-end job" と言いますが、"dead end" は「行き止まり」を意味します。文字通り、そこまでと見極めたら、別の道を探し始めるのがアメリカ人流です。
また、アメリカでは採用の際、大学の成績や実績などが考慮されます。
GPA(Grade Point Average→成績評価値)を重視する大企業は少なくなく、GPAが3.5(4.0が満点)以上なければ応募資格さえないという厳しい現実もあります。
一般的に、アメリカの "job search/hunting" (就活)も、日本と同じく大学在学中に始まります。
学業を最優先するアメリカでは、夏休みや他の長期休暇を利用し、"internship" (インターンシップ)や"part-time job"(バイト)などを通して就業経験を積みます。
空いている時間にボランティア活動をして社会経験を積む学生もいます。インターンシップやボランティアなどの社会経験は、履歴書に載せると光り輝く原石となるのです。
また、インターンシップは "networking"(人脈作り)が出来る絶好のチャンスでもあります。内部にコネがあれば、公募される前に情報を先取りできる大きなメリットがあるので、アメリカの就活は、“It’s about who you know”(内部との人脈が成功のカギ)とも言われています。
先ずは、"resume"(履歴書)をワードなどのアプリケーションを使用して作成します。
基本になるテンプレートはありますが、レイアウトなどのスタイルは十人十色なので、"resume" 自体に個性が現れます。履歴書には、志願目的、学歴、職歴、特殊技能や語学力などを記載します。
また、"reference" と言われる推薦者・身元保証人を記載する項目もあり、雇用側または第三者が "background check"(志願者の評判、偽証がないかなどの身元調査)をする際に使用されます。
履歴書以外に、"cover letter"(カバーレター)と言う一枚程度の自己PR用のレターを作成します。実績、経験、自分はどのように会社に貢献できるのか、なぜ自分を採用すべきか、などをアピールする場です。日本で言うES(エントリーシート)のようなものかもしれませんね。
英語の履歴書やカバーレターの具体的な書き方についてはこちらの記事もどうぞ。
書類選考を通過すると、"interview"(面接)に呼ばれます。一般的に、面接はフィルター式になっていることが多く、初めは人事部担当者や求人募集を依頼した部署の担当者との面接があり、必要に応じて、その他関係者と面接します。他に有力候補が居なければ、その場で内定が決まることは珍しいことではありません。
面接後は、"thank you note" と言われる「お礼の手紙」を送るのがグッドマナーとされています。大抵、Eメールで済ませますが、中には手書きの "thank you note" を送り、印象付ける人もいるようです。これも、個性をアピールするチャンスです。
このように、日本の採用システムと比較すると、アメリカのそれは、ロジカルでシンプルなプロセスになっています。
ここまで海外から見た日本の就活、そしてアメリカの就活について説明してきました。それでは、実際に海外で働こうと思ったときに必要になる能力やプロセスはどのようなものがあるのでしょうか?
アメリカの場合、先ず現実的な課題として挙げられるのが、英語のコミュニケーション能力とビザ取得です。
ビジネスレベルの英語力は、TOEIC850点以上と言われています。語学力に加え、社会人としての実務経験、プラス海外経験があれば、就職する上で大変有利ですが、新卒だとまだ十分な経験がないため、かなり難関です。
その場合、在学中にアメリカの大学に "transfer"(転校)する、または、アメリカでインターンシップから始める、この二つのオプションがアメリカでの就職を実現出来る近道と言われています。
インターンシップの場合、報酬は期待出来ませんが、アメリカで社会経験を積むと同時に、英語力を磨けるメリットがあります。もし、インターンシップで良い結果を残せば、雇用主が "visa"(ビザ)のスポンサーをしてくれる可能性もあるので、そうなれば、一石三鳥です。
アメリカでのインターンシップまたは就職情報については、海外就職サービスを提供している人材派遣会社にご相談されることをおすすめします。
他には、インターネット上の求人広告を細目にチェックしたり、国内外で実施されるキャリアフォーラムに積極的に参加する方法があります。キャリアフォーラムは、企業に関する情報収集の場でもありますが、その場で面接を受けられるメリットがあります。
英語に自信がない、でも、アメリカで働きたい人には、海外進出している日系企業で主に日本語を使う現地採用の仕事、日本語または日本での実務経験が求められる専門職の現地採用などの選択肢があります。
また、アメリカでは、中国語や韓国語が堪能な人材の需要があるため、日本語・英語と併せて語学力をアピールすると良いかもしれません。
ただ、現地の日系企業で日本語だけでもOKとされる職業は、一部の専門職を除いては、バイリンガルに比べると給与も待遇もランクが下がります。キャリアアップを目指すのであれば、やはり、英語力はマスト。
最大の難関はビザ取得です。年々、規制が厳しくなり、就労ビザを取得するのが大変困難な状況です。
原則として、グリーンカード保持者(永住権)以外の外国人は、就労ビザ無しでは合法的に働くことは不可能なため、雇用主のサポートが絶対に必要です。海外就職の情報を集めると同時に、就労可能なビザの取得条件や資格をよく調べておくと良いでしょう。
インターンシップ用のビザを発行する人材派遣会社やその他専門機関にご相談することをおすすめします。
英語に限らず、言葉は「習うより慣れろ」と言いますが、現地で働き生活して行く上での心得とも言えます。
ただ、真面目でがんばり屋さんの日本人は、「正しい」英語に必要以上にこだわる傾向が強いように思います。アメリカのような「言ったもの勝ち」社会でサバイバルするには、「正しい」英語よりも、積極的に自分の意見や考えを言葉に表し、発信する心構えが何より大切です。
"Globish"(グロービッシュ)と言う言葉をご存知でしょうか? "Global"+"English" のことを指し、英語を母語として話すネイティブよりも、英語を外国語として話す人の割合が高いことから、「グローバル英語」=「グロービッシュ」と言われています。
英語のアクセントも様々あり、文法も「100パーセント正しい」わけではない。英語圏ですら、発音や語彙のバリエーションがあるので、グロービッシュを話すノンネイティブにバリエーションがあるのは当然なのです。
”meaningful communication”(意味があるコミュニケーション)を取るために大事なことは、「正しい」発音ではなく、誤解が生じない程度の ”intelligible pronunciation”(理解可能な発音)、テキスト通りの堅苦しい英語ではなく、”authentic”(リアル)な生きた英語と言われています。
「パーフェクト」な英語を目指すのではなく、相手との信頼関係を築くためのコミュニケーションスキルを身に着ければ十分ということです。
これから就活を控えている方、また、転職を考えている方、グロービッシュ力をどんどん磨き、夢や目標に向かって歩み続けて下さいね。継続は力なり!
Cheers to your bright future!(あなたの明るい未来に乾杯!)