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「今行くよ!」の「行く」は go ?それとも come ?日本語訳だけでは分からない英単語の本質

「今行くよ!」の「行く」は go ?それとも come ?日本語訳だけでは分からない英単語の本質

はじめまして、英語講師の井上勝博と申します。

突然ですが、動詞の “come” が「行く」という日本語訳になることがあることをご存知でしょうか?

英単語を学習するとき、“go” =「行く」、“come” =「来る」のように、英単語と日本語訳を対にした、いわゆる一対一の覚え方をする方も多いと思います。

ところが実際の英語使用の場面では、必ずしも一対一の理解では十分とは言えないことがあって、せっかく覚えた単語の訳とは違った意味で使われることに悩んでしまう学習者の方は少なくありません。

ここでは、よく寄せられる単語の悩みの中から「“go” と “come” の使い分け」をテーマに、その意味と使い方についてご説明していきたいと思います。
 

go と come の日本語訳から少し離れてみる

goとcomeの日本語訳から離れてみる

以下は、ある高校生から寄せられた映画のワンシーンに関する質問です。

親子が家を出ていくシーンで、母親が「行くわよ」と言ったのに対して、子どもが “I'm coming!” と言っていました。字幕は「今行くよ!」となっていたのですが、どうして「行く」なのに “go” ではなく “come” が使われているのですか?

この記事をお読みの方の中にも、同じような疑問を抱いたことがある方もいらっしゃるでしょう。

一般的な日本語訳としての「行く」と、英語の使い方が嚙み合っていないことに戸惑う声は意外なほど大きいものです。

では、このような疑問を解決し、正しく使いこなせるようになるためにはどうすれば良いのでしょうか?

それは、まずは “go” と “come” の「日本語訳」から少し離れて、両者が持つ英語の「意味」を理解・イメージすることです。

ここで言う「日本語訳」とは「日本語としての自然な言い方」「意味」とは「英語としての発想」とご理解ください。
 

go の意味は「離れる」

goの意味は離れる

「行く」という訳で知られている “go” ですが、英語での意味は「離れる」です。

さっそくですが例文を見てみましょう。
「行く」という日本語訳ではなく「離れる」というイメージで読んでみてください。

「自分がもといた場所から<離れて>友人の家に辿り着いた」ことがイメージできたでしょうか。

では次の文はどうでしょうか。

これも同様に「家などから<離れて>医者に会いに行くこと」を意味していて、つまり「受診しに行くこと」を言い表しているわけです。

どちらの例も、日本語訳としては「行く」を当てはめるのが確かに自然ですが、それは「離れる」という英語としての意味から導き出した、日本語としての正当性でしかないことをまずは知っておいてください。

have gone が「経験」を表せないワケ

そのことが分かれば、次のような文章にも納得がいきます。

一般的に中学校3年生で学習する現在完了形の文章ですが、なぜこれが「パリに行ったことがある」という「経験」を表す用法として用いることができないのか?、不思議に思ったことがある方も多いのではないでしょうか。

“go” は「離れる」という意味を抱えているため、そこから結果的に「もといた場所から<いなくなること>」も自然に意味に含むことになります。

また現在完了形は「現在の様子や状態」を表しますから、“My father has gone to Paris on business.” は「父親がいつもいるはずの家庭や職場から<離れて>いて、結果的に<現在不在であること>」を意味することになるわけです。

「行ったことがある」という経験を述べる裏側には、「その人はすでに戻ってきていること」が想定されるため、“go” の「離れる」イメージ(現在完了形では「今はもういない」イメージ)と合致しません。

なので “have gone” は経験用法として普通は用いられません。
(ただし口語レベルでは、特にアメリカ英語では “have gone” で経験を表すこともあります。)

