K. Inoue
(更新)
「おはよう」は英語で “Good morning”、「さようなら」は “Goodbye” のように、挨拶くらいのシンプルなものであれば、英語ではどのように言えばいいのかをお決まりのフレーズとして覚えている人も多いと思います。
では「よろしくお願いします」や「お世話になっております」はどうでしょうか?
これらもとてもよく使われる日本語ですが、意外と瞬間的には英語が思いつきにくいものです。
日々当たり前のように使っている日本語の挨拶でも、英語には簡単に直すことのできないものも多くあります。
挨拶に限らず、「つまらないものですが」とか「骨が折れる」といった慣用的な言い回しなども、そのまま英語で伝えようとしても意味がおかしくなってしまったり、相手に正しく伝わらなかったりしてしまうことが少なくありません。
そこで今回は、「言えそうなのに言えない一言を英語でうまく表現するコツ」についてご説明します。会話も含めた英作力向上のヒントになれば嬉しいです。
英語で何かを伝えようとするとき、慣れないうちは言いたいことをいったん日本語で考えてから、それを英語に訳して口にしようとすることが多いと思います。
でも、たとえば先ほどの「よろしくお願いします」という日本語を伝えようとするとき、相当する英語が見当たらないためにどのように言えばいいのか分からなくなります。
そんなときにどうすればいいかというと、「よろしくお願いします」という言葉の「意味」や「その状況における発言の意図」を考えてあげることです。
言い換えれば、「よろしくお願いします」という言葉を使って「相手に何を伝えたいのか」、「どんな状況だからその言葉がふさわしいのか」を考えるということです。
たとえば、初対面の人に会ったときの挨拶としての「よろしくお願いします」には、「相手に対する敬意・会えた喜び」や「今後の関係を良好なものにしたいという願望・期待」などの気持ちを伝える「意図」があります。
ですから、
といった言い方をすることで「よろしくお願いします」を表すことができます。
後日どこかで会う予定や約束のある方への「よろしくお願いします」であれば、「会えることが楽しみ」といった「意味」を表すことができる、
などの表現がポジティブで良いですね。
手紙やメールなどで「〇〇さんによろしくお伝えください」といった意味での「よろしく」は「〇〇さんに自らの挨拶を伝える」という「意図」がありますから、
というフレーズが定番です。
他にも、誰かに頼みごとをする場合の「よろしくお願いします」なら「丁寧にお願いする」という「意図」を読み取って、
と丁寧な表現を用いるとそのニュアンスを伝えることができます。
親が子どもにおつかいなどを頼んでおいて、「よろしく頼んだわよ」と命令的に言うようなケースでは、「忘れずに必ずおつかいをして欲しい」という「意味」を込めて、思い切って、
くらいに言ってしまっても構わないでしょう。
同じ一言でも、使う場面や相手によってその「意味」や「意図」は変わります。
だからこそ、直訳するのではなく、その時々に応じた相応しい言い回しを考えることが重要なわけです。
「よろしくお願いします」以外にも、なかなか英語に直しにくい日本語の言い回しがありますので、いくつか考えてみましょう。
まず「お世話になっております」はどのように表現できるでしょうか?
