masa osada
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本物の天の川を見たことがありますか?
僕は数年前まで、天の川はよっぽどの山奥か、プラネタリウムでだけ見ることができるものだと思っていました。ところが今から10年前に初めてニュージーランドを訪れたときに、見上げた空には天の川が横たわっていました。そのときの息をハッと飲んだ気持ちを今でも忘れることができません。
そんなただでさえ星空がキレイなニュージーランドには、星空を見るためだけに世界中から人びとが集まる星好きの聖地のような場所があります。それは今回紹介するテカポという小さな街です。
Photo:Starry Starry Night
"Tekapo"(テカポ)はニュージーランドの南島にある人口たった数百人の小さな街です。街の名前「テカポ」というのは、ニュージーランドの原住民マオリ族の言葉で「夜が眠る場所」と言う意味です。
夜が眠る場所。
何とも神秘的な名前で、星がたくさん見える街にピッタリという印象を受けるかもしれません。ところが実際にテカポの星空を見ると名前とはまったく違う印象を受けるはずです。なぜなら雲がない日に夜空を見上げると、そこは数千数万の星たちで埋め尽くされていて、むしろ夜は眠るどころか、星たちによってざわめいているからです。
さらに街は湖畔にあるため、風がない日は星たちが水面に映ります。空にも水面にも満天の星が広がっている様子は、言葉では言い表せない神秘的な光景です。
東京など都市部で星が見える数っていくつくらいか考えたことありますか?
その場所の環境にもよりますが、見られても50個くらいと言われています。
ところがテカポの空は星で埋め尽くされています。
初めて天の川を見る人は、あまりにも天の川がくっきりと見えすぎていて逆に天の川だとわからず、空にうっすら雲がかかっているように見えるかもしれません。晴れている日ならば、日本に住んでいたらほとんど見ることができない流れ星を30分で2~3個は見ることができるほどのキレイな星空です。
これが流星群の日だったらどうでしょう。
以前、日本ではまったく報道されないような小さな流星群が来たときに、ニュージーランドで星空を眺めてみたことがあります。日本だったら空が明るすぎて1つも見ることはできないはずの流れ星が、30分くらいで50個以上は見ることができました。まさに星が降り注ぐ感覚でした。
そんな星空を見ていると自分が地球にいるのか、それとも宇宙にいるのか、はたまたSF映画の1シーンの中にいるのかわからない、不思議な錯覚に襲われます。
テカポは今年2015年1月には「Booking.com」という世界的なオンライン予約サイトの調査「世界でもっとも星がキレイに見える街トップ10」に選ばれました。
ほとんどの星空がキレイに見える名所は国際空港から遠く、車やバスに揺られて数時間、さらには山を登ったりしなければなりません。ところがテカポはクライストチャーチ国際空港から車で3時間で辿り着くことができます。そんな交通の便の良さもあり、世界中の天体ファンの「死ぬまでに生きたいところ」のトップに常に位置しているほどです。
また今年1月に旅行会社H.I.S.が行った「プロポーズされたい観光地」の投票でも、世界の名だたる観光地を抑えて1位に輝くなど、テカポの星空は専門家だけでなく、多くの人たちを魅了していることがわかります。
テカポには「善き羊飼いの教会 "Church of the Good Shepherd"」という、非常に小さな教会があります(上写真内の中央の建物)。この地域で一番歴史の深い由緒ある教会で、テカポへ行くとここで式を挙げている人たちをよく見かけます。満天の星空の下で永遠の愛を誓い合うなんて、映画のワンシーンみたいでロマンチックですね。
Photo:Snow in Lake Tekapo
テカポの街から少し離れた山の上で写真を撮ると、思ったよりも街の灯りが暗く感じられるはずです。実はテカポは街全体の街灯に光が必要以上に拡散しないよう傘を付けたり、光害が少ない電球にしたり、さらには高いところから電気を照らさず足元だけを照らすなどして、星がキレイに見える環境作りをしています。
さらに街の人たちは夜になるとカーテンをキチンと閉めたり、家の中の光が外に漏れないような心遣いまでしているそうです。人口たった数百人の街でもこれだけ街灯が空を照らさないように配慮していることを考えると、日本の空で星がほとんど見えないのは納得がいきますね。
ユネスコの世界遺産と言えば、2013年に富士山が登録されたことが記憶に新しいですね。他にも岐阜県の白川郷や、厳島神社、原爆ドーム、屋久島など、全部で14の文化遺産と4つの自然遺産が登録され、全世界では190カ国以上1,007カ所もが世界遺産として登録されています。
実は今まで、星空が世界遺産に登録された例は1つもありません。
そんな中、テカポは街を挙げて「テカポの星空を世界遺産にしよう」と働きかけました。ところが、世界遺産は人類が作り上げた建造物や地形・景観美などが対象で、天体は対象外のため、星空を世界遺産にすることはできないと一度却下されました。
そこで、テカポが街を挙げてどれだけ星空を守るために活動しているかを伝えるとともに、「テカポの星空は後世に残すべきものである」として世界遺産の定義そのものの変更を願い出るなど、地道な活動が今でも行われています。その成果もあって登録へ向けて正式に検討されているそうです。もし登録されたら世界初の星空世界遺産が誕生することになります。
最後に動画を紹介します。臨場感のあるテカポの星空を楽しんでください。動画を見るときはできるだけ部屋を暗くして、大きな画面で見ることをオススメします。迫力がまったく違いますよ。
Mystic Sky from Alex Cherney on Vimeo.
いかがでしたか? 映像の中でも星が水面に映っていたり、時折流れ星が降ったり、日本で見る星空とはまったく違いますよね。
でも、本物のテカポの星空はこんなものではありません。
空一面を埋め尽くす星たちを見に、ぜひテカポに行ってみてくださいね。