まいるす・ゑびす
(更新)
英語の勉強をしていると、「日本語だったらこのくらいさっさと読めるのに」とか「日本語だったら問題なく明確に説明できるはずなのに」などの「日本語だったら」病にかかりがちです。
でも、果たして我々日本人はどのくらい日本語を理解し、正しく操ることができているのでしょうか。
実際、私は翻訳の仕事をしていて、自分の日本語能力を試されることが多々ありました。そもそも、日本語と英語はかなり成り立ちの違う言語です。その成り立ちの違い故に、翻訳の際に文書に並んでいる文字だけでは意図を判断できないことがあったり、訳したところで伝わりにくかったりするのです。
今回は私の経験を通じて、日本語の文章を英語に訳す際に浮上する問題について、お話したいと思います。英語を学習する際に何かしらのヒントになれば幸いです。
不自由がないので気づきにくいかも知れませんが、日本語は基本的に主語が省略されています。
男の人が女性の前で目を覗き込んで「好きだー。」と言ったとすれば、それはおそらく"I like you."という意味を持ちますが、ここには、「私」だとか「僕」だとか「我が輩」だとかの一人称の単語は1つも出てきませんね。
その上、「あなた」だとか「君」だとか「貴殿」だとか「おぬし」だとかの二人称の単語も出てきません。それでも日本語で「好きだー。」と言うだけで、英語の"I like you." という愛の言葉になるわけです。
しかし、英語ではそうもいきません。英語では必ず主語が必要になります。近所で火事が起こったとしても、24時間営業のコンビニが閉まっていたとしても、必ず全ての文章に平等に主語を付けなくてはならない、ということです。
そして日本語を英語に訳す際には、主語が何であるのか判断することが大切です。
"like"だけでコミュニケーションが成立してしまうのはFacebookくらいまでなので、注意が必要ですよ。
英語の場合、"What time are you coming today?"(今日何時に来るの?)という問いに、"I will come around 1."(私は一時くらいに行く予定です。)と答えた場合は一人で来ることが分かるし、逆に、"We should be there around 1."(私たちは一時くらいに着くはずです。)と答えた場合は一人ではなく複数でやってくる、ということが分かります。
また"I will be hanging out with my friend from university. She is in Tokyo on business trip."(私は大学の友達と一緒にいる予定です。彼女は出張で東京に来ています。)と言われると、"She"とあるので、その友達が女性であるということが聞かなくても分かります。
しかし、日本語には、複数形と単数系の違いがほとんどありません。そして前述の通り、主語を省くことが非常に多いので、対象の人物が男性か女性か、というのも分からないのです。
日本語は文章だけでは複数か単数かを見極めるのは難しいときもあり、場合によっては、文章を書いた人に確認する必要が生じてくるのです。
どの言語でもそうですが、日本語も日本の文化に根付いた「比喩表現」や「擬音語」が会話では頻繁に登場します。
「土俵際」なんていう相撲用語も「瀬戸際」という意味で会話で使われますし、「永田町」という地名も使われるシーンによっては「国会」のことを指します。
そして極めつけは「この辺はダーッとやってもらって、ガガガって感じで修正かけて、シュって終わらせて欲しいんだよねぇ。」と、ミーティングとかで発言しがちな摩訶不思議な擬音語が多いこと。
ただでさえ擬音語が多くある日本語ですが、ここまでくればそのプロジェクトに最初から関わっている人でも分かりづらいですよ。その上、どうやっても翻訳できません。
こういった比喩表現や擬音語は、そのまま英語に訳しても意味が通じませんので、「文章として伝えるべき表現」で訳せるようにしておきたいですね。
日本語では、鳥は「鳴くもの」であり、電話番号は「教えてもらう」ものですが、英語では違います。英語では鳥は鳴かずに「歌います」し、電話番号は教えるものではなく「頂くもの」なのです。
外国の方で日本語を学んでいる方は、この「鳴く」を「泣く」だと思っている方も多いようで、
Birds are crying today.
と英語で考え始めたら日本に長くいすぎる証拠だから気を付けなさい、と言われているらしいです。正しくは
Birds are singing today.
ですね。
また、電話番号を聞く時は日本語では、「電話番号教えてよ」と言いますが、これは直訳すると、
Please teach me your phone number.
となります。しかし"teach"というのはもっとアカデミックな、いわゆる教室で先生に習うときのニュアンスになり、電話番号を聞くときにはおかしな英語表現になってしまうのです。正しくは
Can I have your phone number?
です。最近だと、
Can we be friends on Instagram?
とかの方が自然かもしれません。
「お疲れ様ってなんて言うの?」とよく聞かれますが、実は英語にはそのような表現はありません。
それでもどうしても伝えたい!という人もいますが、あなたがくしゃみをする度に周りの誰かに、「あなたに神のご加護がどうかありますように」って毎回真顔で言われたらどういった気持ちですか?
※英語圏ではくしゃみをした人がいたら"God bless you."(直訳すると「神のご加護を」)と言うのが一般的です。
「お疲れ様」も、外国の人にしてみたら同じこと。日本語を英語に訳そうとするのではなく、英語圏ならではの習慣に基づいた英語を覚えていきましょう。
日本語と英語の違いは、まだまだたくさんありますが、往々にして日本語のほうが曖昧でわかりにくいものなのかもしれません。日本語から英語に訳す際には、まず二つの言語の違いを知っておくのがいいでしょう。
日本語というものは漢字仮名交じり文で、主語を省略しながらもコミュニケーションがとれる高度な言語。それを使いこなせる我々日本人はもっと意識的に言葉を使うことによって、もっともっと世界で活躍できる存在になっていけるはずであると私は感じています。
「今年こそ英語を頑張りたい」という方は、「頑張る」という曖昧な翻訳しづらい表記はやめて、「週に二回は英語しか話さない相手とご飯を食べる」、「月に一冊は英語の本を読む」とか、「毎日"Japan Times"に目を通す」とか、「DMM英会話のレッスンを週に二回受ける」など、具体的な目標を持つと良いかも知れません。
それではあなたに神のご加護がどうかありますように!