ちなみに、「~に行ったことがある」 “have been to~” ですね。
 

「変化」を表す go

さらに、次のような「~になる」という「変化」を表す “go” の使い方も見ておきましょう。

これについても、“go” には「~になる」なんて意味もあるのか、とうんざりされた方もいらっしゃるかもしれませんね。

でも、やはり「離れる」という意味を当てはめて、「リンゴが食べられる正常な状態から<離れて>悪い状態になった」と考えてあげれば納得できるのではないでしょうか。

これもリンゴの例と同様に、「コンピューターが正常な状態から<離れて>おかしな状態になったこと」を表している、ということですね。
 

come の意味は「近づく」

comeの意味は近づく

一方、「来る」という訳で知られている “come” の英語での意味は「近づく」です。

いくつか例文を見てみましょう。

「従兄弟が僕に会うために<近づいてきた>こと」をイメージできたでしょうか。

では次の二つの文章はどうでしょうか。

どちらも抽象度が上がりましたが、一つ目は「映画が公開日に<近づいて>、いよいよ公開(“out”)された」、二つ目は「夢が現実に<近づいて>、ついに実現した」というイメージです。

他にも、新作の映画や新商品の宣伝広告などで “Coming Soon!” 「近日公開・発売」という意味で用いられる “come” を見受けることがありますが、これも「公開や発売日に<近づいている>こと」「あなたの手元に新商品が<近づいている>こと」を意味しています。
 

come が「行く」になるわけ

comeが行くになるわけ

“go” と “come” の英語としての意味について見てきましたが、ここで先の映画のワンシーンに関する質問「『今行くよ!』がどうして “I'm coming!” と表されるのか?」に話を戻したいと思います。

ここまでじっくりお読みいただいた方にはもうお分かりかもしれません。

家を出ていこうとする母親に子どもが “I’m coming!” と言ったのは、子どもが母親に追いつく、つまり母親に「近づくこと」が状況として成立しているからです。

ですが、だからと言ってこれを「今来るよ!」とは日本語では(一部の方言を除いて)普通は言わないため、字幕では自然な日本語訳を優先して「今行くよ!」となっている、というわけです。

日本語では、「離れる・近づく」に関わらず、動作主がある方向に向かって動くことを「行く」で表現することができるため、母親のもとに向かうことも「行く」と言うのが自然です。

もしもこのシーンで子どもが “I'm going!” と言っていたとしたら、彼は「母親のもとではなく、全く別のどこかへ<離れて>いなくなってしまうこと」になってしまい、とても不自然です。

まとめると、

“go” は「起点となる場所から離れていく」
“come” は「対象を基準にその場所まで近づいてくる」

というのが英語的な発想だということです。

これをきちんと理解・イメージすることができれば、日本語訳と英語の使い方のズレに関する疑問もスッキリと解決することができるのではないでしょうか。
 

「行く」の訳になる come を実践してみよう

実践してみよう

「行く」という日本語訳になる “come” は日常的に頻繁に用いられます。

例えば家の中でインターホンが聞こえたとき、その応答としては日本語では「はーい、今行きまーす」のように言いながら玄関へ向かいますが、これは訪問者のもとへ自分から「近づく」行為ですから、“I'm coming!” と言うのが自然です。
日常会話では“I'm”を省略して単に “Coming!” と言うこともしばしばあります。

他には次のような会話もよくあります。

映画に誘ってくれた友人やパーティーの参加者たちのもとに「近づく」という意味がしっかりと生きていますね。

ではキッチンから聞こえる “Dinner is ready!” 「夕食できたわよ!」という呼び掛けに対して “(I’m) coming!” 「今行くよ」と言うのは・・・もうお分かりですね。

この “come” を使うべき場面はたくさんありますから、ぜひ「近づく」をイメージして使いこなせるようになってください。
 

まとめ

英語を学ぶとき、今回取り上げた “go” や “come” のように、日本語を基準にその訳語を覚えることが必ずしも常に正解になるとは限りません。

英語と日本語は別の言語であって、極端な(そしてキツイ)言い方をすれば、英語は日本語の都合など知ったことではないからです。

英語を英語として見つめ、理解し、受け入れ、そして使いこなすことができるようになるためには、日本語の助けを借りつつも、ときには日本語訳からあえて少し遠ざかってみることも大切です。

日本語と英語を少しだけ遠目から眺めて比べてみると、一対一の訳語の縛りから解放されて、それまでとは違った景色が見えてくるはずです。

ここでは“go”と“come”を取り上げましたが、他にも “take”、“have”、“make” など、一言で片づけることのできない単語は数多くあります。

一見簡単そうなものほど実は奥深いこと、そしてその奥深さが英語学習の難しさなのではなく、実は楽しむべき英語の景色であることを知って、これからの英語学習や訓練に生かしていただければ幸いです。