K. Inoue
(更新)
「倒置法」と聞いて、なんだか難しそうと思った方は多いのではないでしょうか。
大事な文法はたくさんあるのに、「倒置法なんてなんだか特殊っぽいもの勉強する必要あるの?」と感じておられるかもしれません。
倒置は英語ではとても多く使われ、文や会話をより生き生きとさせるために大切な役割を担う文法手法の1つです。
今回はそんな倒置について解説していきますので、ぜひその仕組みと大切さを知って、バラエティに富んだ英語表現の面白さに触れてください。
<S+V>のような英語の基本的な語順が、何らかの理由や意図によって変わることを倒置と呼びます。
語順をわざわざ入れ替える倒置には、主に3つの目的があります。
1つは驚きや感動、落胆といった感情を文頭で強調することです。
通常とは異なる語順という異常事態を発生させることで、それほど感情が揺さぶられていることを示すことができるわけです。
2つ目は、言いたいことをもったいぶって最後まで取っておくことで、話の運び方に変化をつけることです。
いつも基本通りの同じ語順ばかりでは、話の伝え方がどうしても単調になってしまいます。
そこで、本当に言いたいことを後回しにすることで、ワクワク感やネタの面白さを際立たせようとするのです。多少大げさに言えば、オチを付ける、といったところでしょうか。
そして3つ目は、語順を変えることで英語のリズムを整え、より言いやすくすること。
英語は強弱のリズムやまとまりの長短を気にする言語ですから、倒置によって語順を移動させることができるのはとても便利なことなのです。
こうした目的を持つ倒置は、基本的には文語的な表現ですが、実際には日常会話でもよく使われ、そのパターンもさまざま。
主には<S+V>が<V+S>に逆転することを倒置と呼びますが、この記事ではそれ以外の語順変化のパターンも倒置としてご紹介していきます。
never「決して~ない」や rarely「めったに~ない」などの否定を表すことばが文頭に来ると、疑問文の語順に倒置します。
「こんな美しい湖をこれまで一度も見たことがありません」
「ジョンはめったに笑わないんだよ」
否定を表す副詞(句)は他にも以下のようなものがあります。
また、「~だけ」を表す only も「~だけしかない・ただ~にすぎない」という意味の否定語の仲間とみなされ、文頭に置かれる場合には倒置が起こります。
「この技術が全世代に利用可能となったのはここ数年のことでしかないのです」
もとの文と倒置文では、日本語訳があまり変わらないため分かりづらいかもしれませんが、これら否定語(句)を文頭に置いた倒置は、「~ないんだ」という否定の感情を強調するはたらきがあります。
また先述のように、文語体とされていますが、実際の会話でも使われます。筆者もネイティブが会話で Never have I~ などと言っているのを日常生活の中で聞いたことがあります。
否定語の not と副詞の until がセットで文頭に出てくる表現もあります。
「彼を訪ねて初めて、彼が病気で寝込んでいるのを知ったんだよ」
もとの文は「私は彼を訪ねるまで彼が病気で寝込んでいるのを知らなかった」という意味で、倒置文では転じて「彼を訪ねてようやく知った」というニュアンスになります。
not only A but (also) B「AだけでなくBも」という意味でよく知られているこの構文も、文頭に置かれると倒置が起こります。
「彼は歌うだけでなくピアノも弾きます」
場所や方向などを表すことばが文頭に来ると、主語と述語動詞が入れ替わる倒置が起こります。
「ゾンビがドアの後ろにいた」
「ドアの後ろにいたのはゾンビだった」
「ジョンはその部屋に入って行った」
「その部屋に入って行ったのはジョンだった」
通常の文の場合と訳し方を比べてみてもお分かりいただけると思いますが、倒置文の方が「一体何(誰)がそこにいたのだろう」という恐怖感や期待感を生んでいます。
このように、場所や方向などを表す副詞(句)を前に出した倒置では、言いたい情報をもったいぶって後ろにまわすことで、「そこに何があるのだろう、どんな展開が待っているのだろう」と聞き手や読者の好奇心を高める効果があります。
そのため、小説や映像のナレーションなどではワクワク感を増すための手段としてもよく用いられます。まだ相手の知らない新しい情報は文の後ろに置く、という英語の特質を利用した手法と言えるでしょう。
主語が代名詞の場合には、述語動詞と入れ替わることはありません。
これは古い情報である代名詞を、新しい情報が置かれるべき末尾に置くことを避けるためです。
「角を曲がって彼はやってきた」」
「~があります」や「~が来ましたよ」などを表す There VS/Here VS も定番の表現です。
「美しいお城がありました」
「バスがやって来ましたよ」
