新井 リオ
(更新)
『Q&ABC』は、「英語日記BOY」の著者・新井リオが、「英語・海外生活」にまつわるみなさんからの質問に答えていく連載です。
(質問はこちらからできます)
第15回のテーマは「英文は、丸暗記するべきか?」です。
最近の悩みは、話したいことがすぐに口から出なくてモヤモヤすることです。
私が話したいことは簡単な単語だけで話せるはずなのですが、日本語の思考では思い付きにくい文章です。
例えば「その睡眠アプリは私を適切な時間にすんなり起こしてくれるんです」とか…
「アプリが私にさせるから The app allows me to…? それとも let?… allow に to はいるっけ…」などと、パズルを解くように時間がかかってしまいます。
こういう英語の思考を必要とする単語や文章は、いっそ丸暗記してしまった方が良いのでしょうか?
すごくいい質問をありがとうございます。
「英語は丸暗記はするべきか?」
自分も改めて考えてみました。
まず、丸暗記=「思考を必要とせず、ひとまず記憶してしまう」という意味ならば、これはやらない方がいい手法だと思います。
なぜなら僕たちが日本語を話すとき、「丸暗記した文章を口から出している」感覚はないですよね。だとしたらこれは、英語でもやるべきではないはずなんです。
少し脱線しますが、僕は言語学習の悩みに打ち当たったとき、常に以下の事実を思い出します。
「私は日本語のプロフェッショナルである」
質問者のりんくさんも、僕も、この連載の読者の方も、みんな日本語のプロフェッショナル、つまり「ひとつの言語を完璧にマスターした経験のある者」なんです。
だから、英語学習において今からやろうとしている勉強プロセスが、日本語を使いこなしているときの自分と比べて明らかに異なるのならば、それは間違ったものである可能性が高いです。
逆に言うと、どのようにして日本語のボキャブラリーを増やしていったかを振り返ることが、自身の英語学習のヒントになったりします。
この事実を踏まえて、以下、詳しく答えていきます。
僕たちが新しいフレーズを覚えたいときにするべきことは、「丸暗記」ではなく「理解」です。
これは日本語でも同じですよね。小学生のとき、「株式会社」の意味がわからずに親に聞いたことをいまだに覚えています。
人生経験が足りなすぎた10歳くらいの僕は、一通り説明を聞いて「へえ、そんなものがあるんだ」とは思ったのですが、実態についてはよくわかっていませんでした。
このとき僕はその単語を「暗記」はしているけど「理解」はしていなかった状態だと言えます。これだと実生活では絶対に使いこなせないんです。
そして、親から聞いた説明をなんとなく頭の片隅に抱えながら中学生になり、高校に上がり…
実際に「株式会社」ということばが世の中で使われている場面を目撃する機会が増え、その度に、「つまりはこういうことなのかな?」と能動的な発見をし、大人との会話の中で実際に使ってみて「今の使い方で正しかったんだ」ということを確認して…
ついに、本当の意味での「理解」が完了したような感覚になりました。
今言ったことをまとめるなら、
①概念を知り、
②どう使われているかを何度も目撃し、
③能動的に意味を発見し、
④実際に使ってみて、正しかったことを確認する
以下の4つが、「マスターレベルに至る」までに必須な出来事だと考えます。
(というより、無意識なだけで、子どもだった僕たちは全ての日本語単語に対してこれをやってきたことで、いま日本語が話せるのです)
今回のりんくさんの質問、
例えば「その睡眠アプリは私を適切な時間にすんなり起こしてくれるんです」とか…
「アプリが私にさせるから The app allows me to…? それとも let?… allow に to はいるっけ…」などと、パズルを解くように時間がかかってしまいます。
こういう英語の思考を必要とする単語や文章は、いっそ丸暗記してしまった方が良いのでしょうか?