日本語のメールなどでは、特に深い意味を持たせずに、本題に入る前のワンクッション的な意味合いで入れる一言といったイメージがある言葉ですね。
悪く言えば、「お世話になっております」は本題に繋げるための「機能」であって、機械的に添えるだけのものにしか過ぎない場合も少なくないということです。
そして、そのワンクッションという「機能」としての一文は英語にもあります。
ただし英語話者の場合、以下のように「相手の調子の良さや仕事の順調さなどを気遣う一言」を添えることが多くあり、それが日本語の「お世話になっております」との違いと言えるでしょう。
一方、「お世話になっております」はその背景に「相手への感謝」を抱えた表現でもありますね。
単なる「機能」としての一言ではなく、しっかりと「感謝」を表すために使われることも確かにあり、その「意図」で英語に直したとしても決して不自然ではありません。
実際、私がよくメールでやり取りをする(多くの場合は相談に乗っている)ネイティブの方からは、
という一言が添えられて来ることもしばしばあります。
次に「つまらないものですが」を考えてみましょう。
相手にお土産やプレゼントを渡すときに日本語ではよく言う一言ですが、これをそのまま、
などと言うと非常に不自然です。
いくら日本人が謙虚さを美徳としていても、外国人には文字通りに受け取られ、どうしてつまらないものなどよこすのだと不快に思われることすらあるかもしれません。
「つまらないものですが」はあくまで「謙虚さ」の表れであり、本心では「そうは言っても気に入ってもらいたい」、「喜んで欲しい」と思っているはずです。
しかしその気持ちが厚かましさに繋がることを避けるために、あえて卑下する言い方に本心を隠してしまう。これが「つまらないものですが」の背景にある真意ですね。
ですから英語では、
のようにその本心に抱える「意味」を素直に伝えた方が自然です。
もちろん、英語にも謙遜の考え方はあります。
“little” や “small” を使うことで「ささやかなもの」というニュアンスを出しているわけですね。でも決して「つまらない」という言い方はしません。
大変な作業や仕事に苦労する様子を「骨が折れる」と言いますが、これも英語に直す場合には注意が必要です。
「この仕事は骨が折れるなあ」を直訳的に、
などとは言いません。
「骨が折れる」の「意味」を考えてみると、「大変な」ということですから、シンプルに、
くらいが適当です。
ちなみに、「骨が折れる」にとても近い英語表現に “backbreaking” というのがあります。直訳的には「背(骨)を折る」という意味で、日本語の「骨が折れる」にとても似ています。
のような使い方をするのですが、だからと言ってこの表現を知っているという人は少ないでしょう。
そんなときにこそ、知らなくても表現できるよう、言葉の裏側にある真意を見つめることが大切なのだと再認識させられます。
まだ使えるものを捨てたり、食べ物を残したりしたときに生まれる「もったいない」という惜しみの気持ち。
これはとても日本人的な感覚と言われ、英語に直すのも難しいと言われてきました。
“a sense of regret over waste”「浪費に対する後悔の気持ち」と説明されることがありますが、少し難しいですね。
これまで同様に、「意味」をしっかりと考えることで、英語でも「もったいない」を表すことができます。
このように、特に “waste”「浪費・無駄にする」という単語を使うことで「もったいない」の気持ちに極めて近い感情を表すことができます。
他には、
このような言い回しもできます。
ところで、実は「もったいない」は “MOTTAINAI” という世界語として認識されている言葉であることをご存知でしょうか?
ケニア人女性でノーベル平和賞を受賞したワンガリ・マータイさんは、「もったいない」精神は地球の環境負担を減らすことに繋がると考え、そこから『MOTTAINAIキャンペーン』と呼ばれる活動が始まりました。やがてこれが認知されるにつれ、「もったいない」は“MOTTAINAI”となって世界に知られるようになったというわけです。
日本人の「もったいない」精神を環境保全に繋げようと行動されたなんて、嬉しいですね。
以下にいくつか日本語の表現を用意しました。
直訳ではなく、伝えたい「意味」を考えてみてください。
「聞く耳を持たない」は「他人の意見を聞かない」ということで、
“flexible”「フレキシブル(柔軟な)」という言葉をご存知の方も最近は多いでしょうから、
のように言っても良いですね。
「犬猿の仲」は「関係が悪い」とか「喧嘩をする」ということで、
などと言えそうです。
「口が堅い」は「秘密を守る」ということで、
くらいに言えると良いですね。
いかがだったでしょうか。
日々よく使う何気ない日本語の中には、英語には簡単に直訳できないものが多くあります。でも、それらを適切に英語に直していく力は、訓練すれば身に付けることができます。
まずは日本語の直訳から遠ざかってみること。
直訳ではなく、伝えたい「意味」や「意図」を見つめること。
そしてその「意味」や「意図」を英語に直すこと。
これらのことをよく意識して、自然に相手に伝えられる英語を目指して練習を積んでみてください。