中尾 有希
(更新)
海の向こうのお隣の国、アメリカ。歴史的にも政治的にも、そして経済的にも昔から日本と関わりの深い国です。実は外務省の2014年の統計では、海外在留邦人の数は他国と比べて断トツの1位。その数40万人近くと、2位の中国を2倍以上も引き離す数の日本人が暮らしています。
アメリカはそんな「身近な国」とも言えますが、やはり日本とは多くの違いがある外国です。今回は、留学や就職が決まった人、また移住して生活をしてみたいと考えている人へ、アメリカで暮らし始める前に覚悟をしておくべき事柄をまとめました。
ぜひ参考にしていただいて、楽しいアメリカ生活の準備に活かしてもらえればと思います!
21歳からお酒が飲めるアメリカですが、その法律に対する徹底さは日本の比ではありません。
バーなどお酒を飲むスペースに入る時・注文する時には必ず身分確認。スーパーでお酒を買うにも身分証の提示が必要です。
一番厳しいのは屋外での飲酒。日本人がよくやる公園やビーチで楽しくみんなでカンパーイ! なんてもってのほかです。
音楽フェスの会場でも、飲んでいいのは柵で囲まれた身分証を掲示して入るエリアのみ。21歳以下の人はお酒の瓶を持つことすらできないので、子供におつかいも頼むこともできません。コンビニの会計では店員が21歳以下の場合、21歳以上の店員にわざわざ交代するほどです。
私が住んでいるシアトルには桜があるのですが、お酒と一緒に花見ができないなんてとても残念……。
またユタ州などでは、宗教や先住民の方の生活習慣などの理由によってお酒自体がほぼ販売されておらず、たまに観光客の方からクレームが出ることもあるそうです。
アメリカは各州が大きな権限を持って様々な法律や税制を決定しています。
例えば、シアトルのあるワシントン州とポートランドのあるオレゴン州。隣同士にある両州ですが、オレゴン州ではセールスタックス(消費税のようなもの)がないため、同じ商品でもワシントン州より10%近く安く購入することができるんです。
一方でワシントン州には所得税がないため、所得によってどちらに暮らす方が得なのかが変わってくることに。生活にも少なからず違いが出てきます。
同様に同性婚、麻薬、尊厳死、郵送選挙の可否なども州によって違います。また弁護士や看護師など資格の必要な職業は州ごとの免許が必要なケースも。
同じ国の中で法律が違うというのは日本人にはなかなか馴染みがないですが、アメリカで生活する時には絶対に備えておくべきマインドです。
日本ではあたりまえの国民健康保険制度ですが、アメリカの医療は自由診療が基本。そのため高額な医療費に備え、基本的には国民一人ひとりが民間の保険会社と任意で契約をする必要があります。
そのため保険料の支払いができない人は加入が難しく、医療費のかさむ慢性病患者さんの中には保険の更新を拒否されるケースが発生。貧困層を中心に病気になっても病院に行けない人がいる状況でした。
仮に保険に入っていたとしても医療費が日本より高いことが多く、また診療の頻度で保険金の金額も変動することも多いようで、なかなか気軽に病院に行けないなんてことも。
私も以前に眼科に行った際、日本なら1時間後には目薬を処方されているところ、こちらでは
ということがありました。
さらに目薬が1本8,000円近くすることを知り、旅行保険に感謝したものです。
歯科治療もとても高いので、長年住んでいる日本人の中には「歯科治療は日本に帰国した時だけ」なんて方もいるようです。
※ 実際にはもっと複雑な問題ですが、今回は筆者の調査を元に簡略にまとめています。
アメリカは先進国としては非常に稀な、有給の産休制度がない国。
法律によれば、「社員50人以上の会社もしくは公共関係の組織に1年以上勤務している場合のみ、12週間の無給の産休休暇を与えられ、その後に職場復帰する場合は復帰前と同等の待遇を保障」とあります。
つまり休めるのは3ヶ月程度。しかも無給……。いかに日本の産休制度が恵まれているかということを実感します。
さらに公立の保育園はなく、私立の保育園は都市によって多少差はあるものの平均1,500~2,000ドル/月が相場とのこと。富裕層ならともかく、一般的な家庭はこの金額を払い続けるのは難しいのですよね。
結果的に旦那さんも協力して子育てをするための働き方(自宅勤務やフレックスタイム制など)が浸透し、日本から見ると「女性の社会進出が進んでいる国」と感じるのではないかと個人的には想像します。
出産を考えている女性の方は、この点もしっかりと認識しておく必要があるでしょう。
アメリカでは銃が一般家庭にあることもあり、当たり前ですが日本よりも危険です。
移動も常に車を利用する場合は比較的安全かもしれませんが、公共交通を使う際には、待ち時間や夜間の利用では注意が必要です。
あまり言葉にしたくはないですが、個人的には人種によって同じ場所でも危険度は違ってくると思います。特にアジア人女性は小柄ということもあり、夜間の一人歩きは細心の注意が必要です。
例えばシアトルでは、警察がWeb上で近隣の治安状況を載せたマップを発行しています。都市にもよるかもしれませんが、このような情報にはできるだけ目を通すようにしておきましょう。
アメリカではあらゆる場面でサインをする書面が登場します。ビジネスを始める際の分厚い契約書・同意書はもちろん、病院で治療を受ける際の病院の責任範囲を示した書面から、博物館の中のアトラクションで体調が悪くなった場合の責任の可否を示すものまで……。
一番びっくりしたのは、物を買ったときに発行されるレシート。ここには返品規定が書いてあり、それに基づけば食品など一部を除いたほぼすべての物が価格に関係なく返品可能です。
一度着た洋服や使用した電化製品まで、返品はアメリカでは日常茶飯事。書面に明記されていることは権利でもあるという、いかにもアメリカらしい考え方ですね。
基本的には日本より若干高めの物価水準ですが、これは都市によって大きな差があります。
例えば同じ西海岸、IT系企業に強いシアトルとサンフランシスコでも17%もの差があると言われています。
マクドナルドのようなチェーンレストランですら、同じメニューでも場所によって価格が異なります。日本ではあまり考えにくいことですが、「生活する場所をどこにするか」もアメリカに長く滞在するのであれば重要なポイントになりますね。
当たり前ですが、アメリカ人が話す英語はとても速いです。
アジアやヨーロッパなど非ネイティブの人たちが話す速度とは全く違うので、今までそれなりに話せていたからきっと大丈夫! と思って実際にアメリカに来てみると、全然聞きとれない……なんてことも。
カリフォルニア州をはじめ南部に行くとスペイン語の割合が急増したり、アジア系の人が多い土地ではアクセントに違いがあったり、東海岸と西海岸でも異なる訛りがあったりと、同じアメリカ英語と言えど実に多様です。
語学力に自信がある人でも、改めてアメリカ英語を学ぼうという心構えがあると良いかもしれません。
いかがでしたか?「ちょっと不安になった」という方もいるかもしれません。しかし、ご安心ください。冒頭に述べたように、それでも40万人超の日本人の方がすでにアメリカで生活をしているのです。
なかなか日本以外の文化や習慣というものは実際に現地に住んでみないと分からないことも多くありますが、今回ご紹介した内容を参考に、ぜひ海外生活への一歩を踏み出してみてください。
私も現在シアトルに在住しておりますが、日々新しい発見、気づきに溢れた楽しい世界が待ってますよ!