「パズルを解くように時間がかかってしまう」のは単純に、「allow」、「let」という英単語の本当の意味での理解が完了していないだけなのだと思います。
先ほどの僕の例で言うなら、これはまだ「なんとなく概念を知った小学生のような状態」というとわかりやすいでしょうか。
先ほど挙げた「マスターレベルに至る」までに必須な出来事4つ。
①概念を知り、
②どう使われているかを何度も目撃し、
③能動的に意味を発見し、
④実際に使ってみて、正しかったことを確認する
これを英語に対してもやることで、理解度はかなり高まります。
→英英辞書/ネイティブによる解説記事をチェック
自分は新しい単語に出会ったとき、必ず「英英辞書」で意味のチェックをします。
例えば、僕がいつも使っている「Oxford learners dictionary’s」によると、
allow:to let somebody/something do something
(意訳:だれか/何かに、何かをさせる)
と書いてあります。これが、従来の「一単語:一句」の暗記ではない、「概念の理解」の第一歩となります。
ただ、これだとまだよくわからなときがあります。そこで、ネイティブ(またはネイティブレベルの英語力を持った書き手)による解説を、インターネットでチェックします。
僕はDMM英会話が運営している「DMM英会話 なんてuKnow?」「DMM英会話 Words」をよく使います。
以下、実際に「DMM英会話 Words」で allow を調べてみました。
このような解説を読むことで、allow についての理解がぐっと深まります。
特に「permit との違い」のような、類似単語との差を知ることはかなり重要です。
英語のプロフェッショナルによる解説を読んでいる時間は、まさに「小学生の自分が親から単語の意味を教わっているとき」と似た状態だと言えます。
→「YouGlish」で調べる/本、映画、ラジオに触れる
ただ、10歳の僕が株式会社という単語の「概念を知る」だけでは真の理解に至らなかったように、次は「その単語が実際に使われている場面を何度も目撃する」プロセスが必要です。
そこで「YouGlish」というサイトを使います。これは、YouTubeにある動画の中から、検索した単語が使用されている動画をピックアップし、使用場面を瞬時に表示してくれる優れたウェブサイトです。
「allow me to」で検索してみましょう。するとこんな動画が出てきました。
出典:YouGlish
Allow me to do some truth telling.
直訳:真実を伝えることを許してください。
(意訳=真実を伝えさせてください)
出典:YouGlish
My imagination would allow me to write what I didn’t yet know.
直訳:想像力は、まだ知らなかったことを書かせてくれるだろう。
(意訳=想像力があれば、自分でもまだ知らないことを書くことだって可能である)
なるほど、「DMM英会話 Words」で学んだ「allow=許す/許可する/認める」が派生して「~させる/可能にする」(ある意味では help とも似ている)といった意味でも使えるんだなということがわかります。
ちなみに、だれでも一人で今日からできる/検索できるという利点から「YouGlish」をお勧めしましたが、「ネイティブの使用例を目撃する」という経験は
などから得るのが大変効果的です。
日頃からなるべく長い時間英語環境に浸り、「あ、今あの人、この前覚えた allow という単語を『可能にする』という意味で使ってた!」みたいな経験があると最高です。
これがまさに、中学生に上がり、少しずつ理解してきた「株式会社」という単語を、ニュースや新聞で実践的に目撃する機会が多くなっていったのと同じです。
→気づいたことをメモする
ここまで理解できると、なにか個人的な発見があると思います。
例えば、
「彼は私にコンピューターを使わせてくれた」
→自分の意志以外の「誰かからの許可」が一回はさまる。勝手にはできないようなニュアンス。
「想像力があれば、自分でもまだ知らないことを書くことだって可能である」
→時には「可能にする」(使い方としては help と似ている)という意味でも使うことができる!
