masa osada
(更新)
企業だけに限らずあらゆるグループ、団体がうまく回っていくかどうかを決める要素の1つに「優れたリーダーの存在」があります。
以前はカリスマ性が強く、チームを強く引っ張っていけることが重要視される時代もありましたが、近年、海外ではリーダーに求められる資質やスキルとして「empathyの高い人」が重要視されています。日本人にはあまり馴染みがない "empathy" という単語。これは一言でいうと「共感」をあらわします。
しかし、「共感」といえば "sympathy(シンパシー)" では? と思う人も多いでしょう。
今回は "sympathy" と "empathy" の違いから、現代のリーダーに求められる資質 "empathy" がどのようなものなのかご紹介します。
まずは辞書から "sympathy" と "empathy" の意味をみていきましょう。
「共感」を和英辞書で調べてみると、以下のように書かれています。
つまり、"sympathy" は「共感」で、"empathy" は共感する力——「共感力」と捉えることができます。
では、次に英和辞書と英英辞書をみてみます。
ウィズダム英和辞書/ウィズダム和英辞書(2007年 三省堂)
・feelings of pity and sorrow for someone else’s misfortune
(誰かの不幸に対して同情や哀れみ、悲しみを感じること)
Oxford Dictionary of English(2010 Oxford University Press)
ウィズダム英和辞書/ウィズダム和英辞書(2007年 三省堂)
・the ability to understand and share the feeling of another
(他人の気持ちを理解し、共有できること)
Oxford Dictionary of English(2010 Oxford University Press)
いかがですか? 少し難しいかもしれませんね。
辞書だけでは、今ひとつ違いがわかりにくいようです。筆者もニュージーランドに移住して9年になりますが、 "sympathy" と "empathy" は、英語を学習するなかでニュアンスの違いをつかむのが難しい単語のひとつでした。まわりのネイティブの友人に「どういう意味?」と尋ねてまわったところ、ようやく理解することができました。次の章でくわしく解説しましょう。
“put oneself in someone’s shoes"を直訳すると「〜の靴の中に自分を置く」となり、意味は「〜の身になる」「〜に重ねあわせる」です。つまり、上の英文を訳すと「Empathyは誰かに自分を重ねあわせ、相手のシチュエーションを理解すること」となります。
別の言い方をすると「相手の感情を感じ取り、あたかも自らがその人になったかのように感じること」です。
それに対し、"sympathy"は「相手の感情を感じ取り、それによって自分自身の感情が動かされること」というニュアンスを持ちます。
さらに、次の例文をみてください。
日本語訳では、"sympathy"を使っても"empathy"を使っても同じ意味ですね。ところが、一歩踏み込んだ感情は大きく違っています。
まず "sympathy" の場合、マットの気持ちに共感・同情して泣いているものの、その理由は自分が飼っていたペットや身近な人が亡くなったことなど過去の経験を思い出したり、「もし自分が飼っている犬が死んでしまったら」といった想像からきています。
つまり、あくまでも「自分の気持ちが主体の感情」で、マットの犬が死んでしまったことについてはどこか他人事の傾向があります。
ところが "empathy" の場合は、あくまでも「相手の気持ちが主体の感情」です。そのため、犬を失ったマットの感情を感じ取って、その「気持ちをわかちあう」というところから共感し、涙しています。
ちなみに "empathy" は必ずしも相手と同じ、もしくは似た体験をしている必要はありません。相手を思い、相手の気持ちを理解した上で分かち合うことができていれば "empathy" といえるのです。
現代のリーダーに"empathy"が重要だと冒頭で述べましたが、なぜ海外では、カリスマ性や牽引力のあるリーダーではなく、"empathy"の高いリーダーが求められるのでしょうか。
海外—私の住むニュージーランドでも、会社では1つの部署やチームにさまざまな国や人種の人たちがいます。
国が違えば価値観も違うため、「カリスマ性」や「強い牽引力」という少し強引なリーダーシップでは、なかなかチームを1つに束ねるのは難しくなりました。
そこで求められるのが、多様性を尊重し、チームメンバーと共感し、気持ちを分かち合うことでチームをまとめることができる力 "empathy" です。
では、どうして "sympathy" ではなく "empathy" が求められるのか、シチュエーションを職場にあてて考えてみましょう。
例えば、仕事に行き詰まっている部下が相談してきた場合、"sympathy" が強く働く人は、自分が大変だった時のことを思い出し、だんだんと脱線して自分の苦労話などを話しはじめてしまうかもしれません。
ところが "empathy" の気持ちが強い人の場合、相手と自分の気持ちを重ねあわせ悩みを分かち合うので、親身になって相談に乗ることができます。
また、"empathy" が強い人は人の気持ちを察することに非常に長けています。
そのため、これまで理想とされていたカリスマ性が高く強い牽引力でチームを引っ張っていくタイプのリーダーとは真逆の存在かもしれません。 "empathy" が強いリーダーはチームメンバーひとりひとりの気持ちを汲み取り、チームをまとめていくことができます。
"sympathy" と "empathy"、2つの単語が持つ辞書ではなかなかわかりにくい微妙なニュアンスの違いと、現代のリーダーがなぜ "empathy" を求められているかおわかりいただけましたでしょうか。
"empathy" は日本人にはあまり馴染みのない単語ですが、「相手に同情するのではなく、相手の立場に立って、気持ちを分かち合う」というのは、とても日本的で優しい感情に思えてなりません。
"empathy" の気持ちを持ったリーダーがたくさん生まれることで今後、企業だけでなく、社会全体が "empathy" に満ち溢れたら、お互いを思いやれる優しい社会ができあがりそうですね。