ちなみに、ここでの there や here は「ねえ、ほら」という感じで、相手の注意を引くための呼びかけのようなものとして用いられています。
会話でもとても頻繁に用いられる表現なので、ぜひ暗唱してサッと言えるようになっておきたいですね。
これについても主語が代名詞の場合には倒置は起こりません。
「彼がやって来ましたよ」
目的語が文頭に来る場合、OSVの語順になります。
「ミユキはナイフを持った男を見た」
「ナイフを持った男をミユキは見た」
「彼は私にこう言って立ち去った」
「こう彼は私に言って立ち去った」
このパターンには目的語を強調するはたらきがあり、主語が代名詞かどうかにかかわらず同じ語順に倒置します。
ただし、目的語が否定語を含む場合には、すでにご紹介した否定語(句)を含む場合と同様、疑問文の語順に倒置します。
「我々には希望がまったくありませんでした」
補語になっている形容詞が文頭に来る場合、主語と述語動詞が入れ替わりCVSの語順になります。
「その問題はとても深刻だった」
「とても深刻だったのはその問題である」
実際には以下のように主語が長い場合にこの倒置パターンを用いることが多く、これは大きな主語のまとまりを後ろにまわすことで文のリズムを整えることを目的としています。
「「彼がその会議でおこなったスピーチは素晴らしかった」
「素晴らしかったのは、彼がその会議でおこなったスピーチだ」
このように、英語では頭でっかちな文になってしまうのをなるべく避けようとするために、倒置を用いることがあるのです。
主語が代名詞の場合には、述語動詞と入れ替わることはありません。
「彼は先週からとても体調が悪い」
ところで、あくまで個人的な意見ですが、目的語や補語が文頭に来るパターンの倒置はなんとなく詩的で上品なリズムに響く印象があります。そのためか。スピーチや挨拶などのあらたまった場面でもよく聞きます。
一方、これらのパターンでは、話し手は最初から倒置していない文をもとにして倒置文を作っているのではなく、どちらかと言えば目的語や補語のワードをその場で思いつき、それをまず口にしてからそこから先の文を組み立てている場合が少なくないことも確かです。
文法が機械的なものではなく、とても「人間らしいものである」ということがよく分かると言えるのではないでしょうか。
仮定法で「もし~ならば」を表す if が省略されると、後ろのSと(助)Vが倒置されて疑問文と同じ語順になります。
「もし僕が君だったら、そんなバカげたことはやらないよ」
「もし質問がございましたら、どうぞ遠慮なくおたずねください」
このパターンの倒置が起こるのは、仮定法の中でも were、should、had が文頭に出る場合だけですので覚えておいてください。
文語的な表現ではありますが、Should you~はTOEICでもよく出てくるので、馴染みのある方もいらっしゃることでしょう。
最後に、慣用的に用いられる倒置のパターンをご紹介します。
ある肯定文の内容に対して<so+(助)動詞+主語>の語順で「主語もそうだ」と同意を表すことができます。
「お腹へった」
「僕もだよ」
逆に、ある否定文の内容に対して、「主語もそうではない」と言いたいときは<neither[nor]+(助)動詞+主語>という言い方をします。
「昨夜の映画は好みではありませんでした」
「私もです」
これらの表現では「私も」を強調させるため、I(主語)を強く発音します。
こうすることで「Me, too」よりも同意する感情に勢いを感じさせる、より生き生きとした表現になります。主語がI以外の場合も同様です。
小説や物語文などで、ある発言を指して「〇〇(人)が言った」を<〇〇 said>ではなく、<said 〇〇>で表すことがよくあります。
「『彼のこと嫌いよ』とオリビアは言った」
Olivia said のように通常の語順で書かれる場合もありますが、このようにセリフの発言者と said を倒置させる手法はよく見られます。
これは文のリズムを整えるのが主な目的で、say 以外にも ask など発言系の単語でこの倒置はよく起こります。
いかがだったでしょうか。
「倒置なんて特殊なものいつ使うの?」と思われるかもしれませんが、ご紹介してきたように倒置は意外と日常英語に溢れています。
今回は扱いませんでしたが、疑問文や感嘆文なども倒置の仲間です。
知らないうちに中学生の頃から実は倒置を習ってきたのですね。
疑問文や感嘆文などを作るだけでなく、気持ちを強調したり文のリズムを整えたり、いろいろな場面で活躍するのが倒置です。
英語をより生き生きとさせるためのスパイスのようなものとして、倒置はもはや無くてはならないものと言えるでしょう。
ぜひ今回の内容を生かして、バラエティに富んだ英語の面白さを知っていただければ嬉しいです。