…みたいなことです。
また、このとき「『make 人 do』や『let 人 to do』も似ている意味だった気がするけど、何が違うんだろう?」と思ったら、それぞれがどんな場面でどう使われるのか、これまでの手順で同じように調べあげます。
そして忘れないように、これをノートorアプリにメモするんです。自分だけのオリジナル単語帳を作るようなイメージでしょうか。
LINEに自分ひとりだけのトークグループを作り、このような発見メモをためていくのもいいです。
この能動的な発見が、学習には欠かせません。
原理原則に「自分自身で気づいた」ことが何よりも大事なのです。
質問者りんくさんの言葉を借りるなら、今こそがまさに「パズルを解いている段階」なんですね。
会話中になんて言えばいいかわからずモヤモヤしてしまったのは、それがまだ解き切れていないパズルだったからです。
言えない英語表現に直面すると落ち込みますが、「新しい、解き甲斐のあるパズルを手に入れた!」くらいの気持ちで割り切り、これから使えるようになっていけばいいんです。
「1回目のミスはただのきっかけだ」という意識が大事です。
→オンラインレッスンで使ってみる
最後は、実際に使ってみて、そのフレーズを体に染み込ませていく作業です。
「野球が上手くなりたいなら、ルールブックを読むだけでなくバッターボックスに立て」というやつですね。実践まで終えて、ついにマスターに近づきます。
ここで登場するのが、言わずもがな「オンラインレッスン」です。
僕はDMM英会話のレッスン前、「今日はこれを言うぞ」という英語フレーズ or 自分でつくった英文(=英語日記)を1つ決めます。
そして、その英語が使えるようなシチュエーションを意図的に作り、切り札を出すように口から出します。
例えば、りんくさんが言いたかった英語、僕はこのように書いてみました。
「その睡眠アプリは私を適切な時間に起こしてくれるんです」
今まで書いてきた手法で丁寧に調べあげ、先生にもチェックしてもらいこれでOKということでした。
ただ、この時点ではまだ習得したとは言えません。
実際の会話で使用し「ちゃんと通じた!」という成功体験を繰り返すことで初めてマスターレベルに近づきます。
そこで、DMM英会話レッスンの際、「デイリーニュース」教材で睡眠に関連したトピックを選びます。
Study: Irregular Sleep Increases Risk of Heart Disease
(研究:不規則な睡眠は、心臓病のリスクを高める)
記事詳細はこちら
こちらの記事の「Exercise 3-Discussion」コーナーに、こんな質問がありました。
「あなたはいつも同じ時間に寝て、起きますか?」
この質問に対する回答のなかであれば、きっと、今回作った文章である
「睡眠アプリが私を適切な時間に起こしてくれるんです」
を自然な形で言えそうですよね。
このように、覚えた知識やフレーズを積極的に使い、「あの表現が相手に通じた!」という事実を意図的に体感するんです。
これがまさに、大人を相手に「株式会社」という単語を使って会話が通じ、ボキャブラリーが本当の意味で身についたことを嬉しく思った中高時代の自分の心境です。
ちなみに、先ほど書いたこちら↓
「睡眠アプリが私を適切な時間に起こしてくれるんです」
この、自分で考え抜いた短い1文こそが、僕の提唱している「英語日記」です。
丸暗記の場合、基本的には教科書やネットなどに載っている誰かの作った例文を暗記することになりますが(受動的)、英語日記は、この記事で書いたやり方で細かく調べながら単語の意味を完全に理解し、自分でオリジナル例文をつくります。
さらに、実際の場面で口から出しやすくするために音声入力を使って100回ほど発音します(能動的)。
以下、ある日の僕の実際の英語日記です。
ここまでやるので、結果的に文章を暗記することにはなりますが、「思考を必要とせず、ひとまず記憶する=丸暗記」とは異なるものです。
一番に大事なのは、「英語日記に使用したそれぞれの単語や文法を、自分の努力によって完全に理解した」という事実です。
なぜこうなるかを真に理解できた上で使っているという意味で、僕たちが日本語を使うときと限りなく近い感覚があります。
ここまでの「深い理解」があれば、必ずしもつくった文章の通りに言う必要はありません。
単語や文法を瞬時に組み合わせて、会話の中で全く新しい文章を出せるようになっていきます。
1つの単語に対してこんなにやるのか、大変だな…という感想を抱いた方がいるかもしれません。
ただ、今挙げたような知識を全て感覚的に理解しているのが、ネイティブスピーカーです。
なので、丸暗記の対角線にある「深い理解」は、遅かれ早かれどこかで通過しなければならないプロセスであり、これをスキップし続けるかぎり「マスターレベルへの到達はない」とも言えます。
まあ、時間をかけていきましょう!
時間がかかることは全く悪いことではないです。
まだ上手く話せない1歳の赤ちゃんを見て誰も違和感を感じないように、勉強1年目で十分に話せないのは本当に普通なことです。
僕たちは、たくさん間違えながら何年もかけて日本語のプロフェッショナルになることができた人たちですから。ポテンシャルはあるはずです。
自分の中の「英語赤ちゃん」を大切に育てて大人にしてあげるような気持ちで、長い目で勉強していけたら素敵ですよね。
質問も引き続きお待ちしています!
英語・海外生活に関する悩み、こちらからお気軽に相談してください。
読み込んでいます…
書籍「英語日記BOY 海外で夢を叶える英語勉強法」絶賛発売中!
「英語日記」勉強法、オンラインレッスンの使い方、カナダでのデザイナー生活に至るまで、5年間の全てを書き尽くした新井リオの「自伝的学習本」です。